◇第四十六話◇おかえり
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夕食を終えた頃はまだ薄暗いだけだった空は夜の色になり、風も冷たくなっていた。
リヴァイ兵長に連れられて兵舎を出た私は、思わずカーディガンの裾を引っ張る。
どこへ向かっているのかは分からないが、とりあえず隣を歩きながら、私は故郷であるトロスト区の様子に胸を痛めた。
壁外調査の準備のためにずっとカラネス区にいたし、壁外調査から帰ってきてからはずっと兵舎に閉じこもっていたから、トロスト区の様子を見るのは久しぶりだった。
傷跡が痛々しい―そう思った。
住民も少しずつ戻っては来ているようで、あちらこちらで人々が生活している声や音がする。
でも、復旧にはまだまだ時間がかかりそうだ。
しばらく歩き続けて、リヴァイ兵長の足がようやく止まったのは外門の前だった。
巨人化したエレンが塞いだ大きな穴が、あのときの兵士達の命を懸けた壮絶な戦いを忘れるなと言っているみたいだ。
「行くぞ。」
首が痛くなるほど大きな岩を見上げていた私の手を、リヴァイ兵長の手が握った。
突然の行動に驚く暇もないうちに、握られた手を引っ張られて、私は横抱きにされていた。
いわゆる、お姫様抱っこの状態に、困惑する以前に疑問符しか浮かばない。
「あの…?」
「おれの首につかまれ。」
下からリヴァイ兵長の顔を見上げたが、彼はこちらを見ることはしなかった。
もっと上の方を見ていて、やっぱり、特に説明するつもりはないらしい。
リヴァイ兵長の首につかまれ、ということは、抱き着けってことだろうか。
すごく恥ずかしい…この状況も含めて。
でもー。
私は、おずおずと手を伸ばして、リヴァイ兵長の首に手をかけた。
抱き着くというよりは、そっと触れる程度だったけれど、とりあえず了承はもらえたのかもしれない。
リヴァイ兵長が、ワイヤーを飛ばしたからー。
「え?リヴァイ兵長、何をー。」
「つかまってろ。」
「えッ!?うそッ!?ちょっと、待ってっ!」
もしかして、この人はこのまま壁を飛び上がるつもりじゃー。
恐ろしい予感にサーッと血の気が引いた私の身体が重力に逆らって飛び上がった。
スカートの裾が風に舞っているのが見えて、恐怖に顔が引きつる。
まさか、が当たってしまったー。
「しっかりつかまってろ。」
チラリと私を見たリヴァイ兵長が言ったけれど、そんなの言われなくても必死にしがみついていた。
いつもは立体起動装置があるし、恐怖を感じる暇もないくらいに生きるのに必死だから飛べるけれど、こんな無防備な状態では、恐怖以外のなにものでもない。
リヴァイ兵長は片手で私の身体を支えながら、もう片方の手でうまくアンカーとワイヤーを操って、どんどん飛び上がっていく。
50メートルの壁をー。
リヴァイ兵長の技術なら、壁を上りきるまでほんの数秒だったのだと思う。
でも、体感時間はもっともっと長かった。
「おりねぇのか。」
壁の上に降り立ったリヴァイ兵長は、首に抱き着いたまま動かない私が不思議だったようだ。
でも、それよりも、何の説明も無しに、兵団服ではなくスカート姿の女をこんなところに突然連れてきて、澄ました顔をしているリヴァイ兵長の頭の構造の方が不思議で仕方がない。
それとー。
「腰が、抜けました…。」
降りないのではなく、降りれない理由を正直に告げた。
そんな私を、リヴァイ兵長の蔑んだ目が見下ろす。
調査兵のくせに腑抜けやがってーという心の声まで聞こえてくるようだった。
だが、ここは、私は悪くないと思う。絶対にー。
「…すみません。」
恥ずかしさと情けなさから解放されたくて、私は素直に謝った。
チッと舌打ちをして、リヴァイ兵長は私を壁の上に降ろした。
