Q17. 指輪に嘘を吐いたら、どうなりますか?
Name change
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
人差し指と親指に挟まれた小さな輪っかの向こうに、綺麗な満月がすっぽりとおさまっている。
——綺麗。
ほんの少しの歪もないその輪は、永遠を誓い合った男女の深い愛の証に違いなかった。
その指輪の相変わらずの美しさに、私は見惚れていた。
「おい。」
不意に後ろからかけられた声に驚いてビクッと肩が揺れた。
その拍子に、持っていた指輪が月明かりを反射させる。
眩しさに思わず落としかけた指輪を慌てて右手の中に捕まえて、私は後ろを振り向いた。
「もう少し、音を立てて近づいてくださいっていつも言ってますよね。」
目が合うなり小言を言われたリヴァイ兵長は、不機嫌そうに眉を顰めていた。
私も随分と口答えが出来るようになったものだ———数か月前までなら怯えて震えていたはずの機嫌の悪いリヴァイ兵長を見つめながら思う。
「気づかねぇお前が悪い。
そもそも、部屋の扉を俺が開けてんのに気づきもしねぇのは不用心で———。」
バルコニーまでやってきたリヴァイ兵長は、当然のように私の隣に並ぶ。
そして私は、外していたチェーンに指輪をつけ直しながら、彼が続ける説教を適当に聞き流す。
果たして、この関係が本当に恋人だと言えるのかは別として、いつの間にか、私達は〝うまい付き合い方〟を学んできているような気がする。
「それ。」
チェーンの両端を首の後ろにまわし、金具を繋いでいると、リヴァイ兵長のお説教がやっと終わった。
代わりに、彼の視線は、再びチェーンに戻った指輪を向いている。
「これですか?」
「いつもつけてるな。そんなに大事なもんなのか。」
ネックレスについている宝石のように、私の胸元で指輪が月明かりを反射して輝いている。
私は、その指輪をそっと人差し指と親指で摘まむように持ち上げた。
「はい。私の宝物です。」
華美な装飾もない。正直言って、地味な指輪だ。
けれど、私にとって世界でただ一つのかけがえのない指輪なのだ。
亡くなった両親が唯一残してくれた形見でもある。
こうして、チェーンに繋いで身につけていると、いつでも両親がそばで見守ってくれているような気がするのだ。
そうやって、私は今日までの日をなんとか生きてきた。
「…そうか。」
リヴァイ兵長はそれだけ言うと、指輪からも私からも目を逸らしてしまった。
素っ気ないというよりも、拒絶するような冷たい態度に違和感を覚える。
(もしかして————。)
彼は、この指輪を『他の男(元カレや昔の想い人)からもらったもの』だと勘違いしたのではないだろうか。不意に、そんな想像が頭を過る。
考え込むように眉間に皴を寄せて、バルコニーの柵の向こうを睨みつける横顔は、酷く不機嫌そうだ。
もし仮に、リヴァイ兵長が勘違いをしているのだとして、私はそれをチャンスだと考えた。
——私には、指輪をくれた忘れられない人がいて、だから結婚できない。
なかなか良いシナリオではないだろうか。
リヴァイ兵長がなぜそこまで頑なに私と結婚をしたがっているのかは、未だに全く分からない。
なんとか即結婚という事態は防げたものの、恋人というおかしな関係になってしまったこの状況も、私にとっては不本意極まりない。このままでは、リヴァイ兵長がいつ「よし、お互いのことは大体理解できた。」と言い出して、結婚を強行するか分からない。
なんとか、それは阻止したいのだ。
けれど、リヴァイ兵長のおかげで助けられたこともあったのは事実。今となっては私も彼のことをそこまで嫌悪していない。
リヴァイ兵長の優しいところや良いところを知った今、彼を傷つけてしまうのは本意でないのだ。
だからこそ、私に忘れられない人がいるから身を引いてもらうしかないというのは、なかなか良い案なのではないかと思ってしまったのだ。
もし仮に、リヴァイ兵長が本気で私に『恋』というのをしているのだとしたら、とても傷つけてしまいそうだけれど、万が一にもそんなことはあるわけがない。
きっと、どうしても結婚したい事情があって、食事を作れるし、調査兵でもないからあと腐れもないし、ちょうどいい人材として私が選択肢としてあがっただけなのだろう。
そうだとすれば、リヴァイ兵長が傷つくこともないし、問題ない。
それに今、こんなに良いアイデアが浮かんだのも、この指輪の本当の持ち主である両親からの手助けだと思ったのだ。
きっと彼らは、困っている娘を助けずにはいられなかったのだろう。
「すごく好きだった人からいただいて。
それからずっと、とても大切にしているんです。
私は一生、その人を愛し続けると思います。」
私は、指輪を両手でギュッと握りしめた。
両親の愛が詰まった指輪を言い訳に利用することへの罪悪感は少なからずあった。
だから、嘘は吐けなかった。
けれど、精一杯、リヴァイ兵長が誤解をしてもおかしくないような言い方をした。
(どうか、これで諦めてください…!)
