19. 遊びの彼女
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「あれー?エースじゃんっ。」
若い声に呼び止められたのは、ベイ達との合流先であるカフェに向かっているときだった。
立ち止まった私達のもとに、3人組の若い女の子達のグループが駆け寄ってくる。
エースと同じ歳くらいに見える。女子大生くらいだろうか。少なくとも、私よりは年下だ。
夢の国でも動きやすそうなカジュアルな恰好ではあるものの、可愛らしいデザインや小物が全く不自然ではなく、むしろ彼女達の若々しい美しさを引き立たせている。
こんなところでエースに会えるなんて思っていなかったと嬉しそうにハシャぐ彼女達の笑顔と若さの輝きが、眩しい。
「おう!お前らも来てたのかっ。」
「休みの日までエースに会えるなんて、ラッキー!」
「エース先輩、ジンベエ教授のレポートまだ出してないでしょー。
早く出さないと単位あげないって怒ってたよ~。」
「うわ、マジか。そこをなんとかお前らでうまく言っといてくれよ。」
「えー。じゃあ、その代わりに、私とデートね!」
「抜け駆けはズルい!」
男の子達に人気のありそうな可愛らしい女の子達が、どちらがエースとデートをする特権を与えてもらうかで争いだしてしまう。
こうやって、エースは女の子達とデートをしまくっているのか———最早、感心してしまう。
私も若かったら、こんな風に素直に『デートをして。』と好きな人に言えたのだろうか。
「あのぉ~、エース先ぱぁい。」
アグレッシブな争いには参加せず、やけに甘ったるい声で、エースを上目遣いで見上げたのは、3人組の中で一番小柄な女の子だった。
先輩と呼んでいる彼女達は、エースの後輩なのだろう。
ショートパンツから覗く細い脚と、折れてしまいそうな細い腰にも関わらず、たわわな胸を携える彼女は、まさに、ドーマが言っていたエースのタイプの女の子だ。
「なんだ?」
「さっきから気になってるんですけどぉ。」
語尾を伸ばすのが癖らしい彼女は、私の方をチラチラと見ながら続ける。
「そのお姉さん?誰ですかぁ?」
彼女が訊ねる。
分かっていたことだし、当然なのだけれど、やっぱり、私は年上に見えるんだと、どうしてもショックを受けてしまう。
「私は——。」
バイト先の上司だと言おうとして、今もエースと繋いでいる手にハッとする。
言えるわけがない———慌てて口を噤んだ私に、彼女が訝し気な視線を向ける。
けれど、私の代わりにエースが答えた。
「俺の彼女。」
エースが、私の肩を抱いて、ニシシと笑う。
驚いた私は、エースの腕の中で目を見開く。そして、エースの顔を見上げるけれど、楽しそうな笑顔とは視線は重ならない。
「・・・それは、今日の彼女ってことですかぁ?
エース先輩、歳下が好きなのに珍しいんですね。
たまには、おばさ…、あ、間違っちゃった。お姉さんと遊びたくなるときもありますよね。」
彼女から受ける視線が厳しくなったのと同時に、あんなに語尾を伸ばして甘えるように喋っていたのに、急に饒舌になった。
それにきっと、わざと『おばさん』と呼び間違えたのだ。
女は、怖い。
「いや、遊びじゃねぇ。本命の彼女だから。
もう誰とも遊ばねぇって、他の奴らにも言っといてくれ。」
エースは、世間話をするみたいに、とんでもない爆弾発言をする。
私にとってはそうだったように、彼女達にとってもそうだった。
言い争いもピタリと止み、3人の視線が私に集中する。
そして、数秒の間の後、彼女達は面白そうに笑いだした。
「冗談はやめてくださいよっ。エース先輩が、そんなおば…お姉さんを本命にするなんて
誰も信じませんよっ。驚かせたいならもっとマシな嘘ついてくださいっ。」
「こんなに面白いの、久しぶり~っ。
からかったら、おばさ…、あ、お姉さんが可哀想じゃないですかっ。
本気にしちゃったらどうするんですか。」
「エース先輩、優しいからぁ。おばさ…、お姉さんを楽しませてあげてるんですよねぇ。
おばさん…、あ、お姉さん、夢の国で夢が見られてよかったですねぇ。」
上からの目線で、見下ろされている気分だった。
彼女達、わざと私のことを『おばさん』と呼び間違え続ける。
示し合わせたかのように、息もぴったりだ。
まだ20代だし、自分のことをおばさんだとは認めていないけれど、彼女達と比べたら年上だ。そう思われても仕方がないと納得もしている。
だからなのか、ここまでくると、傷つくとか、腹が立つとかを通り越して、尊敬してしまいそうになる。
そんなことを考えながら、無邪気な笑顔で年上の女の心を抉ろうとする彼女を眺めていると、エースに顎を掴まれた。
そして、グイッと上を向かせられる。
(え、なに。)
今度は何をするつもりなのか————そう訊ねたくて、開きかけた唇にエースの唇が押しあてられる。
目を見開く私とは反対に、エースは瞼をおろしていた。
そして、数秒重なったそれを、名残惜し気も全くなしに離すと彼女たちの方を見た。
「コイツが、俺の本命。分かっただろ。」
エースが言う。
けれど、あんぐりと口を開けて、放心状態の彼女の耳にどれくらい届いたかは分からない。
