ep.20 君に勉強を教えるのは大変
Name change
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「最悪だよ…。」
掃除の時間。今日も時間通りに非常階段の扉を開けた名前は、珍しく暗い顔をしていた。
力無くぶら下がる両腕の先では、数学の教科書が握られている。
どうせまた数学の小テストで5点をとって、再テストをさせられるとかそういうことなのだろう。
月島は気にしないことにして、自分の掃除を続ける。
相手にされないことを分かっていたのか、それとも気にする余裕すらもないのか。名前は、非常階段を数段降りたところに座ると、ひとつ上の階段を机にして数学の教科書とプリントを開いた。
数学の教科書にはシャーペンも挟んでいたようだ。シャーペンを握りしめて、数学の教科書とプリントを交互に睨みつけては「うーーーー。」と唸り声を上げ始めた。
一体、彼女は、この掃除の時間をなんだと思っているのだろう。
そもそも彼女の担当の掃除場所は、3年1組の教室なのだ。
それなのに、「良い隠れ家を見つけた!」と喜んで、毎日毎日、月島の担当掃除場所である非常階段にやってきては、楽しかったことやどうでもいい悩み事を話して、時間が来たら「授業嫌だぁ。」と肩を落として帰っていく。
名前に掃除場所がバレたあの日から、月島が1人でゆっくりと過ごす平穏は奪われてしまった。
「唸ってても問題は解けないですよ。」
適当に掃除を終わらせて、月島は、名前が机代わりにしている階段に腰を下ろした。
思った通り、名前が睨んでいるのは丸つけ済みの小テストだった。ほとんどが間違いで、点数は安定の5点だ。毎回、奇跡的に1問だけ勘が当たっているようだ。
名前の役に立っているとは思えない数学の教科書を手に取ってみる。
因数分解を使ってxとyを用いた式を解く問題のようだ。
3年の数学はどんな問題なのだろうかと思ったが、1年で習う範囲と似ている。
でも、問題をしっかりと読んでみれば、ぱっと見は似ていても、使う公式や意味が違う。
けれど、教科書に記載のある公式を用いれば解けるのだろう。そういうところは、同じだ。
「何がわからないんですか。この公式を使えばいいだけデショ。」
月島は、数学の小テストを覗き込む。
最初の3問目までは、なんとか解こうとした努力が見られた。
式の周囲に幾つもの数字が書き込まれている。結果、見たこともない公式を生み出し、全くあり得ない数字を答えに出している。
その後はもう諦めの境地だ。
全ての答えを「x=2」と書いている。そして、その中の一つがたまたま当たっていて、5点をもらっている。
これが、毎回5点のカラクリのようだ。
「公式っていっぱいあるんだよ?
それをさ、問題を見て、これはこの公式、こっちはこの公式なんて
みんな、どうやって判断してるの?超能力?」
「…超能力なんじゃないですかぁ?」
説明するのも面倒になって、月島は適当に答える。
もちろん、煽るためだけの意地悪な笑みは忘れない。
でも、今回だけは、なぜかとても落ち込んでいる名前に煽りは通じなかった。
「はぁ…、私はまず超能力を学んだ方がいいかも。
そしたら、隣の席の頭いいあの子の頭の中を覗き込んで、答えを書けるのに。」
名前が、小テストを顔面に押し当てて絶望的に呟く。
それは、超能力を利用したカンニングなのではーーーそう思ったけれど、いちいち指摘もしなかった。
テストの点数が最悪だろうが、なんだかんだと嘆きつつも、そこまで気にしていなかった名前が、今日はやけに落ち込んでいる。
「まずは公式を覚えるところから始めたらいいんじゃないですか?」
月島は、正しい指摘をした。
小テストの解答をみる限り、名前の場合「どの公式を使えばいいのか判断できない」という問題以前に、公式を覚えていない。
適当に式を組み立てて、未知の数字を導き出しているだけだ。
月島からの正しい指摘に、名前はまた「うーーーん。」と唸り声を出して悩み出す。
そしてーーー。
「…あ!」
名前が、何かを思いついたらしい。
どうせ、しょうもない事だ。
「教科書を食べたらさ!公式、覚えるかな!?」
名前が、血走った目で月島を見た。
