あのときのなまえのことを思い出すのは、それだけで彼女を穢しているような気がしていて、あれからずっと考えないようにしていた。
でも、ベンチで隣に並んであの日のことを謝るなまえは、ジャンの知っている落ち着いたお姉さんのままだった。
あの日の妖艶で色気があって、女の匂いがした彼女は本当になまえだったのだろうか。
そんなことを考えながらなまえの話を聞いていれば、思いがけず、彼女はリヴァイへの気持ちを吐露した。
あのとき、鬼のような形相で怒っていたリヴァイを見たからこそ、彼の方がなまえに惚れているのだろうかと考えていたから余計に不意を突かれた。
そんなジャンに、なまえは眉尻を下げて困ったような笑顔で続ける。

「馬鹿だよねぇ～。フラれるに決まってるのにさ。
　可愛い新兵を襲っちゃう女だから、汚いものでも見るみたいな目向けられるし、背を向けられちゃうし
　ほんと、嫌われるの最上級で嫌われちゃって、昨日なんて死にかけてるのもほっとかれちゃってー。」
「もういいっす。」

今にも泣きそうなくせに、下手くそな笑顔を作っているなまえを見ていられなくて、気づいたら抱きしめていた。
自分でも、どうしてそんな大胆なことが出来たのか分からなかった。
でも、茶化しているフリをしながら、自分を傷つけるなまえがひどく儚くて、健気で、守ってやりたいと思ってしまったのだー。
腕の中で、なまえが動いたのが分かった。
視線を上げて、自分を見ていることもー。
女の人を抱きしめたことなんて、幼い頃の母親以来だ。
顔が真っ赤に染まっていることくらい、自分でも分かっていた。

「汚くなんか、ないですから…！」
「え？」
「なまえさんは、汚くなんかないです、絶対に。
　だから、そんな風に自分のこと言わないでください。」

恥ずかしさや、照れ臭さよりも、なまえに分かってもらいたいという気持ちの方が強かった。
どうしても、彼女には傷ついて欲しくないと思ったのだ。

「ありがとう。」

まるで子供にするようになまえが髪をクシャリと撫でた。
それにひどく腹が立った。
そして、男として見られたいと思っている自分に気づいた。
傷ついた心で健気に笑おうとしたなまえを見て、それは唐突に、始まっていたー。
好きに、なってしまったらしいー。