少なくとも、唐突に唇を奪われた私には、半分も届いていなかった。
若い声に呼び止められたのは、ベイ達との合流先であるカフェに向かっているときだった。
立ち止まった私達のもとに、3人組の若い女の子達のグループが駆け寄ってくる。
エースと同じ歳くらいに見える。女子大生くらいだろうか。少なくとも、私よりは年下だ。
夢の国でも動きやすそうなカジュアルな恰好ではあるものの、可愛らしいデザインや小物が全く不自然ではなく、むしろ彼女達の若々しい美しさを引き立たせている。
こんなところでエースに会えるなんて思っていなかったと嬉しそうにハシャぐ彼女達の笑顔と若さの輝きが、眩しい。
「おう!お前らも来てたのかっ。」
「休みの日までエースに会えるなんて、ラッキー!」
「エース先輩、ジンベエ教授のレポートまだ出してないでしょー。
早く出さないと単位あげないって怒ってたよ~。」
「うわ、マジか。そこをなんとかお前らでうまく言っといてくれよ。」
「えー。じゃあ、その代わりに、私とデートね!」
「抜け駆けはズルい!」
男の子達に人気のありそうな可愛らしい女の子達が、どちらがエースとデートをする特権を与えてもらうかで争いだしてしまう。
こうやって、エースは女の子達とデートをしまくっているのか———最早、感心してしまう。
私も若かったら、こんな風に素直に『デートをして。』と好きな人に言えたのだろうか。
「あのぉ~、エース先ぱぁい。」
アグレッシブな争いには参加せず、やけに甘ったるい声で、エースを上目遣いで見上げたのは、3人組の中で一番小柄な女の子だった。
先輩と呼んでいる彼女達は、エースの後輩なのだろう。
ショートパンツから覗く細い脚と、折れてしまいそうな細い腰にも関わらず、たわわな胸を携える彼女は、まさに、ドーマが言っていたエースのタイプの女の子だ。
「なんだ?」
「さっきから気になってるんですけどぉ。」
語尾を伸ばすのが癖らしい彼女は、私の方をチラチラと見ながら続ける。
「そのお姉さん?誰ですかぁ?」
彼女が訊ねる。
分かっていたことだし、当然なのだけれど、やっぱり、私は年上に見えるんだと、どうしてもショックを受けてしまう。
「私は——。」
バイト先の上司だと言おうとして、今もエースと繋いでいる手にハッとする。
言えるわけがない———慌てて口を噤んだ私に、彼女が訝し気な視線を向ける。
けれど、私の代わりにエースが答えた。
「俺の彼女。」
エースが、私の肩を抱いて、ニシシと笑う。
驚いた私は、エースの腕の中で目を見開く。そして、エースの顔を見上げるけれど、楽しそうな笑顔とは視線は重ならない。
「・・・それは、今日の彼女ってことですかぁ?
エース先輩、歳下が好きなのに珍しいんですね。
たまには、おばさ…、あ、間違っちゃった。お姉さんと遊びたくなるときもありますよね。」
彼女から受ける視線が厳しくなったのと同時に、あんなに語尾を伸ばして甘えるように喋っていたのに、急に饒舌になった。
それにきっと、わざと『おばさん』と呼び間違えたのだ。
女は、怖い。
「いや、遊びじゃねぇ。本命の彼女だから。
もう誰とも遊ばねぇって、他の奴らにも言っといてくれ。」
エースは、世間話をするみたいに、とんでもない爆弾発言をする。
私にとってはそうだったように、彼女達にとってもそうだった。
言い争いもピタリと止み、3人の視線が私に集中する。
そして、数秒の間の後、彼女達は面白そうに笑いだした。
「冗談はやめてくださいよっ。エース先輩が、そんなおば…お姉さんを本命にするなんて
誰も信じませんよっ。驚かせたいならもっとマシな嘘ついてくださいっ。」
「こんなに面白いの、久しぶり~っ。
からかったら、おばさ…、あ、お姉さんが可哀想じゃないですかっ。
本気にしちゃったらどうするんですか。」
「エース先輩、優しいからぁ。おばさ…、お姉さんを楽しませてあげてるんですよねぇ。
おばさん…、あ、お姉さん、夢の国で夢が見られてよかったですねぇ。」
上からの目線で、見下ろされている気分だった。
彼女達、わざと私のことを『おばさん』と呼び間違え続ける。
示し合わせたかのように、息もぴったりだ。
まだ20代だし、自分のことをおばさんだとは認めていないけれど、彼女達と比べたら年上だ。そう思われても仕方がないと納得もしている。
だからなのか、ここまでくると、傷つくとか、腹が立つとかを通り越して、尊敬してしまいそうになる。
そんなことを考えながら、無邪気な笑顔で年上の女の心を抉ろうとする彼女を眺めていると、エースに顎を掴まれた。
そして、グイッと上を向かせられる。
(え、なに。)
今度は何をするつもりなのか————そう訊ねたくて、開きかけた唇にエースの唇が押しあてられる。
目を見開く私とは反対に、エースは瞼をおろしていた。
そして、数秒重なったそれを、名残惜し気も全くなしに離すと彼女たちの方を見た。
「コイツが、俺の本命。分かっただろ。」
エースが言う。
けれど、あんぐりと口を開けて、放心状態の彼女の耳にどれくらい届いたかは分からない。
少なくとも、唐突に唇を奪われた私には、半分も届いていなかった。