Q16. 憧れの彼と結婚について話してもいいですか?
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「人前に出るのは得意ではないので、結婚式はアットホームな感じの方がいいですね。」
少し考えてから、私はこう答えた。
グスタフさんが、2人きりになれる場所として私を連れてきたのは、駐屯兵団本部の最上階にあるバルコニーだった。建物のちょうど裏側にある小さなバルコニーだ。
駐屯兵達も休憩の時に紅茶を飲んで一息を吐くのにバルコニーは好まれてはいるものの、それは、表側にある広いバルコニーに集中していて、この場所を知っている駐屯兵はほとんどいないらしい。
確かに、広くはないし、狭いと表現した方がよいバルコニーだけれど、向かい合うように置いてあるチェアと小さなティーテーブルが可愛くて、なんだか落ち着く場所だ。
建物の裏側だというのもあるのかもしれない。裏庭に立っている木々の陰になっていて、少し薄暗いから、明るいところでグスタフさんと向き合わずにすんで、私としてもとても有難い。
真剣に耳を傾けるグスタフさんは、少し前に胸ポケットから取り出したメモ帳に、私の願望を書き留めていく。
そして、ペンの動きが止まると、悩むように「うーん。」と唸る。
「それは、友人や仕事関係者は呼ばずに家族だけの結婚式が良いってことかな?」
グスタフさんの質問で、私は漸く、何が彼を悩ませてしまったのかを理解した。
彼は、駐屯兵団司令官であるピクシス司令の参謀だ。そんな彼が、結婚をするというのに、仕事関係者を呼ばないわけにはいかないだろう。
それこそ、駐屯兵団本部の幹部から調査兵団、憲兵団のお偉い方に留まらず、関りのある貴族の方達もお呼びする盛大な結婚披露宴が必要になるのかもしれない。
「すみません…っ。グスタフさんの立場も考えず
好き勝手願望を喋ってしまって…っ。」
慌てて謝罪をする。
けれど、そんな私に、グスタフさんは人の良さそうな柔らかい笑みを返してくれた。
「僕が君に、理想の結婚式を教えて欲しいと聞いたんだ。
気にしないで。君のしたいように話してくれたらいい。
とても参考になってるんだ。」
「ありがとうございます。」
端々に気遣いの感じられるグスタフさんの一挙手一投足に、私は感動されっぱなしだった。
最近は、何を考えているのか分からず、思いきった行動ばかりで私を振り回すリヴァイ兵長のそばにいることが多かったから、尚更だったかもしれない。
「それで、さっきの続きなんだけど。」
「はい、なんですか?」
「アットホームな結婚式というのが、あまりピンと来ていないんだけど。
ウェディングドレスは着るのかな?」
グスタフさんが真剣に訊ねる。
素敵な結婚式にするために、真面目に考えている証拠だ。
彼なら、とても素敵な旦那さんになってくれるに間違いない。
意外と我儘で自分勝手で空気の読めないリヴァイ兵長とは大違い———そこまで考えて私は、今はリヴァイ兵長のことなんかどうでもいいはずだと、慌てて小さく首を横に振った。
そして、リヴァイ兵長の不機嫌そうな表情の代わりに思い浮かべるのは、世界一素敵な男性の隣で幸せそうに微笑むウェディングドレス姿の私だ。
正直、似合っているとは思えない。
(やっぱりウェディングドレスは…。)
やめた方がいいかな———なんて、考えてしまったけれど、やっぱり女の子の夢は諦めきれない。
「そうですね。ウェディングドレスは着たいなって思います。
私なんかがドレスなんて、似合うわけないってのは分かってるんですけど
幼い頃から、花嫁さんになるのが夢だったので。」
言いながら照れ臭くなった。
