◇第四十六話◇おかえり
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私の告白に、ペトラは息を呑んだ。
そして、僅かに見開いた目で私を見た後、スッとその視線を逸らされてしまった。
ペトラの横顔を見れず、顔を伏せてしまいそうになるのを必死にこらえる。
逃げたらダメだ。
リヴァイ兵長を好きでい続けるために、せめて、リヴァイ兵長に恋人が出来るまでは、私はこの想いを大切にしたい。
そう決めたのだからー。
「今までずっと、黙っていてごめんなさい。驚かせて本当にごめんなさい。
ペトラの恋を応援するって言っておいて、すごく自分勝手だけど、でもー。
もう自分の気持ちに嘘はつけない。つきたくないって思ったの。」
もしかしたら、リヴァイ兵長に告白するよりも心臓がドキドキいってるんじゃないかと思う。
不安で緊張する。
リヴァイ兵長は好きでいたいけど、ペトラという友人も失いたくない。
勝手で我儘なのは承知している。
本当はもっと早く、ペトラが自分の気持ちを教えてくれた時に、私もそうだと伝えるべきだった。
そうすれば、こんなに彼女を傷つけることもなかったのにー。
自分の弱さに腹が立って、私は唇を噛んだ。
しばらくの沈黙が続いた後、ペトラが大きく息を吐いた。
その横顔は怒っているようで、悲しそうで、でもどこか、ホッとしているようにも見えた。
「知ってたよ。」
困ったような顔で、私を見たペトラは今ー。
今、何と言ったか。
眉をハの字にしてペトラは続ける。
「いつか、なまえにそんなこと言われるんだろうなって。
だから、驚いてないよ。」
「…気づいて、たの?」
「分かるよ。だって、私達はいつも同じ人を見てたんだもん。」
苦笑いを浮かべるペトラの言葉に、確かにそうかとも思った。
だから、私もペトラの気持ちに気づいたのだから。
それなら、私が嘘をついていることもペトラは知っていたということだ。
もしかして、ペトラの恋を応援するとか言いながら、私はペトラのことを傷つけていたのだろうか。
「ごめん…。」
「謝らなくていいよ。私も嘘吐いたから。」
「え?」
あっけらかんとではないけれど、ずっと心に刺さっていた棘を抜くように、ペトラは私についていた嘘というのを話し出す。
「告白したいから協力してってお願いしたことあるでしょ?」
「うん。」
「告白してフラれたのも、キスをお願いしたのも、アレは本当よ。」
「そっか…。」
「でもそれは、壁外調査前日じゃないの。」
「そうだったんだ…。…え?」
ペトラの話を頭の中で整理して、嘘の内容を飲み込もうとしたけれど無理だった。
混乱する私を見て、ペトラは苦笑いを浮かべた。
「前に、談話室のキッチンにいる私とリヴァイ兵長を見て
なまえがキスしてるって勘違いして、ティーカップ割っちゃったことあるでしょ?
そして、リヴァイ兵長はキスしてないって言って、私はキスしてたって言った。」
「…うん、覚えてるよ。」
それは、ずっと引っかかっていたことだった。でも、考えないようにしていた。
知ってしまったら、自分が傷つく気がして、2人の問題だからと忘れようとしていた。
あのときのことを思い出して、また胸がチクチクと痛みだす。
「あれは、私もリヴァイ兵長も、半分本当で半分嘘ついてる。」
ペトラはそこまで言って、一度言葉を切った。
続きを知りたい。それはどういう意味か聞きたい。
でも怖くて、続きを知りたくないと心のどこかがブレーキをかける。
何も言わない私のために、ペトラは時間をくれたのかもしれない。
少しの沈黙の後、ペトラは続きを話し出した。
「あのとき、私は、壁外調査のこととかいろんなことが重なって
すごく焦ってて、2人きりになった瞬間に気持ちを伝えてしまったの。」
「…そう、だったんだ。」
「リヴァイ兵長は、最初は冗談にしてはぐらかそうとしてたけど、
私が必死に本気だって伝えたら、受け入れてくれたよ。
優しい人だから、だから…、大切な部下だって突き放されちゃった。」
ペトラが、とても悲しそにうに笑うから、私の胸もズキリと痛んだ。
同じ人を好きだから、だから分かってしまうのだ。
その胸の痛みが、身体中を蝕んでいく苦しみだとか、それでも想ってしまう切なさだとかを。
だって、私達が好きになってしまったのは、心が届かなくても、どんなに苦しくても、それでも想い続けてしまうくらいに素敵な人だから。
