◆Next chapter 2◆
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翌日の夜、イッカクと一緒に風呂に入ったなまえが、濡れた髪をそのままにして向かったのは、船長室でした。
昨日、火傷を処置してくれたローに言われた言いつけをしっかり守って、再度、処置をしてもらうためにやってきたのです。
けれど、何度、扉をノックしても、反応はありません。
残念ながら、ローは船長室にはいないようです。
それならば、タイミングを見計らって、後からもう一度来ればいいだけなのですが、なまえはどうしても、一度言われた指示にはその通りに従わなければならないような気がしてしまうのです。きっとそれも、人間に忠実なロボットから人間へと変わったことへの後遺症なのでしょう。
ローやペンギン達からは、その癖もいつか抜けるだろうーーーと言われています。実際、シャチの指示であれば、平気で反故にすることが出来るので、絶対に人の指示に従わないといけない性質、というわけではないはずです。
ふ、と人の気配を感じて、廊下の方に視線を向けたなまえは、こちらに向かって歩いてくるローの姿を見つけました。
ローもすぐになまえに気付いたようでした。
「処置か?」
「はい。お風呂が終わったので、来ました。」
「しっかり約束は覚えてたみたいだな。」
なまえの返事に満足したのか、ローはフッと笑いました。
そして、急ぐでもなく、ゆっくりするでもなく、彼のペースで船長室までやってくると、扉を開きます。
「ソファに座ってろ。すぐに準備する。」
ローはそれだけ言うと、そのまま部屋の奥へと向かいました。
奥には、医薬品が置いてある棚があり、さらにその奥はトイレとシャワールームになっています。
「分かりました。」
素直に従って、なまえは、昨日もそうしたように、部屋の中央に置いてあるソファに腰掛けました。
すぐに、準備を終わらせたローもなまえの隣に座ります。
けれど、ローは、持ってきた医薬品や新しい包帯をテーブルの上に置いてしまいました。
今、彼が持っているのは、処置には全く関係なさそうなドライヤーだけです。
首を傾げるなまえに、ローが少し呆れ気味に口を開きます。
「先に髪を乾かす。濡れたままにしといたら、風邪をひく。」
ローに言われて、なまえは、確かに、イッカクやペンギン達にもよく同じことを言われているのを思い出しました。
過去の記憶は曖昧ななまえですが、身体や思考、生活習慣が、病気も怪我とも無縁の日々を覚えているせいで、何度も仲間が注意をしてくれても、すっかり忘れてしまうのです。今回の火傷もそうです。
なまえも気をつけようとは思っているのですが、なかなか、身体や思考に染みついた癖というのは抜けそうにありません。
「自分で出来ます。」
ドライヤーの電源を入れたローが、なまえの髪に触れようとしました。
きっと、彼が乾かそうとしてくれているということなのでしょう。
けれど、いち船員に過ぎない自分が、海賊団の船長に髪を乾かしてもらうなんて、そんな大それたことはしてもらえません。
シャチに、常識ハズレだとかよく言われるなまえですが、流石に、それくらいは理解していました。
「その手でか?」
ローが、火傷で真っ赤になっている名前の両手を見下ろして言いました。
風呂に入る前に、どうせ濡れてしまうからーーーと外した包帯ですが、顕になった患部は、思わず眉をしかめそうになるほどに痛々しいものでした。名医のローが「跡は残らない」と言うのですから、きっと大丈夫なのでしょうが、それにしても酷い火傷です。
「忘れてました。」
「だろうな。」
ローはまた、ふっと軽く笑います。
そして、今度こそ、なまえの髪に触れて、乾かし始めました。
なまえの濡れた髪を、ローの長い指が掬い、ドライヤーの温風をあてていきます。
「今日一日、その火傷の手を使ったりしてねぇよな。」
「はい、ずっと、ペンギンに見張られていました。お風呂では、イッカクが身体と頭を洗ってくれました。」
なまえが正直に答えると、ローは「それならいい。」と満足気に頷きます。
もしかすると、ペンギンやイッカクに、そうするように指示を出していたのはローだったのかもしれません。なんとなく、なまえはそんな気がしました。
「ローは…、あ、キャプテンは、さっき、どこに行ってたんですか?」
「ローでいい。」
「ダメです。みんな、キャプテンと呼びます。船長を呼び捨てにしてはいけません。」
「どこでそんなこと教わったんだ。」
ローが呆れたように、そして、どこか困ったように笑います。
きっと、彼は、なまえが呼び捨てにしても構わないと思っているのでしょう。
そうは分かっても、なまえは、ローを呼び捨てにする自分を受け入れることは出来ません。
自分でもわからないのですが、なまえは、ローが少しだけ…、いえ、とても怖いのです。
