17.無邪気なフリ
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「ほら。」
ペットボトルが目の前に現れて、私は顔を上げる。
ベンチに座っている私を見下ろすエースは相変わらず無表情で、機嫌が良いとは思えない。
「ありがとう。」
私が受け取ったのを確認して、エースは隣に座ると面倒そうにため息を吐いた。
それも仕方なすぎて、迷惑をかけていることに申し訳ない気持ちになる。
もう大丈夫、と立ち上がりたいけれど、無理をする余裕すらない。
ボーッとしていた結果、気づいたときにはもう絶叫アトラクションの真っ最中で、逆さまに急降下していたのがいけなかったのだと思う。
ジェットコースターから降りてからずっと吐き気が続いている。
近場のベンチに座らせてもらったのはいいものの、なかなか良くならない。朝食のサンドイッチが全部出そうだ。
私は、貰ったばかりのペットボトルの蓋を開けて、ゆっくりと口をつけた。
ひんやりと冷たい水が喉を潤していくだけで、少しだけ気分が良くなった気がする。
「絶叫系が無理なら言えよ。」
「…ごめん。」
謝る私に、エースはまたあからさまなため息を返した。
ダブルデートとも呼べなくなったこの奇妙な時間が始まってまだそれほど経っていないけれど、きっともう帰りたくなっているのだと思う。
何を考えているのか、手に取るように分かるようだった。
(ベイになんて言い訳しよう…。)
私の未練を知っていて気を遣ったのか、悪戯なのか、ベイが何を思ってエースと2人きりにしたのかは分からない。
でも、ジェットコースターに乗って吐き気を催した結果、呆れたエースに帰られてしまったとバレたら、ドン引きされる。そしてなぜか、怒られるのだ。きっと。
でも、エースが帰りたいと言い出したなら、私は彼を引き留めることは出来ない。
とりあえず、一緒に時間を潰そうとしてくれただけで驚きで、有難いことなのだ。
「なら、」
少しの沈黙の後、エースが口を開く。
あぁ、帰ろうって言われる———すべて自分のせいなのに、私の心臓が悲鳴を上げる。
「次、乗るのはアンタが決めろよ。」
「え!?」
今、エースが言った言葉が信じられずに勢いよく顔を上げた。
目が合うと、エースは眉を顰めて怪訝な表情を浮かべる。
「なんだよ。」
エースが、これでもかという程に表情を歪める。
なんだかいたたまれなくなって、「ごめんなさい。」と謝ると、またため息を吐かれてしまった。
「もう、帰るって言うんだと思ってたから…。
いろいろ迷惑かけたし、嫌な思いとか…させちゃった、し…。」
「さすがに、死ぬほど嫌いなヤツでも、ジェットコースター乗って
死にかけてるダセェ女を置いて帰る程、鬼じゃねぇから、俺。」
「そっか…。それもなんか…ごめん。」
「それに、俺が帰ったら、アンタ、親友に怒られんだろ。
——俺達のこと、知ってそうな顔してたし。面白がってるみてぇだったし。」
「・・・・何から何まで、ごめんなさい。」
ギクリとした。どうやら、気づいていたらしい。
昔から、エースは人の心に敏感だった。
だから、誰の心も見ないようにして、避けていた。
私が傷つけたことで、昔のエースに戻ったらどうしよう———なんて思っていたけど、杞憂だったみたいだ。
「俺も、アンタを置いて帰ったら、ドーマがうるさそうだし。」
「それも…そうだね。」
ベイの隣に立つドーマを思い出して、思わずふふっと笑いが零れる。
ドーマの顔には、大好き———と書いていた。
クールで大人っぽい人ばかりだった今までのベイの恋人の誰とも違う。
ベイもまた、どの恋人といるときとも違っていた。
なんだか可愛くて、幸せそうだった。
「アンタの親友、怖そうだったしな。帰ったら、俺も怒られそう。」
エースが少し身震いをしてみせる。
