【第一訓】昔の恋バナはいちごパフェよりも胃もたれする
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真選組副長の土方十四郎は、珍しくファミレスにいた。
ウェイトレスが持ってきた白飯を受け取ると、ジャケットの胸ポケットから持参したマヨネーズを取り出し、米粒がひとつ残らず見えなくなるまでぐるぐるとまわしかける。
「毎度毎度、気色悪い食いもんを他人様の前にお披露目してんじゃねぇよ。
吐かせる気ですか、コノヤロー。」
本当に吐き気を催したらしい坂田銀時は、うぷっと口元を手で覆った。
そんな彼の前には、生クリームを益しましにしてもらった苺パフェと空になったパフェグラス3杯が整列している。
「てめぇの甘味の大渋滞の方が吐きそうになるわ。
ったく、他人の財布で注文しまくりやがって。」
「おいおいふざけんじゃねぇぞ。
他人の財布だから注文しまくるんじゃねぇーか。」
土方が垂らす文句にも動じず、銀時は適当に鼻をほじる。
本当に、他人を腹立たせるのが得意な男だ。
(相変わらず、ムカつく野郎だな。)
文句を言いたい気持ちはやまやまだが、今は銀時の機嫌を損ねるわけにはいかない。
なんとかイラつきを堪えた土方は、吐き出したい文句と一緒に特製マヨ丼をかき込んだ。
今日、歌舞伎町にある万事屋『銀ちゃん』に、珍しく土方が訪れたのは、仕事の為だった。
最近、この辺りの治安がさらに悪くなってきている。
とは言っても、何か大きな組織が動いているような様子もなく、チンピラや素行不良のガキが、喧嘩やら万引きやらを起こす程度だ。
だが、その度に現場に駆け付けなければならない真選組の隊士達は、その数が増えれば増える程、休む暇はなくなる。
おまけに、見廻り組は、小さな事件は真選組が対応するべきだとばかりに、面倒ごとを押し付けてくる。
そして、とうとう、真選組は今、隊士不足という事態に陥ってしまったのだ。
そこで、猫の手も借りたい真選組は、局長である近藤勲の迷案により、武術だけには長けている万事屋『銀ちゃん』に助っ人を頼もうとなったのだ。
そして、馬鹿で、アホで、必ず何か問題を起こす彼らに助けを求めるくらいなら、本当に猫の手を借りた方がマシだという土方の必死の説得も虚しく、昨日の隊士会議により、万事屋に手を借りることが決定してしまった。
その結果、天敵である銀時に頭を下げる役目まで任命されてしまった哀れな男が、真選組鬼の副長こと土方十四郎というわけである。
「————ってぇわけだ。まぁ、お前が嫌だっつうなら俺は無理にとは———。」
「別に構わねぇよ。」
「は?」
「いやぁ~。うち、今、金欠で絶賛仕事募集中だったんだよね~。
あ、給料前借り出来る?ていうか、その時給じゃやる気でないんですけど~。」
いつも金欠じゃねぇーか、というツッコミやその他諸々を飲み込んで、土方は煙草を咥えた。
「そういや、お前の金魚の糞共はどうしたんだ。」
訊ねながら、土方は煙草に火をつける。
今朝、万事屋を訪れたときから、眼鏡とチャイナ娘は不在だった。
いつもなら必ず銀時の周りをうろちょろしているから、不思議だったのだ。
「あ~、家賃滞納の罰でババァの奴隷をやらされてる。」
「それはお前がやらされるべき罰なんじゃねぇのか。」
「俺のものは俺のもの、俺の罰はアイツ等の罰だ。」
「ジャイアンよりクソ野郎だな。」
「それより、お前専門のアサシンはどこ行ったんだよ。
どこかからバズーカ抱えて、お前の命狙ってんのか。
俺を巻き込むなって言っとけよ。」
