Q.13.壁ドンは『死語』ですか?
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背中が壁にぶつかると、ドンッと重たい音が耳元から聞こえた。
痛みに顔を顰める私を背の高い調査兵が怖い顔で見下ろす。
昨日、買い物の手伝いをするとやってきて私を振り回したあの彼だ。
朝食の時間が終わり、片づけをして厨房を出たところで、いきなり腕を掴まれて兵舎の裏まで引っ張って連れてこられたのだ。
ここへ来るまで、片付けくらいでどれだけ時間をかけているんだと文句を言っていたところから察するに、私が朝食の片づけを終えて出てくるまで、厨房の入口でずっと待ち伏せしていたようだ。
「お前、昨日はよくもやってくれたな。」
彼が怖い顔で言う。
兵士の彼は、身長も高い上に筋肉質で体格もガッチリしている。
女性としても平均の身長しかない私にとっては、まるで、前後を壁に挟まれているような感覚だ。
「き、昨日って…っ?」
「あの後、俺がどんなに大変だったか、分からねぇのかよ!」
彼が怒鳴り声を上げる。
思わず、肩がビクッと跳ねて、「ヒッ」と小さな悲鳴を上げてしまう。
怖い———。
私の頭の中は、その感情に支配されていた。
声どころか脚まで震えていて、立っているのもやっとだ。
「そ…っ、それは…っ。」
私は、震えながら、必死にどうするべきかを考えようとしていた。
でも、恐怖で頭が回らない。
謝れば、許してくれるのだろうかと思いながらも、恐怖で声すらも出ないのだ。
確かに、あれから、彼は大変だったとは思う。
全てが食べ残しだったとしても、あれだけの量を食べきるのはかなりキツい。
食べきれない量を頼んだのは彼なのだから自業自得だといえばそれまでだが、大変だったか、そうではなかったかと言えば、大変だろう。
でも———。
「散々、この俺をこき使った挙句、恩人を見捨てて逃げるなんて
自分のことを最低だとは思わねぇのか!」
ドンッ———。
私の耳元に狙いを定めて、彼が勢いよく壁を叩いた。
彼は、私の耳元に拳を叩きつけた状態のままで、あれから自分がどれほど大変な思いをしたのかを大声で喚き続ける。
私が彼に感謝をするどころか、大量の残り物を押し付けてリヴァイ兵長と共に自分を見捨てたことも許せないようだったが、なによりも彼を怒らせているのは、帰りの馬車代を自分が出さなければならなかったことと、待てど暮らせど、私の方から謝罪に現れなかったことのようだった。
「ごっ、ごめんなさいっ……。」
ここまで怒られるようなことをしたとは思っていない。
でも、恐怖に駆られた私は、反射的に、謝っていた。
すると、彼が、呆れたように大きなため息を吐いた。
そして――。
「本気で謝ってんのか?」
「あ、謝ってます……っ。」
「なら、さ。」
ここで初めて、彼の声のトーンが穏やかに変わった。
なぜか、頬を染めている彼は、私を閉じ込めるように壁についている手はそのままで、反対の手で鼻を掻きながら、続ける。
「俺と付き合ってよ。」
「・・・え?」
「だから、悪いと思ってんなら
そのお詫びに、俺の女になれって言ってんだよ。」
「い…っ、嫌です!!」
気づいたら、反射的に答えてしまっていた。
ハッとしたときにはもう、目をつり上げた彼が真っ赤な顔をして憤慨していた。
反射的に答えようが、ゆっくりと時間を貰って考えようが、NOという返事に変わりはないだろう。
けれど、もう少し悩む素振りを見せるべきだった。
せめて、ごめんなさいという返事の方が、まだマシだった。
でも、絶対に嫌だったのだ。
生まれてこのかたモテたこともないけれど、どんなに男の人との出逢いがなくたって、彼と恋人になるなんて、死んでも御免だ。
「…ッざけんなよ!!」
腕を振り上げた彼が、今度こそ、叩こうとしたのは、壁ではなくて私だった。
殴られる———そう確信した途端、恐怖で震えていた脚からついに力が抜けた。
それが、この時に限って、私にとっては幸運だった。
ドン———。
恐怖で腰を抜かした私の頭上で、彼が壁を殴った鈍い音が響いた。
視線だけを上に向けると、壁に叩きつけたままの拳をそのままにして、彼が忌々し気に私を睨みつけていた。
「てめぇ!恩を仇で返しやがって!!俺が本気でてめぇなんかを口説くわけねぇだろ!