素敵すぎるグスタフさんに何を言っているのだろうと思うといたたまれなくなって、私は誤魔化すように、鼻の下を右手の人差し指でくすぐる。
「まさか。とっても似合うと思いますよ。
なまえさんはとても可愛らしい女性ですからね。
僕も今から、なまえさんのウェディングドレス姿を見れる日が待ち遠しいくらいだ。」
グスタフさんが柔らかく微笑む。
今回ばかりは、気遣いの人のグスタフさんの優しさは私にとっては毒だ。
お世辞だと分かっているのに、ボッと音が聞こえてしまいそうなくらいに、一気に身体中の熱が上がった。
耳まで熱い。
「いえ…、そんな————。」
「あぁ、そうだな。楽しみにしておくといい。
着せてやるのは、お前じゃなくて俺だがな。」
一瞬だけ、目の前に誰かの腕が見えたような気がした。
気が付いたときには、後ろからまわされた腕に引き寄せられていて、真っ赤な顔を隠すように俯く私の小さな声は、後ろから聞こえて来た不機嫌そうな低い声にかき消された。
「リヴァイ兵長!?」
目の前で驚いたような声を上げたグスタフさんが、今ここにいるはずのない人の名前を叫ぶ。
リヴァイ兵長は出張中で、帰りは明日になるはずだ。
ここにいるはずがない。
けれど、我儘に私を抱き寄せたり捕まえたり、驚くような行動をとる人なんて、リヴァイ兵長しか思い浮かばないのも事実だ。
それに、私の首の前の辺りにまわされて、痛いくらいに肩を掴んでいる腕は調査兵団の紋章が見えるし、後ろからは、リヴァイ兵長らしい石鹸の香りがする。
「リヴァイ兵長、どうしてここに?
出張だったんじゃ…?」
「お前に悪い虫がつかねぇように急いで終わらせてきた。
案の定、クソ野郎がお前を口説いてたがな。あろうことか、結婚式の予定まで立ててやがる。」
「は!?違…っ———。」
「なまえは黙ってろ。これは男同士の問題だ。
俺は、アイツを今からぶん殴らねぇとならねぇ。」
私を無視して、リヴァイ兵長は額に刻まれている青筋をさらに濃くしていく。
このままにしていたら、リヴァイ兵長は本当に、あの日の調査兵にしたのと同じように、グスタフさんを殴ってしまう。
どうにかしなければ————焦る私の耳に、楽しそうな笑い声が聞こえた。
アハハと可笑しそうに笑ったのは、グスタフさんだった。
「てめぇ、何がそんなに面白ぇ。」
リヴァイ兵長が声を発したその途端に、リヴァイ兵長を包む殺気が強さを増す。
背筋がゾクリと冷えて、私は心臓がキュッと締まったのを感じた。
「リヴァイ兵長は、本当になまえさんのことが大切なんですね。」
「随分、余裕だな。お前なんか、少し…。少し背が高ぇだけじゃねぇか。
言っておくが、エルヴィンの方がデカい。」
「…リヴァイ兵長、何の話をしてるんですか?」
リヴァイ兵長に雁字搦めに捕まったままで、私は首を傾げた。
今、なぜ、グスタフさんの身長の話が出てくるのか。
グスタフさんと私のことを疑って怒っていると思ったのだけれど、違ったのだろうか。
けれど、怒りでいっぱいのリヴァイ兵長の耳には、私の声は届かなかったようだ。
「本当に穏やかな男なら、恋人が出張なのをいいことに他人の女に手を出したりもしねぇ。
分かるか。お前は、なまえの理想の男とは程遠いってことだ。」
「ハハ、そうかもしれませんね。
私とリヴァイ兵長は全く正反対ですから。」
「てめぇ、馬鹿にしてんのか。」
グスタフさんの柔らかい笑みとは裏腹に、リヴァイ兵長の額に浮かぶ青筋は今にも切れてしまいそうだった。
首の前にまわされているリヴァイ兵長の右腕に力が入ったのに気づいた私は、腹に力を込めて思いっきり叫んだ。
「グスタフさんが結婚したいのは私じゃありません!!
