「お前の作るスープを死ぬまで飲ませてくれ。」

深夜の食堂に、【私が言われたプロポーズのセリフランキング】の3位にそっくりなセリフが静かに聞こえた。
グラスにおかわりの水を注ごうとしていた私の手が、思わず止まる。
雑誌に『君の作るスープを一生飲ませて欲しい』と書いているのを読んだのは昨日の夜のことだったから、プロポーズのセリフを言われたと思ってしまったのだ。
でも、すぐに勘違いだと気づく。
だって、ここは、調査兵団の兵舎にある食堂。
兵長さんは調査兵で、私は、調査兵の栄養管理をするために数か月前から彼らに雇われている栄養管理士兼調理師だ。
今、こんな真夜中にふたりきりで食堂にいるのだって、兵長さんが食事に関して不真面目で、目を離すと1日中何も食べずに、口にしたのは紅茶だけなんてこともよくある彼の悪い習慣のせいであって、それ以上でもそれ以下でもない。
管理栄養士としても雇われている私にとって、彼は調査兵の中で一番の問題児だ。そして、人類にとってはいつかきっと世界を助けてくれる救世主でもある。
だから、何時でも構わないから、食事をしたいと思った時に、声をかけてくれるようにお願いしたのだ。
それからは、こうして真夜中に私の部屋にやってきては『腹が減ったかもしれない』と曖昧なことを言うので、食べやすいメニューにしつつも栄養のある軽食を食堂で食べてもらっている。
時間外労働どころか、夜くらいはゆっくりしたいけれど、人類最強の兵士に栄養失調で倒れられて、責任の所在を問われることになるよりはマシだ。
とにかく、だからこそ、今の彼からのセリフは、プロポーズではなくて、雇い主からの最高級の誉め言葉なのだということは、明らかだったのだ。

「ありがとうございます。私も調査兵の皆様の為に、いつまでもスープを作ることが出来るように頑張ります。
　だから兵長さんも、何度壁外調査に出ても、元気に帰ってきてくださいね。」

私が礼を言うと、兵長さんは少し考えるように視線を斜め上に向けた。
それからすぐに、スプーンとお皿をテーブルに戻してから、口を開く。

「クソ。バカか。違ぇ。」
「違う？」
「俺の嫁になってくれと言ったんだ。」







まさかのプロポーズの方でした。
※プロポーズの言葉が、2位に繰り上げられました。