航海士の天気予報は外れない
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サウザンドサニー号の船縁に寄り掛かって、なまえは夜空を見上げていた。
明日は雨の予報で、分厚い雲が覆っているせいで、闇のように真っ黒な空が広がっている。
夜空に触れようと伸ばしていた手を、なまえは胸にあててみた。
胸の奥も、頭上にある夜空と同じ色をしていることを、なまえはそろそろ認めた方がいいんだろうと本当は分かっていたのだ。
いつから本気になっていたのだろう。
なまえは、胸に手を添えて、自問自答を繰り返している。
サンジとの火遊びが始まったのは、サウザンドサニー号の硬いソファの上だった。
たった一度のままごとの延長線上みたい遊びのキスのそれは、サンジの煙草の苦い味がした。
それから、なまえとサンジは、仲間に内緒でこっそりリネン室や書庫で逢瀬を重ねて、口づけを交わした。身体だって、何度も重ねた。
ハラハラして、ドキドキして、2人でいると、なんだか冒険でもしてるみたいな気分になっていた。
夢みたいな甘い恋だった。
でも、本気になってはいけなかったことくらい、なまえもサンジも初めから分かっていた。
だから、次第に、お互いの瞳に熱がこもり始め、もう止められなくなる寸前で、サンジから関係を清算しようと言い出した。
なまえも「それがいいね。」と頷いた。
それがいいね、と本気でそう思っていたのは、いつまでだろう。
そんなときは、本当にあったのだろうか。
自問自答は、終わらない。
認めるのが怖いから、いつまでも終わらない。
本当は、サンジが「サヨナラ。」と言い出したときにはもう、なまえの想いは、止められないところまで来ていたのだ。
もうすでに手遅れだったけど、そうではなかったサンジに、どうして「嫌だ。」と言えただろう。
仲間という関係が壊れることを一番恐れていたなまえに、そんなこと言えるわけがなかった。
傷つくのが怖くて、そんなこと言えるはずがなかった。
「ふーっ、疲れたぁーーーーっ。
あれ?なまえ、何処にも行かなかったの?」
航海士室から出て来たナミが、船縁に寄り掛かって座ってボーッとしているなまえを見つけて首を傾げた。
船番だと教えてやれば、そういうことかと納得している彼女の隣で、そういうわけではないのだけれど、となまえは心の中でひとりで呟く。
きっと、遊びに行けと言われたって、なまえは船から降りなかったはずだ。
見たくないもばかりを探してしまうことになるのは、分かりきってるのだから。
関係が終わってからというもの、サンジの女遊びは以前よりもひどくなった。
まるで、今まで溜まっていた鬱憤を晴らすみたいに、ところかまわず女を口説いては抱いている。
「可愛い」だとか、「大好き」だとか、「愛してる」。
一体何人の女の子が、サンジからそんな甘い口説き文句を囁かれているのだろう。
(私は一度だってないのに…。)
なまえはひとりぼっちで、心の中で愚痴ってみた。
余計に虚しくなるだけだった。
だって、今頃、サンジに選んでもらえた女の子は、あの逞しくて優しい腕に包まれて、女としての幸せのすべてを貰っているのだ。
抱かれてるとき、胸に触れる度に驚くほどに速く鼓動しているサンジの心臓の音が大好きだった。
「可愛い」だとか、「大好き」だとか、「愛してる」。
そんな、サンジが今まで数えきれないくらいに女の子に吐いてきた薄っぺらい愛の言葉なんか、欲しくなかった。
その心臓の音だけで、自分は誰よりもサンジに想われているという錯覚の中で、快感以上の幸福感が突き上げたのだ。
でも、今では、それを貰っているのは自分ではなく、他の誰か。
確かに、サンジは「サヨナラ」と言ったし、なまえも「それがいいね」と頷いた。
でも、今頃、サンジが悪いことをしている気持ちになっていればいいのに、と思うのだ。
罪悪感を抱いていれば、それは、少しは自分に心があったという証拠になる気がするから。
そうすれば、どうして終わりにすると言ったのかと責めることだって、出来るじゃないか———。
「浮かない顔をしてどうしたの?」
「ううん。」
小さく首を横に振って、なまえはどす黒い嫉妬が渦巻く心と似たような色をしている夜空を見上げた。
(ただ、浮気されたって泣けたらまだマシなのになって思ってただけ。)
