◇第十話◇パラディ島の景色
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髪が乱れるのを嫌ったなまえの為に、調査兵団一行の馬団は、風を切りすぎないように慎重にゆっくりと進んでいた。
『飛行艇か、せめて車を用意しなさい。嫌よ、こんなの。獣臭いわ。』
そんなお嬢様の率直な感想により、下船後の調査兵達の最初の仕事は、積んだばかりの荷馬車の荷解きだった。
彼らは、長旅と、お嬢様からの我儘な要求が続いたことによる精神的な疲れを引きずる重たい身体に鞭を打ち、荷台から降ろした荷物を、今度は別の荷馬車の荷台へ積み重ねていった。
そうして、なんとか空けた荷台に、自分達が持参したブランケットやコートをカーペット代わりに敷き詰め、なまえの為に即席で作った客車が完成する。
それさえも「汗臭い。」「田舎臭い。」「貧乏くさい。」やら、果てには「なんか臭い。」と理由も何もない文句を言われたものの、エルヴィンとハンジでなんとかなまえをなだめて、荷台に乗ってもらうことに成功した。
『文句があるなら乗らなくていいですよ。』
104期の調査兵達は、何度そう言って、なまえを置き去りにして帰ってやりたいと、思ったか分からない。
だが、彼らももう無鉄砲で無責任な子供ではない。
マーレの重要な協力者の一人娘を無下にするわけにいかないことも、残念ながら理解していた。
そして今、調査兵団の兵舎に戻ってまであの我儘姫と一緒にはいたくない、という彼らの心の奥の願いが届くことはなく、なまえは、荷馬車の荷台の上で、「本当になにもない田舎なのね。つまらない。」という感想の景色を不機嫌そうに眺めている。
万が一に、生き残っていた巨人が襲ってきたことも想定し、調査兵達は、最新式の立体起動装置と超硬質ブレードを装備し、我儘姫を守る体制も万端だ。
「壁外がそんなに面白ぇのか。」
なまえの世話役を任命されたリヴァイも、荷台に乗り込み、少し間をあけて隣に座っていた。
ひたすらに広がる草原を眺めていたなまえが、これでもかと表情を歪めてリヴァイの方を向くと、すぐに口を開いた。
「あなた、私の話を聞いてなかった?
何もなさ過ぎてつまらないって言ったのよ。」
馬鹿じゃないの———なまえの顔には、そう書いてあった。
だが、リヴァイは、特に気分を害するような様子もなく、彼女に言う。
「俺には、お前が、この景色を見れることが
嬉しくて仕方がねぇように見えただけだ。」
「————は?」
「まぁ、俺の勘違いなら、それでも構わねぇ。」
「そんなのッ!勘違いに決まってるでしょう!?気持ち悪いことを言うのはやめてよ!!
どうして私が、アンタ達みたいな負け犬達が暮らす世界に来て、
嬉しいと思わなくちゃいけないの!?」
相当頭に血がのぼったのか、なまえは、思わずといった様子で立ち上がると、ヒステリックに怒鳴り散らした。
さすがに驚いたリヴァイも、鋭い三白眼を僅かに見開く。
荷台の上でなまえとリヴァイが会話をしていたことすら知らなかった他の調査兵達も、突然、立ち上がった彼女に驚いて視線を向けた。
だが、もっと驚いたのは、なまえの方だ。
舗装されていない草原を走る荷台は、常にガタガタと不安定に揺れ続けている。
当然、彼女は、バランスを崩し、悲鳴すら上げる暇もなく倒れ込む。
あ———、そう思ったときにはもう、彼女を守るために受け止めたリヴァイの腕の中だった。
「汚らわしい!!触らないで!!」
大丈夫か———リヴァイがそう訊ねるよりも早く、なまえが怒鳴り、胸板を押し返す。
それは、リヴァイを嫌ってした反応というよりも、条件反射のように見えた。
なまえは、両腕で自分の身体を抱きしめるようにして守り、リヴァイを怖い顔で睨みつける。
「お前、なんだよその態度!」
すぐに駆けてきて、愛馬を荷台に並走させたのは、エレンだった。
彼は、怒りの感情のままに言葉を続けた。
「お前が、そんな不安定なところに立つから悪ぃんだろ!
そんなことしたら転ぶことくらい、ガキだって分かるぜ!?
