Q11.私達はお似合いですか?
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レジカウンターには、店主の男性はいなかった。
買い物かごを腕に下げた兵長さんの隣で、私は周囲をキョロキョロと見渡して店主を探す。
恰幅のいいおおらかな身体はすぐに見つかりそうなのに、広いとはいえない店内に、彼の影すら見当たらなかった。
「お会計ですか?」
レジカウンター前にいた私達に声をかけてきたのは、少し前に店主と話をしていた若い女性客だった。
さっきは距離があったし、狭い店内で棚や飾りに隠されていてよく見えなったが、近くで見ると、透き通るように色の白い綺麗な人だった。
清潔感のある白いシャツと色の薄いクリーム色のふわりとしたスカートが、彼女の華奢な線を際立たせている。
「はい。でも、店主さんがいらっしゃらないみたいで。」
「店主はさっき、お昼休憩に出てしまったんですよ。」
困ったように眉尻を下げた私を前に、彼女はさらりと答える。
でも、理解するのに時間がかかった。
だって、少なくとも、店内にはまだ、私達と彼女が残っているのだ。
それなのに、客を残して休憩に出てしまうなんて、信じられない。
いくら、おおらかで大雑把な性格なのだとしても、不用心だし、不誠実だ。
そう思ったのに、兵長さんは「そうか。」と納得したように頷くだけの反応だった。
もしかして、こんなことはよくあるのだろうか。
「なら、代わりに会計を頼めるか。」
「はい、もちろん。」
レジカウンターに買い物かごを置いた兵長さんにも驚いたけれど、当然のように頷いてレジカウンターの中に入っていった彼女にはもっと驚かされた。
彼女が、買い物かごから商品を取り出して、値段を確認しているのを見ながら、私は兵長さんに小声で話しかける。
「兵長さん、いいんですか?」
「何がだ。」
「お会計、彼女に頼んでしまって…。」
「問題ねぇ。」
「でも…、」
店主はこのことをどう思うのか———。
飄々としている兵長さんのせいで、余計に不安になった私は、チラリとレジカウンター奥に立つ彼女に視線を送った。
すると、彼女は一瞬、不思議そうにした後に、何かに気づいたような顔をしてから口を開いた。
「大丈夫ですよ。私は、店主さんに留守を頼まれているんです。」
「…留守を?」
「言ってなかったか。コイツは、熊野郎の女だ。」
「あぁ、女。・・・・女!?」
美人な彼女が、あの恰幅の良い熊のような店主の恋人だというのか———。
信じられない表情を浮かべた私の、驚いた声が、狭い店内に響く。
だって、どう見ても不釣り合いだったのだ。
熊と美人とじゃ、住む世界が違う。万が一、同じ世界で出逢ったところで彼らには、歳の差だってあるだろうし、恋人というよりも親子だ。
すると、彼女は、可笑しそうにクスリと笑った。
「ふふ、あんな熊さんみたいな男の人と私とじゃ
似合わないと思うでしょう?」
「あ…っ、いえ…っ、そんな、ことは…っ。」
漸く、私は、自分が、ひどく失礼な反応をしたことに気づいた。
慌てて取り繕うとするものの、うまい言い訳すら出てこない。
そんな私に、彼女は、嫌な顔一つせずに微笑みながら続ける。
「いいんですよ。隣を歩いていると、親子に見られることもあるし
ハッキリと不釣り合いだって言ってくる人もいますから。」
「…すみません。」
私は、俯いて謝っていた。
実際、彼女と店主に対して、失礼なことを言ったわけではない。
でも、心の中で思ってしまった。それだけで、十分に彼らの想いを侮辱したことになると気づいてしまったのだ。
「謝らないでください。私達は、気にしていませんから。」
彼女が、柔らかく微笑む。
その笑みが、とても可愛らしくて、綺麗で、ひどいことだと思いながらも、私はまた思ってしまうのだ。
やっぱり、彼女と店主とじゃ不釣り合いだ。
彼女にはもっと素敵な男性が似合うんじゃないだろうか。
だって、スマートで、イケメンで、もっと稼ぐ仕事をしている男性だって、彼女は選ぶことが出来るはずなのだ。
「だって、周りの目を気にしたせいで、
本当に大切な人を失ってしまうなんて、勿体ないですもん。」
彼女は自分で言って、可笑しそうに笑った。
それから、彼女は、店主の良いところを教えてくれた。
これ以上、不釣り合いだと思われないようにしたいのだと思ったが、どうも違うようだ、と照れ臭そうにハニかむ幸せそうな彼女を見て気づく。
きっと、ただ純粋に、熊のような図体の大きな男の優しさや気遣いを知ってもらいたかったのだ。大好きな人のことを、他の人にも好きになってもらいたい———そんな、彼女の純粋な恋心が、とても可愛らしかった。
