Q18. 嫌いになりましたか?
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「調子に乗らないでくれる?下衆女。」
ドンっという音を背中で聞いた直後、頭上から投げ捨てられた暴言に、私は呆気に取られていた。
呆然と見上げる私を、見覚えのある調査兵の女性3名が冷たい目で見下ろしている。
床に叩きつけられた時に尻に走った激痛も、自分を守るために床についた手にジンジンと響く鈍痛も、分からないくらいに思考が停止していた。
彼女たちには、普段から冷たい態度を取られていたし、あまりよく思われていないのは知っていた。
でも、こんなにあからさまに攻撃的なことをされたのは初めてだ。
『リヴァイ兵長は、訓練前に甘いものは好みません。
何よりも体調を大事にする方ですから、お疲れになった訓練後にお持ちした方が良いと思います。』
慌しかった昼食時も過ぎ、漸く私も休憩をしようと、食堂から自室に戻る途中だった。
見覚えのある調査兵の女性達が、ストヘス区で流行っているという菓子をもらったからリヴァイ兵長に持っていこうと話している声が聞こえてきた。
リヴァイ兵長は一見冷たくて、とても怖い人だけれど、私がこの調査兵団兵舎で働くようになった頃には既に調査兵達から絶大な信頼と尊敬を受けていた。ほんの少しだけれど、リヴァイ兵長の優しさを知った今になっては、彼が部下に慕われている理由も納得できるようになった。
だからきっと、彼女たちが自分に贈り物をくれたと知れば、表情には出さずとも喜ぶだろう。
けれど、訓練前に甘いものをもらってしまったら、彼は困るだろうし、困った様子の彼を見た彼女たちも残念な気持ちになると思ったのだ。
だから声をかけたのだけれど、冷たく見下ろす彼女たちの顔を見上げ、事態を飲み込んでいくうちに、出過ぎた真似だったのだと理解していく。
彼女達はきっと、私に恥をかかされたと思っているのだろうし、私もまたリヴァイ兵長とのよく分からない恋人という関係も解消されたのに、口出しするべきではなかった。
そうだ。私はもう、リヴァイ兵長の恋人ではないのだーーーー。
リヴァイ兵長が私の部屋から出て行った。あの日から一週間が経っていた。
出張もあって、あれからずっとリヴァイ兵長が兵舎にいたわけではない。でも、リヴァイ兵長が兵舎に戻っているという話は聞こえてきても、実際に、彼に会うことはなかった。
リヴァイ兵長は、いつものように勝手に私の部屋の扉は開けなかったし、食事もペトラさんが用意しているようだった。
ここ一週間、私はリヴァイ兵長の想像の斜め上をいく意味のわからない言動に振り回されていないということだ。
そんな喜ばしい当然の事実のせいで、涙が溢れそうになって、私は唇を噛んだ。
「へ〜、こんなもの貰っちゃったから、思わず調子に乗っちゃったんだぁ。」
1人が、膝を折って屈むと、私のブラウスのあたりに手を伸ばした。
彼女が触れたのは、両親の肩身である指輪だった。
ネックレスにしてつけているそれは、いつもブラウスの下に隠してある。でも、後ろに倒れ込んだ時の衝撃で、飛び出してしまっていたようだ。
「え、なになに?」
「ほら、見てよ!コレ!まじムカつくんだけど!」
指輪を掴んだ彼女はそう言って、乱暴にネックレスの鎖を引きちぎった。
「あっ。」
奪われた指輪に手を伸ばすけれど、それよりも彼女が立ち上がってしまうのが早かった。
両脇の調査兵達が、彼女の手元を覗き込む。そして、嘲笑を浮かべた。
「だっさ〜、宝石のひとつもついてないじゃん。」
「こんな安物の指輪を貰っちゃうなんて、むしろ恥じゃない?」
「でしょ。本気で愛してるなら、もっと良いもの買うわ。
お金はあっても、お前には使いたくないって気持ちがまる分かり。」
彼女達は、指輪を囲んで、バカにしたように笑う。
確かに、私の両親は裕福ではなかったし、若くして結婚したから、お金もなかったらしく、指輪は安物だ。
でも、貧しくて生活が苦しくたって、彼らはいつも笑っていた。互いを支え合い、愛し合っていた。
そうして、私のことも大切に大切に育ててくれた。シガンシナ区に巨人が押し寄せたあの日まで、ずっとーーーー。
「笑わないで!私の大切なものを、大切な人を笑わないで!!」
気づいたら、私は怒鳴り声をあげていた。
私からこんなに大きな声が出るなんて知らなくて、自分でも驚いた。
なんとか立ち上がり、髪を振り乱し、「返して!」と手を伸ばす私を、長身で屈強な彼女達は嘲笑うように手を上げる。
そしてーーー。
「そんなに大切なら、自分でとってきなよ。」
彼女がそう言ったときにはもう、開いていた窓の向こうに指輪が投げ捨てられていた。
あーーーー。
指輪は、太陽の光に僅かに反射しながら弧を描き、兵舎の裏庭、誰も手入れをしていない雑草だらけのそこに落ちていく。
そして、ポチャン、と小さな音が聞こえた。
そういえば、裏庭には、茶色く濁った泥だらけの池があった気がする。
まさか、そこに落ちてしまったのだろうか。
