◇第一話◇1000年後の世界を夢見る
Name change
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
851年——————。
この日、調査兵団の壁外調査隊一向は、壁内人類として初めて、海を渡った。
数年前のシガンシナ区での決戦やそれ以前の巨人襲来等により、多くの同胞を失った調査兵団ではあったが、残った兵士と新たに加わった新兵も合わせ、現在では100名にまで増えている。
その為、敵情視察の意味も含めた今回の航海は、団長のエルヴィンと兵士長のリヴァイ、分隊長のハンジを始めとして、少数精鋭のみということになった。
好奇心旺盛な調査兵達が、彼らと共に航海をしたいと望む中、運よく船に乗せて貰えたのが、9つの巨人のひとつである『進撃の巨人』を思いがけず父親から継承したことで、巨人化を操るエレン、そして、彼と同期の104期のメンバーだ。
今回、初めてマーレの地を踏むのは、団長を含めた幹部代表の3人と選ばれし彼らだけということになった。
敵国である彼らを母国へと招いたのは、イェレナやオニャンコポンといった反マーレ派の義勇兵だ。
憎むべき存在だと教えられてきたパラディ島へとやって来て、マーレの情報をエルディア人であるエルヴィン達に流しては、最新技術を提供するなどして助力し続けてくれている。
エルヴィンはまだ完全に信用してはいないようではあるが、今のところは、エルディア人の味方として、調査兵団の兵士達にも受け入れられている。
「ったく、本当に恥ずかしい奴らだ。」
ジャンは、頭を抱えてため息を吐く。
その向こうで『奴ら』と一括りにされたサシャとコニーは、〝アイス〟という冷たく甘い食べ物の移動販売車の周りで大騒ぎしている。
まさか、パラディ島から来たエルディア人だとは誰も思わないだろうが、遠い場所から来た田舎者だとは感じているだろう。
イェレナ達だけではなく、エルヴィンからも、目立たないように気を付けるように言われている。
リヴァイに〝奇行種〟呼ばわりされるあのハンジでさえ、おとなしくマーレの市場を偵察———、ではなくて、観光しているというのに。
「ったく。」
もう一度ため息を吐き、ジャンは首の後ろを掻きながら、マーレの市場を改めて見渡した。
活気に満ちた市場だ。
たくさんの人達が行き交っている。
そこでは、自分達が生きていた暮らしづらい鳥籠とはかけ離れた穏やかな日常が、それがまるで、当然自分達に与えられた権利であるかのように繰り広げられている。
事前にイェレナ達からマーレの様子や発達について話を聞いていたとはいえ、見たことのない食べ物や乗り物ばかりの世界には、サシャやコニー達と同じく、ジャンも圧倒されていた。
まるで時空を超えて未来へ飛んできたような感覚だ。
市場に案内された途端に、エルヴィンでさえも好奇心旺盛に買い物を始めたくらいだから、まだガキに毛が生えた程度の104期のメンバーと奇行種ならば尚更なのかもしれない。
マーレの市場を見渡していたジャンは、視界の中に見覚えのある背中を見つけた。
大きな背広に着せられたような華奢な後ろ姿は、パラディ島が誇る人類最強の兵士、リヴァイのものだった。
「エルヴィン団長達と一緒じゃないんですか。」
彼の元へ行き声をかけたジャンだったが、返事はなかった。
どうやら、無視をしたわけではなく、気づかなかったようだ。
リヴァイは、市場の真ん中に立って、何処かをじっと見ていた。
何を見ているのだろう———気になって、ジャンもその視線の先を追いかける。
「あ。」
凄く驚いた。
そして、それと同じくらいに、リヴァイが見ていたものが意外過ぎた。
それは、女性だったのだ。思わず息を飲むほどに、綺麗な人だ。
大勢の人が行き交う中で、リヴァイが見ているのがどうして彼女だと確信できたのか。
それはきっと、少し離れた先にある歩道に立っているだけの彼女が、人の目を奪うオーラを放っていたからだろう。
