◇第三十八話◇仇
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刃を真っ赤に染めたナイフから、血がポタ、ポタと落ちて、地面に赤い滲みを作る。
驚愕した顔で目を見開くルルの父親は、恐怖と驚きで動けない様子だった。
握りしめたナイフは、身体が硬直したせいで手が動かずに離せないだけなのだと思う。
「コイツに刃を向けるのはやめてくれねぇか。」
なまえの心臓にナイフが届く直前、その命を守ったのはリヴァイだった。
ナイフを素手で掴み、すんでのところで刃先がなまえに触れるのを防いだ。
だが、そのせいでその手は血だらけで、止まりそうにない血が地面に落ち続けている。
「あ…、あ…、」
人類最強の兵士をルルの父親が知っていたかどうかは分からない。
知らない人間がいるとも思えないし、きっと知っているはずだ。
だが、ルルの父親がリヴァイに恐怖して震えているのは、きっと彼が人類最強の兵士だからではない。
自分を睨みつける氷のように冷たい瞳、怒りをにじませる低い声、そしてリヴァイの纏う黒いオーラ。
そのすべてが、ルルの父親の身体を芯から震わせているのだ。
その怒りを向けられていないハンジ達でさえ、心臓に氷が触れでもしたかのように震えあがっていたほどだった。
「どうしても殺してぇなら、」
一歩、後ずさろうとしたルルの父親を引き留めるように、ナイフを持つ手に力をこめ、リヴァイが言う。
「おれを殺せ。」
「…アンタを?」
震えながらも、頭に疑問符を浮かべるルルの父親に、リヴァイはチラリとなまえを見てから続ける。
「コイツが何を言ったか知らねぇが、想像はつく。
どうせ、お前らの娘を殺したのは自分だとか言ったんだろ。」
「そうだッ!ソイツが私達の大事な娘を殺した!!
詫びて死ぬくらいしてもらったって、ばちは当たらないだろ!!」
「あぁ、そうだな…。そうかもしれねぇな。」
「だから、私はその娘を殺さないといけないんだ!!
娘の仇をとってやるのが親の務めなんだ!!
分かってるなら、そこをどいてくれ!!!」
リヴァイへの恐怖で忘れていた目的を思い出した父親は、またナイフを持つ手に力を入れた。
だが、それよりも強い力でリヴァイがナイフを握りしめる。
このままでは、リヴァイの手が切り落とされてしまうんじゃないかと心配になるほどに血が溢れ、地面に血だまりを作っていく。
「お前の仇はなまえじゃねぇ。」
「何言ってるんだ!!私は、他の兵士が話してるのをー。」
「お前の娘を殺したのは、おれだ。」
ルルの父親も母親も驚いていたけれど、ハンジはリヴァイがそう言うだろうことは分かっていた。
それはその場を切りぬけるためだけのでまかせではなく、彼の本心だということも。
ここ数日のリヴァイの行動を知っている誰もが、彼の苦悩に気づいていた。
気づいていて、何もしてやれなかった自分を責めながらこの日を迎えた。
きっと、他の兵士達だって同じだ。
仲間の死を、仕方がなかった、なんて思っている兵士はいない。
みんな、必死にもがいているのだ。
「お前の娘は勇敢な兵士だった。」
「…ッ!そう言えば、親が喜ぶとでも思ってるのか!?
少なくとも私達は違うっ!!情けない兵士でも、生きてくれさえいればよかった!!」
「そうか。だが、お前の娘は本当に勇敢な兵士だったんだ。
大事な友人を命を懸けて守ったんだからな。」
「大事な友人…?その悪魔がか!!ソイツは自分の身代わりにルルを殺したんだろ!!」
「いいや、違う。お前の娘は、自ら望んで身代わりになった。」
「そんなわけないッ!!ルルはそんなことが出来るような子じゃないッ!!」
「おれはこの目で見てる、お前らの娘の勇敢な姿を。」
「そんな馬鹿な話を信じるとでも思うか!」
「信じるも信じねぇも、それが事実だ。
そして、お前らの娘を救うためにコイツが巨人の群れに飛び込んだのも事実だ。」
「な…っ、そんなわけないだろ!!ソイツは自分で認めてー。」
「ルルの体半分は巨人の口の中で、なまえは無傷で、
あのとき、おれが助けられる命には限りがあった。
そして、ルルはおれに、自分を見捨ててなまえを連れて逃げてくれと言った。
」
「ふざけるな!!自分達の都合のいいように話を作りかえるな!!」
「おれは、お前らの娘を見捨てて、コイツの命を守る方を選んだ。」
「…!!」
ルルの父親は、リヴァイとなまえを交互に見比べる。
なまえはボーッと座っているだけの人形のように成り果てていて、何を考えているか分からなかったに違いない。
彼は、誰を信じるべきか否か迷っているようだった。
「もし…、身体が巨人の口の中にいるのがうちの娘じゃなければ…、
うちの娘は生きてたのか…?状況が違えば、うちの娘は…。」
「おれはあのとき…ー。」
「リヴァイ、もういい。喋るな。」
遅れてやってきたミケに制止され、リヴァイは口を噤む。
自分が今、何を言おうとしていたのかを理解したのか。自分がルルの両親に残酷な真実をつきつけようとしていたことに驚愕し、目を見開いた。
ようやくリヴァイの手がナイフから離れ、ルルの父親は震えながら後ずさる。
カラン、とナイフが落ちて、血が飛び散った。
「ルルが…、その娘を助けてくれって言ったから…?