危険なことをして怪我をしてしまったときも、豪雪の中で雪だるま作りに夢中になって風邪を引いてしまったときも、今回も、それ以外だって、処置や治療、看病をしてくれたのは、ローでした。戦闘の時だって、ローは船長として、なまえのことを何度も助けてくれました。
なまえも、ローはとても優しい人だということはわかっているのです。
それなのに、どうしてなのでしょう。
ローといると、息が苦しくなって、とても辛いのです。目を見ることも出来ず、なまえにとって、いつまでも『一番遠い人』なのです。
船長のローは、文字通り、この船の長なのですから、いち船員の自分にとっては遠い存在であるのは当然だーーー何度もそう言い聞かせるのですが、いまだに心から納得は出来ていません。
なぜなら、ハートの海賊団の船員達は、立場や年齢、人種さえも飛び越えて、みんなとても仲が良いのです。
ローのことを船長だからといって、遠い存在だと感じているのはきっと、なまえだけです。
もしかすると、ロボット時代の記憶の中に、答えがあるのかもしれないとは思うのですが、ローとのことだけは、どうしても思い出せないままでした。
「それで、なんだったか?あー、さっきは、ベポに次の航路の話をしに行ってた。」
返事がないなまえに諦めてしまったのか、ローが話を切り替えます。
「そうですか。ベポは、航海士です。」
「あぁ、優秀な、な。」
ローが自慢気に言います。
顔を見なくても、ローが、すごく優しい表情をしているのが想像できました。
ローは、船員の中でも、特にベポを可愛がっているのが、なまえから見てもよく分かりました。
特別扱い、というやつです。困ったベポのお願いも、ローはなんだかんだ言いながらも叶えてあげてばかりです。
「私もベポが大好きです。」
「一緒だな。」
「はい、一緒です。」
時々、ローの指が首や耳に当たってくすぐったかったのですが、なまえは、首を折り曲げるように下を向いて、必死に耐えました。
そうしていると、乾いた髪が軽くなって、サラサラと揺れるようになってきました。
「気持ちいい…。」
思わず漏れてしまった自分の声に、なまえは驚きました。
けれど、そんななまえをお構いなしに、ローがククッと笑います。
「よかった。」
ローが、乾かしたばかりの髪をサラリと優しく撫でます。
イッカクがおすすめしてくれたトリートメントの甘い香りが、ふわりと舞いました。
水分を吸って重たくなっていたなまえの髪は、いつも通りの絹のように細く柔らかい綺麗な髪に戻っていました。
昨日、火傷を処置してくれたローに言われた言いつけをしっかり守って、再度、処置をしてもらうためにやってきたのです。
けれど、何度、扉をノックしても、反応はありません。
残念ながら、ローは船長室にはいないようです。
それならば、タイミングを見計らって、後からもう一度来ればいいだけなのですが、なまえはどうしても、一度言われた指示にはその通りに従わなければならないような気がしてしまうのです。きっとそれも、人間に忠実なロボットから人間へと変わったことへの後遺症なのでしょう。
ローやペンギン達からは、その癖もいつか抜けるだろうーーーと言われています。実際、シャチの指示であれば、平気で反故にすることが出来るので、絶対に人の指示に従わないといけない性質、というわけではないはずです。
ふ、と人の気配を感じて、廊下の方に視線を向けたなまえは、こちらに向かって歩いてくるローの姿を見つけました。
ローもすぐになまえに気付いたようでした。
「処置か?」
「はい。お風呂が終わったので、来ました。」
「しっかり約束は覚えてたみたいだな。」
なまえの返事に満足したのか、ローはフッと笑いました。
そして、急ぐでもなく、ゆっくりするでもなく、彼のペースで船長室までやってくると、扉を開きます。
「ソファに座ってろ。すぐに準備する。」
ローはそれだけ言うと、そのまま部屋の奥へと向かいました。
奥には、医薬品が置いてある棚があり、さらにその奥はトイレとシャワールームになっています。
「分かりました。」
素直に従って、なまえは、昨日もそうしたように、部屋の中央に置いてあるソファに腰掛けました。
すぐに、準備を終わらせたローもなまえの隣に座ります。
けれど、ローは、持ってきた医薬品や新しい包帯をテーブルの上に置いてしまいました。
今、彼が持っているのは、処置には全く関係なさそうなドライヤーだけです。
首を傾げるなまえに、ローが少し呆れ気味に口を開きます。
「先に髪を乾かす。濡れたままにしといたら、風邪をひく。」
ローに言われて、なまえは、確かに、イッカクやペンギン達にもよく同じことを言われているのを思い出しました。
過去の記憶は曖昧ななまえですが、身体や思考、生活習慣が、病気も怪我とも無縁の日々を覚えているせいで、何度も仲間が注意をしてくれても、すっかり忘れてしまうのです。今回の火傷もそうです。
