◇第三十八話◇仇
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部屋の主を今か今かと待ちわびていたミケ、ナナバ、ゲルガーは、戻ってきたハンジの表情を見てすべてを悟った。
なまえの退団が受理された。
もう二度と、彼女の勇士を見ることは叶わなくなった。
「弔い式を待って、なまえは兵団を去ることになった。
彼女にも伝えてきたよ。」
「そうか。」
ミケは短く返事をしたっきり、口を開かなかった。
壁外調査初日になまえが奇行種2体を同時に討伐しているのを偶然目にした彼もまた、彼女の技術に人類の希望を見たひとりだった。
リヴァイよりも筋力や体力は大幅に劣る。だが、技術だけを見れば、それは完全にリヴァイのコピーだったー、とその日の会議で珍しく熱く語っていたのが遠い昔のように思える。
なまえが持ち前の運動神経と動体視力でたった1人の兵士の真似をして巨人を討伐していたことを知ったあの日、ハンジが抱いた夢のような妄想。
それが、現実になろうとしていた矢先だったのだ。
悔しくてたまらない。
「なまえの様子はどうだった?」
「相変わらず、だよ。死んだような目で淡々と雑務をこなしてた。
退団の日が決まったと伝えたら、そうですか、と頷いただけ。」
「そう…。」
ナナバは僅かに目を伏せた。
組んだ腕の先で小刻みに動く指は、苛立ちを隠しきれていない。
どうしてこんなことになったのか。
自分達はどうにかしてこの事態を避けられなかったのか。
ずっと考えているけれど、答えなんて出るわけもなく。
いつだってこうなのだ。
何が悪かったのかを考えたところで、亡くなった命はもう二度と戻ってこない。
それでも考えずにはいられない、失った仲間達みんなで笑い合っていたはずの未来をー。
「どんな気持ちで、ルルの身体を探してたんだろうな…。
生きてることがつれぇアイツに、俺は何も言ってやれなかったよ。」
ドカリとソファに腰を下ろしたゲルガーは、投げ出した自分の足の先を見やる。
任務中に戦死した仲間の遺体だけでも連れて帰りたいという気持ちは、痛いほどに分かる。
帰還命令の直前、夜明け前にこっそりと抜け出した数名の兵士達が、巨大樹の森へ向かってしまった気持ちも分からなくもない。
あのとき、テュランが巨人の大群が拠点へ向かっていることに気づかなかったら、犠牲は免れなかっただろう。
「ルルの遺体をリヴァイが連れてきてることにも気づいてなかったくらいだから、
あれだけの巨人の大群に襲われて犠牲が全く出なかったことに
自分が大きく貢献してるってことにも気づいてないんだろうね。」
「それ以前の問題だよ、ナナバ。」
「どういうことだい?」
「なまえはあの日、犠牲が出なかったことすら分かっていないはずだ。
あの目は、何も見ていなかったから…。」
「そう、かもな。」
なまえは、誰も死なせない兵士になるためにいつもひとりで必死に戦っていた。
それでも壁外任務で犠牲が出てしまうと、兵舎に戻った後に自主練をして、どうすれば助けられたのかを必死に考えているようだった。
帰還直前、急に走り出したテュランとそれを止めようともしないなまえの後ろ姿が蘇る。
そして、絶望しそうなくらいの巨人の大群。
それを見つけた途端に飛び上がった小さな背中、そこに大きな翼が生えているように見えた。
巨人の血が舞い、彼女の姿を真っ赤に染めていく。
必死の形相で巨人のうなじを削ぎ大きな腹を割く彼女は、本の中だけに存在する悪魔のように身の毛もよだつほどに恐ろしく、頬を伝う巨人の赤い血は悪魔の涙のようでもの悲しくもあった。
白い蒸気がそんな彼女を包み込んで、とても幻想的に見えたのだ。
だから一緒に巨人と戦うという使命も忘れて、ハンジはただぼんやりと真っ赤に舞うなまえの姿を見上げていた。
それからすぐに追いついたゲルガー達が巨人の群れの中で呆然としているなまえを助けたけれど、心までは救えなかった。
誰にも、救えなかった。
巨人の群れを仲間のもとに連れてくるという大失態を起こした兵士達は全員、エルヴィンから盛大に叱られた。
そう、全員がエルヴィンのお叱りを受けることが出来た。誰も死ななかったのだ。
途中から討伐に参加した精鋭兵達は口を揃えて言った。
そもそも巨人の大群なんてなかった、そこにあったのは、大量の巨人の死体と数体の巨人、そして、勇敢な兵士だけだったと。
奇しくもあの日、誰も死なせない兵士への道にほんの少しだけれど光が差したのだ。
でも、なまえはそんなこと、知りもしないのだろう。
