【第七訓】風が吹けば桶屋が儲かるっていうけどあれ棺桶屋ではないらしい
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土方は、真選組屯所にある稽古場の入口そばの壁に背を預け、煙草を吸いながら中の様子を眺めていた。
今日は、1番隊の稽古日だ。でも、猫の手どころか馬鹿の手まで借りたいほどに忙しい中で、どこからか嬉しいニュースを聞いた古巣の仲間まで集まっていて、稽古場はいつにも増して賑やかになっている。
その中心で、隊士達と楽しそうに喋っているのは、嬉しいニュースの張本人で、5年前に突然姿を消した名前だ。
腕に番傘を下げて大切そうに持っているし、青いチャイナ服に身を包んでいる姿は、あの頃と同じだ。
相変わらず、今日の天気のような青空みたいな笑顔を振りまいている。
何も変わらないように見えるけれど、5年の月日は、彼女を綺麗にしていた。
突然消えた彼女を、突然、片栗虎が連れてきたときには、さすがに土方も驚いた。
だが、妙と同じキャバクラで働いているところを見つけてきたのだと聞いて、納得してしまった。
あの頃の彼女が、キャバクラで働いていた——なんて聞いたら、似合わないと思ったはずだ。
きっと、あの頃と変わらない、相変わらずだと思いながらも、知らない時間を過ぎて大人の女性になった彼女がそこにいることを、頭のどこか奥で理解はしているのだろう。
近藤は、彼女が帰ってきたことが余程嬉しいのか、近さっきから隣から離れず、ずっと楽しそうに話しかけている。
いや、近藤だけではない。同じ道場に通っていた古巣の隊士達は皆、ずっと会えなかった仲間との再会を心から喜んでいるようだった。
離れたところで、煙草をふかしながら、遠目で眺めているのなんて、土方だけだ。
「なんだ、お前ら、知り合いだったのか。」
土方の隣で、気だるげに煙草を吸いながら、片栗虎が言う。
「あぁ、昔のな。」
「誰かの女だったのか?まさか、近藤の女とは言わねぇよな。」
「言わねぇよ。アレは・・・誰の女でもなかった。」
「そりゃ残念だったな。押しても引いても
手をかすめるだけの風みてぇな娘を手に入れる為にゃ、
自分も風になるしかねぇさ。」
ハハッと片栗虎が意地悪く笑う。
風か———。
確かに、彼女を例えるのに、それはとても的を得ているように思えた。
いつも無邪気に笑って、とぼけたことを言って、どこか抜けているように見せているけれど、腹の底に何を隠し持っているかは彼女は絶対に誰にも見せようとしなかった。
だから、彼女が突然いなくなったとき、驚きや悲しみよりもまず『あぁ、やっぱり。』と思ったのだ。
もちろん、平気だったわけではない。
一緒に苦楽を共にした仲間が突然消えてしまったことはショックだったのは間違いない。
ただ、突然現れた彼女は、突然姿を消す———そんな気がしていた。
それでも、土方達は必死になって彼女を探したのだ。でも結局、そのまま見つけることは出来なかった。
そして思い知った。
数年一緒に釜の飯を食ったはずの彼女のことを、自分達は何も知らなかった。
彼女が夜兎族の生き残りだと気づいたのも、万事屋のチャイナ娘こと神楽と知り合ったからだ。
本当に、何も知らなかったのだ。
「まぁ、知り合いなら話が早ぇ。
晴子ちゃんには、今日から真選組で働いてもらうことになった。」
「晴子ちゃん?」
「あー、それはキャバクラの芸名だったな。
あれ、本名は何て言ったっけな。」
「名前です、片栗のおじ様。」
名前がやってきて、ニコリと微笑む。
あぁ、やっぱり違う———どこが、かは分からなかったけれど、柔らかい笑みを前にして、あの頃の名前ではもうないのだな、と土方は改めて実感した。
「そうだ、そうそう。名前ちゃん。晴子ちゃんもすごく似合うから、
ついつい忘れちまう。」
「アハハ、それは嬉しいな。」
可笑しそうに言う名前のそばで、古巣の隊士達は、彼女がまた仲間としてそばにいるのだと知って盛り上がる。
「おー!そうかそうか!!名前が隊士に!!
