12.ファミレス
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ファミリーレストランのソファ席に腰を降ろした私は、何度目かのため息を吐いた。
ウェイトレスの女の子が、すぐにお冷を持ってきてくれて、ついでにドリンクバーを注文する。
重たい身体をなんとか持ち上げて、ドリンクバーコーナーでアイスカフェオレを注いでから席に戻ると、また無意識にため息が出た。
(まさか、鍵を失くしていたなんて…、)
アパートの駐車場まで送ってくれたイゾウの車を見送った後、いつも通り2階にある自分の部屋の前まで行って、玄関の扉を開けようとしたそのときまで、鍵を失くしていることに気が付かなかった。
慌てて事務所に電話をして、シャンクスさんから、車の中で鍵を見つけ、エースに渡すように頼んだことを知らされた。すぐに、今朝、シャンクスさんに車で送ってもらったことを思いだすと同時に、自分の失態に情けないほど落ち込んだ。
『名前が帰ってすぐだったから、エースに追いかけるようにお願いしたんだがなぁ。』
どうして鍵が届かなかったのだろうか、とシャンクスさんは電話の向こうでしきりに首を傾げていた。
けれど、私にはその理由が、すごく分かる。
きっと、エースは、仕事終わりにまで、私に会いたくなかったのだろう。
だから、シャンクスさんには、エースに連絡を入れてみればいいと言われたけれど、そのつもりはなかった。
自分のミスのせいで、彼に迷惑をかけたくなかった。
それに、そもそも、私は彼の携帯番号を知らない。
数年前までやり取りしていた番号も、別れと同時に削除してしまった。
だから私は、今日はもうホテルでやり過ごそうと考えて、電話を切った後にスマホのインターネットを開き、泊まれそうななところを探していたのだ。
だが、数分後に着信した知らない番号に、躊躇いながら出てみれば、エースだった。
気をきかせてくれたシャンクスさんが、エースに連絡をしたらしい。
『俺がシャンクスさんに怒られるから。』
今日はホテルに泊まるから構わないという私に、エースは面倒くさそうにしながらも、今日中に渡すと頑なだった。
仕方なく、駅前のファミリーレストランを待ち合わせ場所にしたのは10分程前だ。
自分の家の最寄り駅に向かっている電車の中だったエースは、そのまま引き返すということだった。どれくらい時間がかかるかは分からないけれど、塾から家はそこまで遠くはないという話だったし、それほど時間はかからないだろう。
「ふぅ…。」
味の薄いアイスカフェオレを一口飲んで、息を吐く。
なんだか、すごく緊張する。
カフェオレが半分ほど減った頃、目を伏せてぼんやりとしていた私の視界に、スッと男の人の手が入り込んできた。
テーブルの上に見覚えのあるキーホルダーと鍵が置かれ、すぐにエースだと気づき顔を上げる。
私を見下ろすエースは、ひどく不機嫌そうに眉を顰めていた。
「これでいい?」
「…うん、わざわざ引き返させちゃってごめんね。
ありがとう。」
「別に。 」
エースは、短く答えると、座ろうともせずに、立ったまま私を睨みつけた。
その様子を見て、てっきり、座って少し話をするのだろうと考えていた自分が、急に恥ずかしくなる。
どんな会話をすればいいのか、と必死に考えて、今流行っているアーティストの話題も幾つか思いついていた。
でも、エースが私と会話を楽しもうと思っていないことくらい、よく考えればわかることだ。
いや、よく考えなくたって分かる。
「じゃ、じゃあ、帰るね。本当にありがとう、助かったよ。
エースは、何か食べて帰る?一応、帰りの電車賃を多めに———。」
「アンタのせいで無駄に動いたから、喉渇いた。」
慌てて帰ろうとした私を無視して、エースは向かいあうように腰を降ろす。
そして、通りがかったウェイトレスに、ドリンクバーを注文した。
「コーラ。」
「え?」
「俺、疲れたの。アンタのせいで。コーラが飲みてぇ。」
「・・・・?
