泥だらけで自室に帰ってきた私は、冷たいシャワーを浴びた。
これで少しは頭が冷えてくれたらいいと願ったけれど、そう簡単には行かない。
シャワーを終えて、身体についた汚れが洗い流されたあとも、あの裏庭の池よりもどす黒く汚れた感情が私の心にへばりついて離れない。
偶々、来週の献立のことで相談があるとやってきたハンジさんに、今日は具合が悪いから夕食の調理を休ませてもらいたいと伝えた。初めて、体と心がうまく動かないという自分勝手な理由で、仕事をサボってしまった。
お気に入りの椅子に座ると、両膝を抱きしめるように引き寄せる。

「明日、また探そ…。」

膝に頬をつけて、ぼんやりと窓の外を眺めながら呟く。
今日はもうシャワーを浴びてしまったし、今からまたあの池に指輪を探しに行く気力はない。
それに、空はもう暗い。こんな暗闇の中では、見つかるものも見つからない。動物の死体が眠る池に入るのだって、怖い。
明日の朝、朝食の片付けまで終わらせたら、すぐに裏庭に行って、また指輪を探そう。
午前中見つからなければ、昼食の片付けを終えてからまた探しに行けばいい。
見つかるまで、何度だって、何度だって、探せばきっとーーーーー。

「パパ、ママ…、ごめんなさい。」

視界が滲んで、涙が頬を伝って落ちていく。
両親が大切にしていた指輪。両親が亡くなってからは、肌身離さず大切に守ってきた指輪。きっともう、見つからない。あんな泥水で視界が悪いどころか、地面に触れれば触れるほど、文字通り泥沼にはまっていくだけだ。
大切な指輪を自分勝手に利用して、リヴァイ兵長を突き放した。その上、リヴァイ兵長を突き飛ばしてしまった。
今更になって、リヴァイ兵長の優しさとか、嬉しかったこととかが、ぶわっと溢れ出してくる。
そのどれも、きっともう二度と、私はリヴァイ兵長から貰えない。
それが私が、指輪についてしまった嘘の代償だ。