◇第四十五話◇ただいま
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広い玄関ホールを抜ける前に、私の足は動きを止めた。
母と話しているのは、ハンジさんのようだった。
ハンジさんの隣にはもう一人いたのだけれど、自分の目が映したものを、私はどうしても信じられなかった。
でも、黒髪を白く光らせる太陽の光が作った影が、そこにいるのは幻ではないのだと教えてくれる。
それでも信じられずに立ち尽くしていると、母の背中越しに、目が合った。
挑むように見つめる三白眼が私から視線を離してくれないから、止まりそうになった心臓が、ドクンドクンと五月蠅いくらい騒ぎ出す。
「あ!なまえ!!」
ハンジさんが嬉しそうな顔をして右手を上げた。
ワンテンポ遅れて、後ろを振り返った母は、私を見てため息を吐いた。
「わざわざ、リヴァイさんがなまえを迎えに来てくださったのよ。」
「リヴァイ兵長が…?」
母は、リヴァイ兵長とハンジさんに「御足労をおかけして」とかなんとか言って頭を下げている。
わざわざ迎えに来たーということについては、申し訳なくおもっている様子の母だったが、ここにリヴァイ兵長達が来たことについては特に驚いてもいないようだった。
私は死ぬほど驚いているというのにー。
混乱する私を、リヴァイ兵長は何を考えているか分からない顔でジーッと見ているし、本当に全く意味が分からない。
どういうことー。
「おい、なまえ。」
「は、はい!」
急に名前を呼ばれて驚いた。
慌てて返事をしたから、声が上ずってしまって恥ずかしい。
パニックの私とは裏腹に、リヴァイ兵長は片眉を上げてどこか不機嫌な顔つきになっている。
怒っている、のだろうか。
でも、久しぶりに会ったばかりで、怒らせてしまっている理由に心当たりはない。
最後に会った時も、避けられている感じはしたけれど、怒っているようには見えなかったのにー。
「お前が、もし…、あれだ。」
「あれ?」
何か言いだしたと思ったら、リヴァイ兵長は口ごもってしまった。
私が首を傾げると、ハンジさんが、リヴァイ兵長の肩を肘でつつきながら言った。
「ほら、練習しただろ。ちゃんと言いなよ。なまえも困ってる。」
「…チッ。」
何かよくわからないけれど、私は今、リヴァイ兵長に猛烈に睨まれて舌打ちをされた。
どうしよう、心が折れそうだ。
トロスト区に帰ろう、もしも、エルヴィン団長や調査兵団のみんなが受け入れてくれるのなら、いや、拒絶されても、調査兵になりたいと伝えよう。
私はやっぱり、そこがどんな地獄だとしても、みんなと一緒にいたい。
そう、覚悟を決めたはずだったのだけれど、あっさり心が折れそうになっている。
昨日、あれだけ泣いたのに、また泣きそうだ。
今度は、失恋でー。
「お前がもし、戻ってきてくれるなら、おれは…、あれだ。」
「…あれ?」
「チッ。」
「ごっ、ごめんなさいっ。」
よくわからないけれど、また怖い顔で睨まれたので反射的に謝ってしまった。
リヴァイ兵長は何を言おうとしてるのだろう。
いつも以上に何を考えているか分からないし、信じられないくらいの不機嫌で怖い。
私には般若のように恐ろしいそんなリヴァイ兵長を、ハンジさんはまた小突いてしっかり喋ろと叱っている。
久しぶりに思った。
奇行種、すごすぎる。
「ほらっ!ちゃんと言うっ!男らしく!!エルヴィン団長からの命令だろ!!」
「チッ、分かってる!」
何を命令されたのか分からないが、とてもご立腹のリヴァイ兵長は最後にハンジさんをひと睨みした後、一歩前に出た。
そして、息を吐いてから口を開く。
「お前がもし、戻ってきてくれるなら、おれは嬉しい。」
「え…?」
自分が言われたセリフが信じられなかった。
驚いて目を見開く私から、リヴァイ兵長が目を反らす。
その頬がうっすらと赤くなっているように見えるのは、私の見間違いでいいのだろうか。
「あの…。」
「なんだ。」
リヴァイ兵長は、不機嫌そうにしつつも、ちゃんと私を見てくれた。
「私…、帰っても、いいんですか?」
私が訊ねると、今度はリヴァイ兵長が驚いていた。
僅かに目を見開いた後に息を吐くと、ようやく不機嫌だった表情がやわらいだようだった。
「当たり前だ。お前の帰る場所はおれだろ。
-おいで。」
リヴァイ兵長はそう言って、両手を広げた。
右手はまだ包帯が巻かれていて、とても痛々しい。
それは、私のせいなのに、本当に帰っていいのだろうか。
私はまた無茶をして迷惑をかけてしまうかもしれないし、いっぱい泣いて困らせてしまうかもしれないし、それからー。
頭の中では言い訳がいっぱい浮かんでいたのに、気づいたら、私は抱えていた荷物も投げ捨てて、床を蹴っていた。
走り出した足はもう止まらない。
勢いよく胸に飛び込んだ私を、決して大きいとはいえない身体で、リヴァイ兵長がしっかりと受け止めてくれた。
「ただいまっ、戻りました…っ!」
「遅かったじゃねぇ―か、グズ野郎。」
乱暴な言葉の割に、その声色は優しくて、私の身体を受け止めたリヴァイ兵長の腕は、まるで私の存在を確かめているみたいだった。
遠い遠い昔に知ったような気がする凄く懐かしい感触に、思わず泣きそうになって、私はもっと強く抱きしめる。