アンカさんです!!」
私の大声は、やっとリヴァイ兵長の耳に届いたようだった。
リヴァイ兵長が、後ろから私を覗き込む。
切れ長の目が、私の視線と重なる。
ドキリとして緊張してしまったのは、鋭いその瞳が、私の言葉の真偽を計っているように見えたせいだ。
「アンカ…。ピクシスのとこの参謀か。」
「すみません。グスタフさん、まだ誰にも内密にしていたいと仰っていたのに…。
勝手に話してしまって…。」
確かめるように訊ねるリヴァイ兵長は無視して、私はグスタフさんに頭を下げた。
それでも私は、事実をこうして伝えるしか、リヴァイ兵長の怒りをおさめる方法を知らなかったのだ。
グスタフさんの命を守る為だった。
けれど、勝手なことをしたのも事実。
私のせいで、いろいろと迷惑をかけてしまった。
「謝らないで。僕もリヴァイ兵長に話さなくちゃなと思っていたところですから。
そうじゃないと、大切な恋人がどこぞの馬の骨に手を出されたと怒り狂ってる人類最強の兵士を
落ち着かせることは出来なさそうでしたし。」
グスタフさんは可笑しそうに言いながら、右手の甲で口元を覆った。
これ以上笑って、リヴァイ兵長を怒らせないようにという配慮なのだろう。
でも、今にも笑いだしそうなそれは、私だけではなくてリヴァイ兵長にもバレバレなはずだ。
「実は、グスタフさんとアンカさんはお付き合いをされていたそうなんです。」
お互いに駐屯兵団最高司令官であるピクシスの参謀ということで、駐屯兵達を惑わさないためにも今までずっと交際の事実はひた隠しにしていた。
けれど、先日、グスタフさんがアンカさんにプロポーズを行い、無事成功。
晴れて婚約者となったふたりは、今後、タイミングを見て駐屯兵の皆様に報告を考えているのと同時に、結婚式についても本格的に準備が始まったところなのだそうだ。
そんな事情を知らず、ハンジさんがグスタフさんに私とのデートの約束を強引に取り付けてしまった。
その約束も、グスタフさん本人に伝えれば、その場で彼がお断りすることも出来ただろう。
けれど、仕事で忙しく時間が取れなかったグスタフさんを捕まえることを諦めたハンジさんは、彼の部下を通してデートを約束させたというのだ。
そこで、グスタフさんは、仕方なく急遽、私に事情の説明をすることに決めた。
そして、今に至る、というわけだ。
「ですから、どういう風に勘違いをされたのかは分かりませんが
私と結婚するわけではなくて、私ならどんな結婚式がしたいのか
参考にしたいというお話だったんです。」
分かりましたか————なんとか説明をすると、リヴァイ兵長は眉間に深く皴を寄せながら唸り始める。
たぶん、一応は理解しようと努めているのだろう。
しばらくすると、眉間の皴もなくなった安心した表情で小さく息を吐いた。
「なまえのことは諦めたというわけだな。」
「・・・?どういう風に聞いたら、そうなりました?