「勇気を出して言ったのにって思っちゃって、私。
それならキスしてくださいってリヴァイ兵長にお願いしたの。」
「…うん。」
本当は、もう聞きたくなかった。
耳を塞いで、もう話さなくていいよって言いたかった。
だって、私は聞きたくないし、ペトラもすごくツラそうだから。
もしかしたら、本当は思い出したくないことなのかもしれない。
だからー。
でも、私達はもう、ずっと黙っているくらいなら、胸の中に隠していた苦しみを吐き出すことに決めていた。
「リヴァイ兵長は、ただの部下にそんなこと出来ないって言ったんだけど
どうしてもって必死にお願いしたの、もう最悪、おでこでもいいからって。
私、頭おかしかったんだよね、きっと。恥ずかしさとショックで壊れてたのかも。」
ペトラは困ったような笑みを浮かべて、頬をかいた。
その姿がなんだかとってもいじらしくて、可愛くて、リヴァイ兵長はどうして彼女のことを好きにならなかったのだろうと本気で不思議に思った。
だって、リヴァイ兵長に一番近い女性は誰かと聞かれたら、きっとみんながペトラだと言うと思う。
リヴァイ班のメンバーは、それ以前も精鋭兵としてリヴァイ兵長を支えていたと聞いている。
きっと、ずっと前から、ペトラはリヴァイ兵長を想って、優しい気持ちを送り続けていたのだろう。
それに、ペトラはとても可愛いし、モテる。
まわりをよく見ていて、世話焼きで気が利くし、優しい。
そして、兵士としての実力だけではなくて、本当の意味で彼女は強い。
人類最強の兵士の隣に立っていても、誰も文句をつけられないくらいにお似合いだ。
リヴァイ兵長が彼女に惹かれる要素なんて、たくさんあるのにー。
無意識にそんなことを考えてしまってから、ハッと気づいて落ち込む。
「大丈夫?聞いてる?」
「あ…!ごめん、大丈夫。聞いてるよ。」
「それならいいけど…。
それで、私の必死のお願いにリヴァイ兵長は根負けしてくれて
おでこならって言ってくれたの。」
「おでこ…。」
私は自分の額に手を触れる。
そういえば、あのとき、リヴァイ兵長はペトラの前髪に触れていた。髪をかき上げて、近づいていく唇の行方は、そういえば唇よりも上の方だった気がする。
「まぁ、結局は、なまえに邪魔されて最後のお願いは叶えてもらえなかったんだけどね。」
「あ…!あのときは本当に、ごめんなさいっ!
邪魔しようと思ったわけじゃないんだけど、むしろ逃げようとしてたところであって!
それで…!本当にごめん!!」
真相を知った今、とんでもない邪魔をしてしまったことを理解して申し訳なさ過ぎて、頭を下げた。
必死の勇気とお願いを、私がすべてダメにしてしまっていたなんて。
あのときのペトラの悲しそうな顔が頭に浮かんだ。それでも、彼女は、私が粉々にしてしまったティーカップの欠片を拾ってくれて、気にしないでと微笑んでくれてー。
今だってー。
「もういいよ。大丈夫っ。」
ペトラの綺麗な笑みに胸が痛んだ。
どうして、こんなに優しいんだろう。
彼女が、リヴァイ兵長の心を掴めなかったのに、私が振り向いてもらえるわけないー。
そんな私が、彼女の恋の邪魔をしていたなんて。
どうしようもなくやるせない気持ちになる。
「だから、キスはしてないけど、おでこにはキスしようとしてたってことで、
私もリヴァイ兵長も、半分本当で半分嘘なの。」
「…そっか。…本当にごめん。」
私がもう一度謝ると、ペトラはこの話もいつかはするつもりだったのだと言った。
壁外調査の前日、本当はもう終わっている告白を、今初めてするように私に言ったのもにもペトラの考えがあったそうだ。
「もしも、なまえが私の告白を止めたら、旧調査兵団本部の塔に来たら、
私、リヴァイ兵長のこと諦めるつもりだったの。」
ペトラが私をまっすぐ見る。
あのときの目だ。
壁外調査前日、私にお願いがあると言って、リヴァイ兵長への気持ちを告げたとき。
そして、巨人捕獲作戦の前、リヴァイ兵長は諦めないと宣言したときと同じ、まっすぐで強い目。
「でも、なまえは、私にだけじゃなくて、自分の気持ちにも嘘を吐いた。」
「…うん。」
「だから、私はリヴァイ兵長を諦めないことを決めた。
あのとき、リヴァイ兵長にもそう言った。」
でもー。
ペトラはそう続けた後、口を閉ざした。
私は、続きを促そうとはしなかった。
私がそうしなくても、何かを決意したらしい強い瞳のペトラは話すと思ったからだ。
