◇第三十五話◇無情にも届かない手
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巨人達がルルを追いかけなかったことにホッとして、私は、リヴァイ兵長を待っていた時のように木の枝に足を投げ出して座った。
相変わらず、眼下の巨人は手を伸ばして私を見上げている。
どんなに手を伸ばしたって、木の上まで届かないのにー。
「なまえ!!」
リヴァイ兵長の怒鳴り声が聞こえたのは、ルルが飛んですぐだった。
その声に驚いて、私は顔を上げた。
きっと、ルルもその声に驚いたのだろう。
私に背を向けて飛んでいたはずのルルが、振り返っていた。
一瞬の出来事だったけれど、私に見えたのは驚いた顔でこちらを見ているルルと、そこから少し離れたところから猛スピードで飛んできているリヴァイ兵長の姿。
でも、そのどちらとも目が合うことはなかった。
だって、彼らは、私のさらに後ろを見ていたから。
「ひ…っ!!」
慌てて後ろを振り向いた私は、恐怖に顔をひきつらせた。
悲鳴も出なかった。
巨人は3体じゃなかった。
いつの間にか、木登りをしていた巨人が1体いたらしい。
7m級のソレは、ついに私のいる木の上までやってきていて、嬉しそうに気持ちの悪い口を開けていた。
逃げるために立ち上がる時間すら、私には残されていなかった。
巨人が、足をかけていた木を蹴って飛び掛かる。
食べられるー!
思わず目を瞑った私に聞こえたのは、ワイヤーが飛んできたときの風と、立体起動装置のガスの音。
入団テストのときのように、リヴァイ兵長が助けに来てくれたー。
私はそう思った。
そして、目を開けて、残酷な現実を目の当たりにする。
「ルルッ!!」
私の代わりに、巨人に咥えられているのはルルだった。
両目から血を流している巨人が、ルルの下半身を口に咥えたまま地上に落ちていく。
身体を咥えられる前に、ルルが巨人の目を切ったようだった。
落ちていくルルに、私は慌てて手を伸ばす。
ルルも必死に私に手を伸ばした。
このまま落ちたら、他の3体もきっとルルを襲いだす。それまでに彼女を救わなければー。
でも、あと少し届かなかった。
「ルルを離せぇぇぇえッ!!」
私は超硬質スチールを両手に持って、飛び降りた。
立体起動装置が壊れているからー、なんて言い訳している間にルルが食べられてしまう。
必死だった。
幸い、ルルを咥えている巨人の目は、ルル自身が切ってくれている。
私の姿が見えているのは3体だけ。
その巨人がルルの元へ辿り着くまでに、助け出す。必ずー!
「その汚い口を離せッ!!」
ルルを咥えている巨人の額に飛び降りた私は、その口の端を超硬質スチールで切り裂いた。
顎の筋肉を切られて口が開き、ルルの身体が自由になる。
だが、足の骨が折れてしまったのか自力では出られないようだった。
「ルルッ!すぐ出してあげるからっ!」
必死にルルの身体を引っ張り上げようとするのだが、目を切られ、口まで切られた巨人が暴れてなかなかうまく行かない。
「私を置いて逃げてっ!巨人が来てるっ!」
ルルが私の後ろを向いて叫んだ。
振り返る余裕もなければ、息遣いで巨人が近づいてきていることなんてとっくに気づいていた。
「だから早く逃げよう、一緒にっ!」
「お願い、逃げてっ!」
巨人の傷はすぐに塞がる。
早くしないと、巨人の目が見えてしまう。口の傷も塞がれば、またルルがー。
「おい、てめぇら、なんで巨人に飛び込んだ。バカ野郎が。」
ルルを巨人の口から必死に引っ張り出そうとする私と、自分を置いて逃げろと繰り返すルルの元へ、リヴァイ兵長が飛んできた。
「リヴァイ兵長、一緒にルルを引っ張ってください!!」
早く助けてあげてくれー。
願いを込めて言った。
だって、リヴァイ兵長は、ルルを助けに来てくれたのだと思ったから。
でもー。
「早くなまえを連れて逃げてくださいッ!
立体起動装置が壊れてるんです!」
「チッ、そういうことか…!」
リヴァイ兵長は、視線だけを左右に動かした。
3体の巨人は、手が触れる距離にまでやってきている。
急がないとー。
「すまない。」
リヴァイ兵長は、ルルを見ると、それだけ言って私を片腕で抱きかかえた。
巨人の口の中から、私達を見上げているルルすら、自分の運命を悟ったように頷いていてー。
「ありがとうございます。」
優しいその声は、心からホッとしているようだった。
優しいその微笑みを、私はどこかで見たことがある気がしたけれど、彼女の目の前まで迫っている死の恐怖で、頭が回らなかった。
どうして、そんな風に微笑むの。
ここからリヴァイ兵長が去ったら、もうルルは助からないのに。
死んでしまうのにー。
(いやだ…!そんなの、いやだ!)