たかだか飯作るだけしか能のねぇつまらねぇ女なんか、こっちから願い下げなんだよ!!
誰でもできることを毎日やってるだけのくせに、調子に乗ってんじゃねぇぞ!!」
彼が、私を見下ろして怒鳴りつける。
怖い。怖くて、そして、悔しい。
きっと、彼は、私を傷つけたいのだ。
自分のプライドを傷つけた私を、ズタズタに傷つけて、自尊心を守りたいのだ。
恐怖で、瞳いっぱいに涙が溢れてきていた。
それでも、絶対にこの男の前で泣いてやるものかと、唇を噛む。
そんな私の姿が、余計に彼を腹立たしくさせたのか、怒鳴り声はヒートアップしていく。
「もしかして、リヴァイ兵長に一度助けられたくらいで、恋人になれるかもとか思ってるわけじゃねぇだろうな!
偶々通りかかっただけに決まってんじゃねぇか!!己惚れんじゃねぇぞ!!
お前みたいな、見た目も性格も普通以下のブスを、リヴァイ兵長が相手にするわけねぇことくらい、クソ女でも分かるだろ!!」
彼が、怒りのまま捲し立てる。
恐怖で、脚が震える。喉が震える。
でも、私は必死に涙をこらえ続けた。
(どうして…っ。)
どうして、そこまで言われなければならないのだろう。
私だって、自分は容姿だって普通以下で、つまらない女だということは分かっている。
リヴァイ兵長には釣り合うはずだってない。
知っているのだ。そんなことくらい。
だから私は、意味の分からないプロポーズだって本気にしていないし、リヴァイ兵長に想われているなんて己惚れてもいない。
自分で、ちゃんと理解している。
でもどうして、彼にそこまで言われなければ———。
言い返す勇気もない自分が一番悔しくて、私は、土を引っ掻きながら拳を握りしめた。
そのときだった。
「誰が、相手にするわけがねぇって?」
低い声が聞こえたと思った途端に、目の前にあった大きな壁の圧迫感が消えたのだ。
驚いて目を見開いた私に見えたのは、後ろから頭を鷲掴みにされて痛みに顔を歪めている彼だった。
その後ろでは、リヴァイ兵長が、悪魔も恐怖に慄くほどの恐ろしい形相で彼を睨みつけている。
「…い…ッ、ぁ"…ッ。」
彼が、何かを必死に訴えようとしているけれど、痛みで声が出ないようだ。
嫌、恐怖も感じているのかもしれない。
小刻みに脚や腕が震えている。
今のリヴァイ兵長は、平気で彼を殺してしまいそうだ。
「てめぇには昨日の罰くらいじゃ、足りなかったみてぇだな。
今から躾をし直してやろうか。
———知ってるか?躾に一番訊くのは、痛みなんだとよ!!」
「ぐぁああああッ!!!」
頭をさらに強く握られたのか、彼が声にならない悲鳴を上げた。
彼を睨みつけるリヴァイ兵長の瞳は、本気だ。
このまま、彼の頭を握り潰そうとしているようにしか見えない。
やめさせなくては———とは思っているのだ。
彼に対して腹が立っていたからと言って、このままリヴァイ兵長に殺されてしまえばいいとは思わない。
だって、こんなに理不尽で自分本位の人のせいで、この世にとって宝でもある人類最強の兵士が自らの手を汚す必要なんてない。
でも、私もまた、恐怖と驚きで、腰を抜かしたまま、目を見開きその様子を眺めるので精一杯だった。
「俺の断りもなく、ひとの女の周りをウロチョロして好き勝手に振り回した挙句に、
クソ女呼ばわりとは、どういう了見だ。この…クソ野郎が…!!」
リヴァイ兵長が、鷲掴みにしていた頭を、まるでボールのように壁に向かって投げ捨てた。
彼は、顔面を思いっきり壁にぶつけると、『ゴッ。』という血が噴き出るような声を漏らして、ズルズルと落ちていった。
