◇第三十三話◇酔っぱらいの願い
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壁外での朝は早い。
夜になって動きが鈍くなっていた巨人が、太陽と共に動き始めるからだ。
夜明け前の薄暗い時間には、準備を始めて出発しておく必要があるのだ。
でも、真夜中にお酒を呑んでいた私は、姿が見えない自分達をハンジさん達が探していることも知らずにぐっすりと眠って、幸せな夢を見ていた。
それは、いつもの幸せな夢と少しだけ違っていた。
地平線の向こうまで続く大きな湖が見える丘に建てられた家、そこで私は暮らしていた。
それは、木で出来た優しい温もりのある家で、あまり大きくはないけれど、私はとても好きだった。
空に昇る眩しい太陽の光が窓を覗くと、決して大きいとはいえないベッドで眠る私に朝を教えてくれる。
でも、眠り足りない私は、一緒に眠る誰かに抱き着いて『もうちょっと。』と甘える。
そうしたら、その誰かは、小さくため息をつきながらも私を優しく抱きしめ返してくれて、もう一度、眠りにー。
「起きろ。」
「んー…、もうちょっと。」
「死ぬほど聞いたんだが。
お前のちょっとはおれの知ってるそれとは違ぇらしい。」
「んー。」
そろそろ起きた方がいいのだろうか。
下の方から、誰かの話し声も聞こえてきているし、みんなも起き出したようだ。
(下…?でも、リヴァイ兵長の声は上から…。リヴァイ兵長?)
ゆっくり目を開こうとして、眩しい太陽の光に思わず目を瞑った。
ついでに、お気に入りの枕に抱き着いて、違和感を覚える。
なんか硬い。
それに、昨日から壁外調査に来ていて、枕なんて持ってきていない。
そもそもお気に入りの枕は、実家に置いてある。
嫌な予感がして、私はもう一度、そっと目を見開いた。
最初に見えたのは、見覚えのある白いスカーフだった。珍しく乱れているそれと兵団服のシャツ。
そこからゆっくりゆっくりと視線を上げていくとー。
「ようやく起きたか、この寝坊野郎が。」
「…あ。」
私を見下ろして睨みつけるリヴァイ兵長を見て、ようやく昨晩のことを思い出した。
リヴァイ兵長が持ってきたお酒をコンラートさん達と一緒に呑んでいたんだった。
途中から記憶がないけれど、どうやら眠ってしまっていたらしい。
「ひとつ、聞いていいですか…?」
「なんだ。」
「私…、リヴァイ兵長を襲いました?」
私は、リヴァイ兵長を抱きしめて眠っていたようだった。
リヴァイ兵長の腕も私の腰に回って、抱きしめている。
寒さをしのぐためだと思われる緑のマントが、ふたりの上に心許なげにかかっているが、あまり役に立ったとは思えない。
たぶん、私はリヴァイ兵長の腕の中で風から守られていたんだと思う。
「逆だとは思わねぇのか。」
「あ…、思いつきませんでした。」
不憫そうな瞳で見下ろされて、無性に切なくなる。
これが現実なら、どう考えても、襲うのは自分だとしか思えない。
だが、リヴァイ兵長が腕を離しながら教えてくれた現実はもっと残酷だった。
寝ながら寒い寒いとうるさい私を大聖堂の中に連れて行こうとしても頑なとしてコンラートさん達と寝ると譲らず、挙句の果てには、リヴァイ兵長に抱き着いて暖を取り始めたそうだ。
そして、風から自分を守ってくれとリヴァイ兵長に抱きしめることも強要したことが、目覚めたときの状況に繋がったらしい。
身体を離したリヴァイ兵長は、立ち上がると足元に転がっていた酒の瓶を拾い始めた。
