「今朝はありがとうな！なまえのおかげで、新兵に嫌われずに済んだぜ！」

豪快にワハハと笑うゲルガーさんは、今朝とは別人のようだった。
顔色も良くなっているし、二日酔いからは完全に復活したようで、安心する。

「それならよかったです。」

ニコリと微笑みながら、私はすぐ横に立っている兵長さんをチラリと盗み見る。

（ヒッ…ッ。）

吊り上がった目、真一文字に結ばれた口に、背中からはこの食堂を包んでしまいそうなほどに禍々しいオーラが発せられている。
昔、子供の頃に見たことがある悪魔がそこにいた。

「おい、ゲルガー。」

地を這うような声が、聞こえた。
まずい、悪魔が喋りだしてしまった。
怯える私には、低い地響きに聞こえるほど恐ろしかったというのに、ゲルガーさんは、ありえないことを言い出した。

「おぉ、リヴァイ兵長。いたんすか。
　全く気付きませんでした。なんでかは聞かねぇでください！」
「…。」

ブワッと鳥肌が立つほどに、兵長さんが背負う禍々しいオーラは力を増したというのに、ゲルガーさんは気づく様子もなく、ワッハッハ、と笑う。
私はずっと、彼のことを、明るくて、お調子者で、とても楽しい人だと思っていた。
でも今日、そのイメージを改める。
彼は、バカだ。空気が読めないバカだ。

「お前がどうしてなまえに会いに食堂に来るのか、
　正直に話せ。」
「それが、今朝、二日酔いで何も食えてねぇ俺になまえが、
　二日酔いに効く朝食を用意してくれたんですよ。
　おかげで、新兵の頭にゲロ雨を降らせずにすみました。」

ゲルガーさんが、嬉しそうに言う。
空気を読まないおかげで、私が兵長さんに説明しようとしていたことを彼が代わりに伝えてくれたカタチだ。
さすがに、おかしな勘違いをしていた兵長さんも、能天気な彼の姿を前にして、嘘を吐かれているとは思わなかったらしく、やっと私はホッ吐息を吐く。

「ところで、リヴァイ兵長はここで何してるんですか？
　食事前に食堂に来るのなんて、サシャくらいなもんなのに。」

ゲルガーさんが不思議そうに首を傾げる。
兵長さんは、すぐに答えた。

「それは、俺がなまえの恋人だからだ。」

兵長さんは、とても堂々と宣言した。