◇第三十一話◇壁外調査初日の洗礼
Name change
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
私が所属するハンジ班が配置されたのは、三列の中央。
荷馬車護衛班の前方に位置し、比較的安全な配置だった。
長距離索敵陣形は頭に叩き込んだ。
今のところ、何度か進路の変更はあったものの、奇行種や危険を知らせる煙弾は確認されていない。
ここまで見えていないだけかもしれないが、運よく奇行種との遭遇を避けられていると思いたい。
「ようやく顔がしっかりしてきたね。」
ハンジさんはチラリと私を見ると、また前を向いた。
「勝手な行動をとってすみませんでした。
おかげで、震えも止まりました。」
「ビックリはしたけどね。最初はみんな巨人よりも恐怖との戦いだ。
それに勝ってくれたんなら、なんだっていいよ。」
「はいっ、もう大丈夫ですっ!」
「うん、頼もしい!」
ハンジさんが満足気に口の端を上げた。
私は自分の握る手綱を見下ろす。
もう手は震えていない。
でも、胸が躍るように震えていた。
ここは壁の外だけれど、元壁の中でもある。
それでも、なんだか空気が澄んでいるように感じるのは、人間同士の欺瞞の匂いがしないからだろうか。
我が先にと利益を求めるばかり、人の不幸を喜ぶような生き物がいないからかもしれない。
これがウォール・マリアの壁の外の世界なら、もっと空気がきれいなのだろうか。
見てみたい。行ってみたい。
人間が足を踏み入れることを許されない世界。
そこにいるのはー。
「奇行種か。」
モブリットさんが、左前方を見て呟く。
たった今上がった煙弾の色は、黒。奇行種が現れたことを知らせるための煙弾だ。
あの煙弾の下で、誰かが巨人と戦っている。
「なまえ、ダメだよ。」
ルルの方を見ると、心配そうに私を見ていた。
今すぐにでもあの煙弾の元へ行こうとする私の心とテュランに気づいたようだ。
ここで隊列を崩すのは良くないことは分かっている。
でもー。
「大丈夫、あのあたりならナナバとゲルガーがいるはずだから。」
モブリットさんの優しい声色を聞いて、ようやく焦っていた心が落ち着きを取り戻す。
そうだ。ナナバさんとゲルガーさんがいるなら、きっと大丈夫。
彼らなら大丈夫ーそう信じるしかないのだ。
「はいっ。」
前を向いた私に、ハンジさん達もホッとしたようだった。
それからしばらくは、何度かの黒や赤の煙弾によって進路変更を余儀なくされたものの、作戦はほぼ予定通り進んでいるようだった。
「あれは…!」
ハンジさんが、マズいという顔をした。
煙弾が上がったのは右前方。
しかも、色は赤でも黒でもなく、紫。
緊急事態を示す煙弾だ。その直後、同じ場所から今度は黄色の煙弾が上がった。
「黄色って…!」
「作戦遂行不能、右翼前方が潰れたか。」
ハンジさんが難しい顔をして言う。
もう黙ってはいられなかった。
「離脱します!!」
テュランのお腹を蹴ると、勢いよく右前方に駆け出した。
気持ちは同じだと思いたい。
後ろから、私の名前を呼ぶ班員の声はしたけれど、意外とハンジさんの声はしなかった。
「なまえ!!…私も行きます。なまえは私に任せてください。」
「頼んだよ、ルル。なまえは私の希望なんだ。」
「はいっ!」
ルルが私を追いかける前に、交わされた会話を私は知らない。
でも、追いついた彼女に気づき、危険だから戻るように咎めようとした私に、共犯だと口の端を上げた彼女の覚悟ならすぐに理解できた。
「よし、一緒に行こう!手伝ってっ‼」
「もちろんっ!」
私達は、黄色の煙弾が上がった方向へと最高速度で馬を走らせた。
その先には巨人がいるのに、黄色の煙弾に近づけば近づくほどどんどん力が湧いてきて、恐怖が消えていくのが不思議だった。
きっと、私たちが近づいて行っているのは、恐ろしい巨人ではなくて、仲間の明日の命だと信じていたからだろう。
「分隊長、いいんですか?行かせてしまって。」
「あっちはミケも近くにいるから大丈夫だよ。」
「でも…!2人はまだ経験が浅いですっ!想定外に対応できるとは思えません。」
「死ぬような訓練をなまえは越えてきたんだ。誰も死なせない兵士になるためにね。」
「そんな…‼無理です、そんなの!」
「家族のために嫌々なった調査兵で、なまえが見つけた意味を誰にも奪えないよ。
それに、私は、ルルの覚悟も知ってる。
ここであの娘達を止めたら、命を亡くす前に兵士として死んでしまう。」
「…分かりました。あなたと2人を信じましょう。」