彼女の話を聞きながら、私は漸く理解する。
周囲からすれば、不釣り合いどころか、住む世界までも違うように見える2人だけれど、彼女にとっては、何事も細かく気にしてしまっては、些細なことで悩む自分を、おおらかな心で笑って包みこんでくれる彼は、なくてはならない存在だったのだ。
「おう、もう帰んのか。もっとゆっくりしていけばいいのによ。」
会計が終わり、帰ろうとしたところで、漸く、店主が帰ってきた。
兵長さんが「お前の相手をしている暇はない。」と冷たく返せば、彼はイメージ通りの豪快な笑い声を上げる。
彼女から聞いても、やっぱり、彼のことを気遣いの出来る素敵な紳士だとは思えなかった。
でも、おおらかな心で、彼女を愛しているのだということは、分かる。
だって———。
「じゃあ、また遊びに来てな!なまえちゃんも!」
「楽しみに待ってますね。」
店の外に出て、店主と彼女が私達を笑顔で見送る。
店主は、彼女の腰にそっと手を添えていて、それがなんだか、とても素敵に見えたのだ。
あぁ、きっと彼は、一生、おおらかな心と愛で彼女を包み込み、あの可愛らしい微笑みを守っていくんだろうな———。
ふ、と見つめ合って小さく笑う彼らを見ていたら、とても素敵な未来までが見えた気がした。
「あ…!」
店を出て少しして、私は漸く気が付いた。
思わず、声が出て、隣を歩く兵長さんに怪訝な顔をされてしまった。
「何だ。買い忘れか?」
「茶葉屋さんのディスプレイのことを思いだしたんです。」
「それがどうかしたのか。」
「大雑把なところと、とても几帳面なところがあって、
アンバランスだなって思っていたんです。」
「そういえば、昔は適当に並んでるだけだったのを
彼女が、分かりやすくしてくれたんだったな。」
「やっぱり、そうだったんですね。サンプル用の茶葉や説明書きは
確かに助かったんですけど、なによりも、あのとても不思議な空間が
すごく居心地がよかったんです。
お似合いって、きっと、そういうことを言うんですね。」
「あぁ、そうかもな。」
兵長さんが頷くと、私達の間に、静かな時間が流れた。
でも、何かを話さなければと思う焦りは、不思議と感じなかった。
ただ、心の奥が、じんわりと温かくなっていくのが、ひどく心地よくて、もう少し長くそれを感じていたかった。
買い物かごを腕に下げた兵長さんの隣で、私は周囲をキョロキョロと見渡して店主を探す。
恰幅のいいおおらかな身体はすぐに見つかりそうなのに、広いとはいえない店内に、彼の影すら見当たらなかった。
「お会計ですか?」
レジカウンター前にいた私達に声をかけてきたのは、少し前に店主と話をしていた若い女性客だった。
さっきは距離があったし、狭い店内で棚や飾りに隠されていてよく見えなったが、近くで見ると、透き通るように色の白い綺麗な人だった。
清潔感のある白いシャツと色の薄いクリーム色のふわりとしたスカートが、彼女の華奢な線を際立たせている。
「はい。でも、店主さんがいらっしゃらないみたいで。」
「店主はさっき、お昼休憩に出てしまったんですよ。」
困ったように眉尻を下げた私を前に、彼女はさらりと答える。
でも、理解するのに時間がかかった。
だって、少なくとも、店内にはまだ、私達と彼女が残っているのだ。
それなのに、客を残して休憩に出てしまうなんて、信じられない。
いくら、おおらかで大雑把な性格なのだとしても、不用心だし、不誠実だ。
そう思ったのに、兵長さんは「そうか。」と納得したように頷くだけの反応だった。
もしかして、こんなことはよくあるのだろうか。
「なら、代わりに会計を頼めるか。」
「はい、もちろん。」
レジカウンターに買い物かごを置いた兵長さんにも驚いたけれど、当然のように頷いてレジカウンターの中に入っていった彼女にはもっと驚かされた。
彼女が、買い物かごから商品を取り出して、値段を確認しているのを見ながら、私は兵長さんに小声で話しかける。
「兵長さん、いいんですか?」
「何がだ。」
「お会計、彼女に頼んでしまって…。」
「問題ねぇ。」
「でも…、」
店主はこのことをどう思うのか———。
飄々としている兵長さんのせいで、余計に不安になった私は、チラリとレジカウンター奥に立つ彼女に視線を送った。
すると、彼女は一瞬、不思議そうにした後に、何かに気づいたような顔をしてから口を開いた。
「大丈夫ですよ。私は、店主さんに留守を頼まれているんです。」
「…留守を?」
「言ってなかったか。コイツは、熊野郎の女だ。」