好きな人と密着していた緊張と、落ちたら死ぬという緊張で強張っていた身体の糸がようやく解れて、私はそのまま背中からゆっくりと倒れこんだ。
「うわぁ…!」
壁の上に寝転んだ途端に、目の前に満天の星空が広がった。
目が眩むくらいに綺麗な光景に、思わず感嘆の声が上がる。
澄み切った透明な空気が、普段よりも星をキラキラ輝かせているようだった。
「これを、見せるために連れてきてくれたんですか。」
夜空を見上げながら、私は訊ねた。
ルルという優しく強い気高い兵士がこの世を去ったあの日から、私は星空を見上げることをしなくなった。
それも少し違うかもしれない。
星を見るのが怖くなった。
そこに、ルルの姿を探してしまうから。
そして、ルルはもういないのだと思い知らされて、私はもっと傷つくことを知っていたから。
「世界で一番、星に近ぇのは壁の上なんだろ。」
リヴァイ兵長はそう言って、私の隣に寝転ぶ。
「あ…。」
思い出した。
前にもこうして、リヴァイ兵長と一緒に星空を見上げたことがある。
あのときも、私は親友を想ってひとりで夜空を見上げていた。
でも、夜空は遠くて、星には手が届かないと、声は届かないと、寂しい気持ちを吐露してしまった。
そんな私をリヴァイ兵長が古城の一番上まで連れて行ってくれたんだっけ。
『友人には会えそうか。』
そう言ったリヴァイ兵長に、私は照れ臭くなってしまって、無駄に強がって、夜空に一番近いのは壁の上だと答えた気がする。
そしたら、リヴァイ兵長はー。
「気が向いてくれたんですね。100年後くらいだって言ってたのに。」
「運がよかったな。」
「そうみたいです。」
思わず頬が緩む。
あまりにも夜空が綺麗で、少しだけ、泣きそうになった。
気が向いたら連れて行ってやるー、そんなその場だけの適当な約束、リヴァイ兵長は覚えていてくれたのか。
あの日だ、私がリヴァイ兵長への恋を自覚したのは。
私に触れるリヴァイ兵長の体温が熱くて、鼓動が速まって、私はようやく、特別な感情に気づいた。
でも、初めて彼に恋をしたのはずっとずっと昔、そんな気がするー。
「私の親友たちは、2人とも星になってしまったんですね。」
夜空に、手を伸ばした。
届きそうもない途方もない距離に、しまっていた悲しみが押し寄せてくる。
あの手紙を読むかぎり、駐屯兵団にいるときのルルは、内向的だったようだ。
でも、私の知っているルルは、社交的で明るくて、優しくて、いつも仲間の中心で笑っていたように思う。
明るさだけが取り柄だと自分で言っていたヒルラと、気が合うと思うのだ。
私はもうしばらくこの世界で頑張りたいと思う。
いつか再会する日まで、2人が仲良くしてくれていたらー。
「ルルは…、本当に、私を守って死んでしまって…、後悔しなかったんでしょうか。」
「アイツの気持ちなんて、おれが知るわけねぇ。」
「そうですよね…。誰にも、分からない。」
あの日、あのときのルルの最期の姿が私の記憶の一番新しいところにいつもいて、まぶたの裏に焼き付いて離れないのだ。
最後の最後、ルルは力を振り絞って私の名前を呼んだ。
そしてー。
『なまえ!!いー。』
そこで途切れたルルの最期の声が、耳の奥の方でずっと響いている。
彼女は必死に、私に伝えようとしていた。
あの手紙に残してくれたルルの声、あれもきっとルルの心からの声だったのだと思う。
本心だったのだと思う。
でも、死を目前にしたとき、彼女が最後の最後に願ったこと、それはー。
「でも、最期の声を聞いた私は知ってる…っ。
ルルは、私の名前を呼んで、そして、言おうとしてた…っ。なまえ、行かないでって…。
それなのに、私は助けられなかった…っ。最期の言葉すら言わせてもらえないで、ルルは…!」
涙が枯れるんじゃないかってくらい泣いたはずなのに、私の瞳にはまだ涙が残っていたらしい。
こぼれそうになるそれを必死に瞳に留めたくて、両手で覆って顔を隠した。