それに、マーレの人達は、人種は違うと言えど、エルディア人のリヴァイ達と容姿はそれほど変わりはないようだったが、彼女の吸い込まれそうなほどに深い色をした大きな瞳と、艶のある黒髪は、マーレ人ともエルディア人とも違って見えた。
彼女のそばを通り過ぎていく誰もが、少なくとも一度は振り返り見惚れていく。
良いか悪いかは分からないが、それはきっと、彼女が持って生まれた運命のようなものなのだろう。
今までも、これからも、彼女はこうやって、あらゆる人達の目に晒されながら生きていくのだと、漠然とそう感じたのだ。
活気溢れる市場で、彼女だけが違う時空を生きているように見えたのは、きっと、彼女だけが、たくさんの店や人達に全く興味を示さなかったせいだろう。
彼女はただひとりで、歩道の端に立っているだけだった。
何をしているのだろう———そんなジャンの疑問は、すぐに解決される。
彼女の目の前に〝車〟という乗り物が止まったのだ。
この世界へ来てまだ数時間程度のジャンは、〝車〟をまだ数台しか見たことがない。
それでも、彼女の目の前に止まった黒塗りのそれが高級車だということが分かる。
運転手の男が車から降りてきて助手席の扉を開けると、彼女が車に乗り込んだ。
車は颯爽と走り去っていく。
「綺麗な人でしたね。」
ジャンの素直な感想に、リヴァイが顔を上げる。
そこでようやく、ジャンの存在に気づいたようだった。
そして、数秒間を開けてから、口を開く。
「興味ねぇ。」
リヴァイは素っ気なくそれだけ言うと、未来の世界のような街の中へと消えていった。
女性を綺麗だと褒めることを照れたとか、誤魔化されたような感じではなかった。
本当に、ただ素直に、彼女に女性として興味がなかったというように聞こえたのだ。
空気を読むことも得意なら、人のこともよく見ているジャンは、自分が感じたそれに間違いはない自信があった。
それなら、リヴァイは一体、彼女の何が気になって、何を見ていたのだろう。
確かに、彼の視線は、彼女へと向いていたはずなのに———。
この日、調査兵団の壁外調査隊一向は、壁内人類として初めて、海を渡った。
数年前のシガンシナ区での決戦やそれ以前の巨人襲来等により、多くの同胞を失った調査兵団ではあったが、残った兵士と新たに加わった新兵も合わせ、現在では100名にまで増えている。
その為、敵情視察の意味も含めた今回の航海は、団長のエルヴィンと兵士長のリヴァイ、分隊長のハンジを始めとして、少数精鋭のみということになった。
好奇心旺盛な調査兵達が、彼らと共に航海をしたいと望む中、運よく船に乗せて貰えたのが、9つの巨人のひとつである『進撃の巨人』を思いがけず父親から継承したことで、巨人化を操るエレン、そして、彼と同期の104期のメンバーだ。
今回、初めてマーレの地を踏むのは、団長を含めた幹部代表の3人と選ばれし彼らだけということになった。
敵国である彼らを母国へと招いたのは、イェレナやオニャンコポンといった反マーレ派の義勇兵だ。
憎むべき存在だと教えられてきたパラディ島へとやって来て、マーレの情報をエルディア人であるエルヴィン達に流しては、最新技術を提供するなどして助力し続けてくれている。
エルヴィンはまだ完全に信用してはいないようではあるが、今のところは、エルディア人の味方として、調査兵団の兵士達にも受け入れられている。
「ったく、本当に恥ずかしい奴らだ。」
ジャンは、頭を抱えてため息を吐く。
その向こうで『奴ら』と一括りにされたサシャとコニーは、〝アイス〟という冷たく甘い食べ物の移動販売車の周りで大騒ぎしている。
まさか、パラディ島から来たエルディア人だとは誰も思わないだろうが、遠い場所から来た田舎者だとは感じているだろう。
イェレナ達だけではなく、エルヴィンからも、目立たないように気を付けるように言われている。
