Q22.好きになってもいいですか?
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目を覚ました後、リヴァイ兵長は医療兵の診察を受けた。
高熱はまだ続いていて、身体にもうまく力が入らないようだ。
けれど、薬が効いたのか、細菌は数を減らしていて、細菌感染については数日で良くなるだろうと診断され、リヴァイ兵長よりも私の方がホッとしていた。
でもそれも、ベッドで安静にしていたらーーーの話だ。
医療兵が帰った後、リヴァイ兵長をまたベッドの中に押し込んだ私は甲斐甲斐しく看病をしている。フリをして、リヴァイ兵長に吐いた嘘を白状し、謝るタイミングを探っている。
「紅茶を淹れたんですけど、飲みますか?
少しくらいなら大丈夫だって、医療兵さんからも許可を貰ったので。」
「あぁ…、貰う。」
肯定の返事をもらって、安堵の息を吐き、私は奥の給湯室へと向かった。
棚の上には、以前、リヴァイ兵長にも付き合ってもらって一緒に買った紅茶の葉が、カゴの中で綺麗に並んで置かれている。
その中から、私は記憶を頼りに、カフェインが少なめで、睡眠導入によく効くという紅茶の葉を選んだ。
紅茶を淹れて部屋に戻ると、リヴァイ兵長はソファに座って待っていた。
本音を言えばベッドで寝ていて欲しかったけれど、紅茶を飲むには、ソファの方が落ち着くということなのだろうと思えば、指摘することは出来なかった。
私は、ソファの前にあるローテーブルに、まずはソーサーを置いてから、その上にそっとティーカップを乗せた。
「どうぞ。」
「あぁ、ありがとう。」
リヴァイ兵長がティーカップに手を伸ばす。
そして、紅茶を口に運ぶところまで確認して、私は、向かい合うソファに腰を下ろした。
「リヴァイ兵長に、謝らないといけないことがあるんです。
聞いて、くれますか…?」
不安と緊張で、声が微かに震えていた。
そんな私を真っ直ぐに見るリヴァイ兵長の目は、今すぐにでも逃げたくなっている嘘つきな弱虫とは違って、凛としていてとても綺麗だ。その綺麗な瞳に、私を映すのは、勿体ない。私は、その瞳に映る価値はないし、相応しくもない。
でも、今だけは私を見ていてほしい。話を聞いてほしい。それがただの私の自己満足だとわかっているけれど、我儘にもそう願ってしまっているのだ。
「ーーーあぁ、構わない。」
少し間をあけて、リヴァイ兵長が頷く。
そして、そっと、音も立てずにティーカップをソーサーの上に戻した。
「リヴァイ兵長が見つけてくれたこの指輪のことです。
すごく好きな人から貰ったもので、永遠にその人を愛し続けると伝えました。」
「あぁ、覚えてる。」
「それは、嘘じゃないです。」
「分かってる。なまえは嘘を吐くような女じゃねぇ。」
リヴァイ兵長がキッパリと答える。
信じてる、というよりも、明白な事実を口にしているような口ぶりだった。
こんなに信じてくれていたのか、と胸の奥がギュッと締まって苦しくなる。
嬉しいとも、悲しいとも違う悲鳴が、心の奥から聞こえた。
リヴァイ兵長からの信頼を利用して、自分を守るために最低なことをしたのだと、改めて思い知らされている。
「私にこの指輪をくれた人は…、」
「聞かなくていい。知りたくねぇ。」
「両親です。」
スッと目を逸らしたリヴァイ兵長に、しっかり聞こえるように、私はハッキリと言葉にした。
その瞬間、時が止まったみたいだった。