だから、そもそもグスタフさんは私のことなんて————。」
「自分の身の程をわきまえていたことは、褒めてやる。
なまえに惚れそうになるのも分かるが、
今後は紛らわしい真似するんじゃねぇぞ。」
「ちょっと、リヴァイ兵長何を言って————。」
「はい、わかりました。」
私の説明なんて、リヴァイ兵長は全く理解していなかった。
グスタフさんとアンカさんにこれ以上のご迷惑をおかけしないように、きちんと訂正しなければ———そう思う私とは裏腹に、グスタフさんは面白そうにクスクスと笑いながら、リヴァイ兵長の勘違いを受け入れてしまう。
「リヴァイ兵長は、本当になまえさんのことが可愛くて仕方ないんですね。」
楽しそうなグスタフさんの言葉に、リヴァイ兵長はこれでもかというほどに眉を顰める。
「当然だ。世界一の女が恋人だと気苦労が絶えねぇ。」
「…リヴァイ兵長、大丈夫ですか?」
大きくため息を吐いたリヴァイ兵長の脳みそと眼球を、私は本気で心配した。
けれど、グスタフさんは本当に楽しそうにハハハと笑った。
少し考えてから、私はこう答えた。
グスタフさんが、2人きりになれる場所として私を連れてきたのは、駐屯兵団本部の最上階にあるバルコニーだった。建物のちょうど裏側にある小さなバルコニーだ。
駐屯兵達も休憩の時に紅茶を飲んで一息を吐くのにバルコニーは好まれてはいるものの、それは、表側にある広いバルコニーに集中していて、この場所を知っている駐屯兵はほとんどいないらしい。
確かに、広くはないし、狭いと表現した方がよいバルコニーだけれど、向かい合うように置いてあるチェアと小さなティーテーブルが可愛くて、なんだか落ち着く場所だ。
建物の裏側だというのもあるのかもしれない。裏庭に立っている木々の陰になっていて、少し薄暗いから、明るいところでグスタフさんと向き合わずにすんで、私としてもとても有難い。
真剣に耳を傾けるグスタフさんは、少し前に胸ポケットから取り出したメモ帳に、私の願望を書き留めていく。
そして、ペンの動きが止まると、悩むように「うーん。」と唸る。
「それは、友人や仕事関係者は呼ばずに家族だけの結婚式が良いってことかな?」
グスタフさんの質問で、私は漸く、何が彼を悩ませてしまったのかを理解した。
彼は、駐屯兵団司令官であるピクシス司令の参謀だ。そんな彼が、結婚をするというのに、仕事関係者を呼ばないわけにはいかないだろう。
それこそ、駐屯兵団本部の幹部から調査兵団、憲兵団のお偉い方に留まらず、関りのある貴族の方達もお呼びする盛大な結婚披露宴が必要になるのかもしれない。
「すみません…っ。グスタフさんの立場も考えず
好き勝手願望を喋ってしまって…っ。」
慌てて謝罪をする。
けれど、そんな私に、グスタフさんは人の良さそうな柔らかい笑みを返してくれた。
「僕が君に、理想の結婚式を教えて欲しいと聞いたんだ。
気にしないで。君のしたいように話してくれたらいい。
とても参考になってるんだ。」
「ありがとうございます。」
端々に気遣いの感じられるグスタフさんの一挙手一投足に、私は感動されっぱなしだった。
最近は、何を考えているのか分からず、思いきった行動ばかりで私を振り回すリヴァイ兵長のそばにいることが多かったから、尚更だったかもしれない。
「それで、さっきの続きなんだけど。」
「はい、なんですか?」
「アットホームな結婚式というのが、あまりピンと来ていないんだけど。
ウェディングドレスは着るのかな?」
グスタフさんが真剣に訊ねる。
素敵な結婚式にするために、真面目に考えている証拠だ。
彼なら、とても素敵な旦那さんになってくれるに間違いない。
意外と我儘で自分勝手で空気の読めないリヴァイ兵長とは大違い———そこまで考えて私は、今はリヴァイ兵長のことなんかどうでもいいはずだと、慌てて小さく首を横に振った。
そして、リヴァイ兵長の不機嫌そうな表情の代わりに思い浮かべるのは、世界一素敵な男性の隣で幸せそうに微笑むウェディングドレス姿の私だ。
正直、似合っているとは思えない。
