ep.19 ただなんとなく、君に教えたくない
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「日向、問6の一つ目は?」
月島の問いに、日向がじっと問題を見つめて黙り込む。
部活終わり、部室で始まったのは、中間テスト対策のちょっとした勉強会だった。
7月初旬に東京遠征が行われることになった。音駒高校の猫又監督が、烏野高校の男子バレー部を合宿に誘ってくれたのだ。
その東京遠征に参加するためには、まず中間テストをクリアし、赤点を回避する必要がある。
そのため、赤点常習犯の影山と日向は、背に腹は変えられず、天敵の月島に勉強を見てもらっているというわけだ。
問六は、ことわざの問題だった。
無慈悲な者にも、時に慈悲の心から、涙を流すことがある。という意味のことわざを問うている。
鬼の目にも( )
この( )の中に当てはまる語句を入れ、ことわざを完成させる。よくある問題だ。
しばらくじっと考えた後、日向が徐にシャーペンで答えを書き込む。
鬼の目にも(金ぼう)
日向らしい字で書かれた答えは、残念ながら不正解だった。
せめて、棒を漢字で書ければ、まだよかっただろうか。いや、そういう問題ではない。
「痛い!!」
一緒に勉強を見ていた山口が、両目を手で覆って悶絶する。
どうやら、クールな親友とは違って感受性の豊かな彼は、金棒を目にめり込ませた鬼の姿を想像してしまったようだ。
「お前、鬼に酷いんじゃないか。」
一緒に勉強を教えてもらっていた影山が、自分のことを棚に上げて日向に突っ込む。
毎回、こんな調子だ。
バレーになると、敵だけではなく味方までもを圧倒するような神がかったプレーを発揮する彼らだが、勉強のことになると、本当にダメらしい。
チームメイトを馬鹿にする月島の煽りは、次第に、想像以上に勉強ができ無さすぎる彼らへの怒りに変わっていく。
とうとう月島がキレだしたところで、澤村の号令で部活後の勉強会はお開きとなった。
月島達と同じように赤点回避のためにテスト勉強をしていた2年組も含めて、一斉に片付けが始まる。
「今日も名前さんを迎えに行くのか?」
部室を出て階段を降りながら、影山が月島に訊ねた。
「今日はバイト休みだから、行かない。」
「え!そうなのか!?
じゃあ、どうして来なかったんだー!」
話が聞こえていたらしい日向が、ぶーぶーと文句を垂れる。
バイトが休みの日には部活に顔を出すと約束していた名前だったが、実際来たのは数回程度だ。
名前に懐いている日向としては、もっと彼女とお喋りがしたいらしい。
「名前さん、足に怪我してたから
今日は部活に来ないで帰った方がいいって
俺達が言ったんだよ。」
山口が事情を説明した。
「え!怪我!?」
「大丈夫なのか?」
「さぁ、本人は大丈夫だって笑ってたから
大丈夫なんじゃないの。」
驚く日向と心配をする影山に、月島がサラリと答える。
確かに、本人は大丈夫だと笑っていたけれど、山口にはとても痛そうに見えた。
「保健室で処置もしてもらったし、きっと大丈夫だよ。」
山口がそう付け足せば、日向と影山も安堵したようだった。
「おう、お待たせ〜。」
階段を降りきった先には、清水が立っていた。
清水に向かって、澤村が小さく手を上げる。どうやら、彼女は澤村を待っていたようだ。
「もしかして…!潔子さん、俺のことを待ってくれていたのか…!?」
田中が、瞳をキラキラに輝かせた。
そして、目にも止まらぬ速さで、潔子のもとへ走っていく。いや、飛んで行った。
「いや、どう考えても待ってたのは大地さんだっただろ。」
「アイツの頭の中、本当どうなってんだよ。」
「幸せだよなぁ。」
縁下、木下、成田が、清水の周りで飛び跳ねながら騒いでいる田中を生暖かい目で眺める。
「月島が名前さんを家まで送ってるって聞いてさ
俺たちも清水のことちゃんと送った方がいいかなって話になってさ。」
「そんで、家が同じ方向の大地が清水を途中まで送るって決まったってわけ。」
