3. 渋滞にはまった車窓からの風景
Name change
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「名前…、名前…、名前。」
カウンターに突っ伏したまま、ぼんやりとした意識の中で、遠い昔のことを思い出していた。
お酒のせいだ。
酔っぱらっているせい。
全部、そのせいだ。
イゾウが私の名前を呼んでいるのも、いつからかは分からないけれど、途中から聞こえていた。
でも、返事をするのも面倒でチラッと視線だけ上げて顔を見てしまったら、すごい怖い顔で睨まれた。
それもきっと、飲みすぎたお酒が私に見せた間違いで———。
「俺様が呼んでるのに、無視してんじゃねぇ。」
カウンター越しに、思いきり頭を叩かれた。
か弱い女子に———なんて言ったところで、口の回る彼に倍返しにされるどころか、自尊心をボロボロに傷つけられることは分かっている。
渋々、文句を心の奥にグッと押し込んで、身体を起こした。
「バーカ、バーカ。」
やっぱり悔しくて文句を言ったら、恐ろしい形相で睨みつけられた。
イゾウは、女も羨むくらいに美しいだ。
イケメンだとか、男前とか、美人とか、そういう言葉があるけれど、彼の場合は、その次元にいない。
とにかく、〝美しい〟のだ。
長い黒髪も、それを後ろで一つに結ぶ所作も、口紅を塗っていないのに赤い唇も、雪のように白い肌も、少し吊っている目も吸い込まれそうになる黒い瞳を魅力的に演出しているように見えてしまうほどだ。
そうやって、恐ろしい形相で睨む姿さえも色っぽい。
そして、美人に睨まれると怖い、とよく言うように、イゾウに睨まれると背筋がひんやりとする。
「…バーカ。」
目をそらして小さい声で悪口を言ったら、大きなため息を吐かれた。
どうやら、私に苛つくことを諦めてくれたらしい。
早くそうしてくれたらよかったのに———。
「今からマルコ達とカウントダウンついでに初詣に行くことになった。
お前も行くだろ。」
イゾウが、私のグラスとベイのグラスを勝手に片付けながら言う。
「マルコさん達と?」
「ナンパに失敗したサッチが、馴染みで飲みてぇと騒いでうるせぇんだよ。」
グラスを洗うイゾウが、綺麗な眉を顰めた。
どうやら、さっきの電話の相手はサッチさんだったようだ。
落ち着いてしっかりしているマルコさんとお茶目で少し騒がしくて女好きのサッチさんは、性格が正反対のようで、実際本当に正反対だ。
でも、その凸凹がうまくマッチしているのか、なんだかんだととても仲が良い。
そんな彼らとイゾウは気が合うようで、幾つかの歳の差はあるけれど、昔からよくつるんでいる。
年上の彼らが、我儘なイゾウになんだかんだと合わせてくれているのかもしれない。
そういうことをサラリと出来てしまうのが、彼らの大人なところで、カッコ良いと思う。
きっと、勘もよければ頭もよくて、他人をよく見ているイゾウも気づいているはずだ。
だからこそ、面倒だからと友人を作りたがらないイゾウも、彼らと一緒にいるのは居心地が良いのだろうし、感謝もしているのだと思う。
私も、彼らのことは好きだ。
イゾウに紹介してもらってからの付き合いだから、もう高校生の頃から彼らを知っている。
でも————。
「私はいいや。帰る。」
バッグを掴んで立ち上がった。
彼らとも、あれからずっと会ってない。
会わせる顔も、ない————。
「私、帰るわー。あれ、名前も帰るの?」
バーの扉が開いて、ベイが戻ってきた。
「うん、家に帰ってゆっくり年越しを——。」
「今から俺と一緒にマルコ達と合流。」
「アンタ達も昔から変わんないねー。」
「私は行くなんて——。」