想像通り、少し時間をかけてゆっくりとペトラの口が開いた。
「私、心変わりしちゃったみたい。」
「そっか…。…え?」
可愛い笑顔のペトラの前で、私はきっととてつもなく間抜けな顔をしていたに違いない。
ペトラが決意した何かを、私はちゃんと受け止めよう。
そして、それでも私はリヴァイ兵長が好きなのだとちゃんと伝えよう。
そう思いながら言葉を待っていた私は、肩透かしを食らった。
いや、信じられなかった。
「どういうこと?だってー。」
だって、私がリヴァイ兵長のことを好きだと言ったとき、ペトラは傷ついた顔をした。
あれは、リヴァイ兵長に切ないくらいの恋をしている表情だった。
だから私は、緊張して不安でー。
「私がずっと悩んでるときに、そばにいてくれた人がいてね。」
ペトラは眉尻を下げ、少しだけ照れ臭そうにしながら続けた。
「本人は励ましてるつもりなんだろうとは思うんだけど、
傷はえぐってくるわ、イラつかせるわ、笑わせるわで、もう最悪でさ。
気づいたら、私、リヴァイ兵長よりソイツのアホさ加減ばっかり考えてて。」
困ったような笑みは、どこか嬉しそうで。
頬を染めて笑うペトラが、凄く可愛らしくて。
私には、恋をする乙女の表情にしか見えなかった。
だから、すごく混乱した。
リヴァイ兵長の話をしている切なそうなペトラも、恋をしているように見えたから。
でも、ペトラはそんな私に清々しいくらいに明るい笑顔で言う。
「これからは、恋のライバルとしてじゃなくて、
恋を応援し合う仲間として、一緒に楽しく恋の話しようねっ。」
あぁ、それはきっと嘘じゃない。
邪な気持ちなんて欠片もない、綺麗な彼女の笑顔がそう教えてくれた。
そして、僅かに見開いた目で私を見た後、スッとその視線を逸らされてしまった。
ペトラの横顔を見れず、顔を伏せてしまいそうになるのを必死にこらえる。
逃げたらダメだ。
リヴァイ兵長を好きでい続けるために、せめて、リヴァイ兵長に恋人が出来るまでは、私はこの想いを大切にしたい。
そう決めたのだからー。
「今までずっと、黙っていてごめんなさい。驚かせて本当にごめんなさい。
ペトラの恋を応援するって言っておいて、すごく自分勝手だけど、でもー。
もう自分の気持ちに嘘はつけない。つきたくないって思ったの。」
もしかしたら、リヴァイ兵長に告白するよりも心臓がドキドキいってるんじゃないかと思う。
不安で緊張する。
リヴァイ兵長は好きでいたいけど、ペトラという友人も失いたくない。
勝手で我儘なのは承知している。
本当はもっと早く、ペトラが自分の気持ちを教えてくれた時に、私もそうだと伝えるべきだった。
そうすれば、こんなに彼女を傷つけることもなかったのにー。
自分の弱さに腹が立って、私は唇を噛んだ。
しばらくの沈黙が続いた後、ペトラが大きく息を吐いた。
その横顔は怒っているようで、悲しそうで、でもどこか、ホッとしているようにも見えた。
「知ってたよ。」
困ったような顔で、私を見たペトラは今ー。
今、何と言ったか。
眉をハの字にしてペトラは続ける。
「いつか、なまえにそんなこと言われるんだろうなって。
だから、驚いてないよ。」
「…気づいて、たの?」
「分かるよ。だって、私達はいつも同じ人を見てたんだもん。」
苦笑いを浮かべるペトラの言葉に、確かにそうかとも思った。
だから、私もペトラの気持ちに気づいたのだから。
それなら、私が嘘をついていることもペトラは知っていたということだ。
もしかして、ペトラの恋を応援するとか言いながら、私はペトラのことを傷つけていたのだろうか。
「ごめん…。」
「謝らなくていいよ。私も嘘吐いたから。」
「え?」
あっけらかんとではないけれど、ずっと心に刺さっていた棘を抜くように、ペトラは私についていた嘘というのを話し出す。
「告白したいから協力してってお願いしたことあるでしょ?」
「うん。」
「告白してフラれたのも、キスをお願いしたのも、アレは本当よ。」
「そっか…。」
「でもそれは、壁外調査前日じゃないの。」
「そうだったんだ…。…え?」
ペトラの話を頭の中で整理して、嘘の内容を飲み込もうとしたけれど無理だった。
混乱する私を見て、ペトラは苦笑いを浮かべた。
「前に、談話室のキッチンにいる私とリヴァイ兵長を見て
なまえがキスしてるって勘違いして、ティーカップ割っちゃったことあるでしょ?
