洋服を詰めたバッグを抱えてリビングにやってきた私を見て、母はとても驚いた顔をした。
せっかく内地に住めるのに、勿体ないことをするなと思う。
また、トロスト区へ戻ろうとしているなんてー。

「どこへ行くの？」

眉を顰め、母は私に訊ねる。
心配だと、不安だと、私の腕に触れる手が教えてくれる。
でも、ちゃんと言わなくちゃー。

「私ね、本当は調査兵団でー。」

精一杯の決意をした私のセリフを邪魔するように、家の呼び鈴が鳴った。
私のことを気にしつつも、母は客人を出迎えに行く。
玄関から、母と客人の話し声がかすかに聞こえる。
よく遊びに来てくれるという貴婦人かもしれない。
挨拶をした後、そのまま家を出よう。
そう決めて、私は荷物を抱えたまま玄関へ向かった。