「リーゼントはともかく、マルコによろしくねー!」
私の話も聞かないで、ベイが早々とバーを出て行った。
カウンターに突っ伏したまま、ぼんやりとした意識の中で、遠い昔のことを思い出していた。
お酒のせいだ。
酔っぱらっているせい。
全部、そのせいだ。
イゾウが私の名前を呼んでいるのも、いつからかは分からないけれど、途中から聞こえていた。
でも、返事をするのも面倒でチラッと視線だけ上げて顔を見てしまったら、すごい怖い顔で睨まれた。
それもきっと、飲みすぎたお酒が私に見せた間違いで———。
「俺様が呼んでるのに、無視してんじゃねぇ。」
カウンター越しに、思いきり頭を叩かれた。
か弱い女子に———なんて言ったところで、口の回る彼に倍返しにされるどころか、自尊心をボロボロに傷つけられることは分かっている。
渋々、文句を心の奥にグッと押し込んで、身体を起こした。
「バーカ、バーカ。」
やっぱり悔しくて文句を言ったら、恐ろしい形相で睨みつけられた。
イゾウは、女も羨むくらいに美しいだ。
イケメンだとか、男前とか、美人とか、そういう言葉があるけれど、彼の場合は、その次元にいない。
とにかく、〝美しい〟のだ。
長い黒髪も、それを後ろで一つに結ぶ所作も、口紅を塗っていないのに赤い唇も、雪のように白い肌も、少し吊っている目も吸い込まれそうになる黒い瞳を魅力的に演出しているように見えてしまうほどだ。
そうやって、恐ろしい形相で睨む姿さえも色っぽい。
そして、美人に睨まれると怖い、とよく言うように、イゾウに睨まれると背筋がひんやりとする。
「…バーカ。」
目をそらして小さい声で悪口を言ったら、大きなため息を吐かれた。
どうやら、私に苛つくことを諦めてくれたらしい。
早くそうしてくれたらよかったのに———。
「今からマルコ達とカウントダウンついでに初詣に行くことになった。
お前も行くだろ。」
イゾウが、私のグラスとベイのグラスを勝手に片付けながら言う。
「マルコさん達と?」
「ナンパに失敗したサッチが、馴染みで飲みてぇと騒いでうるせぇんだよ。」
グラスを洗うイゾウが、綺麗な眉を顰めた。
どうやら、さっきの電話の相手はサッチさんだったようだ。
落ち着いてしっかりしているマルコさんとお茶目で少し騒がしくて女好きのサッチさんは、性格が正反対のようで、実際本当に正反対だ。
でも、その凸凹がうまくマッチしているのか、なんだかんだととても仲が良い。
そんな彼らとイゾウは気が合うようで、幾つかの歳の差はあるけれど、昔からよくつるんでいる。
年上の彼らが、我儘なイゾウになんだかんだと合わせてくれているのかもしれない。
そういうことをサラリと出来てしまうのが、彼らの大人なところで、カッコ良いと思う。
きっと、勘もよければ頭もよくて、他人をよく見ているイゾウも気づいているはずだ。
だからこそ、面倒だからと友人を作りたがらないイゾウも、彼らと一緒にいるのは居心地が良いのだろうし、感謝もしているのだと思う。
私も、彼らのことは好きだ。
イゾウに紹介してもらってからの付き合いだから、もう高校生の頃から彼らを知っている。
でも————。
「私はいいや。帰る。」
バッグを掴んで立ち上がった。
彼らとも、あれからずっと会ってない。
会わせる顔も、ない————。
「私、帰るわー。あれ、名前も帰るの?」
バーの扉が開いて、ベイが戻ってきた。
「うん、家に帰ってゆっくり年越しを——。」
「今から俺と一緒にマルコ達と合流。」
「アンタ達も昔から変わんないねー。」
「私は行くなんて——。」
「リーゼントはともかく、マルコによろしくねー!」
私の話も聞かないで、ベイが早々とバーを出て行った。