そして、リヴァイ兵長はキスしてないって言って、私はキスしてたって言った。」
「…うん、覚えてるよ。」
それは、ずっと引っかかっていたことだった。でも、考えないようにしていた。
知ってしまったら、自分が傷つく気がして、2人の問題だからと忘れようとしていた。
あのときのことを思い出して、また胸がチクチクと痛みだす。
「あれは、私もリヴァイ兵長も、半分本当で半分嘘ついてる。」
ペトラはそこまで言って、一度言葉を切った。
続きを知りたい。それはどういう意味か聞きたい。
でも怖くて、続きを知りたくないと心のどこかがブレーキをかける。
何も言わない私のために、ペトラは時間をくれたのかもしれない。
少しの沈黙の後、ペトラは続きを話し出した。
「あのとき、私は、壁外調査のこととかいろんなことが重なって
すごく焦ってて、2人きりになった瞬間に気持ちを伝えてしまったの。」
「…そう、だったんだ。」
「リヴァイ兵長は、最初は冗談にしてはぐらかそうとしてたけど、
私が必死に本気だって伝えたら、受け入れてくれたよ。
優しい人だから、だから…、大切な部下だって突き放されちゃった。」
ペトラが、とても悲しそにうに笑うから、私の胸もズキリと痛んだ。
同じ人を好きだから、だから分かってしまうのだ。
その胸の痛みが、身体中を蝕んでいく苦しみだとか、それでも想ってしまう切なさだとかを。
だって、私達が好きになってしまったのは、心が届かなくても、どんなに苦しくても、それでも想い続けてしまうくらいに素敵な人だから。
「勇気を出して言ったのにって思っちゃって、私。
それならキスしてくださいってリヴァイ兵長にお願いしたの。」
「…うん。」
本当は、もう聞きたくなかった。
耳を塞いで、もう話さなくていいよって言いたかった。
だって、私は聞きたくないし、ペトラもすごくツラそうだから。
もしかしたら、本当は思い出したくないことなのかもしれない。
だからー。
でも、私達はもう、ずっと黙っているくらいなら、胸の中に隠していた苦しみを吐き出すことに決めていた。
「リヴァイ兵長は、ただの部下にそんなこと出来ないって言ったんだけど
どうしてもって必死にお願いしたの、もう最悪、おでこでもいいからって。
私、頭おかしかったんだよね、きっと。恥ずかしさとショックで壊れてたのかも。」
ペトラは困ったような笑みを浮かべて、頬をかいた。
その姿がなんだかとってもいじらしくて、可愛くて、リヴァイ兵長はどうして彼女のことを好きにならなかったのだろうと本気で不思議に思った。
だって、リヴァイ兵長に一番近い女性は誰かと聞かれたら、きっとみんながペトラだと言うと思う。
リヴァイ班のメンバーは、それ以前も精鋭兵としてリヴァイ兵長を支えていたと聞いている。
きっと、ずっと前から、ペトラはリヴァイ兵長を想って、優しい気持ちを送り続けていたのだろう。
それに、ペトラはとても可愛いし、モテる。
まわりをよく見ていて、世話焼きで気が利くし、優しい。
そして、兵士としての実力だけではなくて、本当の意味で彼女は強い。
人類最強の兵士の隣に立っていても、誰も文句をつけられないくらいにお似合いだ。
リヴァイ兵長が彼女に惹かれる要素なんて、たくさんあるのにー。
無意識にそんなことを考えてしまってから、ハッと気づいて落ち込む。
「大丈夫?聞いてる?」
「あ…!ごめん、大丈夫。聞いてるよ。」
「それならいいけど…。
それで、私の必死のお願いにリヴァイ兵長は根負けしてくれて
おでこならって言ってくれたの。」
「おでこ…。」
私は自分の額に手を触れる。
そういえば、あのとき、リヴァイ兵長はペトラの前髪に触れていた。髪をかき上げて、近づいていく唇の行方は、そういえば唇よりも上の方だった気がする。
「まぁ、結局は、なまえに邪魔されて最後のお願いは叶えてもらえなかったんだけどね。」
「あ…!あのときは本当に、ごめんなさいっ!