同じことを考えたらしい彼女達が「あの指輪にはお似合いだ。」と嬉しそうに笑った。
ドンっという音を背中で聞いた直後、頭上から投げ捨てられた暴言に、私は呆気に取られていた。
呆然と見上げる私を、見覚えのある調査兵の女性3名が冷たい目で見下ろしている。
床に叩きつけられた時に尻に走った激痛も、自分を守るために床についた手にジンジンと響く鈍痛も、分からないくらいに思考が停止していた。
彼女たちには、普段から冷たい態度を取られていたし、あまりよく思われていないのは知っていた。
でも、こんなにあからさまに攻撃的なことをされたのは初めてだ。
『リヴァイ兵長は、訓練前に甘いものは好みません。
何よりも体調を大事にする方ですから、お疲れになった訓練後にお持ちした方が良いと思います。』
慌しかった昼食時も過ぎ、漸く私も休憩をしようと、食堂から自室に戻る途中だった。
見覚えのある調査兵の女性達が、ストヘス区で流行っているという菓子をもらったからリヴァイ兵長に持っていこうと話している声が聞こえてきた。
リヴァイ兵長は一見冷たくて、とても怖い人だけれど、私がこの調査兵団兵舎で働くようになった頃には既に調査兵達から絶大な信頼と尊敬を受けていた。ほんの少しだけれど、リヴァイ兵長の優しさを知った今になっては、彼が部下に慕われている理由も納得できるようになった。
だからきっと、彼女たちが自分に贈り物をくれたと知れば、表情には出さずとも喜ぶだろう。
けれど、訓練前に甘いものをもらってしまったら、彼は困るだろうし、困った様子の彼を見た彼女たちも残念な気持ちになると思ったのだ。
だから声をかけたのだけれど、冷たく見下ろす彼女たちの顔を見上げ、事態を飲み込んでいくうちに、出過ぎた真似だったのだと理解していく。
彼女達はきっと、私に恥をかかされたと思っているのだろうし、私もまたリヴァイ兵長とのよく分からない恋人という関係も解消されたのに、口出しするべきではなかった。
そうだ。私はもう、リヴァイ兵長の恋人ではないのだーーーー。
リヴァイ兵長が私の部屋から出て行った。あの日から一週間が経っていた。
出張もあって、あれからずっとリヴァイ兵長が兵舎にいたわけではない。でも、リヴァイ兵長が兵舎に戻っているという話は聞こえてきても、実際に、彼に会うことはなかった。
リヴァイ兵長は、いつものように勝手に私の部屋の扉は開けなかったし、食事もペトラさんが用意しているようだった。
ここ一週間、私はリヴァイ兵長の想像の斜め上をいく意味のわからない言動に振り回されていないということだ。
そんな喜ばしい当然の事実のせいで、涙が溢れそうになって、私は唇を噛んだ。
「へ〜、こんなもの貰っちゃったから、思わず調子に乗っちゃったんだぁ。」
1人が、膝を折って屈むと、私のブラウスのあたりに手を伸ばした。
彼女が触れたのは、両親の肩身である指輪だった。
ネックレスにしてつけているそれは、いつもブラウスの下に隠してある。でも、後ろに倒れ込んだ時の衝撃で、飛び出してしまっていたようだ。
「え、なになに?」
「ほら、見てよ!コレ!まじムカつくんだけど!」
指輪を掴んだ彼女はそう言って、乱暴にネックレスの鎖を引きちぎった。
「あっ。」
奪われた指輪に手を伸ばすけれど、それよりも彼女が立ち上がってしまうのが早かった。
両脇の調査兵達が、彼女の手元を覗き込む。そして、嘲笑を浮かべた。
「だっさ〜、宝石のひとつもついてないじゃん。」
「こんな安物の指輪を貰っちゃうなんて、むしろ恥じゃない?」
「でしょ。本気で愛してるなら、もっと良いもの買うわ。
お金はあっても、お前には使いたくないって気持ちがまる分かり。」
彼女達は、指輪を囲んで、バカにしたように笑う。
確かに、私の両親は裕福ではなかったし、若くして結婚したから、お金もなかったらしく、指輪は安物だ。
でも、貧しくて生活が苦しくたって、彼らはいつも笑っていた。互いを支え合い、愛し合っていた。
そうして、私のことも大切に大切に育ててくれた。シガンシナ区に巨人が押し寄せたあの日まで、ずっとーーーー。
「笑わないで!私の大切なものを、大切な人を笑わないで!!」
気づいたら、私は怒鳴り声をあげていた。
私からこんなに大きな声が出るなんて知らなくて、自分でも驚いた。
なんとか立ち上がり、髪を振り乱し、「返して!」と手を伸ばす私を、長身で屈強な彼女達は嘲笑うように手を上げる。
そしてーーー。
「そんなに大切なら、自分でとってきなよ。」
彼女がそう言ったときにはもう、開いていた窓の向こうに指輪が投げ捨てられていた。
あーーーー。
指輪は、太陽の光に僅かに反射しながら弧を描き、兵舎の裏庭、誰も手入れをしていない雑草だらけのそこに落ちていく。
そして、ポチャン、と小さな音が聞こえた。
そういえば、裏庭には、茶色く濁った泥だらけの池があった気がする。
まさか、そこに落ちてしまったのだろうか。
同じことを考えたらしい彼女達が「あの指輪にはお似合いだ。」と嬉しそうに笑った。