握りしめる小テストのプリントは、彼女の拳の力に負けてグシャっと皺を作って潰れ始めている。
掃除の時間。今日も時間通りに非常階段の扉を開けた名前は、珍しく暗い顔をしていた。
力無くぶら下がる両腕の先では、数学の教科書が握られている。
どうせまた数学の小テストで5点をとって、再テストをさせられるとかそういうことなのだろう。
月島は気にしないことにして、自分の掃除を続ける。
相手にされないことを分かっていたのか、それとも気にする余裕すらもないのか。名前は、非常階段を数段降りたところに座ると、ひとつ上の階段を机にして数学の教科書とプリントを開いた。
数学の教科書にはシャーペンも挟んでいたようだ。シャーペンを握りしめて、数学の教科書とプリントを交互に睨みつけては「うーーーー。」と唸り声を上げ始めた。
一体、彼女は、この掃除の時間をなんだと思っているのだろう。
そもそも彼女の担当の掃除場所は、3年1組の教室なのだ。
それなのに、「良い隠れ家を見つけた!」と喜んで、毎日毎日、月島の担当掃除場所である非常階段にやってきては、楽しかったことやどうでもいい悩み事を話して、時間が来たら「授業嫌だぁ。」と肩を落として帰っていく。
名前に掃除場所がバレたあの日から、月島が1人でゆっくりと過ごす平穏は奪われてしまった。
「唸ってても問題は解けないですよ。」
適当に掃除を終わらせて、月島は、名前が机代わりにしている階段に腰を下ろした。
思った通り、名前が睨んでいるのは丸つけ済みの小テストだった。ほとんどが間違いで、点数は安定の5点だ。毎回、奇跡的に1問だけ勘が当たっているようだ。
名前の役に立っているとは思えない数学の教科書を手に取ってみる。
因数分解を使ってxとyを用いた式を解く問題のようだ。
3年の数学はどんな問題なのだろうかと思ったが、1年で習う範囲と似ている。
でも、問題をしっかりと読んでみれば、ぱっと見は似ていても、使う公式や意味が違う。
けれど、教科書に記載のある公式を用いれば解けるのだろう。そういうところは、同じだ。
「何がわからないんですか。この公式を使えばいいだけデショ。」
月島は、数学の小テストを覗き込む。
最初の3問目までは、なんとか解こうとした努力が見られた。
式の周囲に幾つもの数字が書き込まれている。結果、見たこともない公式を生み出し、全くあり得ない数字を答えに出している。
その後はもう諦めの境地だ。
全ての答えを「x=2」と書いている。そして、その中の一つがたまたま当たっていて、5点をもらっている。
これが、毎回5点のカラクリのようだ。
「公式っていっぱいあるんだよ?
それをさ、問題を見て、これはこの公式、こっちはこの公式なんて
みんな、どうやって判断してるの?超能力?」
「…超能力なんじゃないですかぁ?」
説明するのも面倒になって、月島は適当に答える。
もちろん、煽るためだけの意地悪な笑みは忘れない。
でも、今回だけは、なぜかとても落ち込んでいる名前に煽りは通じなかった。
「はぁ…、私はまず超能力を学んだ方がいいかも。
そしたら、隣の席の頭いいあの子の頭の中を覗き込んで、答えを書けるのに。」
名前が、小テストを顔面に押し当てて絶望的に呟く。
それは、超能力を利用したカンニングなのではーーーそう思ったけれど、いちいち指摘もしなかった。
テストの点数が最悪だろうが、なんだかんだと嘆きつつも、そこまで気にしていなかった名前が、今日はやけに落ち込んでいる。
「まずは公式を覚えるところから始めたらいいんじゃないですか?」
月島は、正しい指摘をした。
小テストの解答をみる限り、名前の場合「どの公式を使えばいいのか判断できない」という問題以前に、公式を覚えていない。
適当に式を組み立てて、未知の数字を導き出しているだけだ。
月島からの正しい指摘に、名前はまた「うーーーん。」と唸り声を出して悩み出す。
そしてーーー。
「…あ!」
名前が、何かを思いついたらしい。
どうせ、しょうもない事だ。
「教科書を食べたらさ!公式、覚えるかな!?」
名前が、血走った目で月島を見た。
握りしめる小テストのプリントは、彼女の拳の力に負けてグシャっと皺を作って潰れ始めている。