その娘がルルを助けようと巨人に飛び込んだから…、だから、何だって言うの…?」
涙も枯れ果てた様子のルルの母親は、ふらついた足取りでゆらゆらとなまえの方へと歩み寄る。
「ルルがその娘の代わりに死んだのに、かわりはないじゃない…。
私の可愛い…、可愛い娘を…返して…。返してよ…。」
ルルの母親が落ちていたナイフを拾い上げ、なまえに振り落としたのは、あっという間の出来事だった。
ルルの父親でさえ想像できなかったその行動に、誰も動けなかった。
身を挺してなまえを守ったリヴァイを除いては、誰もー。
「…っ!」
リヴァイが痛みに顔を歪める。
左腕を切ったナイフは、すぐにミケに叩き落された。
ナイフが地面に落ちた音にハッとして、ハンジとモブリットがルルの両親を拘束する。
「殺してよ…。」
リヴァイの腕に守られながら、なまえが言う。
「おれが悪かった。」
なまえの無事が分かっても、リヴァイは腕を離さなかった。
強く強く抱きしめて、なまえに謝り続ける。
「ごめんなさい…、ルル…。
死にたい…。殺して…。」
「おれが悪かったから、もうやめてくれ…。」
いつもは抑揚のないリヴァイの低い声が、悲痛な叫びに聞こえた。
モブリットの腕の中で、ルルの父親は呆然と立ち尽くし、ルルの母親が、ハンジの腕の中で泣き続ける。
救いようのないこの悲劇を誰にどうすることが出来るのだろう。
このどこにも悪はないのにー。
驚愕した顔で目を見開くルルの父親は、恐怖と驚きで動けない様子だった。
握りしめたナイフは、身体が硬直したせいで手が動かずに離せないだけなのだと思う。
「コイツに刃を向けるのはやめてくれねぇか。」
なまえの心臓にナイフが届く直前、その命を守ったのはリヴァイだった。
ナイフを素手で掴み、すんでのところで刃先がなまえに触れるのを防いだ。
だが、そのせいでその手は血だらけで、止まりそうにない血が地面に落ち続けている。
「あ…、あ…、」
人類最強の兵士をルルの父親が知っていたかどうかは分からない。
知らない人間がいるとも思えないし、きっと知っているはずだ。
だが、ルルの父親がリヴァイに恐怖して震えているのは、きっと彼が人類最強の兵士だからではない。
自分を睨みつける氷のように冷たい瞳、怒りをにじませる低い声、そしてリヴァイの纏う黒いオーラ。
そのすべてが、ルルの父親の身体を芯から震わせているのだ。
その怒りを向けられていないハンジ達でさえ、心臓に氷が触れでもしたかのように震えあがっていたほどだった。
「どうしても殺してぇなら、」
一歩、後ずさろうとしたルルの父親を引き留めるように、ナイフを持つ手に力をこめ、リヴァイが言う。
「おれを殺せ。」
「…アンタを?」
震えながらも、頭に疑問符を浮かべるルルの父親に、リヴァイはチラリとなまえを見てから続ける。
「コイツが何を言ったか知らねぇが、想像はつく。
どうせ、お前らの娘を殺したのは自分だとか言ったんだろ。」
「そうだッ!ソイツが私達の大事な娘を殺した!!
詫びて死ぬくらいしてもらったって、ばちは当たらないだろ!!」
「あぁ、そうだな…。そうかもしれねぇな。」
「だから、私はその娘を殺さないといけないんだ!!
娘の仇をとってやるのが親の務めなんだ!!