あ、あぁ…!わかった、コーラね!すぐ持ってくる!」
不機嫌なエースの意図を読み取った私は、慌ただしく立ち上がってドリンクバーコーナーへと早足で向かう。
ソフトドリンクをあまり飲まないから、場所がよくわからなかったけれど、なんとか見つけたコーラを注いで、すぐに席に戻った。
「どうぞ。」
グラスだけをテーブルに置くのはなんだか冷たい印象を与えそうで、私はまた元の席に腰を降ろした。
チラリと私を見たエースは、特に何も言わずに、グラスを手に取った。
彼が一気に喉に流し込むと、大きめのグラスに入っていたコーラが、あっという間に三分の一程に減ってしまった。
どうやら、本当に喉が渇いていたようだ。
「わざわざシャンクスに電話しなくても、
旦那に鍵、開けてもらえばよかったんじゃねぇの?」
少しだけコーラを残して、グラスをテーブルに置いたエースが訊ねる。
まだ不機嫌な雰囲気は残っているものの、水分補給で落ち着いたのか、少しだけ優しい口調になった気がした。
「あ…、えっと…、夜の仕事だから、家に誰もいなくって。」
旦那と聞いて、一瞬、誰のことだろうと思ってしまった後、すぐにイゾウのことだと思いだした。
咄嗟に出てきた言い訳の割には、あまり慌てずに言えたのは、事実も混ざっていたからだろう。
仕事中に抜け出して、私を迎えに来てくれたイゾウは、そのままバーに戻った。
今頃、私が鍵を失くすという情けないミスを犯して、エースと一緒にいるなんて知らずに、忙しく働いているのだろう。
絶対に、言わない方がいい。蔑むような目を向けられた後、罵倒されるに決まっている。
「———腹減った。」
「そうだよね、もうこんな時間だし。
お金、多めに置いておくから、好きなだけ食べてね。」
「は?俺に、ファミレスで、ひとりで飯食うダセェ奴になれって言ってんの?」
バッグの中から財布を取り出そうとしていた私は、エースの非難めいた声を聞いて、顔を上げた。
さっきは、少し優しい雰囲気が混ざった気がしたエースの表情は、また怖いくらいの怒りを滲ませていた。
(…ダサイ、の?)
エースを待っている間、1人で平気でカフェラテを飲んでいた私には、分からない感覚だった。
あのまま、1人で食事をすることだって平気で出来た。
確かに、昼間のファミレスなら、家族連れや学生のグループが多いし、1人だと目立つかもしれない。
でも、今、夕飯の時を過ぎたこの時間は、ファミレスにいるのは、仕事帰りのサマリーマンか、若いカップルくらいだったから、1人だとダサいという感覚は全くなかった。
「そ…、それなら、私も一緒に食べてもいい…?」
「好きにすれば。」
「ありがとう。」
スッと目を逸らされたけれど、本当は有難かった。
疲れた身体を引きずって家に帰ってから食事の準備をするのは面倒だったのだ。
外食をするならファミレスが楽だし安い。
ウェイトレスの女の子が、すぐにお冷を持ってきてくれて、ついでにドリンクバーを注文する。
重たい身体をなんとか持ち上げて、ドリンクバーコーナーでアイスカフェオレを注いでから席に戻ると、また無意識にため息が出た。
(まさか、鍵を失くしていたなんて…、)
アパートの駐車場まで送ってくれたイゾウの車を見送った後、いつも通り2階にある自分の部屋の前まで行って、玄関の扉を開けようとしたそのときまで、鍵を失くしていることに気が付かなかった。
慌てて事務所に電話をして、シャンクスさんから、車の中で鍵を見つけ、エースに渡すように頼んだことを知らされた。すぐに、今朝、シャンクスさんに車で送ってもらったことを思いだすと同時に、自分の失態に情けないほど落ち込んだ。
『名前が帰ってすぐだったから、エースに追いかけるようにお願いしたんだがなぁ。』