誰にも言えないから、なまえは心の中で自分に答える。
明日は雨。
その雨に紛れて泣いてしまおうか。
そんなことを考えていたなまえの頬に、一足早く雨粒が幾つか落ちて来た。
ふ、とナミが船縁の向こうを見て、何かに気がついた顔をした。
港の奥から必死な顔をして走って来ているのは、サンジだ。
頬には、真っ赤な手形がついていて、いつにもまして間抜けで、残念なイケメンに拍車をかけている。
ナミは、チラりとなまえに視線を向けた。
相変わらず、今にも泣きそうな顔をして夜空を見上げているなまえは、降り出した雨で頬を濡らしていた。
「大丈夫よ、なまえ。もうすぐ晴れるから。」
港の向こうを見ながら、ナミが柔らかく微笑んだ。
明日は雨だよ、となまえが不思議そうに首を傾げたけれど、ナミの言うことは絶対だ。
だって、麦わらの一味の自慢の航海士は、天気予報を外したことは今だかつて一度だってないのだ。
ほら、分厚い雨雲を振り払うためだけにやってきた、馬鹿みたいに大きな足音が聞こえて来たでしょう———。
真っ暗闇の夜空にほんの少しの雲の切れ間が見えたよ
光が差した先にいたのは、私を見つめる熱い瞳だった
「ごめん。」
甲板に走り込んでくるなり、サンジは私を抱きしめて謝った。
甘ったるい香水と石鹸の匂いに包まれて戸惑う私の胸に、サンジの速すぎる心臓の音が響く。
だから私は、躊躇いがちだったけれど、その背中に手をまわすことが出来た。
いつの間にか、自慢の航海士の姿はいなくなっていて、甲板の上は、私とサンジだけになっていた。
「何を謝ってるの?
もう終わりにするって言ったこと?それとも…、浮気したこと?」
「全部。全部、ごめん。」
「もう、終わりにするって言わない?」
「言わない、絶対言わない。」
「もう、浮気も、しない?」
「浮気なんて、初めてしたし、もう二度としない。」
「ならいいよ。許してあげる。」
私の耳元に、サンジのホッとしたような息がかかった。
ゆっくりと、そっと、サンジの身体が離れた。
いつの間にか頬に流れていた涙を、サンジの長くて綺麗な指が拭う。
その一瞬後には、私は笑っていた。
まるで、太陽がキラキラ輝く青い空みたいに晴れやかに、私とサンジは笑った。
明日は雨の予報で、分厚い雲が覆っているせいで、闇のように真っ黒な空が広がっている。
夜空に触れようと伸ばしていた手を、なまえは胸にあててみた。
胸の奥も、頭上にある夜空と同じ色をしていることを、なまえはそろそろ認めた方がいいんだろうと本当は分かっていたのだ。
いつから本気になっていたのだろう。
なまえは、胸に手を添えて、自問自答を繰り返している。
サンジとの火遊びが始まったのは、サウザンドサニー号の硬いソファの上だった。
たった一度のままごとの延長線上みたい遊びのキスのそれは、サンジの煙草の苦い味がした。
それから、なまえとサンジは、仲間に内緒でこっそりリネン室や書庫で逢瀬を重ねて、口づけを交わした。身体だって、何度も重ねた。
ハラハラして、ドキドキして、2人でいると、なんだか冒険でもしてるみたいな気分になっていた。
夢みたいな甘い恋だった。
でも、本気になってはいけなかったことくらい、なまえもサンジも初めから分かっていた。
だから、次第に、お互いの瞳に熱がこもり始め、もう止められなくなる寸前で、サンジから関係を清算しようと言い出した。
なまえも「それがいいね。」と頷いた。
それがいいね、と本気でそう思っていたのは、いつまでだろう。
そんなときは、本当にあったのだろうか。
自問自答は、終わらない。
認めるのが怖いから、いつまでも終わらない。
本当は、サンジが「サヨナラ。」と言い出したときにはもう、なまえの想いは、止められないところまで来ていたのだ。
もうすでに手遅れだったけど、そうではなかったサンジに、どうして「嫌だ。」と言えただろう。
仲間という関係が壊れることを一番恐れていたなまえに、そんなこと言えるわけがなかった。
傷つくのが怖くて、そんなこと言えるはずがなかった。
「ふーっ、疲れたぁーーーーっ。
あれ?なまえ、何処にも行かなかったの?」
航海士室から出て来たナミが、船縁に寄り掛かって座ってボーッとしているなまえを見つけて首を傾げた。
船番だと教えてやれば、そういうことかと納得している彼女の隣で、そういうわけではないのだけれど、となまえは心の中でひとりで呟く。