リヴァイさんは、助けてやっただけなのに、どうしてそんな風に言われねぇと———。」
「エレン!なまえさんには、なまえさんの事情があるんだから。
僕達が何か言うことじゃないよ。」
「はぁ?どんな事情があったって、助けてくれた人に、汚ぇとか
言うのはおかしいだろっ!」
「アルミンの言う通りだ、エレン。」
「何でですか…ッ!?」
「謝れ。」
「は?」
「お前が謝れ。」
庇ったつもりでいたリヴァイにまで、それが間違いだと指摘されたエレンは、どうして自分が謝らなければならないのかと、ひどく不服そうにしながらも、「申し訳ありませんでした。」と呟くように謝って、荷台から離れた。
なまえは、彼を許すとも許さないとも言わず、リヴァイとも目を合わせたくないという態度で、また荷台の向こうに広がる草原に視線を向ける。
「本当につまらないところ。ショッピングをして暇つぶしも
出来ないじゃない。ほんと、最悪。こんなとこに生まれなくて本当によかったわ。」
なまえが、不機嫌そうに文句を垂れる。
そばにいる調査兵に、敢えて聞こえるように言ったとしか思えないそれに、エレン達、104期の彼らは思いきり眉を顰める。
それっきり、なまえは口を閉ざした。
エルヴィンやハンジが、長い旅路の疲れを心配する声も無視をして、ただじっと黙って、『つまらなくて最悪。』と彼女が自分自身で表現した景色を眺め続けていた。
『飛行艇か、せめて車を用意しなさい。嫌よ、こんなの。獣臭いわ。』
そんなお嬢様の率直な感想により、下船後の調査兵達の最初の仕事は、積んだばかりの荷馬車の荷解きだった。
彼らは、長旅と、お嬢様からの我儘な要求が続いたことによる精神的な疲れを引きずる重たい身体に鞭を打ち、荷台から降ろした荷物を、今度は別の荷馬車の荷台へ積み重ねていった。
そうして、なんとか空けた荷台に、自分達が持参したブランケットやコートをカーペット代わりに敷き詰め、なまえの為に即席で作った客車が完成する。
それさえも「汗臭い。」「田舎臭い。」「貧乏くさい。」やら、果てには「なんか臭い。」と理由も何もない文句を言われたものの、エルヴィンとハンジでなんとかなまえをなだめて、荷台に乗ってもらうことに成功した。
『文句があるなら乗らなくていいですよ。』
104期の調査兵達は、何度そう言って、なまえを置き去りにして帰ってやりたいと、思ったか分からない。
だが、彼らももう無鉄砲で無責任な子供ではない。
マーレの重要な協力者の一人娘を無下にするわけにいかないことも、残念ながら理解していた。
そして今、調査兵団の兵舎に戻ってまであの我儘姫と一緒にはいたくない、という彼らの心の奥の願いが届くことはなく、なまえは、荷馬車の荷台の上で、「本当になにもない田舎なのね。つまらない。」という感想の景色を不機嫌そうに眺めている。
万が一に、生き残っていた巨人が襲ってきたことも想定し、調査兵達は、最新式の立体起動装置と超硬質ブレードを装備し、我儘姫を守る体制も万端だ。
「壁外がそんなに面白ぇのか。」
なまえの世話役を任命されたリヴァイも、荷台に乗り込み、少し間をあけて隣に座っていた。
ひたすらに広がる草原を眺めていたなまえが、これでもかと表情を歪めてリヴァイの方を向くと、すぐに口を開いた。
「あなた、私の話を聞いてなかった?
何もなさ過ぎてつまらないって言ったのよ。」
馬鹿じゃないの———なまえの顔には、そう書いてあった。
だが、リヴァイは、特に気分を害するような様子もなく、彼女に言う。
「俺には、お前が、この景色を見れることが
嬉しくて仕方がねぇように見えただけだ。」
「————は?」
「まぁ、俺の勘違いなら、それでも構わねぇ。」
「そんなのッ!勘違いに決まってるでしょう!?気持ち悪いことを言うのはやめてよ!!
どうして私が、アンタ達みたいな負け犬達が暮らす世界に来て、
嬉しいと思わなくちゃいけないの!?」
相当頭に血がのぼったのか、なまえは、思わずといった様子で立ち上がると、ヒステリックに怒鳴り散らした。
さすがに驚いたリヴァイも、鋭い三白眼を僅かに見開く。
荷台の上でなまえとリヴァイが会話をしていたことすら知らなかった他の調査兵達も、突然、立ち上がった彼女に驚いて視線を向けた。
だが、もっと驚いたのは、なまえの方だ。
舗装されていない草原を走る荷台は、常にガタガタと不安定に揺れ続けている。
当然、彼女は、バランスを崩し、悲鳴すら上げる暇もなく倒れ込む。
あ———、そう思ったときにはもう、彼女を守るために受け止めたリヴァイの腕の中だった。
「汚らわしい!!触らないで!!」
大丈夫か———リヴァイがそう訊ねるよりも早く、なまえが怒鳴り、胸板を押し返す。
それは、リヴァイを嫌ってした反応というよりも、条件反射のように見えた。
なまえは、両腕で自分の身体を抱きしめるようにして守り、リヴァイを怖い顔で睨みつける。
「お前、なんだよその態度!」
すぐに駆けてきて、愛馬を荷台に並走させたのは、エレンだった。
彼は、怒りの感情のままに言葉を続けた。
「お前が、そんな不安定なところに立つから悪ぃんだろ!
そんなことしたら転ぶことくらい、ガキだって分かるぜ!?
リヴァイさんは、助けてやっただけなのに、どうしてそんな風に言われねぇと———。」
「エレン!なまえさんには、なまえさんの事情があるんだから。
僕達が何か言うことじゃないよ。」
「はぁ?どんな事情があったって、助けてくれた人に、汚ぇとか
言うのはおかしいだろっ!」
「アルミンの言う通りだ、エレン。」
「何でですか…ッ!?」
「謝れ。」
「は?」
「お前が謝れ。」
庇ったつもりでいたリヴァイにまで、それが間違いだと指摘されたエレンは、どうして自分が謝らなければならないのかと、ひどく不服そうにしながらも、「申し訳ありませんでした。」と呟くように謝って、荷台から離れた。
なまえは、彼を許すとも許さないとも言わず、リヴァイとも目を合わせたくないという態度で、また荷台の向こうに広がる草原に視線を向ける。
「本当につまらないところ。ショッピングをして暇つぶしも
出来ないじゃない。ほんと、最悪。こんなとこに生まれなくて本当によかったわ。」
なまえが、不機嫌そうに文句を垂れる。
そばにいる調査兵に、敢えて聞こえるように言ったとしか思えないそれに、エレン達、104期の彼らは思いきり眉を顰める。
それっきり、なまえは口を閉ざした。
エルヴィンやハンジが、長い旅路の疲れを心配する声も無視をして、ただじっと黙って、『つまらなくて最悪。』と彼女が自分自身で表現した景色を眺め続けていた。