途端に、星は姿を消して、私の世界は真っ暗になる。
強くなろうと決めたのにー。前を向こうって、決めたのにー。
自分の脆さが情けなくて、唇を噛んだ。
ずっと、怖くて言えなかった。
生きたいと願ったルルの声を認めるのが、怖かった。
ずっとずっと、怖くてー。
「おれを見ろ。」
不意に開かれる視界は、満天の星空とリヴァイ兵長の端正な顔を映した。
私の両手首をつかんで、地面に押し付けて、私をまっすぐに射貫く切れ長の瞳に、私は言葉を飲み込んだ。
「おい、いいか。冷静に考えれば分かることだ。
おれもアイツの声は聞いてる。」
「あ…。」
「おれとお前が聞いたアイツの声が同じなら、
あとはどう捉えるかだと思うが、アイツの性格からして
おれは間違っているとは思わねぇ。」
「…リヴァイ兵長には、何て、聞こえたんですか…?」
恐る恐る、私はリヴァイ兵長に訊ねた。
言葉を発する前に吸った息にすら、私は怯える。
怖い。リヴァイ兵長には、最期のルルの声がどう聞こえていたのか知るのが、怖い。
「なまえ、生きて。」
リヴァイ兵長の綺麗な瞳が、私を見下ろす。
「え…?」
「アイツは、最期の最後までお前が生きることを願ってたんじゃねーのか。
少なくともおれには、そう聞こえた。」
「…っ。」
想像もしていなかった、あの声に続くのがそんな悲しいくらいに優しい言葉なんてー。
必死に堪えていた涙は、それを隠す両手さえもリヴァイ兵長に奪われて、あとからあとから瞳から溢れ出した。
あのとき、ルルは、本当は何と言おうとしていたの。
『なまえ、生きて!』
私の耳にこびりついていたルルの声が、リヴァイ兵長の声と重なって新しい音を作る。
ルルは私に生きてほしいと、そう願ったのだと、思ってもいいのー。
「リヴァ、イ、兵長…っ。」
「なんだ。」
「私、死なない…っ!最後まで…っ、悔いが残らないと言えるまで…!
生きます…!ルルみたいに、強く…っ!最後まで、強く…!」
「あぁ、いい心がけだ。」
フッとリヴァイ兵長が笑った、そんな気がした。
リヴァイ兵長に連れられて兵舎を出た私は、思わずカーディガンの裾を引っ張る。
どこへ向かっているのかは分からないが、とりあえず隣を歩きながら、私は故郷であるトロスト区の様子に胸を痛めた。
壁外調査の準備のためにずっとカラネス区にいたし、壁外調査から帰ってきてからはずっと兵舎に閉じこもっていたから、トロスト区の様子を見るのは久しぶりだった。
傷跡が痛々しい―そう思った。
住民も少しずつ戻っては来ているようで、あちらこちらで人々が生活している声や音がする。
でも、復旧にはまだまだ時間がかかりそうだ。
しばらく歩き続けて、リヴァイ兵長の足がようやく止まったのは外門の前だった。
巨人化したエレンが塞いだ大きな穴が、あのときの兵士達の命を懸けた壮絶な戦いを忘れるなと言っているみたいだ。
「行くぞ。」
首が痛くなるほど大きな岩を見上げていた私の手を、リヴァイ兵長の手が握った。
突然の行動に驚く暇もないうちに、握られた手を引っ張られて、私は横抱きにされていた。
いわゆる、お姫様抱っこの状態に、困惑する以前に疑問符しか浮かばない。
「あの…?」
「おれの首につかまれ。」
下からリヴァイ兵長の顔を見上げたが、彼はこちらを見ることはしなかった。
もっと上の方を見ていて、やっぱり、特に説明するつもりはないらしい。
リヴァイ兵長の首につかまれ、ということは、抱き着けってことだろうか。
すごく恥ずかしい…この状況も含めて。
でもー。
私は、おずおずと手を伸ばして、リヴァイ兵長の首に手をかけた。
抱き着くというよりは、そっと触れる程度だったけれど、とりあえず了承はもらえたのかもしれない。
リヴァイ兵長が、ワイヤーを飛ばしたからー。
「え?リヴァイ兵長、何をー。」
「つかまってろ。」