なまえも気をつけようとは思っているのですが、なかなか、身体や思考に染みついた癖というのは抜けそうにありません。
「自分で出来ます。」
ドライヤーの電源を入れたローが、なまえの髪に触れようとしました。
きっと、彼が乾かそうとしてくれているということなのでしょう。
けれど、いち船員に過ぎない自分が、海賊団の船長に髪を乾かしてもらうなんて、そんな大それたことはしてもらえません。
シャチに、常識ハズレだとかよく言われるなまえですが、流石に、それくらいは理解していました。
「その手でか?」
ローが、火傷で真っ赤になっている名前の両手を見下ろして言いました。
風呂に入る前に、どうせ濡れてしまうからーーーと外した包帯ですが、顕になった患部は、思わず眉をしかめそうになるほどに痛々しいものでした。名医のローが「跡は残らない」と言うのですから、きっと大丈夫なのでしょうが、それにしても酷い火傷です。
「忘れてました。」
「だろうな。」
ローはまた、ふっと軽く笑います。
そして、今度こそ、なまえの髪に触れて、乾かし始めました。
なまえの濡れた髪を、ローの長い指が掬い、ドライヤーの温風をあてていきます。
「今日一日、その火傷の手を使ったりしてねぇよな。」
「はい、ずっと、ペンギンに見張られていました。お風呂では、イッカクが身体と頭を洗ってくれました。」
なまえが正直に答えると、ローは「それならいい。」と満足気に頷きます。
もしかすると、ペンギンやイッカクに、そうするように指示を出していたのはローだったのかもしれません。なんとなく、なまえはそんな気がしました。
「ローは…、あ、キャプテンは、さっき、どこに行ってたんですか?」
「ローでいい。」
「ダメです。みんな、キャプテンと呼びます。船長を呼び捨てにしてはいけません。」
「どこでそんなこと教わったんだ。」
ローが呆れたように、そして、どこか困ったように笑います。
きっと、彼は、なまえが呼び捨てにしても構わないと思っているのでしょう。
そうは分かっても、なまえは、ローを呼び捨てにする自分を受け入れることは出来ません。
自分でもわからないのですが、なまえは、ローが少しだけ…、いえ、とても怖いのです。
危険なことをして怪我をしてしまったときも、豪雪の中で雪だるま作りに夢中になって風邪を引いてしまったときも、今回も、それ以外だって、処置や治療、看病をしてくれたのは、ローでした。戦闘の時だって、ローは船長として、なまえのことを何度も助けてくれました。
なまえも、ローはとても優しい人だということはわかっているのです。
それなのに、どうしてなのでしょう。
ローといると、息が苦しくなって、とても辛いのです。目を見ることも出来ず、なまえにとって、いつまでも『一番遠い人』なのです。
船長のローは、文字通り、この船の長なのですから、いち船員の自分にとっては遠い存在であるのは当然だーーー何度もそう言い聞かせるのですが、いまだに心から納得は出来ていません。
なぜなら、ハートの海賊団の船員達は、立場や年齢、人種さえも飛び越えて、みんなとても仲が良いのです。
ローのことを船長だからといって、遠い存在だと感じているのはきっと、なまえだけです。
もしかすると、ロボット時代の記憶の中に、答えがあるのかもしれないとは思うのですが、ローとのことだけは、どうしても思い出せないままでした。
「それで、なんだったか?あー、さっきは、ベポに次の航路の話をしに行ってた。」
返事がないなまえに諦めてしまったのか、ローが話を切り替えます。
「そうですか。ベポは、航海士です。」
「あぁ、優秀な、な。」
ローが自慢気に言います。
顔を見なくても、ローが、すごく優しい表情をしているのが想像できました。
ローは、船員の中でも、特にベポを可愛がっているのが、なまえから見てもよく分かりました。
特別扱い、というやつです。困ったベポのお願いも、ローはなんだかんだ言いながらも叶えてあげてばかりです。
「私もベポが大好きです。」
「一緒だな。」
「はい、一緒です。」
時々、ローの指が首や耳に当たってくすぐったかったのですが、なまえは、首を折り曲げるように下を向いて、必死に耐えました。
そうしていると、乾いた髪が軽くなって、サラサラと揺れるようになってきました。
「気持ちいい…。」
思わず漏れてしまった自分の声に、なまえは驚きました。
けれど、そんななまえをお構いなしに、ローがククッと笑います。
「よかった。」
ローが、乾かしたばかりの髪をサラリと優しく撫でます。
イッカクがおすすめしてくれたトリートメントの甘い香りが、ふわりと舞いました。
水分を吸って重たくなっていたなまえの髪は、いつも通りの絹のように細く柔らかい綺麗な髪に戻っていました。
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