ルルを諦めるなんて、出来ない。
残してなんて行けない。
私だけ逃げるなんて、そんなこと出来ない。したくない。
だって、ルルは私を助けようとしてー。
「いやですっ!リヴァイ兵長が助けてくれないなら、私がー。」
「掴まれ!」
ルルに手を伸ばす私を強引に抱きかかえ、リヴァイ兵長はアンカーを飛ばした。
ルルとは反対の方向へー。
「イヤ…っ!イヤッ!!ルルッ!!」
リヴァイ兵長の腕の中で、必死にもがいて、私は後ろを振り向く。
今なら、まだ間に合うはずだ。
だから、ルルに近づかないで。
でも、無情に、3体の巨人は嬉しそうに口を開いて、ルルの元へ辿り着いた。
大きな手が、ルルに触れる。
いやだ。いやだ、見たくない。
大切な友人の腕が巨人に引きちぎられてるところなんて、巨人にかじられてるところなんて。
早く、早く助けないとー。
「放してッ!放してよッ!!」
「暴れるな。お前を落としちまうじゃねーか。」
「じゃあ、落としてッ!!ルルを助けに行かなきゃッ!!」
「…アイツはもう無理だ。」
「勝手に…ッ、勝手に、ルルの命を諦めないでよ…ッ!」
リヴァイ兵長の腕の中で、私は必死にもがいた。暴れた。
ルルの命を、諦めたくない。
「なまえ!!!」
ルルが叫んだ。
ほら、ルルは生きてる。
まだ間に合う。
「ルル!!すぐ行くから!!助けるから!!」
リヴァイ兵長が体勢を崩してくれるように、そのまま私を落としてしまうように、私はより一層、暴れた。
早く、早くルルの元へ行かないと。
走っていけば、きっと間に合ー。
「なまえ!!いー。」
私の名前を呼んだルルの身体が、口の再生が終わった巨人に噛みちぎられた。
半分に折れたルルの身体を、集まってきた3体が好き放題引っ張る。
痛みと恐怖で彼女が上げた悲鳴が、彼女の断末魔が、巨大樹の森に、私の耳に響く。
これは、何ていう名前の地獄だろう。
彼女が一体、何をしたっていうのか。
彼女はただ、生きていただけだ。生きたかっただけなのにー。
「リヴァイ兵長…。」
「なんだ。」
「ルルが、死にました。」
「…そうか。」
それっきり、リヴァイ兵長も私も何も口にしなかった。
私は、見えなくなるまでずっと、捕食される親友を目に焼き付け続けていた。
相変わらず、眼下の巨人は手を伸ばして私を見上げている。
どんなに手を伸ばしたって、木の上まで届かないのにー。
「なまえ!!」
リヴァイ兵長の怒鳴り声が聞こえたのは、ルルが飛んですぐだった。
その声に驚いて、私は顔を上げた。
きっと、ルルもその声に驚いたのだろう。
私に背を向けて飛んでいたはずのルルが、振り返っていた。
一瞬の出来事だったけれど、私に見えたのは驚いた顔でこちらを見ているルルと、そこから少し離れたところから猛スピードで飛んできているリヴァイ兵長の姿。
でも、そのどちらとも目が合うことはなかった。
だって、彼らは、私のさらに後ろを見ていたから。
「ひ…っ!!」
慌てて後ろを振り向いた私は、恐怖に顔をひきつらせた。
悲鳴も出なかった。
巨人は3体じゃなかった。
いつの間にか、木登りをしていた巨人が1体いたらしい。
7m級のソレは、ついに私のいる木の上までやってきていて、嬉しそうに気持ちの悪い口を開けていた。
逃げるために立ち上がる時間すら、私には残されていなかった。
巨人が、足をかけていた木を蹴って飛び掛かる。
食べられるー!
思わず目を瞑った私に聞こえたのは、ワイヤーが飛んできたときの風と、立体起動装置のガスの音。
入団テストのときのように、リヴァイ兵長が助けに来てくれたー。
私はそう思った。
そして、目を開けて、残酷な現実を目の当たりにする。
「ルルッ!!」
私の代わりに、巨人に咥えられているのはルルだった。
両目から血を流している巨人が、ルルの下半身を口に咥えたまま地上に落ちていく。
身体を咥えられる前に、ルルが巨人の目を切ったようだった。
落ちていくルルに、私は慌てて手を伸ばす。
ルルも必死に私に手を伸ばした。
このまま落ちたら、他の3体もきっとルルを襲いだす。それまでに彼女を救わなければー。
でも、あと少し届かなかった。
「ルルを離せぇぇぇえッ!!」
私は超硬質スチールを両手に持って、飛び降りた。
立体起動装置が壊れているからー、なんて言い訳している間にルルが食べられてしまう。
必死だった。
幸い、ルルを咥えている巨人の目は、ルル自身が切ってくれている。
私の姿が見えているのは3体だけ。
その巨人がルルの元へ辿り着くまでに、助け出す。必ずー!