(やっぱりウェディングドレスは…。)
やめた方がいいかな———なんて、考えてしまったけれど、やっぱり女の子の夢は諦めきれない。
「そうですね。ウェディングドレスは着たいなって思います。
私なんかがドレスなんて、似合うわけないってのは分かってるんですけど
幼い頃から、花嫁さんになるのが夢だったので。」
言いながら照れ臭くなった。
素敵すぎるグスタフさんに何を言っているのだろうと思うといたたまれなくなって、私は誤魔化すように、鼻の下を右手の人差し指でくすぐる。
「まさか。とっても似合うと思いますよ。
なまえさんはとても可愛らしい女性ですからね。
僕も今から、なまえさんのウェディングドレス姿を見れる日が待ち遠しいくらいだ。」
グスタフさんが柔らかく微笑む。
今回ばかりは、気遣いの人のグスタフさんの優しさは私にとっては毒だ。
お世辞だと分かっているのに、ボッと音が聞こえてしまいそうなくらいに、一気に身体中の熱が上がった。
耳まで熱い。
「いえ…、そんな————。」
「あぁ、そうだな。楽しみにしておくといい。
着せてやるのは、お前じゃなくて俺だがな。」
一瞬だけ、目の前に誰かの腕が見えたような気がした。
気が付いたときには、後ろからまわされた腕に引き寄せられていて、真っ赤な顔を隠すように俯く私の小さな声は、後ろから聞こえて来た不機嫌そうな低い声にかき消された。
「リヴァイ兵長!?」
目の前で驚いたような声を上げたグスタフさんが、今ここにいるはずのない人の名前を叫ぶ。
リヴァイ兵長は出張中で、帰りは明日になるはずだ。
ここにいるはずがない。
けれど、我儘に私を抱き寄せたり捕まえたり、驚くような行動をとる人なんて、リヴァイ兵長しか思い浮かばないのも事実だ。
それに、私の首の前の辺りにまわされて、痛いくらいに肩を掴んでいる腕は調査兵団の紋章が見えるし、後ろからは、リヴァイ兵長らしい石鹸の香りがする。
「リヴァイ兵長、どうしてここに?
出張だったんじゃ…?」
「お前に悪い虫がつかねぇように急いで終わらせてきた。
案の定、クソ野郎がお前を口説いてたがな。あろうことか、結婚式の予定まで立ててやがる。」
「は!?違…っ———。」
「なまえは黙ってろ。これは男同士の問題だ。
俺は、アイツを今からぶん殴らねぇとならねぇ。」
私を無視して、リヴァイ兵長は額に刻まれている青筋をさらに濃くしていく。
このままにしていたら、リヴァイ兵長は本当に、あの日の調査兵にしたのと同じように、グスタフさんを殴ってしまう。
どうにかしなければ————焦る私の耳に、楽しそうな笑い声が聞こえた。
アハハと可笑しそうに笑ったのは、グスタフさんだった。
「てめぇ、何がそんなに面白ぇ。」
リヴァイ兵長が声を発したその途端に、リヴァイ兵長を包む殺気が強さを増す。
背筋がゾクリと冷えて、私は心臓がキュッと締まったのを感じた。
「リヴァイ兵長は、本当になまえさんのことが大切なんですね。」
「随分、余裕だな。お前なんか、少し…。少し背が高ぇだけじゃねぇか。
言っておくが、エルヴィンの方がデカい。」
「…リヴァイ兵長、何の話をしてるんですか?」
リヴァイ兵長に雁字搦めに捕まったままで、私は首を傾げた。
今、なぜ、グスタフさんの身長の話が出てくるのか。
グスタフさんと私のことを疑って怒っていると思ったのだけれど、違ったのだろうか。
けれど、怒りでいっぱいのリヴァイ兵長の耳には、私の声は届かなかったようだ。
「本当に穏やかな男なら、恋人が出張なのをいいことに他人の女に手を出したりもしねぇ。
分かるか。お前は、なまえの理想の男とは程遠いってことだ。」
「ハハ、そうかもしれませんね。
私とリヴァイ兵長は全く正反対ですから。」
「てめぇ、馬鹿にしてんのか。」
グスタフさんの柔らかい笑みとは裏腹に、リヴァイ兵長の額に浮かぶ青筋は今にも切れてしまいそうだった。
首の前にまわされているリヴァイ兵長の右腕に力が入ったのに気づいた私は、腹に力を込めて思いっきり叫んだ。
「グスタフさんが結婚したいのは私じゃありません!!
