◇第八話◇孤独に咲くのはサクラか、悪魔か
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調査兵団の帰国日は、晴天に恵まれた。
前日のうちに荷造りを済ませていたリヴァイは、早朝、そっと部屋を出る。
広い廊下は、シンと静まり返っていた。
漸く朝が明け始めた頃の時間には、さすがにまだ使用人達は仕事を始めていないようだ。
パラディ島までは、数日かけて海を渡る船旅になる。
殆どの仲間達もまた、まだ眠りの中で、今日からの長い旅に備えて体力を蓄えているところだろう。
リヴァイが向かったのは、借りていた部屋の窓から見えた裏庭だった。
目覚めてすぐにカーテンを開けた時に、目に入ったのだ。
柔らかい日差しを浴びて、淡いピンク色を晴れやかに咲き誇るサクラと、彼らとは対照的な梅雨時の愁いを帯びた表情に、気づけば部屋を出ていた。
何かをしようとしたわけではないし、声をかけたいと思ったわけでもない。
ただ〝気になった〟のだ。
たった一本でも、寂しさなんて感じさせず、凛と咲き誇る美しいサクラを見上げ、なぜ彼女の方が泣きそうになっているのか。
どうしても、リヴァイには分からなかったから———。
リヴァイが裏庭にやってきても、なまえは、ひとりきりでサクラを見上げていた。
泣きそうな彼女は、ひどく心細そうで、今にも消えてしまいそうな儚い印象に変えた。
昨晩、氷のように冷たい瞳で調査兵団を見下ろした彼女とはまるで別人のようだ。
視線に気づいたのか、なまえがリヴァイの方を向いた。
泣き出しそうな瞳と視線が重なったのは、ほんの一瞬だった。
そこにいるリヴァイを認識した途端、なまえの瞳はまた、氷のような冷たい印象へと戻った。
「あなた達は良いわよね。」
キヨミに似た、凛と通る声は、真っすぐにリヴァイに向けられた。
けれど、〝良い〟と言われる理由が分からない。
自分達が、良い待遇を受けているなんて誰も思っていない。
なぜなら、世界が自分達の敵なのだ。
世界から、消えて欲しいと願われている自分達が〝良い〟とはどうしても思えない。
「何がだ。」
「そういうところよ。自分達には一切の非がない。
被害者だって心から信じてる。
そうやって誰かのせいにすればいいんだから、楽で良いわよねって言ったのよ。」
なまえが言う。一応の筋は通っている気がした。
むしろ、彼女の言う通りに思えたのだ。
確かに、自分達は、遠い昔の先祖のおかげで小さな島国に閉じ込められ、さらについ最近までは巨人の脅威に晒されていた。
そして、この世界に生きる人類は、悪いのはすべてパラディ島の人間だと教育を受け、そう信じているからこそ、遠い島へと亡命したエルディア人を排除しようとしている。
自分達も、彼らと同じ〝生きている人間〟なのだと気づいてくれない。分かろうとしてくれない。
「自分は違ぇみてぇな言い方だな。」
「私は悪魔だもの。」
なまえがキッパリと告げる。
有無を言わさぬ力強い瞳は、真っすぐにリヴァイをそのままリヴァイに背を向けて立ち去った。
早朝の冷たい風が吹いて、咲き誇るサクラの花びらとヒラヒラと散らす。彼らは、まるで彼女を愛しているかのように、寂しそうな背中を追いかけて降り続けていた。
前日のうちに荷造りを済ませていたリヴァイは、早朝、そっと部屋を出る。
広い廊下は、シンと静まり返っていた。
漸く朝が明け始めた頃の時間には、さすがにまだ使用人達は仕事を始めていないようだ。
パラディ島までは、数日かけて海を渡る船旅になる。
殆どの仲間達もまた、まだ眠りの中で、今日からの長い旅に備えて体力を蓄えているところだろう。
リヴァイが向かったのは、借りていた部屋の窓から見えた裏庭だった。
目覚めてすぐにカーテンを開けた時に、目に入ったのだ。
柔らかい日差しを浴びて、淡いピンク色を晴れやかに咲き誇るサクラと、彼らとは対照的な梅雨時の愁いを帯びた表情に、気づけば部屋を出ていた。
何かをしようとしたわけではないし、声をかけたいと思ったわけでもない。
ただ〝気になった〟のだ。
たった一本でも、寂しさなんて感じさせず、凛と咲き誇る美しいサクラを見上げ、なぜ彼女の方が泣きそうになっているのか。
どうしても、リヴァイには分からなかったから———。
リヴァイが裏庭にやってきても、なまえは、ひとりきりでサクラを見上げていた。
泣きそうな彼女は、ひどく心細そうで、今にも消えてしまいそうな儚い印象に変えた。
昨晩、氷のように冷たい瞳で調査兵団を見下ろした彼女とはまるで別人のようだ。
視線に気づいたのか、なまえがリヴァイの方を向いた。
泣き出しそうな瞳と視線が重なったのは、ほんの一瞬だった。
そこにいるリヴァイを認識した途端、なまえの瞳はまた、氷のような冷たい印象へと戻った。
「あなた達は良いわよね。」
キヨミに似た、凛と通る声は、真っすぐにリヴァイに向けられた。
けれど、〝良い〟と言われる理由が分からない。
自分達が、良い待遇を受けているなんて誰も思っていない。
なぜなら、世界が自分達の敵なのだ。
世界から、消えて欲しいと願われている自分達が〝良い〟とはどうしても思えない。
「何がだ。」
「そういうところよ。自分達には一切の非がない。
被害者だって心から信じてる。
そうやって誰かのせいにすればいいんだから、楽で良いわよねって言ったのよ。」
なまえが言う。一応の筋は通っている気がした。
むしろ、彼女の言う通りに思えたのだ。
確かに、自分達は、遠い昔の先祖のおかげで小さな島国に閉じ込められ、さらについ最近までは巨人の脅威に晒されていた。
そして、この世界に生きる人類は、悪いのはすべてパラディ島の人間だと教育を受け、そう信じているからこそ、遠い島へと亡命したエルディア人を排除しようとしている。
自分達も、彼らと同じ〝生きている人間〟なのだと気づいてくれない。分かろうとしてくれない。
「自分は違ぇみてぇな言い方だな。」
「私は悪魔だもの。」
なまえがキッパリと告げる。
有無を言わさぬ力強い瞳は、真っすぐにリヴァイをそのままリヴァイに背を向けて立ち去った。
早朝の冷たい風が吹いて、咲き誇るサクラの花びらとヒラヒラと散らす。彼らは、まるで彼女を愛しているかのように、寂しそうな背中を追いかけて降り続けていた。