銀時は適当なことを言いながら、おかわりをした苺パフェを口に運ぶ。
専用のアサシンってなんだよ———、そう思いながらも、すぐに誰だか分かってしまった自分が悲しかった。
「総悟は————。」
言いかけて、その先が続かない。
心に刺さったままだった棘が、チクリチクリと痛みを増しながら奥へと深く入り込んでくるようだった。
雰囲気の変わった土方に気がついたのか、パフェのアイスを食べようとしていた銀時が顔を上げた。
「どうした?」
「いや。」
土方は小さく首を横に振り、今度こそ続けた。
「総悟は、墓参りに行ってる。」
「あぁ…、今日は姉貴の月命日か。」
「そういうことだ。」
土方は、まだだいぶ残っている煙草を灰皿に押しつけて火を消す。
真選組で一番隊の隊長をしている沖田総悟の姉である沖田ミツバが亡くなって、もう数か月————いや、まだ数か月しか経っていない。
最後に彼女に会ったのがまだつい昨日のことのようにも思えるし、遠い昔のようにも感じる。
姉を慕っていた総悟の心にあいてしまった穴の大きさはいかほどか。
彼は、毎月、この日になると、どんなに忙しくとも、どんなに仕事が溜まってうとも、そのすべてを土方に押しつけて休みを取り、亡き姉に会いに行っている。
「休みの日にわざわざ姉ちゃんに会いに行くって、まだまだしょんべん臭ぇガキだな。
たまにはデートでも行っとけって、お前からも忠告してやれよ。
まぁ、それはお前もだけどな。」
「うるせぇ。」
新しい煙草を咥え、火をつけようとしていた土方は、思いきり眉を顰めた。
でも、銀時の言葉で、ふ、と懐かしい女のことを思い出したのだ。
その女は、〝女〟と呼ぶにはまだ少し幼く、少女と呼ぶには大人びた雰囲気を纏っていた。
年の頃は、ミツバと同じか、少し下だったはずだ。
幼少期から総悟のことを知っているが、彼が身内以外で心を開いた女は、きっと彼女だけだ。
ウェイトレスが持ってきた白飯を受け取ると、ジャケットの胸ポケットから持参したマヨネーズを取り出し、米粒がひとつ残らず見えなくなるまでぐるぐるとまわしかける。
「毎度毎度、気色悪い食いもんを他人様の前にお披露目してんじゃねぇよ。
吐かせる気ですか、コノヤロー。」
本当に吐き気を催したらしい坂田銀時は、うぷっと口元を手で覆った。
そんな彼の前には、生クリームを益しましにしてもらった苺パフェと空になったパフェグラス3杯が整列している。
「てめぇの甘味の大渋滞の方が吐きそうになるわ。
ったく、他人の財布で注文しまくりやがって。」
「おいおいふざけんじゃねぇぞ。
他人の財布だから注文しまくるんじゃねぇーか。」
土方が垂らす文句にも動じず、銀時は適当に鼻をほじる。
本当に、他人を腹立たせるのが得意な男だ。
(相変わらず、ムカつく野郎だな。)
文句を言いたい気持ちはやまやまだが、今は銀時の機嫌を損ねるわけにはいかない。
なんとかイラつきを堪えた土方は、吐き出したい文句と一緒に特製マヨ丼をかき込んだ。
今日、歌舞伎町にある万事屋『銀ちゃん』に、珍しく土方が訪れたのは、仕事の為だった。
最近、この辺りの治安がさらに悪くなってきている。
とは言っても、何か大きな組織が動いているような様子もなく、チンピラや素行不良のガキが、喧嘩やら万引きやらを起こす程度だ。
だが、その度に現場に駆け付けなければならない真選組の隊士達は、その数が増えれば増える程、休む暇はなくなる。
おまけに、見廻り組は、小さな事件は真選組が対応するべきだとばかりに、面倒ごとを押し付けてくる。