アンカさんです!!」
私の大声は、やっとリヴァイ兵長の耳に届いたようだった。
リヴァイ兵長が、後ろから私を覗き込む。
切れ長の目が、私の視線と重なる。
ドキリとして緊張してしまったのは、鋭いその瞳が、私の言葉の真偽を計っているように見えたせいだ。
「アンカ…。ピクシスのとこの参謀か。」
「すみません。グスタフさん、まだ誰にも内密にしていたいと仰っていたのに…。
勝手に話してしまって…。」
確かめるように訊ねるリヴァイ兵長は無視して、私はグスタフさんに頭を下げた。
それでも私は、事実をこうして伝えるしか、リヴァイ兵長の怒りをおさめる方法を知らなかったのだ。
グスタフさんの命を守る為だった。
けれど、勝手なことをしたのも事実。
私のせいで、いろいろと迷惑をかけてしまった。
「謝らないで。僕もリヴァイ兵長に話さなくちゃなと思っていたところですから。
そうじゃないと、大切な恋人がどこぞの馬の骨に手を出されたと怒り狂ってる人類最強の兵士を
落ち着かせることは出来なさそうでしたし。」
グスタフさんは可笑しそうに言いながら、右手の甲で口元を覆った。
これ以上笑って、リヴァイ兵長を怒らせないようにという配慮なのだろう。
でも、今にも笑いだしそうなそれは、私だけではなくてリヴァイ兵長にもバレバレなはずだ。
「実は、グスタフさんとアンカさんはお付き合いをされていたそうなんです。」
お互いに駐屯兵団最高司令官であるピクシスの参謀ということで、駐屯兵達を惑わさないためにも今までずっと交際の事実はひた隠しにしていた。
けれど、先日、グスタフさんがアンカさんにプロポーズを行い、無事成功。
晴れて婚約者となったふたりは、今後、タイミングを見て駐屯兵の皆様に報告を考えているのと同時に、結婚式についても本格的に準備が始まったところなのだそうだ。
そんな事情を知らず、ハンジさんがグスタフさんに私とのデートの約束を強引に取り付けてしまった。
その約束も、グスタフさん本人に伝えれば、その場で彼がお断りすることも出来ただろう。
けれど、仕事で忙しく時間が取れなかったグスタフさんを捕まえることを諦めたハンジさんは、彼の部下を通してデートを約束させたというのだ。
そこで、グスタフさんは、仕方なく急遽、私に事情の説明をすることに決めた。
そして、今に至る、というわけだ。
「ですから、どういう風に勘違いをされたのかは分かりませんが
私と結婚するわけではなくて、私ならどんな結婚式がしたいのか
参考にしたいというお話だったんです。」
分かりましたか————なんとか説明をすると、リヴァイ兵長は眉間に深く皴を寄せながら唸り始める。
たぶん、一応は理解しようと努めているのだろう。
しばらくすると、眉間の皴もなくなった安心した表情で小さく息を吐いた。
「なまえのことは諦めたというわけだな。」
「・・・?どういう風に聞いたら、そうなりました?
だから、そもそもグスタフさんは私のことなんて————。」
「自分の身の程をわきまえていたことは、褒めてやる。
なまえに惚れそうになるのも分かるが、
今後は紛らわしい真似するんじゃねぇぞ。」
「ちょっと、リヴァイ兵長何を言って————。」
「はい、わかりました。」
私の説明なんて、リヴァイ兵長は全く理解していなかった。
グスタフさんとアンカさんにこれ以上のご迷惑をおかけしないように、きちんと訂正しなければ———そう思う私とは裏腹に、グスタフさんは面白そうにクスクスと笑いながら、リヴァイ兵長の勘違いを受け入れてしまう。
「リヴァイ兵長は、本当になまえさんのことが可愛くて仕方ないんですね。」
楽しそうなグスタフさんの言葉に、リヴァイ兵長はこれでもかというほどに眉を顰める。
「当然だ。世界一の女が恋人だと気苦労が絶えねぇ。」
「…リヴァイ兵長、大丈夫ですか?」
大きくため息を吐いたリヴァイ兵長の脳みそと眼球を、私は本気で心配した。
けれど、グスタフさんは本当に楽しそうにハハハと笑った。