そして、いまだに腰を抜かして座り込んでいる私の隣で、上半身を屈ませて、うつ伏せの状態でかろうじて壁にもたれかかる。
さっきまで私を見下ろしていた体格のいい男を、私が見下ろすことになるなんて、信じられない状況だ。
僅かに声が漏れているから、生きてはいるようだが、かなりの重傷であることは、壁にべっとりとついた血を見れば明らかだ。
だが、それでもまだリヴァイ兵長の怒りはおさまっていないようだった。
リヴァイ兵長が、彼に手を伸ばす。そして、その頭を再度鷲掴みにすると、乱暴に自分の方を向かせた。
「…ッ。」
リヴァイ兵長が、彼の顔をこちらに向かせたことで、血だらけの顔面が想像以上にひどい状態であることに驚いて、私から声にならない悲鳴が出る。
彼は、額から流れてくる血で目を開けづらそうにしている。そして、口をパクパクとして、まるでうわ言のように「ごめんなさい。ごめんなさい。」と繰り返している。
でも、彼の謝罪をリヴァイ兵長が受け入れる様子は、全くない。
リヴァイ兵長は、自分の方を向かせた彼の髪を鷲掴みにすると、自分の顔の前まで引きずって持ち上げる。
身体に力の入っていない彼は、まるでボロ雑巾のようにされるがままだ。
「いいか、覚えておけ。俺の女は、世界一いい女だ。
この壁の向こうまで探したってなまえみてぇに出来た女は見つけられねぇだろうな。
わかるか?てめぇみてぇなクソガキが、適当に声をかけていいようなお手軽な女とは挌が違ぇってことだ。」
リヴァイ兵長は、目の前にやって来た血塗れの顔面に教えるようにそう言うと、「分かったか、クソが!」と怒鳴りつけて、彼をまた壁に投げつけた。
ドンッ———少し前に、私が耳元で聞いたのとは比べ物にならないくらいに大きな音が響く。
背中を預けるようにして、なんとか壁によりかかる血塗れの彼は、もう虫の息だった。
そんな彼の頭に、リヴァイ兵長の重たそうなブーツが勢いよく落とされる。
「ぅっ…ッ。」
ドン———。
彼からは、弱弱しい声が漏れた。
彼の頭をブーツで押さえつけるリヴァイ兵長は、怖い顔で睨みつけながら、口を開く。
痛みに顔を顰める私を背の高い調査兵が怖い顔で見下ろす。
昨日、買い物の手伝いをするとやってきて私を振り回したあの彼だ。
朝食の時間が終わり、片づけをして厨房を出たところで、いきなり腕を掴まれて兵舎の裏まで引っ張って連れてこられたのだ。
ここへ来るまで、片付けくらいでどれだけ時間をかけているんだと文句を言っていたところから察するに、私が朝食の片づけを終えて出てくるまで、厨房の入口でずっと待ち伏せしていたようだ。
「お前、昨日はよくもやってくれたな。」
彼が怖い顔で言う。
兵士の彼は、身長も高い上に筋肉質で体格もガッチリしている。
女性としても平均の身長しかない私にとっては、まるで、前後を壁に挟まれているような感覚だ。
「き、昨日って…っ?」
「あの後、俺がどんなに大変だったか、分からねぇのかよ!」
彼が怒鳴り声を上げる。
思わず、肩がビクッと跳ねて、「ヒッ」と小さな悲鳴を上げてしまう。
怖い———。
私の頭の中は、その感情に支配されていた。
声どころか脚まで震えていて、立っているのもやっとだ。
「そ…っ、それは…っ。」
私は、震えながら、必死にどうするべきかを考えようとしていた。
でも、恐怖で頭が回らない。
謝れば、許してくれるのだろうかと思いながらも、恐怖で声すらも出ないのだ。
確かに、あれから、彼は大変だったとは思う。