シンと静まり返った部屋で、私の心臓の音だけがバクバクと響いていた。
しばらくすると、リヴァイ兵長が私の方を向いた。
目が合う。それを合図にして、私は話を続ける。
「両親は、シガンシナ区への巨人襲撃の日に、飛んできた大岩から私を守るように庇って…死にました。
これは、父が母に贈った結婚指輪で、大きな岩に押し潰されずに済んだ母の左手にはめられていたものです。
そして、私が唯一、あの日、シガンシナ区から持ち出せた両親の形見でした。」
「…そうか。それは、大切なものだな。」
「はい。とても大切なものです。
私は、そんな命よりも大切なこの指輪を利用して、わざと、リヴァイ兵長を勘違いさせました。」
リヴァイ兵長が僅かに眉を顰める。
そこにあるのは、嫌悪感というよりも、困惑の方が強いように見えた。
どうしてそんなことをーーーーーまるで、そう言っているみたいだった。
いつだってまっすぐで、自分に自信があって、強くて凛々しいリヴァイ兵長には、自信のない私の気持ちは分からないに決まってる。
自信が無くて、怖くて、傷つかないために、不必要な鎧を何重にも心に重ねて、自分の気持ちを隠す。そんな弱虫な愚か者の気持ちを理解するのは、リヴァイ兵長には難しいかもしれない。
でも、だからって、分からないからもういい、と突き放すことも、諦めることも、もうしたくない。
私は、リヴァイ兵長に近づきたいし、叶うのなら、リヴァイ兵長にも近づいてほしい。解ろうとして欲しい。分かってくれなくたっていいのだ。解ろうとして欲しい。
「怖かったんです。」
いよいよ、訝しげな表情を浮かべてリヴァイ兵長は首を傾げてしまった。
でも私は、気にせずそのまま続けた。
「どうして、リヴァイ兵長が私のそばにいようとするのか。
恋人という関係も、また…、プロポーズするって言葉も私には分からなくて…、
怖かったんです。」
「なにが分からないんだ?俺の説明が足りなかったのか?」
リヴァイ兵長が訊ねる。
解ろうとしてくれている。それだけが嬉しくて、安堵した。
だけど私は、自虐的な笑みを浮かべて、やわやわと首を横に振った。
「リヴァイ兵長と一緒に過ごす時間が長くなればなるほど、
優しさとか知って、素敵な人だなって思うようになって、
隣に誰かがいる温かさとか心地よさとかを思い出しちゃって、…怖かった。」
込み上げてくる涙が瞳に膜を張っていくのが分かって、私は目を伏せた。
泣いているところをリヴァイ兵長に見られるわけにはいかない、と思った。
「いつか、リヴァイ兵長が離れて行ってしまうなら、
きっと早い方がいい。そう思って、わざとリヴァイ兵長が離れていくように
仕向けたんです。」
一気に言ってからゆっくりと顔を上げると、リヴァイ兵長と目が合った。
私の言葉の意味を咀嚼しながら、なんとか解ろうとしてくれているのだろうか。
真剣な表情を見ると、なんとなくそう思えた。
リヴァイ兵長の最初の印象は、怖い人。その次の印象は、空気が読めない変な人。
でも今、私が知っているリヴァイ兵長は、解ろうとしてくれる人。
分からない他人の気持ちをを、分からないからいい、と終わらせようとはしない。ちゃんと理解しようとする。リヴァイ兵長は、そういう人だ。
だから、怖くなったのだ。
私の気持ちを見透かされてしまいそうだった。
想像したくないのに、しちゃうのだ。
いつか、リヴァイ兵長が離れていったら、私はどうなっちゃうんだろう?
急に恋人になったみたいに、今度はいきなり恋人じゃなくなったら?