邪魔しようと思ったわけじゃないんだけど、むしろ逃げようとしてたところであって!
それで…!本当にごめん!!」
真相を知った今、とんでもない邪魔をしてしまったことを理解して申し訳なさ過ぎて、頭を下げた。
必死の勇気とお願いを、私がすべてダメにしてしまっていたなんて。
あのときのペトラの悲しそうな顔が頭に浮かんだ。それでも、彼女は、私が粉々にしてしまったティーカップの欠片を拾ってくれて、気にしないでと微笑んでくれてー。
今だってー。
「もういいよ。大丈夫っ。」
ペトラの綺麗な笑みに胸が痛んだ。
どうして、こんなに優しいんだろう。
彼女が、リヴァイ兵長の心を掴めなかったのに、私が振り向いてもらえるわけないー。
そんな私が、彼女の恋の邪魔をしていたなんて。
どうしようもなくやるせない気持ちになる。
「だから、キスはしてないけど、おでこにはキスしようとしてたってことで、
私もリヴァイ兵長も、半分本当で半分嘘なの。」
「…そっか。…本当にごめん。」
私がもう一度謝ると、ペトラはこの話もいつかはするつもりだったのだと言った。
壁外調査の前日、本当はもう終わっている告白を、今初めてするように私に言ったのもにもペトラの考えがあったそうだ。
「もしも、なまえが私の告白を止めたら、旧調査兵団本部の塔に来たら、
私、リヴァイ兵長のこと諦めるつもりだったの。」
ペトラが私をまっすぐ見る。
あのときの目だ。
壁外調査前日、私にお願いがあると言って、リヴァイ兵長への気持ちを告げたとき。
そして、巨人捕獲作戦の前、リヴァイ兵長は諦めないと宣言したときと同じ、まっすぐで強い目。
「でも、なまえは、私にだけじゃなくて、自分の気持ちにも嘘を吐いた。」
「…うん。」
「だから、私はリヴァイ兵長を諦めないことを決めた。
あのとき、リヴァイ兵長にもそう言った。」
でもー。
ペトラはそう続けた後、口を閉ざした。
私は、続きを促そうとはしなかった。
私がそうしなくても、何かを決意したらしい強い瞳のペトラは話すと思ったからだ。
想像通り、少し時間をかけてゆっくりとペトラの口が開いた。
「私、心変わりしちゃったみたい。」
「そっか…。…え?」
可愛い笑顔のペトラの前で、私はきっととてつもなく間抜けな顔をしていたに違いない。
ペトラが決意した何かを、私はちゃんと受け止めよう。
そして、それでも私はリヴァイ兵長が好きなのだとちゃんと伝えよう。
そう思いながら言葉を待っていた私は、肩透かしを食らった。
いや、信じられなかった。
「どういうこと?だってー。」
だって、私がリヴァイ兵長のことを好きだと言ったとき、ペトラは傷ついた顔をした。
あれは、リヴァイ兵長に切ないくらいの恋をしている表情だった。
だから私は、緊張して不安でー。
「私がずっと悩んでるときに、そばにいてくれた人がいてね。」
ペトラは眉尻を下げ、少しだけ照れ臭そうにしながら続けた。
「本人は励ましてるつもりなんだろうとは思うんだけど、
傷はえぐってくるわ、イラつかせるわ、笑わせるわで、もう最悪でさ。
気づいたら、私、リヴァイ兵長よりソイツのアホさ加減ばっかり考えてて。」
困ったような笑みは、どこか嬉しそうで。
頬を染めて笑うペトラが、凄く可愛らしくて。
私には、恋をする乙女の表情にしか見えなかった。
だから、すごく混乱した。
リヴァイ兵長の話をしている切なそうなペトラも、恋をしているように見えたから。
でも、ペトラはそんな私に清々しいくらいに明るい笑顔で言う。
「これからは、恋のライバルとしてじゃなくて、
恋を応援し合う仲間として、一緒に楽しく恋の話しようねっ。」
あぁ、それはきっと嘘じゃない。
邪な気持ちなんて欠片もない、綺麗な彼女の笑顔がそう教えてくれた。