視界の端に映るリヴァイ兵長に動きはなかった。
けれど、その表情を確かめる勇気はなく、私は祈るように目を閉じた。
指輪を握りしめる手に思わず力がこもる。
「———分かった。」
右肩の向こうから、リヴァイ兵長の低い声が聞こえた。
またいつものように想像の斜め上の答えが返ってくると思っていた。会話が成り立たないことが、当たり前になりすぎていたのだ。驚いて目を開けた私のすぐ隣から、リヴァイ兵長の気配が消えていく。
それから、一度も振り返らずにバルコニーから部屋に戻ったリヴァイ兵長は、私に背を向けたまま出て行ってしまった。
(終わった…?のだろうか…?)
あれほど私を悩ませた数か月間は、この指輪ひとつで終焉を迎えた———ということで間違いないのだろうか。
安心したのか、拍子抜けしたのか。両膝から力が抜け落ちて、気づくと私はバルコニーに座り込んでいた。
背中に背負っていた重たい荷物がなくなったみたいだ。
急に、私の身体の何処かから、何かがなくなった。
静かに閉まった扉をぼんやりと見つめながら、「今夜、あれほど綺麗に輝いていた満月は、明日になれば少しずつ欠けて最後は消えてしまうんだな———。」とそんな当たり前のことを考えていた。
——綺麗。
ほんの少しの歪もないその輪は、永遠を誓い合った男女の深い愛の証に違いなかった。
その指輪の相変わらずの美しさに、私は見惚れていた。
「おい。」
不意に後ろからかけられた声に驚いてビクッと肩が揺れた。
その拍子に、持っていた指輪が月明かりを反射させる。
眩しさに思わず落としかけた指輪を慌てて右手の中に捕まえて、私は後ろを振り向いた。
「もう少し、音を立てて近づいてくださいっていつも言ってますよね。」
目が合うなり小言を言われたリヴァイ兵長は、不機嫌そうに眉を顰めていた。
私も随分と口答えが出来るようになったものだ———数か月前までなら怯えて震えていたはずの機嫌の悪いリヴァイ兵長を見つめながら思う。
「気づかねぇお前が悪い。
そもそも、部屋の扉を俺が開けてんのに気づきもしねぇのは不用心で———。」
バルコニーまでやってきたリヴァイ兵長は、当然のように私の隣に並ぶ。
そして私は、外していたチェーンに指輪をつけ直しながら、彼が続ける説教を適当に聞き流す。
果たして、この関係が本当に恋人だと言えるのかは別として、いつの間にか、私達は〝うまい付き合い方〟を学んできているような気がする。
「それ。」
チェーンの両端を首の後ろにまわし、金具を繋いでいると、リヴァイ兵長のお説教がやっと終わった。
代わりに、彼の視線は、再びチェーンに戻った指輪を向いている。
「これですか?」
「いつもつけてるな。そんなに大事なもんなのか。」
ネックレスについている宝石のように、私の胸元で指輪が月明かりを反射して輝いている。
私は、その指輪をそっと人差し指と親指で摘まむように持ち上げた。
「はい。私の宝物です。」
華美な装飾もない。正直言って、地味な指輪だ。
けれど、私にとって世界でただ一つのかけがえのない指輪なのだ。
亡くなった両親が唯一残してくれた形見でもある。
こうして、チェーンに繋いで身につけていると、いつでも両親がそばで見守ってくれているような気がするのだ。
そうやって、私は今日までの日をなんとか生きてきた。
「…そうか。」
リヴァイ兵長はそれだけ言うと、指輪からも私からも目を逸らしてしまった。
素っ気ないというよりも、拒絶するような冷たい態度に違和感を覚える。
(もしかして————。)