もう、離れたくないー。
ただいま、私の帰る場所ー。
母と話しているのは、ハンジさんのようだった。
ハンジさんの隣にはもう一人いたのだけれど、自分の目が映したものを、私はどうしても信じられなかった。
でも、黒髪を白く光らせる太陽の光が作った影が、そこにいるのは幻ではないのだと教えてくれる。
それでも信じられずに立ち尽くしていると、母の背中越しに、目が合った。
挑むように見つめる三白眼が私から視線を離してくれないから、止まりそうになった心臓が、ドクンドクンと五月蠅いくらい騒ぎ出す。
「あ!なまえ!!」
ハンジさんが嬉しそうな顔をして右手を上げた。
ワンテンポ遅れて、後ろを振り返った母は、私を見てため息を吐いた。
「わざわざ、リヴァイさんがなまえを迎えに来てくださったのよ。」
「リヴァイ兵長が…?」
母は、リヴァイ兵長とハンジさんに「御足労をおかけして」とかなんとか言って頭を下げている。
わざわざ迎えに来たーということについては、申し訳なくおもっている様子の母だったが、ここにリヴァイ兵長達が来たことについては特に驚いてもいないようだった。
私は死ぬほど驚いているというのにー。
混乱する私を、リヴァイ兵長は何を考えているか分からない顔でジーッと見ているし、本当に全く意味が分からない。
どういうことー。
「おい、なまえ。」
「は、はい!」
急に名前を呼ばれて驚いた。
慌てて返事をしたから、声が上ずってしまって恥ずかしい。
パニックの私とは裏腹に、リヴァイ兵長は片眉を上げてどこか不機嫌な顔つきになっている。
怒っている、のだろうか。
でも、久しぶりに会ったばかりで、怒らせてしまっている理由に心当たりはない。
最後に会った時も、避けられている感じはしたけれど、怒っているようには見えなかったのにー。
「お前が、もし…、あれだ。」
「あれ?」
何か言いだしたと思ったら、リヴァイ兵長は口ごもってしまった。
私が首を傾げると、ハンジさんが、リヴァイ兵長の肩を肘でつつきながら言った。
「ほら、練習しただろ。ちゃんと言いなよ。なまえも困ってる。」
「…チッ。」
何かよくわからないけれど、私は今、リヴァイ兵長に猛烈に睨まれて舌打ちをされた。
どうしよう、心が折れそうだ。
トロスト区に帰ろう、もしも、エルヴィン団長や調査兵団のみんなが受け入れてくれるのなら、いや、拒絶されても、調査兵になりたいと伝えよう。
私はやっぱり、そこがどんな地獄だとしても、みんなと一緒にいたい。
そう、覚悟を決めたはずだったのだけれど、あっさり心が折れそうになっている。
昨日、あれだけ泣いたのに、また泣きそうだ。
今度は、失恋でー。
「お前がもし、戻ってきてくれるなら、おれは…、あれだ。」
「…あれ?」
「チッ。」
「ごっ、ごめんなさいっ。」
よくわからないけれど、また怖い顔で睨まれたので反射的に謝ってしまった。
リヴァイ兵長は何を言おうとしてるのだろう。
いつも以上に何を考えているか分からないし、信じられないくらいの不機嫌で怖い。
私には般若のように恐ろしいそんなリヴァイ兵長を、ハンジさんはまた小突いてしっかり喋ろと叱っている。
久しぶりに思った。
奇行種、すごすぎる。
「ほらっ!ちゃんと言うっ!男らしく!!エルヴィン団長からの命令だろ!!」
「チッ、分かってる!」
何を命令されたのか分からないが、とてもご立腹のリヴァイ兵長は最後にハンジさんをひと睨みした後、一歩前に出た。
そして、息を吐いてから口を開く。
「お前がもし、戻ってきてくれるなら、おれは嬉しい。」
「え…?」
自分が言われたセリフが信じられなかった。
驚いて目を見開く私から、リヴァイ兵長が目を反らす。
その頬がうっすらと赤くなっているように見えるのは、私の見間違いでいいのだろうか。
「あの…。」
「なんだ。」
リヴァイ兵長は、不機嫌そうにしつつも、ちゃんと私を見てくれた。
「私…、帰っても、いいんですか?」
私が訊ねると、今度はリヴァイ兵長が驚いていた。
僅かに目を見開いた後に息を吐くと、ようやく不機嫌だった表情がやわらいだようだった。
「当たり前だ。お前の帰る場所はおれだろ。
-おいで。」
リヴァイ兵長はそう言って、両手を広げた。
右手はまだ包帯が巻かれていて、とても痛々しい。
それは、私のせいなのに、本当に帰っていいのだろうか。
私はまた無茶をして迷惑をかけてしまうかもしれないし、いっぱい泣いて困らせてしまうかもしれないし、それからー。
頭の中では言い訳がいっぱい浮かんでいたのに、気づいたら、私は抱えていた荷物も投げ捨てて、床を蹴っていた。
走り出した足はもう止まらない。
勢いよく胸に飛び込んだ私を、決して大きいとはいえない身体で、リヴァイ兵長がしっかりと受け止めてくれた。
「ただいまっ、戻りました…っ!」
「遅かったじゃねぇ―か、グズ野郎。」
乱暴な言葉の割に、その声色は優しくて、私の身体を受け止めたリヴァイ兵長の腕は、まるで私の存在を確かめているみたいだった。
遠い遠い昔に知ったような気がする凄く懐かしい感触に、思わず泣きそうになって、私はもっと強く抱きしめる。
もう、離れたくないー。
ただいま、私の帰る場所ー。