きっと私は、世界がバラバラに壊れていくみたいな感覚に陥って、膝から崩れ落ちると、人生でこんなに泣いたことないってくらいに大泣きするだろう。
これでもかというほどに傷ついて、多分一生、癒えない。
もちろん、調査兵団で調理師の仕事なんて続けられるわけもなくて、私はリヴァイ兵長と共に職まで失う。
だから、これ以上、好きになる前にどうにかしなきゃと思った。
「好き、なんです。
リヴァイ兵長がいなくなったらって想像するのも怖いくらい好き、なんです。」
リヴァイ兵長の切長の瞳が、ゆっくりと見開かれていく。
想像もしていなかったのだろう。でももう、彼は、私の気持ちを知ってしまった。
私がリヴァイ兵長のことを好きだと知って、どう思っただろう。
迷惑だろうか。都合が良い、とかだろうか。
それともーーーーーー嬉しい、とか。それはないのかな。
リヴァイ兵長が驚いた表情のまま固まってしまうから、余計に分からなくて、怖い。不安で、緊張で、吐きそうだ。
「だから、わざと勘違いさせました。
そのせいで、リヴァイ兵長にご迷惑をお掛けしてしまって…
本当に、すみませんでした。」
私は、立ち上がると、頭を下げた。
許して欲しかったわけじゃない。
ただ、気持ちを伝えたかっただけだから、これでいい。
「それじゃ、私はもう部屋に戻ります。
紅茶を飲んだら、ゆっくり休んでください。後で眠った頃に片付けにきます。」
私は早口でそれだけ言うと、逃げるように扉に足を向けた。
背を向けた途端、手首を掴まれた。
あーーーー思った時にはもう、手首を引っ張られて後ろに倒れかけて抱き止められた。
気づいたら、私はリヴァイ兵長の腕の中だった。
体温の高いリヴァイ兵長の腕の中は、真冬に何重にもした毛布に包まっているみたいに温かくて、すごく落ち着いた。
「指輪の話は、理解した。」
リヴァイ兵長の低い声が、耳元のすぐそばから届く。
「なまえの気持ちも、理解した。」
ドキリと心臓が悲鳴を上げて、私はリヴァイ兵長の肩に顔を埋めるように伏せた。
「怖い気持ちも、よく分かる。」
意外だった。
そういう気持ちをリヴァイ兵長も知っているのか。
それは、誰に対してだろう。
恋焦がれて胸が苦しくなる、そんな風になるほど好きになった人がいたのだろうか。もしかして、今もーーーー。
「なまえが怖がる必要は何ひとつねぇことも、よく分かってる。」
リヴァイ兵長はそう言うと、私を抱きしめる腕に力を込めた。
「俺は、なまえから離れていかねぇから。
不安になることは何もねぇ。それだけは、知ってる。」
「…離れていかないんですか?」
「あぁ。絶対に。」
「…私、また不安になって、逃げちゃうかもしれないです。」
「そしたらまた捕まえに行く。」
私は返事の代わりにコクリと頷いて、リヴァイ兵長の背中に手を回した。
ギュっと抱きついて、シャツ越しに背中を握りしめる。
捕まったのは多分、私じゃなくて、リヴァイ兵長なんじゃないかなーーーーそんなことを考えながら、耳元から聞こえてくる好きな人の息遣いを聞いていた。
高熱はまだ続いていて、身体にもうまく力が入らないようだ。
けれど、薬が効いたのか、細菌は数を減らしていて、細菌感染については数日で良くなるだろうと診断され、リヴァイ兵長よりも私の方がホッとしていた。
でもそれも、ベッドで安静にしていたらーーーの話だ。
医療兵が帰った後、リヴァイ兵長をまたベッドの中に押し込んだ私は甲斐甲斐しく看病をしている。フリをして、リヴァイ兵長に吐いた嘘を白状し、謝るタイミングを探っている。
「紅茶を淹れたんですけど、飲みますか?
少しくらいなら大丈夫だって、医療兵さんからも許可を貰ったので。」
「あぁ…、貰う。」
肯定の返事をもらって、安堵の息を吐き、私は奥の給湯室へと向かった。
棚の上には、以前、リヴァイ兵長にも付き合ってもらって一緒に買った紅茶の葉が、カゴの中で綺麗に並んで置かれている。
その中から、私は記憶を頼りに、カフェインが少なめで、睡眠導入によく効くという紅茶の葉を選んだ。
紅茶を淹れて部屋に戻ると、リヴァイ兵長はソファに座って待っていた。
本音を言えばベッドで寝ていて欲しかったけれど、紅茶を飲むには、ソファの方が落ち着くということなのだろうと思えば、指摘することは出来なかった。
私は、ソファの前にあるローテーブルに、まずはソーサーを置いてから、その上にそっとティーカップを乗せた。
「どうぞ。」
「あぁ、ありがとう。」
リヴァイ兵長がティーカップに手を伸ばす。
そして、紅茶を口に運ぶところまで確認して、私は、向かい合うソファに腰を下ろした。
「リヴァイ兵長に、謝らないといけないことがあるんです。
聞いて、くれますか…?」
不安と緊張で、声が微かに震えていた。