「えッ!?うそッ!?ちょっと、待ってっ!」
もしかして、この人はこのまま壁を飛び上がるつもりじゃー。
恐ろしい予感にサーッと血の気が引いた私の身体が重力に逆らって飛び上がった。
スカートの裾が風に舞っているのが見えて、恐怖に顔が引きつる。
まさか、が当たってしまったー。
「しっかりつかまってろ。」
チラリと私を見たリヴァイ兵長が言ったけれど、そんなの言われなくても必死にしがみついていた。
いつもは立体起動装置があるし、恐怖を感じる暇もないくらいに生きるのに必死だから飛べるけれど、こんな無防備な状態では、恐怖以外のなにものでもない。
リヴァイ兵長は片手で私の身体を支えながら、もう片方の手でうまくアンカーとワイヤーを操って、どんどん飛び上がっていく。
50メートルの壁をー。
リヴァイ兵長の技術なら、壁を上りきるまでほんの数秒だったのだと思う。
でも、体感時間はもっともっと長かった。
「おりねぇのか。」
壁の上に降り立ったリヴァイ兵長は、首に抱き着いたまま動かない私が不思議だったようだ。
でも、それよりも、何の説明も無しに、兵団服ではなくスカート姿の女をこんなところに突然連れてきて、澄ました顔をしているリヴァイ兵長の頭の構造の方が不思議で仕方がない。
それとー。
「腰が、抜けました…。」
降りないのではなく、降りれない理由を正直に告げた。
そんな私を、リヴァイ兵長の蔑んだ目が見下ろす。
調査兵のくせに腑抜けやがってーという心の声まで聞こえてくるようだった。
だが、ここは、私は悪くないと思う。絶対にー。
「…すみません。」
恥ずかしさと情けなさから解放されたくて、私は素直に謝った。
チッと舌打ちをして、リヴァイ兵長は私を壁の上に降ろした。
好きな人と密着していた緊張と、落ちたら死ぬという緊張で強張っていた身体の糸がようやく解れて、私はそのまま背中からゆっくりと倒れこんだ。
「うわぁ…!」
壁の上に寝転んだ途端に、目の前に満天の星空が広がった。
目が眩むくらいに綺麗な光景に、思わず感嘆の声が上がる。
澄み切った透明な空気が、普段よりも星をキラキラ輝かせているようだった。
「これを、見せるために連れてきてくれたんですか。」
夜空を見上げながら、私は訊ねた。
ルルという優しく強い気高い兵士がこの世を去ったあの日から、私は星空を見上げることをしなくなった。
それも少し違うかもしれない。
星を見るのが怖くなった。
そこに、ルルの姿を探してしまうから。
そして、ルルはもういないのだと思い知らされて、私はもっと傷つくことを知っていたから。
「世界で一番、星に近ぇのは壁の上なんだろ。」
リヴァイ兵長はそう言って、私の隣に寝転ぶ。
「あ…。」
思い出した。
前にもこうして、リヴァイ兵長と一緒に星空を見上げたことがある。
あのときも、私は親友を想ってひとりで夜空を見上げていた。
でも、夜空は遠くて、星には手が届かないと、声は届かないと、寂しい気持ちを吐露してしまった。
そんな私をリヴァイ兵長が古城の一番上まで連れて行ってくれたんだっけ。
『友人には会えそうか。』
そう言ったリヴァイ兵長に、私は照れ臭くなってしまって、無駄に強がって、夜空に一番近いのは壁の上だと答えた気がする。
そしたら、リヴァイ兵長はー。
「気が向いてくれたんですね。100年後くらいだって言ってたのに。」
「運がよかったな。」
「そうみたいです。」
思わず頬が緩む。
あまりにも夜空が綺麗で、少しだけ、泣きそうになった。
気が向いたら連れて行ってやるー、そんなその場だけの適当な約束、リヴァイ兵長は覚えていてくれたのか。
あの日だ、私がリヴァイ兵長への恋を自覚したのは。
私に触れるリヴァイ兵長の体温が熱くて、鼓動が速まって、私はようやく、特別な感情に気づいた。
でも、初めて彼に恋をしたのはずっとずっと昔、そんな気がするー。