そして、とうとう、真選組は今、隊士不足という事態に陥ってしまったのだ。
そこで、猫の手も借りたい真選組は、局長である近藤勲の迷案により、武術だけには長けている万事屋『銀ちゃん』に助っ人を頼もうとなったのだ。
そして、馬鹿で、アホで、必ず何か問題を起こす彼らに助けを求めるくらいなら、本当に猫の手を借りた方がマシだという土方の必死の説得も虚しく、昨日の隊士会議により、万事屋に手を借りることが決定してしまった。
その結果、天敵である銀時に頭を下げる役目まで任命されてしまった哀れな男が、真選組鬼の副長こと土方十四郎というわけである。
「————ってぇわけだ。まぁ、お前が嫌だっつうなら俺は無理にとは———。」
「別に構わねぇよ。」
「は?」
「いやぁ~。うち、今、金欠で絶賛仕事募集中だったんだよね~。
あ、給料前借り出来る?ていうか、その時給じゃやる気でないんですけど~。」
いつも金欠じゃねぇーか、というツッコミやその他諸々を飲み込んで、土方は煙草を咥えた。
「そういや、お前の金魚の糞共はどうしたんだ。」
訊ねながら、土方は煙草に火をつける。
今朝、万事屋を訪れたときから、眼鏡とチャイナ娘は不在だった。
いつもなら必ず銀時の周りをうろちょろしているから、不思議だったのだ。
「あ~、家賃滞納の罰でババァの奴隷をやらされてる。」
「それはお前がやらされるべき罰なんじゃねぇのか。」
「俺のものは俺のもの、俺の罰はアイツ等の罰だ。」
「ジャイアンよりクソ野郎だな。」
「それより、お前専門のアサシンはどこ行ったんだよ。
どこかからバズーカ抱えて、お前の命狙ってんのか。
俺を巻き込むなって言っとけよ。」
銀時は適当なことを言いながら、おかわりをした苺パフェを口に運ぶ。
専用のアサシンってなんだよ———、そう思いながらも、すぐに誰だか分かってしまった自分が悲しかった。
「総悟は————。」
言いかけて、その先が続かない。
心に刺さったままだった棘が、チクリチクリと痛みを増しながら奥へと深く入り込んでくるようだった。
雰囲気の変わった土方に気がついたのか、パフェのアイスを食べようとしていた銀時が顔を上げた。
「どうした?」
「いや。」
土方は小さく首を横に振り、今度こそ続けた。
「総悟は、墓参りに行ってる。」
「あぁ…、今日は姉貴の月命日か。」
「そういうことだ。」
土方は、まだだいぶ残っている煙草を灰皿に押しつけて火を消す。
真選組で一番隊の隊長をしている沖田総悟の姉である沖田ミツバが亡くなって、もう数か月————いや、まだ数か月しか経っていない。
最後に彼女に会ったのがまだつい昨日のことのようにも思えるし、遠い昔のようにも感じる。
姉を慕っていた総悟の心にあいてしまった穴の大きさはいかほどか。
彼は、毎月、この日になると、どんなに忙しくとも、どんなに仕事が溜まってうとも、そのすべてを土方に押しつけて休みを取り、亡き姉に会いに行っている。
「休みの日にわざわざ姉ちゃんに会いに行くって、まだまだしょんべん臭ぇガキだな。
たまにはデートでも行っとけって、お前からも忠告してやれよ。
まぁ、それはお前もだけどな。」
「うるせぇ。」
新しい煙草を咥え、火をつけようとしていた土方は、思いきり眉を顰めた。
でも、銀時の言葉で、ふ、と懐かしい女のことを思い出したのだ。
その女は、〝女〟と呼ぶにはまだ少し幼く、少女と呼ぶには大人びた雰囲気を纏っていた。
年の頃は、ミツバと同じか、少し下だったはずだ。
幼少期から総悟のことを知っているが、彼が身内以外で心を開いた女は、きっと彼女だけだ。