その姿を眺めながら、寝起きでボーっとする頭で、私は最後の記憶をよみがえらせていた。
それは、夢みたいな出来事で、現実なのか夢なのかハッキリしない。
私はそっと自分の唇に触れた。
「あの…。」
「なんだ。」
「夢、かもしれないんですけど、
昨日の夜、私にキス、しました…?」
訊ねてから、後悔した。
最後に残った瓶を拾おうとしていたリヴァイ兵長は手を止め、目を見開いていて、明らかに驚いている。
バカだ。
そんなの夢に決まってるのに。
私の願望が見せた、ただの夢に決まってるのに。
「さぁな。酔ってて覚えてねぇな。
お前が夢だと思うなら、そうなんじゃねぇのか。」
どうやって誤魔化そうかと思案してる間に、リヴァイ兵長はそう言って、最後の瓶を拾い上げた。
「そう…、ですか。きっと、私の夢ですね。
ごめんなさい。変なこと言って。」
私は頬をかいて、笑って誤魔化した。
恥ずかしさで死にそうで、顔は見られなかった。
「おれが先に行く。お前は少ししてから来い。」
「…はい。」
2人で時計台から降りてきたら、面倒なことになるからだと分かっている。
変な勘繰りをされても困るし、勘違いされたくないのだと言うことも分かる。
でも、去っていこうとするリヴァイ兵長の背中に拒絶されたみたいで、ショックだった。
「どうせ、昨日の夜に自分が何を言ったかも覚えてねぇんだろ。」
歩き出そうとした足を止めて、リヴァイ兵長が振り向いた。
いつもと変わらない切れ長の瞳。
突然、そんなことを言いだした真意は、私には分からない。
責めるような口調だったけれど、怒っている風でもない。
ただどこか、諦めたような投げやりな言い方だった。
「…私、失礼なこと言いましたか?」
不安になって訊ねた私に、リヴァイ兵長は首をすくめた。
「教えといてやる。
おれは惚れてもねぇ女には手を出さねぇ。
酔っぱらってても、それくらいの分別はつく。」
リヴァイ兵長はそれだけ言って、時計台から下りて行った。
取り残された時計台で、私はリヴァイ兵長が残した言葉の意味をひたすら考えていた。
リヴァイ兵長への恋は諦めると決めた心が、私に甘い願いを伝えてくる。
必死に抗おうとする恋心に胸が苦しくなった。
夜になって動きが鈍くなっていた巨人が、太陽と共に動き始めるからだ。
夜明け前の薄暗い時間には、準備を始めて出発しておく必要があるのだ。
でも、真夜中にお酒を呑んでいた私は、姿が見えない自分達をハンジさん達が探していることも知らずにぐっすりと眠って、幸せな夢を見ていた。
それは、いつもの幸せな夢と少しだけ違っていた。
地平線の向こうまで続く大きな湖が見える丘に建てられた家、そこで私は暮らしていた。
それは、木で出来た優しい温もりのある家で、あまり大きくはないけれど、私はとても好きだった。
空に昇る眩しい太陽の光が窓を覗くと、決して大きいとはいえないベッドで眠る私に朝を教えてくれる。
でも、眠り足りない私は、一緒に眠る誰かに抱き着いて『もうちょっと。』と甘える。
そうしたら、その誰かは、小さくため息をつきながらも私を優しく抱きしめ返してくれて、もう一度、眠りにー。
「起きろ。」
「んー…、もうちょっと。」
「死ぬほど聞いたんだが。
お前のちょっとはおれの知ってるそれとは違ぇらしい。」
「んー。」
そろそろ起きた方がいいのだろうか。
下の方から、誰かの話し声も聞こえてきているし、みんなも起き出したようだ。
(下…?でも、リヴァイ兵長の声は上から…。リヴァイ兵長?)