全てが食べ残しだったとしても、あれだけの量を食べきるのはかなりキツい。
食べきれない量を頼んだのは彼なのだから自業自得だといえばそれまでだが、大変だったか、そうではなかったかと言えば、大変だろう。
でも———。
「散々、この俺をこき使った挙句、恩人を見捨てて逃げるなんて
自分のことを最低だとは思わねぇのか!」
ドンッ———。
私の耳元に狙いを定めて、彼が勢いよく壁を叩いた。
彼は、私の耳元に拳を叩きつけた状態のままで、あれから自分がどれほど大変な思いをしたのかを大声で喚き続ける。
私が彼に感謝をするどころか、大量の残り物を押し付けてリヴァイ兵長と共に自分を見捨てたことも許せないようだったが、なによりも彼を怒らせているのは、帰りの馬車代を自分が出さなければならなかったことと、待てど暮らせど、私の方から謝罪に現れなかったことのようだった。
「ごっ、ごめんなさいっ……。」
ここまで怒られるようなことをしたとは思っていない。
でも、恐怖に駆られた私は、反射的に、謝っていた。
すると、彼が、呆れたように大きなため息を吐いた。
そして――。
「本気で謝ってんのか?」
「あ、謝ってます……っ。」
「なら、さ。」
ここで初めて、彼の声のトーンが穏やかに変わった。
なぜか、頬を染めている彼は、私を閉じ込めるように壁についている手はそのままで、反対の手で鼻を掻きながら、続ける。
「俺と付き合ってよ。」
「・・・え?」
「だから、悪いと思ってんなら
そのお詫びに、俺の女になれって言ってんだよ。」
「い…っ、嫌です!!」
気づいたら、反射的に答えてしまっていた。
ハッとしたときにはもう、目をつり上げた彼が真っ赤な顔をして憤慨していた。
反射的に答えようが、ゆっくりと時間を貰って考えようが、NOという返事に変わりはないだろう。
けれど、もう少し悩む素振りを見せるべきだった。
せめて、ごめんなさいという返事の方が、まだマシだった。
でも、絶対に嫌だったのだ。
生まれてこのかたモテたこともないけれど、どんなに男の人との出逢いがなくたって、彼と恋人になるなんて、死んでも御免だ。
「…ッざけんなよ!!」
腕を振り上げた彼が、今度こそ、叩こうとしたのは、壁ではなくて私だった。
殴られる———そう確信した途端、恐怖で震えていた脚からついに力が抜けた。
それが、この時に限って、私にとっては幸運だった。
ドン———。
恐怖で腰を抜かした私の頭上で、彼が壁を殴った鈍い音が響いた。
視線だけを上に向けると、壁に叩きつけたままの拳をそのままにして、彼が忌々し気に私を睨みつけていた。
「てめぇ!恩を仇で返しやがって!!俺が本気でてめぇなんかを口説くわけねぇだろ!
たかだか飯作るだけしか能のねぇつまらねぇ女なんか、こっちから願い下げなんだよ!!
誰でもできることを毎日やってるだけのくせに、調子に乗ってんじゃねぇぞ!!」
彼が、私を見下ろして怒鳴りつける。
怖い。怖くて、そして、悔しい。
きっと、彼は、私を傷つけたいのだ。
自分のプライドを傷つけた私を、ズタズタに傷つけて、自尊心を守りたいのだ。
恐怖で、瞳いっぱいに涙が溢れてきていた。
それでも、絶対にこの男の前で泣いてやるものかと、唇を噛む。
そんな私の姿が、余計に彼を腹立たしくさせたのか、怒鳴り声はヒートアップしていく。
「もしかして、リヴァイ兵長に一度助けられたくらいで、恋人になれるかもとか思ってるわけじゃねぇだろうな!
偶々通りかかっただけに決まってんじゃねぇか!!己惚れんじゃねぇぞ!!