そんな私を真っ直ぐに見るリヴァイ兵長の目は、今すぐにでも逃げたくなっている嘘つきな弱虫とは違って、凛としていてとても綺麗だ。その綺麗な瞳に、私を映すのは、勿体ない。私は、その瞳に映る価値はないし、相応しくもない。
でも、今だけは私を見ていてほしい。話を聞いてほしい。それがただの私の自己満足だとわかっているけれど、我儘にもそう願ってしまっているのだ。
「ーーーあぁ、構わない。」
少し間をあけて、リヴァイ兵長が頷く。
そして、そっと、音も立てずにティーカップをソーサーの上に戻した。
「リヴァイ兵長が見つけてくれたこの指輪のことです。
すごく好きな人から貰ったもので、永遠にその人を愛し続けると伝えました。」
「あぁ、覚えてる。」
「それは、嘘じゃないです。」
「分かってる。なまえは嘘を吐くような女じゃねぇ。」
リヴァイ兵長がキッパリと答える。
信じてる、というよりも、明白な事実を口にしているような口ぶりだった。
こんなに信じてくれていたのか、と胸の奥がギュッと締まって苦しくなる。
嬉しいとも、悲しいとも違う悲鳴が、心の奥から聞こえた。
リヴァイ兵長からの信頼を利用して、自分を守るために最低なことをしたのだと、改めて思い知らされている。
「私にこの指輪をくれた人は…、」
「聞かなくていい。知りたくねぇ。」
「両親です。」
スッと目を逸らしたリヴァイ兵長に、しっかり聞こえるように、私はハッキリと言葉にした。
その瞬間、時が止まったみたいだった。
シンと静まり返った部屋で、私の心臓の音だけがバクバクと響いていた。
しばらくすると、リヴァイ兵長が私の方を向いた。
目が合う。それを合図にして、私は話を続ける。
「両親は、シガンシナ区への巨人襲撃の日に、飛んできた大岩から私を守るように庇って…死にました。
これは、父が母に贈った結婚指輪で、大きな岩に押し潰されずに済んだ母の左手にはめられていたものです。
そして、私が唯一、あの日、シガンシナ区から持ち出せた両親の形見でした。」
「…そうか。それは、大切なものだな。」
「はい。とても大切なものです。
私は、そんな命よりも大切なこの指輪を利用して、わざと、リヴァイ兵長を勘違いさせました。」
リヴァイ兵長が僅かに眉を顰める。
そこにあるのは、嫌悪感というよりも、困惑の方が強いように見えた。
どうしてそんなことをーーーーーまるで、そう言っているみたいだった。
いつだってまっすぐで、自分に自信があって、強くて凛々しいリヴァイ兵長には、自信のない私の気持ちは分からないに決まってる。
自信が無くて、怖くて、傷つかないために、不必要な鎧を何重にも心に重ねて、自分の気持ちを隠す。そんな弱虫な愚か者の気持ちを理解するのは、リヴァイ兵長には難しいかもしれない。
でも、だからって、分からないからもういい、と突き放すことも、諦めることも、もうしたくない。
私は、リヴァイ兵長に近づきたいし、叶うのなら、リヴァイ兵長にも近づいてほしい。解ろうとして欲しい。分かってくれなくたっていいのだ。解ろうとして欲しい。
「怖かったんです。」
いよいよ、訝しげな表情を浮かべてリヴァイ兵長は首を傾げてしまった。
でも私は、気にせずそのまま続けた。
「どうして、リヴァイ兵長が私のそばにいようとするのか。
恋人という関係も、また…、プロポーズするって言葉も私には分からなくて…、
怖かったんです。」
「なにが分からないんだ?俺の説明が足りなかったのか?」
リヴァイ兵長が訊ねる。
解ろうとしてくれている。それだけが嬉しくて、安堵した。
だけど私は、自虐的な笑みを浮かべて、やわやわと首を横に振った。
「リヴァイ兵長と一緒に過ごす時間が長くなればなるほど、
優しさとか知って、素敵な人だなって思うようになって、
隣に誰かがいる温かさとか心地よさとかを思い出しちゃって、…怖かった。」
込み上げてくる涙が瞳に膜を張っていくのが分かって、私は目を伏せた。
泣いているところをリヴァイ兵長に見られるわけにはいかない、と思った。
「いつか、リヴァイ兵長が離れて行ってしまうなら、
きっと早い方がいい。そう思って、わざとリヴァイ兵長が離れていくように
仕向けたんです。」
一気に言ってからゆっくりと顔を上げると、リヴァイ兵長と目が合った。
私の言葉の意味を咀嚼しながら、なんとか解ろうとしてくれているのだろうか。
真剣な表情を見ると、なんとなくそう思えた。
リヴァイ兵長の最初の印象は、怖い人。その次の印象は、空気が読めない変な人。
でも今、私が知っているリヴァイ兵長は、解ろうとしてくれる人。
分からない他人の気持ちをを、分からないからいい、と終わらせようとはしない。ちゃんと理解しようとする。リヴァイ兵長は、そういう人だ。
だから、怖くなったのだ。
私の気持ちを見透かされてしまいそうだった。
想像したくないのに、しちゃうのだ。
いつか、リヴァイ兵長が離れていったら、私はどうなっちゃうんだろう?