ゆっくり目を開こうとして、眩しい太陽の光に思わず目を瞑った。
ついでに、お気に入りの枕に抱き着いて、違和感を覚える。
なんか硬い。
それに、昨日から壁外調査に来ていて、枕なんて持ってきていない。
そもそもお気に入りの枕は、実家に置いてある。
嫌な予感がして、私はもう一度、そっと目を見開いた。
最初に見えたのは、見覚えのある白いスカーフだった。珍しく乱れているそれと兵団服のシャツ。
そこからゆっくりゆっくりと視線を上げていくとー。
「ようやく起きたか、この寝坊野郎が。」
「…あ。」
私を見下ろして睨みつけるリヴァイ兵長を見て、ようやく昨晩のことを思い出した。
リヴァイ兵長が持ってきたお酒をコンラートさん達と一緒に呑んでいたんだった。
途中から記憶がないけれど、どうやら眠ってしまっていたらしい。
「ひとつ、聞いていいですか…?」
「なんだ。」
「私…、リヴァイ兵長を襲いました?」
私は、リヴァイ兵長を抱きしめて眠っていたようだった。
リヴァイ兵長の腕も私の腰に回って、抱きしめている。
寒さをしのぐためだと思われる緑のマントが、ふたりの上に心許なげにかかっているが、あまり役に立ったとは思えない。
たぶん、私はリヴァイ兵長の腕の中で風から守られていたんだと思う。
「逆だとは思わねぇのか。」
「あ…、思いつきませんでした。」
不憫そうな瞳で見下ろされて、無性に切なくなる。
これが現実なら、どう考えても、襲うのは自分だとしか思えない。
だが、リヴァイ兵長が腕を離しながら教えてくれた現実はもっと残酷だった。
寝ながら寒い寒いとうるさい私を大聖堂の中に連れて行こうとしても頑なとしてコンラートさん達と寝ると譲らず、挙句の果てには、リヴァイ兵長に抱き着いて暖を取り始めたそうだ。
そして、風から自分を守ってくれとリヴァイ兵長に抱きしめることも強要したことが、目覚めたときの状況に繋がったらしい。
身体を離したリヴァイ兵長は、立ち上がると足元に転がっていた酒の瓶を拾い始めた。
その姿を眺めながら、寝起きでボーっとする頭で、私は最後の記憶をよみがえらせていた。
それは、夢みたいな出来事で、現実なのか夢なのかハッキリしない。
私はそっと自分の唇に触れた。
「あの…。」
「なんだ。」
「夢、かもしれないんですけど、
昨日の夜、私にキス、しました…?」
訊ねてから、後悔した。
最後に残った瓶を拾おうとしていたリヴァイ兵長は手を止め、目を見開いていて、明らかに驚いている。
バカだ。
そんなの夢に決まってるのに。
私の願望が見せた、ただの夢に決まってるのに。
「さぁな。酔ってて覚えてねぇな。
お前が夢だと思うなら、そうなんじゃねぇのか。」
どうやって誤魔化そうかと思案してる間に、リヴァイ兵長はそう言って、最後の瓶を拾い上げた。
「そう…、ですか。きっと、私の夢ですね。
ごめんなさい。変なこと言って。」
私は頬をかいて、笑って誤魔化した。
恥ずかしさで死にそうで、顔は見られなかった。
「おれが先に行く。お前は少ししてから来い。」
「…はい。」
2人で時計台から降りてきたら、面倒なことになるからだと分かっている。
変な勘繰りをされても困るし、勘違いされたくないのだと言うことも分かる。
でも、去っていこうとするリヴァイ兵長の背中に拒絶されたみたいで、ショックだった。
「どうせ、昨日の夜に自分が何を言ったかも覚えてねぇんだろ。」
歩き出そうとした足を止めて、リヴァイ兵長が振り向いた。
いつもと変わらない切れ長の瞳。
突然、そんなことを言いだした真意は、私には分からない。
責めるような口調だったけれど、怒っている風でもない。
ただどこか、諦めたような投げやりな言い方だった。
「…私、失礼なこと言いましたか?」
不安になって訊ねた私に、リヴァイ兵長は首をすくめた。
「教えといてやる。
おれは惚れてもねぇ女には手を出さねぇ。
酔っぱらってても、それくらいの分別はつく。」
リヴァイ兵長はそれだけ言って、時計台から下りて行った。
取り残された時計台で、私はリヴァイ兵長が残した言葉の意味をひたすら考えていた。
リヴァイ兵長への恋は諦めると決めた心が、私に甘い願いを伝えてくる。
必死に抗おうとする恋心に胸が苦しくなった。