分かってるなら、そこをどいてくれ!!!」
リヴァイへの恐怖で忘れていた目的を思い出した父親は、またナイフを持つ手に力を入れた。
だが、それよりも強い力でリヴァイがナイフを握りしめる。
このままでは、リヴァイの手が切り落とされてしまうんじゃないかと心配になるほどに血が溢れ、地面に血だまりを作っていく。
「お前の仇はなまえじゃねぇ。」
「何言ってるんだ!!私は、他の兵士が話してるのをー。」
「お前の娘を殺したのは、おれだ。」
ルルの父親も母親も驚いていたけれど、ハンジはリヴァイがそう言うだろうことは分かっていた。
それはその場を切りぬけるためだけのでまかせではなく、彼の本心だということも。
ここ数日のリヴァイの行動を知っている誰もが、彼の苦悩に気づいていた。
気づいていて、何もしてやれなかった自分を責めながらこの日を迎えた。
きっと、他の兵士達だって同じだ。
仲間の死を、仕方がなかった、なんて思っている兵士はいない。
みんな、必死にもがいているのだ。
「お前の娘は勇敢な兵士だった。」
「…ッ!そう言えば、親が喜ぶとでも思ってるのか!?
少なくとも私達は違うっ!!情けない兵士でも、生きてくれさえいればよかった!!」
「そうか。だが、お前の娘は本当に勇敢な兵士だったんだ。
大事な友人を命を懸けて守ったんだからな。」
「大事な友人…?その悪魔がか!!ソイツは自分の身代わりにルルを殺したんだろ!!」
「いいや、違う。お前の娘は、自ら望んで身代わりになった。」
「そんなわけないッ!!ルルはそんなことが出来るような子じゃないッ!!」
「おれはこの目で見てる、お前らの娘の勇敢な姿を。」
「そんな馬鹿な話を信じるとでも思うか!」
「信じるも信じねぇも、それが事実だ。
そして、お前らの娘を救うためにコイツが巨人の群れに飛び込んだのも事実だ。」
「な…っ、そんなわけないだろ!!ソイツは自分で認めてー。」
「ルルの体半分は巨人の口の中で、なまえは無傷で、
あのとき、おれが助けられる命には限りがあった。
そして、ルルはおれに、自分を見捨ててなまえを連れて逃げてくれと言った。
」
「ふざけるな!!自分達の都合のいいように話を作りかえるな!!」
「おれは、お前らの娘を見捨てて、コイツの命を守る方を選んだ。」
「…!!」
ルルの父親は、リヴァイとなまえを交互に見比べる。
なまえはボーッと座っているだけの人形のように成り果てていて、何を考えているか分からなかったに違いない。
彼は、誰を信じるべきか否か迷っているようだった。
「もし…、身体が巨人の口の中にいるのがうちの娘じゃなければ…、
うちの娘は生きてたのか…?状況が違えば、うちの娘は…。」
「おれはあのとき…ー。」
「リヴァイ、もういい。喋るな。」
遅れてやってきたミケに制止され、リヴァイは口を噤む。
自分が今、何を言おうとしていたのかを理解したのか。自分がルルの両親に残酷な真実をつきつけようとしていたことに驚愕し、目を見開いた。
ようやくリヴァイの手がナイフから離れ、ルルの父親は震えながら後ずさる。
カラン、とナイフが落ちて、血が飛び散った。
「ルルが…、その娘を助けてくれって言ったから…?
その娘がルルを助けようと巨人に飛び込んだから…、だから、何だって言うの…?」
涙も枯れ果てた様子のルルの母親は、ふらついた足取りでゆらゆらとなまえの方へと歩み寄る。
「ルルがその娘の代わりに死んだのに、かわりはないじゃない…。
私の可愛い…、可愛い娘を…返して…。返してよ…。」
ルルの母親が落ちていたナイフを拾い上げ、なまえに振り落としたのは、あっという間の出来事だった。
ルルの父親でさえ想像できなかったその行動に、誰も動けなかった。
身を挺してなまえを守ったリヴァイを除いては、誰もー。
「…っ!」
リヴァイが痛みに顔を歪める。
左腕を切ったナイフは、すぐにミケに叩き落された。
ナイフが地面に落ちた音にハッとして、ハンジとモブリットがルルの両親を拘束する。
「殺してよ…。」
リヴァイの腕に守られながら、なまえが言う。
「おれが悪かった。」
なまえの無事が分かっても、リヴァイは腕を離さなかった。
強く強く抱きしめて、なまえに謝り続ける。
「ごめんなさい…、ルル…。
死にたい…。殺して…。」
「おれが悪かったから、もうやめてくれ…。」
いつもは抑揚のないリヴァイの低い声が、悲痛な叫びに聞こえた。
モブリットの腕の中で、ルルの父親は呆然と立ち尽くし、ルルの母親が、ハンジの腕の中で泣き続ける。
救いようのないこの悲劇を誰にどうすることが出来るのだろう。
このどこにも悪はないのにー。