お前みたいな、見た目も性格も普通以下のブスを、リヴァイ兵長が相手にするわけねぇことくらい、クソ女でも分かるだろ!!」
彼が、怒りのまま捲し立てる。
恐怖で、脚が震える。喉が震える。
でも、私は必死に涙をこらえ続けた。
(どうして…っ。)
どうして、そこまで言われなければならないのだろう。
私だって、自分は容姿だって普通以下で、つまらない女だということは分かっている。
リヴァイ兵長には釣り合うはずだってない。
知っているのだ。そんなことくらい。
だから私は、意味の分からないプロポーズだって本気にしていないし、リヴァイ兵長に想われているなんて己惚れてもいない。
自分で、ちゃんと理解している。
でもどうして、彼にそこまで言われなければ———。
言い返す勇気もない自分が一番悔しくて、私は、土を引っ掻きながら拳を握りしめた。
そのときだった。
「誰が、相手にするわけがねぇって?」
低い声が聞こえたと思った途端に、目の前にあった大きな壁の圧迫感が消えたのだ。
驚いて目を見開いた私に見えたのは、後ろから頭を鷲掴みにされて痛みに顔を歪めている彼だった。
その後ろでは、リヴァイ兵長が、悪魔も恐怖に慄くほどの恐ろしい形相で彼を睨みつけている。
「…い…ッ、ぁ"…ッ。」
彼が、何かを必死に訴えようとしているけれど、痛みで声が出ないようだ。
嫌、恐怖も感じているのかもしれない。
小刻みに脚や腕が震えている。
今のリヴァイ兵長は、平気で彼を殺してしまいそうだ。
「てめぇには昨日の罰くらいじゃ、足りなかったみてぇだな。
今から躾をし直してやろうか。
———知ってるか?躾に一番訊くのは、痛みなんだとよ!!」
「ぐぁああああッ!!!」
頭をさらに強く握られたのか、彼が声にならない悲鳴を上げた。
彼を睨みつけるリヴァイ兵長の瞳は、本気だ。
このまま、彼の頭を握り潰そうとしているようにしか見えない。
やめさせなくては———とは思っているのだ。
彼に対して腹が立っていたからと言って、このままリヴァイ兵長に殺されてしまえばいいとは思わない。
だって、こんなに理不尽で自分本位の人のせいで、この世にとって宝でもある人類最強の兵士が自らの手を汚す必要なんてない。
でも、私もまた、恐怖と驚きで、腰を抜かしたまま、目を見開きその様子を眺めるので精一杯だった。
「俺の断りもなく、ひとの女の周りをウロチョロして好き勝手に振り回した挙句に、
クソ女呼ばわりとは、どういう了見だ。この…クソ野郎が…!!」
リヴァイ兵長が、鷲掴みにしていた頭を、まるでボールのように壁に向かって投げ捨てた。
彼は、顔面を思いっきり壁にぶつけると、『ゴッ。』という血が噴き出るような声を漏らして、ズルズルと落ちていった。
そして、いまだに腰を抜かして座り込んでいる私の隣で、上半身を屈ませて、うつ伏せの状態でかろうじて壁にもたれかかる。
さっきまで私を見下ろしていた体格のいい男を、私が見下ろすことになるなんて、信じられない状況だ。
僅かに声が漏れているから、生きてはいるようだが、かなりの重傷であることは、壁にべっとりとついた血を見れば明らかだ。
だが、それでもまだリヴァイ兵長の怒りはおさまっていないようだった。
リヴァイ兵長が、彼に手を伸ばす。そして、その頭を再度鷲掴みにすると、乱暴に自分の方を向かせた。
「…ッ。」
リヴァイ兵長が、彼の顔をこちらに向かせたことで、血だらけの顔面が想像以上にひどい状態であることに驚いて、私から声にならない悲鳴が出る。
彼は、額から流れてくる血で目を開けづらそうにしている。そして、口をパクパクとして、まるでうわ言のように「ごめんなさい。ごめんなさい。」と繰り返している。
でも、彼の謝罪をリヴァイ兵長が受け入れる様子は、全くない。
リヴァイ兵長は、自分の方を向かせた彼の髪を鷲掴みにすると、自分の顔の前まで引きずって持ち上げる。
身体に力の入っていない彼は、まるでボロ雑巾のようにされるがままだ。
「いいか、覚えておけ。俺の女は、世界一いい女だ。
この壁の向こうまで探したってなまえみてぇに出来た女は見つけられねぇだろうな。
わかるか?てめぇみてぇなクソガキが、適当に声をかけていいようなお手軽な女とは挌が違ぇってことだ。」
リヴァイ兵長は、目の前にやって来た血塗れの顔面に教えるようにそう言うと、「分かったか、クソが!」と怒鳴りつけて、彼をまた壁に投げつけた。
ドンッ———少し前に、私が耳元で聞いたのとは比べ物にならないくらいに大きな音が響く。
背中を預けるようにして、なんとか壁によりかかる血塗れの彼は、もう虫の息だった。
そんな彼の頭に、リヴァイ兵長の重たそうなブーツが勢いよく落とされる。
「ぅっ…ッ。」
ドン———。
彼からは、弱弱しい声が漏れた。
彼の頭をブーツで押さえつけるリヴァイ兵長は、怖い顔で睨みつけながら、口を開く。