彼は、この指輪を『他の男(元カレや昔の想い人)からもらったもの』だと勘違いしたのではないだろうか。不意に、そんな想像が頭を過る。
考え込むように眉間に皴を寄せて、バルコニーの柵の向こうを睨みつける横顔は、酷く不機嫌そうだ。
もし仮に、リヴァイ兵長が勘違いをしているのだとして、私はそれをチャンスだと考えた。
——私には、指輪をくれた忘れられない人がいて、だから結婚できない。
なかなか良いシナリオではないだろうか。
リヴァイ兵長がなぜそこまで頑なに私と結婚をしたがっているのかは、未だに全く分からない。
なんとか即結婚という事態は防げたものの、恋人というおかしな関係になってしまったこの状況も、私にとっては不本意極まりない。このままでは、リヴァイ兵長がいつ「よし、お互いのことは大体理解できた。」と言い出して、結婚を強行するか分からない。
なんとか、それは阻止したいのだ。
けれど、リヴァイ兵長のおかげで助けられたこともあったのは事実。今となっては私も彼のことをそこまで嫌悪していない。
リヴァイ兵長の優しいところや良いところを知った今、彼を傷つけてしまうのは本意でないのだ。
だからこそ、私に忘れられない人がいるから身を引いてもらうしかないというのは、なかなか良い案なのではないかと思ってしまったのだ。
もし仮に、リヴァイ兵長が本気で私に『恋』というのをしているのだとしたら、とても傷つけてしまいそうだけれど、万が一にもそんなことはあるわけがない。
きっと、どうしても結婚したい事情があって、食事を作れるし、調査兵でもないからあと腐れもないし、ちょうどいい人材として私が選択肢としてあがっただけなのだろう。
そうだとすれば、リヴァイ兵長が傷つくこともないし、問題ない。
それに今、こんなに良いアイデアが浮かんだのも、この指輪の本当の持ち主である両親からの手助けだと思ったのだ。
きっと彼らは、困っている娘を助けずにはいられなかったのだろう。
「すごく好きだった人からいただいて。
それからずっと、とても大切にしているんです。
私は一生、その人を愛し続けると思います。」
私は、指輪を両手でギュッと握りしめた。
両親の愛が詰まった指輪を言い訳に利用することへの罪悪感は少なからずあった。
だから、嘘は吐けなかった。
けれど、精一杯、リヴァイ兵長が誤解をしてもおかしくないような言い方をした。
(どうか、これで諦めてください…!)
視界の端に映るリヴァイ兵長に動きはなかった。
けれど、その表情を確かめる勇気はなく、私は祈るように目を閉じた。
指輪を握りしめる手に思わず力がこもる。
「———分かった。」
右肩の向こうから、リヴァイ兵長の低い声が聞こえた。
またいつものように想像の斜め上の答えが返ってくると思っていた。会話が成り立たないことが、当たり前になりすぎていたのだ。驚いて目を開けた私のすぐ隣から、リヴァイ兵長の気配が消えていく。
それから、一度も振り返らずにバルコニーから部屋に戻ったリヴァイ兵長は、私に背を向けたまま出て行ってしまった。
(終わった…?のだろうか…?)
あれほど私を悩ませた数か月間は、この指輪ひとつで終焉を迎えた———ということで間違いないのだろうか。
安心したのか、拍子抜けしたのか。両膝から力が抜け落ちて、気づくと私はバルコニーに座り込んでいた。
背中に背負っていた重たい荷物がなくなったみたいだ。
急に、私の身体の何処かから、何かがなくなった。
静かに閉まった扉をぼんやりと見つめながら、「今夜、あれほど綺麗に輝いていた満月は、明日になれば少しずつ欠けて最後は消えてしまうんだな———。」とそんな当たり前のことを考えていた。