会議室を出た俺は、窓を叩きつける雨の音に気づいた。
ついに降り出してしまったらしい。
窓の向こうを睨みつけながら、ハンジがさっきなまえを探していたのを思い出す。
まだ駐屯兵団施設から帰ってきていないようだった。
今朝は晴れていたからきっと傘は持っていないだろう。この土砂降りの雨では、傘がないと帰ってこられない。

(仕方ねぇ。持って行ってやるか。)

兵舎の外へ向かうために廊下を歩きながら、わざわざ心の中で、まるで言い訳のように、それを言葉にした。
以前も似たようなことがあった。
あのときは、思いがけずなまえの気持ちを知ってしまって避けていたから、自分から届けることは出来なかった。
でも、今は違う。
なまえは上司と部下でいいと、言ってくれたからー。
ズキンと痛んだ胸をかきむしるように、シャツの胸元を握りしめる。
こんな関係、間違っていると分かっている。
それはきっとなまえも気づき始めている。
だから、最近少しよそよそしいのは、そういうことなのだろう。
それが寂しいなんて、勝手なことは言えない。
一体、どうすればいいというのだろう。
なまえの気持ちを受け止めてもきっと、互いに傷つく未来があるだけなのにー。
傘を2本持ちだして、兵舎の外へ出た。
この土砂降りの雨の中、数名の新兵達が明日の訓練の準備のために出していた道具をせっせと片付けていた。
どうしてここで、あの男を見つけてしまうのだろうと自分を恨んだ。
このまま、なまえを迎えに行きたかった。彼女を混乱させてもー。

「おい、クソガキ。なまえがまだ駐屯兵団施設から帰ってねぇ。
　これ持って迎えに行ってやれ。」

声をかけると、ジャンはひどく驚いていた。
前に傘を持っていくようにお願いしたのも、ジャンだった。
運命なんてものは信じていないけれど、どちらにしろ俺となまえには縁なんかないということなのだろう。
少なくとも、ジャンよりはないのだ、きっと。

「…分かりました。」

一度、何かを言いかけたジャンだったけれど、傘を受け取った。
なまえを迎えに行くジャンの背中を見たくなくて、俺はすぐに兵舎に戻った。