きっと、遊びに行けと言われたって、なまえは船から降りなかったはずだ。
見たくないもばかりを探してしまうことになるのは、分かりきってるのだから。
関係が終わってからというもの、サンジの女遊びは以前よりもひどくなった。
まるで、今まで溜まっていた鬱憤を晴らすみたいに、ところかまわず女を口説いては抱いている。
「可愛い」だとか、「大好き」だとか、「愛してる」。
一体何人の女の子が、サンジからそんな甘い口説き文句を囁かれているのだろう。
(私は一度だってないのに…。)
なまえはひとりぼっちで、心の中で愚痴ってみた。
余計に虚しくなるだけだった。
だって、今頃、サンジに選んでもらえた女の子は、あの逞しくて優しい腕に包まれて、女としての幸せのすべてを貰っているのだ。
抱かれてるとき、胸に触れる度に驚くほどに速く鼓動しているサンジの心臓の音が大好きだった。
「可愛い」だとか、「大好き」だとか、「愛してる」。
そんな、サンジが今まで数えきれないくらいに女の子に吐いてきた薄っぺらい愛の言葉なんか、欲しくなかった。
その心臓の音だけで、自分は誰よりもサンジに想われているという錯覚の中で、快感以上の幸福感が突き上げたのだ。
でも、今では、それを貰っているのは自分ではなく、他の誰か。
確かに、サンジは「サヨナラ」と言ったし、なまえも「それがいいね」と頷いた。
でも、今頃、サンジが悪いことをしている気持ちになっていればいいのに、と思うのだ。
罪悪感を抱いていれば、それは、少しは自分に心があったという証拠になる気がするから。
そうすれば、どうして終わりにすると言ったのかと責めることだって、出来るじゃないか———。
「浮かない顔をしてどうしたの?」
「ううん。」
小さく首を横に振って、なまえはどす黒い嫉妬が渦巻く心と似たような色をしている夜空を見上げた。
(ただ、浮気されたって泣けたらまだマシなのになって思ってただけ。)
誰にも言えないから、なまえは心の中で自分に答える。
明日は雨。
その雨に紛れて泣いてしまおうか。
そんなことを考えていたなまえの頬に、一足早く雨粒が幾つか落ちて来た。
ふ、とナミが船縁の向こうを見て、何かに気がついた顔をした。
港の奥から必死な顔をして走って来ているのは、サンジだ。
頬には、真っ赤な手形がついていて、いつにもまして間抜けで、残念なイケメンに拍車をかけている。
ナミは、チラりとなまえに視線を向けた。
相変わらず、今にも泣きそうな顔をして夜空を見上げているなまえは、降り出した雨で頬を濡らしていた。
「大丈夫よ、なまえ。もうすぐ晴れるから。」
港の向こうを見ながら、ナミが柔らかく微笑んだ。
明日は雨だよ、となまえが不思議そうに首を傾げたけれど、ナミの言うことは絶対だ。
だって、麦わらの一味の自慢の航海士は、天気予報を外したことは今だかつて一度だってないのだ。
ほら、分厚い雨雲を振り払うためだけにやってきた、馬鹿みたいに大きな足音が聞こえて来たでしょう———。
真っ暗闇の夜空にほんの少しの雲の切れ間が見えたよ
光が差した先にいたのは、私を見つめる熱い瞳だった
「ごめん。」
甲板に走り込んでくるなり、サンジは私を抱きしめて謝った。
甘ったるい香水と石鹸の匂いに包まれて戸惑う私の胸に、サンジの速すぎる心臓の音が響く。
だから私は、躊躇いがちだったけれど、その背中に手をまわすことが出来た。
いつの間にか、自慢の航海士の姿はいなくなっていて、甲板の上は、私とサンジだけになっていた。
「何を謝ってるの?
もう終わりにするって言ったこと?それとも…、浮気したこと?」
「全部。全部、ごめん。」
「もう、終わりにするって言わない?」
「言わない、絶対言わない。」
「もう、浮気も、しない?」
「浮気なんて、初めてしたし、もう二度としない。」
「ならいいよ。許してあげる。」
私の耳元に、サンジのホッとしたような息がかかった。
ゆっくりと、そっと、サンジの身体が離れた。
いつの間にか頬に流れていた涙を、サンジの長くて綺麗な指が拭う。
その一瞬後には、私は笑っていた。
まるで、太陽がキラキラ輝く青い空みたいに晴れやかに、私とサンジは笑った。
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