東峰と菅原が、縁下達に説明した。
そういうわけかと納得すると共に、帰る方向が清水達とは逆の田中に同情もした。
「あ、月島。名前さんに、東京遠征に行くこと言ったか?」
日向が思い出したように言った。
「言ってないけど。」
「じゃあ、俺から言おう!音駒のバレー部に会うって知ったら
名前さん、きっとビックリするぞ。」
日向が楽しそうに言って、ニシシと笑う。
確かにーーー、一瞬、そう思った山口だったけれど、月島は違ったようだ。
わずかに眉を顰めて、表情を硬くした。
「それは、言わないほうがいいんじゃないの?」
月島が言う。
どうしてーーーーそう思ったのは、山口だけではなかった。
影山と日向も不思議そうに首を傾げる。
「なんでだよ。転校前の学校なんだから
俺たちが行くって知ったら、喜びそうだろ。」
日向が言う。
山口も同じように思っていた。
でも、月島は違うのか呆れたように息を吐いた。
「君さ、キャプテンが言ってたこと覚えてないの?」
「キャプテンが?影山、覚えてるか?」
「さぁ?」
日向の隣で影山が首を傾げる。
月島の隣では、山口も首を傾げていた。
「名前さんに、音駒バレー部の話は二度としたくないって
言われたんだったデショ。」
そう言われて、日向がハッとした顔をした。
影山の片眉もピクリと動く。
確かに、GWに行った練習試合の時に澤村がそんなことを言っていたのを山口も思い出した。
「話をぶり返して、挙句に、会いに行くなんて嬉しそうに言っちゃったら
君、大好きな名前先輩に嫌われちゃうかもね。」
月島が意地の悪い笑みを浮かべて、日向を恐怖で煽る。
日向がブルブルと身体を震えさせた。
「俺、ぜってえええ言わねぇ!!」
「そう、勝手にしたら。」
強い決意をした日向を残して、月島がさっさと歩いて行ってしまう。
山口も慌てて月島の背中を追いかけた。
月島の問いに、日向がじっと問題を見つめて黙り込む。
部活終わり、部室で始まったのは、中間テスト対策のちょっとした勉強会だった。
7月初旬に東京遠征が行われることになった。音駒高校の猫又監督が、烏野高校の男子バレー部を合宿に誘ってくれたのだ。
その東京遠征に参加するためには、まず中間テストをクリアし、赤点を回避する必要がある。
そのため、赤点常習犯の影山と日向は、背に腹は変えられず、天敵の月島に勉強を見てもらっているというわけだ。
問六は、ことわざの問題だった。
無慈悲な者にも、時に慈悲の心から、涙を流すことがある。という意味のことわざを問うている。
鬼の目にも( )
この( )の中に当てはまる語句を入れ、ことわざを完成させる。よくある問題だ。
しばらくじっと考えた後、日向が徐にシャーペンで答えを書き込む。
鬼の目にも(金ぼう)
日向らしい字で書かれた答えは、残念ながら不正解だった。
せめて、棒を漢字で書ければ、まだよかっただろうか。いや、そういう問題ではない。
「痛い!!」
一緒に勉強を見ていた山口が、両目を手で覆って悶絶する。
どうやら、クールな親友とは違って感受性の豊かな彼は、金棒を目にめり込ませた鬼の姿を想像してしまったようだ。
「お前、鬼に酷いんじゃないか。」
一緒に勉強を教えてもらっていた影山が、自分のことを棚に上げて日向に突っ込む。
毎回、こんな調子だ。
バレーになると、敵だけではなく味方までもを圧倒するような神がかったプレーを発揮する彼らだが、勉強のことになると、本当にダメらしい。
チームメイトを馬鹿にする月島の煽りは、次第に、想像以上に勉強ができ無さすぎる彼らへの怒りに変わっていく。
とうとう月島がキレだしたところで、澤村の号令で部活後の勉強会はお開きとなった。
月島達と同じように赤点回避のためにテスト勉強をしていた2年組も含めて、一斉に片付けが始まる。
「今日も名前さんを迎えに行くのか?」
部室を出て階段を降りながら、影山が月島に訊ねた。
「今日はバイト休みだから、行かない。」
「え!そうなのか!?