「私の親友たちは、2人とも星になってしまったんですね。」
夜空に、手を伸ばした。
届きそうもない途方もない距離に、しまっていた悲しみが押し寄せてくる。
あの手紙を読むかぎり、駐屯兵団にいるときのルルは、内向的だったようだ。
でも、私の知っているルルは、社交的で明るくて、優しくて、いつも仲間の中心で笑っていたように思う。
明るさだけが取り柄だと自分で言っていたヒルラと、気が合うと思うのだ。
私はもうしばらくこの世界で頑張りたいと思う。
いつか再会する日まで、2人が仲良くしてくれていたらー。
「ルルは…、本当に、私を守って死んでしまって…、後悔しなかったんでしょうか。」
「アイツの気持ちなんて、おれが知るわけねぇ。」
「そうですよね…。誰にも、分からない。」
あの日、あのときのルルの最期の姿が私の記憶の一番新しいところにいつもいて、まぶたの裏に焼き付いて離れないのだ。
最後の最後、ルルは力を振り絞って私の名前を呼んだ。
そしてー。
『なまえ!!いー。』
そこで途切れたルルの最期の声が、耳の奥の方でずっと響いている。
彼女は必死に、私に伝えようとしていた。
あの手紙に残してくれたルルの声、あれもきっとルルの心からの声だったのだと思う。
本心だったのだと思う。
でも、死を目前にしたとき、彼女が最後の最後に願ったこと、それはー。
「でも、最期の声を聞いた私は知ってる…っ。
ルルは、私の名前を呼んで、そして、言おうとしてた…っ。なまえ、行かないでって…。
それなのに、私は助けられなかった…っ。最期の言葉すら言わせてもらえないで、ルルは…!」
涙が枯れるんじゃないかってくらい泣いたはずなのに、私の瞳にはまだ涙が残っていたらしい。
こぼれそうになるそれを必死に瞳に留めたくて、両手で覆って顔を隠した。
途端に、星は姿を消して、私の世界は真っ暗になる。
強くなろうと決めたのにー。前を向こうって、決めたのにー。
自分の脆さが情けなくて、唇を噛んだ。
ずっと、怖くて言えなかった。
生きたいと願ったルルの声を認めるのが、怖かった。
ずっとずっと、怖くてー。
「おれを見ろ。」
不意に開かれる視界は、満天の星空とリヴァイ兵長の端正な顔を映した。
私の両手首をつかんで、地面に押し付けて、私をまっすぐに射貫く切れ長の瞳に、私は言葉を飲み込んだ。
「おい、いいか。冷静に考えれば分かることだ。
おれもアイツの声は聞いてる。」
「あ…。」
「おれとお前が聞いたアイツの声が同じなら、
あとはどう捉えるかだと思うが、アイツの性格からして
おれは間違っているとは思わねぇ。」
「…リヴァイ兵長には、何て、聞こえたんですか…?」
恐る恐る、私はリヴァイ兵長に訊ねた。
言葉を発する前に吸った息にすら、私は怯える。
怖い。リヴァイ兵長には、最期のルルの声がどう聞こえていたのか知るのが、怖い。
「なまえ、生きて。」
リヴァイ兵長の綺麗な瞳が、私を見下ろす。
「え…?」
「アイツは、最期の最後までお前が生きることを願ってたんじゃねーのか。
少なくともおれには、そう聞こえた。」
「…っ。」
想像もしていなかった、あの声に続くのがそんな悲しいくらいに優しい言葉なんてー。
必死に堪えていた涙は、それを隠す両手さえもリヴァイ兵長に奪われて、あとからあとから瞳から溢れ出した。
あのとき、ルルは、本当は何と言おうとしていたの。
『なまえ、生きて!』
私の耳にこびりついていたルルの声が、リヴァイ兵長の声と重なって新しい音を作る。
ルルは私に生きてほしいと、そう願ったのだと、思ってもいいのー。
「リヴァ、イ、兵長…っ。」
「なんだ。」
「私、死なない…っ!最後まで…っ、悔いが残らないと言えるまで…!
生きます…!ルルみたいに、強く…っ!最後まで、強く…!」
「あぁ、いい心がけだ。」
フッとリヴァイ兵長が笑った、そんな気がした。