「あぁ、女。・・・・女!?」
美人な彼女が、あの恰幅の良い熊のような店主の恋人だというのか———。
信じられない表情を浮かべた私の、驚いた声が、狭い店内に響く。
だって、どう見ても不釣り合いだったのだ。
熊と美人とじゃ、住む世界が違う。万が一、同じ世界で出逢ったところで彼らには、歳の差だってあるだろうし、恋人というよりも親子だ。
すると、彼女は、可笑しそうにクスリと笑った。
「ふふ、あんな熊さんみたいな男の人と私とじゃ
似合わないと思うでしょう?」
「あ…っ、いえ…っ、そんな、ことは…っ。」
漸く、私は、自分が、ひどく失礼な反応をしたことに気づいた。
慌てて取り繕うとするものの、うまい言い訳すら出てこない。
そんな私に、彼女は、嫌な顔一つせずに微笑みながら続ける。
「いいんですよ。隣を歩いていると、親子に見られることもあるし
ハッキリと不釣り合いだって言ってくる人もいますから。」
「…すみません。」
私は、俯いて謝っていた。
実際、彼女と店主に対して、失礼なことを言ったわけではない。
でも、心の中で思ってしまった。それだけで、十分に彼らの想いを侮辱したことになると気づいてしまったのだ。
「謝らないでください。私達は、気にしていませんから。」
彼女が、柔らかく微笑む。
その笑みが、とても可愛らしくて、綺麗で、ひどいことだと思いながらも、私はまた思ってしまうのだ。
やっぱり、彼女と店主とじゃ不釣り合いだ。
彼女にはもっと素敵な男性が似合うんじゃないだろうか。
だって、スマートで、イケメンで、もっと稼ぐ仕事をしている男性だって、彼女は選ぶことが出来るはずなのだ。
「だって、周りの目を気にしたせいで、
本当に大切な人を失ってしまうなんて、勿体ないですもん。」
彼女は自分で言って、可笑しそうに笑った。
それから、彼女は、店主の良いところを教えてくれた。
これ以上、不釣り合いだと思われないようにしたいのだと思ったが、どうも違うようだ、と照れ臭そうにハニかむ幸せそうな彼女を見て気づく。
きっと、ただ純粋に、熊のような図体の大きな男の優しさや気遣いを知ってもらいたかったのだ。大好きな人のことを、他の人にも好きになってもらいたい———そんな、彼女の純粋な恋心が、とても可愛らしかった。
彼女の話を聞きながら、私は漸く理解する。
周囲からすれば、不釣り合いどころか、住む世界までも違うように見える2人だけれど、彼女にとっては、何事も細かく気にしてしまっては、些細なことで悩む自分を、おおらかな心で笑って包みこんでくれる彼は、なくてはならない存在だったのだ。
「おう、もう帰んのか。もっとゆっくりしていけばいいのによ。」
会計が終わり、帰ろうとしたところで、漸く、店主が帰ってきた。
兵長さんが「お前の相手をしている暇はない。」と冷たく返せば、彼はイメージ通りの豪快な笑い声を上げる。
彼女から聞いても、やっぱり、彼のことを気遣いの出来る素敵な紳士だとは思えなかった。
でも、おおらかな心で、彼女を愛しているのだということは、分かる。
だって———。
「じゃあ、また遊びに来てな!なまえちゃんも!」
「楽しみに待ってますね。」
店の外に出て、店主と彼女が私達を笑顔で見送る。
店主は、彼女の腰にそっと手を添えていて、それがなんだか、とても素敵に見えたのだ。
あぁ、きっと彼は、一生、おおらかな心と愛で彼女を包み込み、あの可愛らしい微笑みを守っていくんだろうな———。
ふ、と見つめ合って小さく笑う彼らを見ていたら、とても素敵な未来までが見えた気がした。
「あ…!」
店を出て少しして、私は漸く気が付いた。
思わず、声が出て、隣を歩く兵長さんに怪訝な顔をされてしまった。
「何だ。買い忘れか?」
「茶葉屋さんのディスプレイのことを思いだしたんです。」
「それがどうかしたのか。」
「大雑把なところと、とても几帳面なところがあって、
アンバランスだなって思っていたんです。」
「そういえば、昔は適当に並んでるだけだったのを
彼女が、分かりやすくしてくれたんだったな。」
「やっぱり、そうだったんですね。サンプル用の茶葉や説明書きは
確かに助かったんですけど、なによりも、あのとても不思議な空間が
すごく居心地がよかったんです。
お似合いって、きっと、そういうことを言うんですね。」
「あぁ、そうかもな。」
兵長さんが頷くと、私達の間に、静かな時間が流れた。
でも、何かを話さなければと思う焦りは、不思議と感じなかった。
ただ、心の奥が、じんわりと温かくなっていくのが、ひどく心地よくて、もう少し長くそれを感じていたかった。