そりゃめでてぇ!!」
一番喜んだのは、近藤だ。
名前の両手を握りしめて、10代の女子のようにピョンピョンと跳ねて喜んでいる。
そして、笑顔の名前に「ゴリラダンス、覚えたんだ~。」と感動されている。
でも、彼女が真選組の隊士を務めることに眉を顰める隊士も多くいた。
「彼女がですか?
失礼ですが、真選組の任務は、キャバクラのお姉さんに務まるようなものじゃねぇです。」
そう言ったのは、若い隊士だった。
古巣以外の隊士達は、ほとんどが彼と同意のようで、危険だからやめた方がいいと反対の声を上げた。
彼女のことを知らないのだから、当然だった。
華奢で、守られて生きてきたようにしか見えない彼女に、真選組の隊士なんて務まるわけがない———土方も、初見だったならそう思っただろう。
実際、初めて会った日———。
『強くなりたいの。私をこの道場に入れて。』
道場の入口に立っていた名前の姿は、今でも覚えている。
もう何日もろくに食事をとっていないような骨に近い身体と破れてちぎれたボロボロのチャイナ服。
強くなるどころか、今すぐに誰かが手を差し伸べて守ってやらなければ生きていけなさそうなか弱い少女にしか見えなかったはずなのに、それとは対照的な、覚悟を決めたような力強い瞳は、もうその時点で、そこにいる誰よりも強く感じた。
反対する門下生達をなだめて、彼女の入門を許可した近藤もきっと、あの瞳の揺るぎない強さを感じとったからなのだと思う。
そしてもう、あの道場で彼女の強い意思を目の当たりにした仲間達は、皆が歓迎していて———。
「俺は反対ですぜイ。とっつぁん。」
土方の後ろで、聞き慣れた声がキッパリと反対を告げた。
今日は、1番隊の稽古日だ。でも、猫の手どころか馬鹿の手まで借りたいほどに忙しい中で、どこからか嬉しいニュースを聞いた古巣の仲間まで集まっていて、稽古場はいつにも増して賑やかになっている。
その中心で、隊士達と楽しそうに喋っているのは、嬉しいニュースの張本人で、5年前に突然姿を消した名前だ。
腕に番傘を下げて大切そうに持っているし、青いチャイナ服に身を包んでいる姿は、あの頃と同じだ。
相変わらず、今日の天気のような青空みたいな笑顔を振りまいている。
何も変わらないように見えるけれど、5年の月日は、彼女を綺麗にしていた。
突然消えた彼女を、突然、片栗虎が連れてきたときには、さすがに土方も驚いた。
だが、妙と同じキャバクラで働いているところを見つけてきたのだと聞いて、納得してしまった。
あの頃の彼女が、キャバクラで働いていた——なんて聞いたら、似合わないと思ったはずだ。
きっと、あの頃と変わらない、相変わらずだと思いながらも、知らない時間を過ぎて大人の女性になった彼女がそこにいることを、頭のどこか奥で理解はしているのだろう。
近藤は、彼女が帰ってきたことが余程嬉しいのか、近さっきから隣から離れず、ずっと楽しそうに話しかけている。
いや、近藤だけではない。同じ道場に通っていた古巣の隊士達は皆、ずっと会えなかった仲間との再会を心から喜んでいるようだった。
離れたところで、煙草をふかしながら、遠目で眺めているのなんて、土方だけだ。
「なんだ、お前ら、知り合いだったのか。」
土方の隣で、気だるげに煙草を吸いながら、片栗虎が言う。
「あぁ、昔のな。」
「誰かの女だったのか?まさか、近藤の女とは言わねぇよな。」
「言わねぇよ。アレは・・・誰の女でもなかった。」
「そりゃ残念だったな。押しても引いても
手をかすめるだけの風みてぇな娘を手に入れる為にゃ、