リヴァイに〝奇行種〟呼ばわりされるあのハンジでさえ、おとなしくマーレの市場を偵察———、ではなくて、観光しているというのに。
「ったく。」
もう一度ため息を吐き、ジャンは首の後ろを掻きながら、マーレの市場を改めて見渡した。
活気に満ちた市場だ。
たくさんの人達が行き交っている。
そこでは、自分達が生きていた暮らしづらい鳥籠とはかけ離れた穏やかな日常が、それがまるで、当然自分達に与えられた権利であるかのように繰り広げられている。
事前にイェレナ達からマーレの様子や発達について話を聞いていたとはいえ、見たことのない食べ物や乗り物ばかりの世界には、サシャやコニー達と同じく、ジャンも圧倒されていた。
まるで時空を超えて未来へ飛んできたような感覚だ。
市場に案内された途端に、エルヴィンでさえも好奇心旺盛に買い物を始めたくらいだから、まだガキに毛が生えた程度の104期のメンバーと奇行種ならば尚更なのかもしれない。
マーレの市場を見渡していたジャンは、視界の中に見覚えのある背中を見つけた。
大きな背広に着せられたような華奢な後ろ姿は、パラディ島が誇る人類最強の兵士、リヴァイのものだった。
「エルヴィン団長達と一緒じゃないんですか。」
彼の元へ行き声をかけたジャンだったが、返事はなかった。
どうやら、無視をしたわけではなく、気づかなかったようだ。
リヴァイは、市場の真ん中に立って、何処かをじっと見ていた。
何を見ているのだろう———気になって、ジャンもその視線の先を追いかける。
「あ。」
凄く驚いた。
そして、それと同じくらいに、リヴァイが見ていたものが意外過ぎた。
それは、女性だったのだ。思わず息を飲むほどに、綺麗な人だ。
大勢の人が行き交う中で、リヴァイが見ているのがどうして彼女だと確信できたのか。
それはきっと、少し離れた先にある歩道に立っているだけの彼女が、人の目を奪うオーラを放っていたからだろう。
それに、マーレの人達は、人種は違うと言えど、エルディア人のリヴァイ達と容姿はそれほど変わりはないようだったが、彼女の吸い込まれそうなほどに深い色をした大きな瞳と、艶のある黒髪は、マーレ人ともエルディア人とも違って見えた。
彼女のそばを通り過ぎていく誰もが、少なくとも一度は振り返り見惚れていく。
良いか悪いかは分からないが、それはきっと、彼女が持って生まれた運命のようなものなのだろう。
今までも、これからも、彼女はこうやって、あらゆる人達の目に晒されながら生きていくのだと、漠然とそう感じたのだ。
活気溢れる市場で、彼女だけが違う時空を生きているように見えたのは、きっと、彼女だけが、たくさんの店や人達に全く興味を示さなかったせいだろう。
彼女はただひとりで、歩道の端に立っているだけだった。
何をしているのだろう———そんなジャンの疑問は、すぐに解決される。
彼女の目の前に〝車〟という乗り物が止まったのだ。
この世界へ来てまだ数時間程度のジャンは、〝車〟をまだ数台しか見たことがない。
それでも、彼女の目の前に止まった黒塗りのそれが高級車だということが分かる。
運転手の男が車から降りてきて助手席の扉を開けると、彼女が車に乗り込んだ。
車は颯爽と走り去っていく。
「綺麗な人でしたね。」
ジャンの素直な感想に、リヴァイが顔を上げる。
そこでようやく、ジャンの存在に気づいたようだった。
そして、数秒間を開けてから、口を開く。
「興味ねぇ。」
リヴァイは素っ気なくそれだけ言うと、未来の世界のような街の中へと消えていった。
女性を綺麗だと褒めることを照れたとか、誤魔化されたような感じではなかった。
本当に、ただ素直に、彼女に女性として興味がなかったというように聞こえたのだ。
空気を読むことも得意なら、人のこともよく見ているジャンは、自分が感じたそれに間違いはない自信があった。
それなら、リヴァイは一体、彼女の何が気になって、何を見ていたのだろう。
確かに、彼の視線は、彼女へと向いていたはずなのに———。