そして、自分が友人を殺したという呪いだけを胸に残して、一生苦しむのだろうか。
そうして、誰も死なせない兵士はこの先ずっと姿を消すのか。
なまえの退団が受理された。
もう二度と、彼女の勇士を見ることは叶わなくなった。
「弔い式を待って、なまえは兵団を去ることになった。
彼女にも伝えてきたよ。」
「そうか。」
ミケは短く返事をしたっきり、口を開かなかった。
壁外調査初日になまえが奇行種2体を同時に討伐しているのを偶然目にした彼もまた、彼女の技術に人類の希望を見たひとりだった。
リヴァイよりも筋力や体力は大幅に劣る。だが、技術だけを見れば、それは完全にリヴァイのコピーだったー、とその日の会議で珍しく熱く語っていたのが遠い昔のように思える。
なまえが持ち前の運動神経と動体視力でたった1人の兵士の真似をして巨人を討伐していたことを知ったあの日、ハンジが抱いた夢のような妄想。
それが、現実になろうとしていた矢先だったのだ。
悔しくてたまらない。
「なまえの様子はどうだった?」
「相変わらず、だよ。死んだような目で淡々と雑務をこなしてた。
退団の日が決まったと伝えたら、そうですか、と頷いただけ。」
「そう…。」
ナナバは僅かに目を伏せた。
組んだ腕の先で小刻みに動く指は、苛立ちを隠しきれていない。
どうしてこんなことになったのか。
自分達はどうにかしてこの事態を避けられなかったのか。
ずっと考えているけれど、答えなんて出るわけもなく。
いつだってこうなのだ。
何が悪かったのかを考えたところで、亡くなった命はもう二度と戻ってこない。
それでも考えずにはいられない、失った仲間達みんなで笑い合っていたはずの未来をー。
「どんな気持ちで、ルルの身体を探してたんだろうな…。
生きてることがつれぇアイツに、俺は何も言ってやれなかったよ。」
ドカリとソファに腰を下ろしたゲルガーは、投げ出した自分の足の先を見やる。
任務中に戦死した仲間の遺体だけでも連れて帰りたいという気持ちは、痛いほどに分かる。
帰還命令の直前、夜明け前にこっそりと抜け出した数名の兵士達が、巨大樹の森へ向かってしまった気持ちも分からなくもない。
あのとき、テュランが巨人の大群が拠点へ向かっていることに気づかなかったら、犠牲は免れなかっただろう。
「ルルの遺体をリヴァイが連れてきてることにも気づいてなかったくらいだから、
あれだけの巨人の大群に襲われて犠牲が全く出なかったことに
自分が大きく貢献してるってことにも気づいてないんだろうね。」
「それ以前の問題だよ、ナナバ。」
「どういうことだい?」
「なまえはあの日、犠牲が出なかったことすら分かっていないはずだ。
あの目は、何も見ていなかったから…。」
「そう、かもな。」
なまえは、誰も死なせない兵士になるためにいつもひとりで必死に戦っていた。
それでも壁外任務で犠牲が出てしまうと、兵舎に戻った後に自主練をして、どうすれば助けられたのかを必死に考えているようだった。
帰還直前、急に走り出したテュランとそれを止めようともしないなまえの後ろ姿が蘇る。
そして、絶望しそうなくらいの巨人の大群。
それを見つけた途端に飛び上がった小さな背中、そこに大きな翼が生えているように見えた。
巨人の血が舞い、彼女の姿を真っ赤に染めていく。
必死の形相で巨人のうなじを削ぎ大きな腹を割く彼女は、本の中だけに存在する悪魔のように身の毛もよだつほどに恐ろしく、頬を伝う巨人の赤い血は悪魔の涙のようでもの悲しくもあった。
白い蒸気がそんな彼女を包み込んで、とても幻想的に見えたのだ。
だから一緒に巨人と戦うという使命も忘れて、ハンジはただぼんやりと真っ赤に舞うなまえの姿を見上げていた。
それからすぐに追いついたゲルガー達が巨人の群れの中で呆然としているなまえを助けたけれど、心までは救えなかった。
誰にも、救えなかった。
巨人の群れを仲間のもとに連れてくるという大失態を起こした兵士達は全員、エルヴィンから盛大に叱られた。
そう、全員がエルヴィンのお叱りを受けることが出来た。誰も死ななかったのだ。
途中から討伐に参加した精鋭兵達は口を揃えて言った。
そもそも巨人の大群なんてなかった、そこにあったのは、大量の巨人の死体と数体の巨人、そして、勇敢な兵士だけだったと。
奇しくもあの日、誰も死なせない兵士への道にほんの少しだけれど光が差したのだ。
でも、なまえはそんなこと、知りもしないのだろう。
そして、自分が友人を殺したという呪いだけを胸に残して、一生苦しむのだろうか。
そうして、誰も死なせない兵士はこの先ずっと姿を消すのか。