じゃあ、どうして来なかったんだー!」
話が聞こえていたらしい日向が、ぶーぶーと文句を垂れる。
バイトが休みの日には部活に顔を出すと約束していた名前だったが、実際来たのは数回程度だ。
名前に懐いている日向としては、もっと彼女とお喋りがしたいらしい。
「名前さん、足に怪我してたから
今日は部活に来ないで帰った方がいいって
俺達が言ったんだよ。」
山口が事情を説明した。
「え!怪我!?」
「大丈夫なのか?」
「さぁ、本人は大丈夫だって笑ってたから
大丈夫なんじゃないの。」
驚く日向と心配をする影山に、月島がサラリと答える。
確かに、本人は大丈夫だと笑っていたけれど、山口にはとても痛そうに見えた。
「保健室で処置もしてもらったし、きっと大丈夫だよ。」
山口がそう付け足せば、日向と影山も安堵したようだった。
「おう、お待たせ〜。」
階段を降りきった先には、清水が立っていた。
清水に向かって、澤村が小さく手を上げる。どうやら、彼女は澤村を待っていたようだ。
「もしかして…!潔子さん、俺のことを待ってくれていたのか…!?」
田中が、瞳をキラキラに輝かせた。
そして、目にも止まらぬ速さで、潔子のもとへ走っていく。いや、飛んで行った。
「いや、どう考えても待ってたのは大地さんだっただろ。」
「アイツの頭の中、本当どうなってんだよ。」
「幸せだよなぁ。」
縁下、木下、成田が、清水の周りで飛び跳ねながら騒いでいる田中を生暖かい目で眺める。
「月島が名前さんを家まで送ってるって聞いてさ
俺たちも清水のことちゃんと送った方がいいかなって話になってさ。」
「そんで、家が同じ方向の大地が清水を途中まで送るって決まったってわけ。」
東峰と菅原が、縁下達に説明した。
そういうわけかと納得すると共に、帰る方向が清水達とは逆の田中に同情もした。
「あ、月島。名前さんに、東京遠征に行くこと言ったか?」
日向が思い出したように言った。
「言ってないけど。」
「じゃあ、俺から言おう!音駒のバレー部に会うって知ったら
名前さん、きっとビックリするぞ。」
日向が楽しそうに言って、ニシシと笑う。
確かにーーー、一瞬、そう思った山口だったけれど、月島は違ったようだ。
わずかに眉を顰めて、表情を硬くした。
「それは、言わないほうがいいんじゃないの?」
月島が言う。
どうしてーーーーそう思ったのは、山口だけではなかった。
影山と日向も不思議そうに首を傾げる。
「なんでだよ。転校前の学校なんだから
俺たちが行くって知ったら、喜びそうだろ。」
日向が言う。
山口も同じように思っていた。
でも、月島は違うのか呆れたように息を吐いた。
「君さ、キャプテンが言ってたこと覚えてないの?」
「キャプテンが?影山、覚えてるか?」
「さぁ?」
日向の隣で影山が首を傾げる。
月島の隣では、山口も首を傾げていた。
「名前さんに、音駒バレー部の話は二度としたくないって
言われたんだったデショ。」
そう言われて、日向がハッとした顔をした。
影山の片眉もピクリと動く。
確かに、GWに行った練習試合の時に澤村がそんなことを言っていたのを山口も思い出した。
「話をぶり返して、挙句に、会いに行くなんて嬉しそうに言っちゃったら
君、大好きな名前先輩に嫌われちゃうかもね。」
月島が意地の悪い笑みを浮かべて、日向を恐怖で煽る。
日向がブルブルと身体を震えさせた。
「俺、ぜってえええ言わねぇ!!」
「そう、勝手にしたら。」
強い決意をした日向を残して、月島がさっさと歩いて行ってしまう。
山口も慌てて月島の背中を追いかけた。