的確過ぎる呟きが面白くて、今度こそ、私は声を出して笑ってしまった。
ペットボトルが目の前に現れて、私は顔を上げる。
ベンチに座っている私を見下ろすエースは相変わらず無表情で、機嫌が良いとは思えない。
「ありがとう。」
私が受け取ったのを確認して、エースは隣に座ると面倒そうにため息を吐いた。
それも仕方なすぎて、迷惑をかけていることに申し訳ない気持ちになる。
もう大丈夫、と立ち上がりたいけれど、無理をする余裕すらない。
ボーッとしていた結果、気づいたときにはもう絶叫アトラクションの真っ最中で、逆さまに急降下していたのがいけなかったのだと思う。
ジェットコースターから降りてからずっと吐き気が続いている。
近場のベンチに座らせてもらったのはいいものの、なかなか良くならない。朝食のサンドイッチが全部出そうだ。
私は、貰ったばかりのペットボトルの蓋を開けて、ゆっくりと口をつけた。
ひんやりと冷たい水が喉を潤していくだけで、少しだけ気分が良くなった気がする。
「絶叫系が無理なら言えよ。」
「…ごめん。」
謝る私に、エースはまたあからさまなため息を返した。
ダブルデートとも呼べなくなったこの奇妙な時間が始まってまだそれほど経っていないけれど、きっともう帰りたくなっているのだと思う。
何を考えているのか、手に取るように分かるようだった。
(ベイになんて言い訳しよう…。)
私の未練を知っていて気を遣ったのか、悪戯なのか、ベイが何を思ってエースと2人きりにしたのかは分からない。
でも、ジェットコースターに乗って吐き気を催した結果、呆れたエースに帰られてしまったとバレたら、ドン引きされる。そしてなぜか、怒られるのだ。きっと。
でも、エースが帰りたいと言い出したなら、私は彼を引き留めることは出来ない。
とりあえず、一緒に時間を潰そうとしてくれただけで驚きで、有難いことなのだ。
「なら、」
少しの沈黙の後、エースが口を開く。
あぁ、帰ろうって言われる———すべて自分のせいなのに、私の心臓が悲鳴を上げる。
「次、乗るのはアンタが決めろよ。」
「え!?」
今、エースが言った言葉が信じられずに勢いよく顔を上げた。
目が合うと、エースは眉を顰めて怪訝な表情を浮かべる。
「なんだよ。」
エースが、これでもかという程に表情を歪める。
なんだかいたたまれなくなって、「ごめんなさい。」と謝ると、またため息を吐かれてしまった。
「もう、帰るって言うんだと思ってたから…。
いろいろ迷惑かけたし、嫌な思いとか…させちゃった、し…。」
「さすがに、死ぬほど嫌いなヤツでも、ジェットコースター乗って
死にかけてるダセェ女を置いて帰る程、鬼じゃねぇから、俺。」
「そっか…。それもなんか…ごめん。」
「それに、俺が帰ったら、アンタ、親友に怒られんだろ。
——俺達のこと、知ってそうな顔してたし。面白がってるみてぇだったし。」
「・・・・何から何まで、ごめんなさい。」
ギクリとした。どうやら、気づいていたらしい。
昔から、エースは人の心に敏感だった。
だから、誰の心も見ないようにして、避けていた。
私が傷つけたことで、昔のエースに戻ったらどうしよう———なんて思っていたけど、杞憂だったみたいだ。
「俺も、アンタを置いて帰ったら、ドーマがうるさそうだし。」
「それも…そうだね。」
ベイの隣に立つドーマを思い出して、思わずふふっと笑いが零れる。
ドーマの顔には、大好き———と書いていた。
クールで大人っぽい人ばかりだった今までのベイの恋人の誰とも違う。
ベイもまた、どの恋人といるときとも違っていた。
なんだか可愛くて、幸せそうだった。
「アンタの親友、怖そうだったしな。帰ったら、俺も怒られそう。」
エースが少し身震いをしてみせる。
的確過ぎる呟きが面白くて、今度こそ、私は声を出して笑ってしまった。