急に恋人になったみたいに、今度はいきなり恋人じゃなくなったら?
きっと私は、世界がバラバラに壊れていくみたいな感覚に陥って、膝から崩れ落ちると、人生でこんなに泣いたことないってくらいに大泣きするだろう。
これでもかというほどに傷ついて、多分一生、癒えない。
もちろん、調査兵団で調理師の仕事なんて続けられるわけもなくて、私はリヴァイ兵長と共に職まで失う。
だから、これ以上、好きになる前にどうにかしなきゃと思った。
「好き、なんです。
リヴァイ兵長がいなくなったらって想像するのも怖いくらい好き、なんです。」
リヴァイ兵長の切長の瞳が、ゆっくりと見開かれていく。
想像もしていなかったのだろう。でももう、彼は、私の気持ちを知ってしまった。
私がリヴァイ兵長のことを好きだと知って、どう思っただろう。
迷惑だろうか。都合が良い、とかだろうか。
それともーーーーーー嬉しい、とか。それはないのかな。
リヴァイ兵長が驚いた表情のまま固まってしまうから、余計に分からなくて、怖い。不安で、緊張で、吐きそうだ。
「だから、わざと勘違いさせました。
そのせいで、リヴァイ兵長にご迷惑をお掛けしてしまって…
本当に、すみませんでした。」
私は、立ち上がると、頭を下げた。
許して欲しかったわけじゃない。
ただ、気持ちを伝えたかっただけだから、これでいい。
「それじゃ、私はもう部屋に戻ります。
紅茶を飲んだら、ゆっくり休んでください。後で眠った頃に片付けにきます。」
私は早口でそれだけ言うと、逃げるように扉に足を向けた。
背を向けた途端、手首を掴まれた。
あーーーー思った時にはもう、手首を引っ張られて後ろに倒れかけて抱き止められた。
気づいたら、私はリヴァイ兵長の腕の中だった。
体温の高いリヴァイ兵長の腕の中は、真冬に何重にもした毛布に包まっているみたいに温かくて、すごく落ち着いた。
「指輪の話は、理解した。」
リヴァイ兵長の低い声が、耳元のすぐそばから届く。
「なまえの気持ちも、理解した。」
ドキリと心臓が悲鳴を上げて、私はリヴァイ兵長の肩に顔を埋めるように伏せた。
「怖い気持ちも、よく分かる。」
意外だった。
そういう気持ちをリヴァイ兵長も知っているのか。
それは、誰に対してだろう。
恋焦がれて胸が苦しくなる、そんな風になるほど好きになった人がいたのだろうか。もしかして、今もーーーー。
「なまえが怖がる必要は何ひとつねぇことも、よく分かってる。」
リヴァイ兵長はそう言うと、私を抱きしめる腕に力を込めた。
「俺は、なまえから離れていかねぇから。
不安になることは何もねぇ。それだけは、知ってる。」
「…離れていかないんですか?」
「あぁ。絶対に。」
「…私、また不安になって、逃げちゃうかもしれないです。」
「そしたらまた捕まえに行く。」
私は返事の代わりにコクリと頷いて、リヴァイ兵長の背中に手を回した。
ギュっと抱きついて、シャツ越しに背中を握りしめる。
捕まったのは多分、私じゃなくて、リヴァイ兵長なんじゃないかなーーーーそんなことを考えながら、耳元から聞こえてくる好きな人の息遣いを聞いていた。
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