自分も風になるしかねぇさ。」
ハハッと片栗虎が意地悪く笑う。
風か———。
確かに、彼女を例えるのに、それはとても的を得ているように思えた。
いつも無邪気に笑って、とぼけたことを言って、どこか抜けているように見せているけれど、腹の底に何を隠し持っているかは彼女は絶対に誰にも見せようとしなかった。
だから、彼女が突然いなくなったとき、驚きや悲しみよりもまず『あぁ、やっぱり。』と思ったのだ。
もちろん、平気だったわけではない。
一緒に苦楽を共にした仲間が突然消えてしまったことはショックだったのは間違いない。
ただ、突然現れた彼女は、突然姿を消す———そんな気がしていた。
それでも、土方達は必死になって彼女を探したのだ。でも結局、そのまま見つけることは出来なかった。
そして思い知った。
数年一緒に釜の飯を食ったはずの彼女のことを、自分達は何も知らなかった。
彼女が夜兎族の生き残りだと気づいたのも、万事屋のチャイナ娘こと神楽と知り合ったからだ。
本当に、何も知らなかったのだ。
「まぁ、知り合いなら話が早ぇ。
晴子ちゃんには、今日から真選組で働いてもらうことになった。」
「晴子ちゃん?」
「あー、それはキャバクラの芸名だったな。
あれ、本名は何て言ったっけな。」
「名前です、片栗のおじ様。」
名前がやってきて、ニコリと微笑む。
あぁ、やっぱり違う———どこが、かは分からなかったけれど、柔らかい笑みを前にして、あの頃の名前ではもうないのだな、と土方は改めて実感した。
「そうだ、そうそう。名前ちゃん。晴子ちゃんもすごく似合うから、
ついつい忘れちまう。」
「アハハ、それは嬉しいな。」
可笑しそうに言う名前のそばで、古巣の隊士達は、彼女がまた仲間としてそばにいるのだと知って盛り上がる。
「おー!そうかそうか!!名前が隊士に!!
そりゃめでてぇ!!」
一番喜んだのは、近藤だ。
名前の両手を握りしめて、10代の女子のようにピョンピョンと跳ねて喜んでいる。
そして、笑顔の名前に「ゴリラダンス、覚えたんだ~。」と感動されている。
でも、彼女が真選組の隊士を務めることに眉を顰める隊士も多くいた。
「彼女がですか?
失礼ですが、真選組の任務は、キャバクラのお姉さんに務まるようなものじゃねぇです。」
そう言ったのは、若い隊士だった。
古巣以外の隊士達は、ほとんどが彼と同意のようで、危険だからやめた方がいいと反対の声を上げた。
彼女のことを知らないのだから、当然だった。
華奢で、守られて生きてきたようにしか見えない彼女に、真選組の隊士なんて務まるわけがない———土方も、初見だったならそう思っただろう。
実際、初めて会った日———。
『強くなりたいの。私をこの道場に入れて。』
道場の入口に立っていた名前の姿は、今でも覚えている。
もう何日もろくに食事をとっていないような骨に近い身体と破れてちぎれたボロボロのチャイナ服。
強くなるどころか、今すぐに誰かが手を差し伸べて守ってやらなければ生きていけなさそうなか弱い少女にしか見えなかったはずなのに、それとは対照的な、覚悟を決めたような力強い瞳は、もうその時点で、そこにいる誰よりも強く感じた。
反対する門下生達をなだめて、彼女の入門を許可した近藤もきっと、あの瞳の揺るぎない強さを感じとったからなのだと思う。
そしてもう、あの道場で彼女の強い意思を目の当たりにした仲間達は、皆が歓迎していて———。
「俺は反対ですぜイ。とっつぁん。」
土方の後ろで、聞き慣れた声がキッパリと反対を告げた。