「そうだね、信じよう。」
ハンジ班は、2人の背中が消えた右前方を見送った後、前を向いて走り続けていた。
荷馬車護衛班の前方に位置し、比較的安全な配置だった。
長距離索敵陣形は頭に叩き込んだ。
今のところ、何度か進路の変更はあったものの、奇行種や危険を知らせる煙弾は確認されていない。
ここまで見えていないだけかもしれないが、運よく奇行種との遭遇を避けられていると思いたい。
「ようやく顔がしっかりしてきたね。」
ハンジさんはチラリと私を見ると、また前を向いた。
「勝手な行動をとってすみませんでした。
おかげで、震えも止まりました。」
「ビックリはしたけどね。最初はみんな巨人よりも恐怖との戦いだ。
それに勝ってくれたんなら、なんだっていいよ。」
「はいっ、もう大丈夫ですっ!」
「うん、頼もしい!」
ハンジさんが満足気に口の端を上げた。
私は自分の握る手綱を見下ろす。
もう手は震えていない。
でも、胸が躍るように震えていた。
ここは壁の外だけれど、元壁の中でもある。
それでも、なんだか空気が澄んでいるように感じるのは、人間同士の欺瞞の匂いがしないからだろうか。
我が先にと利益を求めるばかり、人の不幸を喜ぶような生き物がいないからかもしれない。
これがウォール・マリアの壁の外の世界なら、もっと空気がきれいなのだろうか。
見てみたい。行ってみたい。
人間が足を踏み入れることを許されない世界。
そこにいるのはー。
「奇行種か。」
モブリットさんが、左前方を見て呟く。
たった今上がった煙弾の色は、黒。奇行種が現れたことを知らせるための煙弾だ。
あの煙弾の下で、誰かが巨人と戦っている。
「なまえ、ダメだよ。」
ルルの方を見ると、心配そうに私を見ていた。
今すぐにでもあの煙弾の元へ行こうとする私の心とテュランに気づいたようだ。
ここで隊列を崩すのは良くないことは分かっている。
でもー。
「大丈夫、あのあたりならナナバとゲルガーがいるはずだから。」
モブリットさんの優しい声色を聞いて、ようやく焦っていた心が落ち着きを取り戻す。
そうだ。ナナバさんとゲルガーさんがいるなら、きっと大丈夫。
彼らなら大丈夫ーそう信じるしかないのだ。
「はいっ。」
前を向いた私に、ハンジさん達もホッとしたようだった。
それからしばらくは、何度かの黒や赤の煙弾によって進路変更を余儀なくされたものの、作戦はほぼ予定通り進んでいるようだった。
「あれは…!」
ハンジさんが、マズいという顔をした。
煙弾が上がったのは右前方。
しかも、色は赤でも黒でもなく、紫。
緊急事態を示す煙弾だ。その直後、同じ場所から今度は黄色の煙弾が上がった。
「黄色って…!」
「作戦遂行不能、右翼前方が潰れたか。」
ハンジさんが難しい顔をして言う。
もう黙ってはいられなかった。
「離脱します!!」
テュランのお腹を蹴ると、勢いよく右前方に駆け出した。
気持ちは同じだと思いたい。
後ろから、私の名前を呼ぶ班員の声はしたけれど、意外とハンジさんの声はしなかった。
「なまえ!!…私も行きます。なまえは私に任せてください。」
「頼んだよ、ルル。なまえは私の希望なんだ。」
「はいっ!」
ルルが私を追いかける前に、交わされた会話を私は知らない。
でも、追いついた彼女に気づき、危険だから戻るように咎めようとした私に、共犯だと口の端を上げた彼女の覚悟ならすぐに理解できた。
「よし、一緒に行こう!手伝ってっ‼」
「もちろんっ!」
私達は、黄色の煙弾が上がった方向へと最高速度で馬を走らせた。
その先には巨人がいるのに、黄色の煙弾に近づけば近づくほどどんどん力が湧いてきて、恐怖が消えていくのが不思議だった。
きっと、私たちが近づいて行っているのは、恐ろしい巨人ではなくて、仲間の明日の命だと信じていたからだろう。
「分隊長、いいんですか?行かせてしまって。」
「あっちはミケも近くにいるから大丈夫だよ。」
「でも…!2人はまだ経験が浅いですっ!想定外に対応できるとは思えません。」
「死ぬような訓練をなまえは越えてきたんだ。誰も死なせない兵士になるためにね。」
「そんな…‼無理です、そんなの!」
「家族のために嫌々なった調査兵で、なまえが見つけた意味を誰にも奪えないよ。
それに、私は、ルルの覚悟も知ってる。
ここであの娘達を止めたら、命を亡くす前に兵士として死んでしまう。」
「…分かりました。あなたと2人を信じましょう。」
「そうだね、信じよう。」
ハンジ班は、2人の背中が消えた右前方を見送った後、前を向いて走り続けていた。