【第五訓】思春期の男子に出来るのは棒を握ることくらいなもんだ
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総悟は、部屋の床に仰向けに寝転んで、古びた天井を眺めていた。
外からは、静かに降る、雨の音がしている。
今日は、昨日の事件が原因で、急遽、稽古が中止になってしまった。
普段は、稽古をサボってばかりいるのに、稽古が出来ないと言われると、どうしても道場に行きたくて仕方がなくなる。
自分が相当な天邪鬼だということは、自負している。
でも、今この時、布団の上でただじっとしていられる男が、この道場にいるだろうか。
きっと、何人もの男達が今、同じような時間を過ごしているはずだ。
昨日の事件で、自分達を襲ってきたのは、相当な手練れだった。
近藤の道場で初めて稽古をつけてもらったときから、沢山の時間が流れた。あの頃よりもずっと強くなったと思っていた。
それなりに自信もあった。
でも、歯が立たなかった。かすめもしなかった。
悔しい。己の弱さにも、それすらも知らずに哀れな自信に己惚れていた自分も、情けなくて、悔しい。
でもそれは、総悟だけではない。
近藤も、土方も、同じだ。
誰も、勝てなかったのだ。
『総ちゃんっ!近藤さんっ、トシくんっ。みんなっ、なんで…っ。』
傷だらけの総悟を見つけて駆け寄ってきた彼女の顔が脳裏に蘇る。
いつも無邪気に笑っている彼女が、今にも泣きそうで、傷ついたように、何度も何度も自分の名を呼んでいた。
その名で呼ぶなと、何度も何度も言った。まるで、弟みたいに呼ばれるそれが大嫌いだった。
でも、あの時のそれは、今までで一番嫌だった。
ひどく悲しそうに、辛そうに、彼女に名を呼ばれるのは、嫌だ。
もう二度とあんな顔は見たくない。あんな顔は、させたくない。
(強く、なりたい。もっと、強く。誰よりも、強く———。)
古い天井に伸ばした総悟の手は、決意を掴んで拳を握った。
そうと決まれば、こんなところで寝ている場合ではないのだ。
たとえ、この身体が、昨日の事件でボロボロになっていようが。医者に『安静にしているように。』とくぎを刺されていようが。一歩、足を踏み出す度に、身体中が悲鳴を上げようが。
これくらいで弱音を吐いていたら、勝てない。
自分に勝てない男が、他の誰かに勝てるわけがないのだ。
総悟は、ヒビの入った左脚を引きずって部屋を出た。
外からは、静かに降る、雨の音がしている。
今日は、昨日の事件が原因で、急遽、稽古が中止になってしまった。
普段は、稽古をサボってばかりいるのに、稽古が出来ないと言われると、どうしても道場に行きたくて仕方がなくなる。
自分が相当な天邪鬼だということは、自負している。
でも、今この時、布団の上でただじっとしていられる男が、この道場にいるだろうか。
きっと、何人もの男達が今、同じような時間を過ごしているはずだ。
昨日の事件で、自分達を襲ってきたのは、相当な手練れだった。
近藤の道場で初めて稽古をつけてもらったときから、沢山の時間が流れた。あの頃よりもずっと強くなったと思っていた。
それなりに自信もあった。
でも、歯が立たなかった。かすめもしなかった。
悔しい。己の弱さにも、それすらも知らずに哀れな自信に己惚れていた自分も、情けなくて、悔しい。
でもそれは、総悟だけではない。
近藤も、土方も、同じだ。
誰も、勝てなかったのだ。
『総ちゃんっ!近藤さんっ、トシくんっ。みんなっ、なんで…っ。』
傷だらけの総悟を見つけて駆け寄ってきた彼女の顔が脳裏に蘇る。
いつも無邪気に笑っている彼女が、今にも泣きそうで、傷ついたように、何度も何度も自分の名を呼んでいた。
その名で呼ぶなと、何度も何度も言った。まるで、弟みたいに呼ばれるそれが大嫌いだった。
でも、あの時のそれは、今までで一番嫌だった。
ひどく悲しそうに、辛そうに、彼女に名を呼ばれるのは、嫌だ。
もう二度とあんな顔は見たくない。あんな顔は、させたくない。
(強く、なりたい。もっと、強く。誰よりも、強く———。)
古い天井に伸ばした総悟の手は、決意を掴んで拳を握った。
そうと決まれば、こんなところで寝ている場合ではないのだ。
たとえ、この身体が、昨日の事件でボロボロになっていようが。医者に『安静にしているように。』とくぎを刺されていようが。一歩、足を踏み出す度に、身体中が悲鳴を上げようが。
これくらいで弱音を吐いていたら、勝てない。
自分に勝てない男が、他の誰かに勝てるわけがないのだ。
総悟は、ヒビの入った左脚を引きずって部屋を出た。