「その汚い口を離せッ!!」
ルルを咥えている巨人の額に飛び降りた私は、その口の端を超硬質スチールで切り裂いた。
顎の筋肉を切られて口が開き、ルルの身体が自由になる。
だが、足の骨が折れてしまったのか自力では出られないようだった。
「ルルッ!すぐ出してあげるからっ!」
必死にルルの身体を引っ張り上げようとするのだが、目を切られ、口まで切られた巨人が暴れてなかなかうまく行かない。
「私を置いて逃げてっ!巨人が来てるっ!」
ルルが私の後ろを向いて叫んだ。
振り返る余裕もなければ、息遣いで巨人が近づいてきていることなんてとっくに気づいていた。
「だから早く逃げよう、一緒にっ!」
「お願い、逃げてっ!」
巨人の傷はすぐに塞がる。
早くしないと、巨人の目が見えてしまう。口の傷も塞がれば、またルルがー。
「おい、てめぇら、なんで巨人に飛び込んだ。バカ野郎が。」
ルルを巨人の口から必死に引っ張り出そうとする私と、自分を置いて逃げろと繰り返すルルの元へ、リヴァイ兵長が飛んできた。
「リヴァイ兵長、一緒にルルを引っ張ってください!!」
早く助けてあげてくれー。
願いを込めて言った。
だって、リヴァイ兵長は、ルルを助けに来てくれたのだと思ったから。
でもー。
「早くなまえを連れて逃げてくださいッ!
立体起動装置が壊れてるんです!」
「チッ、そういうことか…!」
リヴァイ兵長は、視線だけを左右に動かした。
3体の巨人は、手が触れる距離にまでやってきている。
急がないとー。
「すまない。」
リヴァイ兵長は、ルルを見ると、それだけ言って私を片腕で抱きかかえた。
巨人の口の中から、私達を見上げているルルすら、自分の運命を悟ったように頷いていてー。
「ありがとうございます。」
優しいその声は、心からホッとしているようだった。
優しいその微笑みを、私はどこかで見たことがある気がしたけれど、彼女の目の前まで迫っている死の恐怖で、頭が回らなかった。
どうして、そんな風に微笑むの。
ここからリヴァイ兵長が去ったら、もうルルは助からないのに。
死んでしまうのにー。
(いやだ…!そんなの、いやだ!)
ルルを諦めるなんて、出来ない。
残してなんて行けない。
私だけ逃げるなんて、そんなこと出来ない。したくない。
だって、ルルは私を助けようとしてー。
「いやですっ!リヴァイ兵長が助けてくれないなら、私がー。」
「掴まれ!」
ルルに手を伸ばす私を強引に抱きかかえ、リヴァイ兵長はアンカーを飛ばした。
ルルとは反対の方向へー。
「イヤ…っ!イヤッ!!ルルッ!!」
リヴァイ兵長の腕の中で、必死にもがいて、私は後ろを振り向く。
今なら、まだ間に合うはずだ。
だから、ルルに近づかないで。
でも、無情に、3体の巨人は嬉しそうに口を開いて、ルルの元へ辿り着いた。
大きな手が、ルルに触れる。
いやだ。いやだ、見たくない。
大切な友人の腕が巨人に引きちぎられてるところなんて、巨人にかじられてるところなんて。
早く、早く助けないとー。
「放してッ!放してよッ!!」
「暴れるな。お前を落としちまうじゃねーか。」
「じゃあ、落としてッ!!ルルを助けに行かなきゃッ!!」
「…アイツはもう無理だ。」
「勝手に…ッ、勝手に、ルルの命を諦めないでよ…ッ!」
リヴァイ兵長の腕の中で、私は必死にもがいた。暴れた。
ルルの命を、諦めたくない。
「なまえ!!!」
ルルが叫んだ。
ほら、ルルは生きてる。
まだ間に合う。
「ルル!!すぐ行くから!!助けるから!!」
リヴァイ兵長が体勢を崩してくれるように、そのまま私を落としてしまうように、私はより一層、暴れた。
早く、早くルルの元へ行かないと。
走っていけば、きっと間に合ー。
「なまえ!!いー。」
私の名前を呼んだルルの身体が、口の再生が終わった巨人に噛みちぎられた。
半分に折れたルルの身体を、集まってきた3体が好き放題引っ張る。
痛みと恐怖で彼女が上げた悲鳴が、彼女の断末魔が、巨大樹の森に、私の耳に響く。
これは、何ていう名前の地獄だろう。
彼女が一体、何をしたっていうのか。
彼女はただ、生きていただけだ。生きたかっただけなのにー。
「リヴァイ兵長…。」
「なんだ。」
「ルルが、死にました。」
「…そうか。」
それっきり、リヴァイ兵長も私も何も口にしなかった。
私は、見えなくなるまでずっと、捕食される親友を目に焼き付け続けていた。