どうして鍵が届かなかったのだろうか、とシャンクスさんは電話の向こうでしきりに首を傾げていた。
けれど、私にはその理由が、すごく分かる。
きっと、エースは、仕事終わりにまで、私に会いたくなかったのだろう。
だから、シャンクスさんには、エースに連絡を入れてみればいいと言われたけれど、そのつもりはなかった。
自分のミスのせいで、彼に迷惑をかけたくなかった。
それに、そもそも、私は彼の携帯番号を知らない。
数年前までやり取りしていた番号も、別れと同時に削除してしまった。
だから私は、今日はもうホテルでやり過ごそうと考えて、電話を切った後にスマホのインターネットを開き、泊まれそうななところを探していたのだ。
だが、数分後に着信した知らない番号に、躊躇いながら出てみれば、エースだった。
気をきかせてくれたシャンクスさんが、エースに連絡をしたらしい。
『俺がシャンクスさんに怒られるから。』
今日はホテルに泊まるから構わないという私に、エースは面倒くさそうにしながらも、今日中に渡すと頑なだった。
仕方なく、駅前のファミリーレストランを待ち合わせ場所にしたのは10分程前だ。
自分の家の最寄り駅に向かっている電車の中だったエースは、そのまま引き返すということだった。どれくらい時間がかかるかは分からないけれど、塾から家はそこまで遠くはないという話だったし、それほど時間はかからないだろう。
「ふぅ…。」
味の薄いアイスカフェオレを一口飲んで、息を吐く。
なんだか、すごく緊張する。
カフェオレが半分ほど減った頃、目を伏せてぼんやりとしていた私の視界に、スッと男の人の手が入り込んできた。
テーブルの上に見覚えのあるキーホルダーと鍵が置かれ、すぐにエースだと気づき顔を上げる。
私を見下ろすエースは、ひどく不機嫌そうに眉を顰めていた。
「これでいい?」
「…うん、わざわざ引き返させちゃってごめんね。
ありがとう。」
「別に。 」
エースは、短く答えると、座ろうともせずに、立ったまま私を睨みつけた。
その様子を見て、てっきり、座って少し話をするのだろうと考えていた自分が、急に恥ずかしくなる。
どんな会話をすればいいのか、と必死に考えて、今流行っているアーティストの話題も幾つか思いついていた。
でも、エースが私と会話を楽しもうと思っていないことくらい、よく考えればわかることだ。
いや、よく考えなくたって分かる。
「じゃ、じゃあ、帰るね。本当にありがとう、助かったよ。
エースは、何か食べて帰る?一応、帰りの電車賃を多めに———。」
「アンタのせいで無駄に動いたから、喉渇いた。」
慌てて帰ろうとした私を無視して、エースは向かいあうように腰を降ろす。
そして、通りがかったウェイトレスに、ドリンクバーを注文した。
「コーラ。」
「え?」
「俺、疲れたの。アンタのせいで。コーラが飲みてぇ。」
「・・・・?
あ、あぁ…!わかった、コーラね!すぐ持ってくる!」
不機嫌なエースの意図を読み取った私は、慌ただしく立ち上がってドリンクバーコーナーへと早足で向かう。
ソフトドリンクをあまり飲まないから、場所がよくわからなかったけれど、なんとか見つけたコーラを注いで、すぐに席に戻った。
「どうぞ。」
グラスだけをテーブルに置くのはなんだか冷たい印象を与えそうで、私はまた元の席に腰を降ろした。
チラリと私を見たエースは、特に何も言わずに、グラスを手に取った。
彼が一気に喉に流し込むと、大きめのグラスに入っていたコーラが、あっという間に三分の一程に減ってしまった。
どうやら、本当に喉が渇いていたようだ。
「わざわざシャンクスに電話しなくても、
旦那に鍵、開けてもらえばよかったんじゃねぇの?」
少しだけコーラを残して、グラスをテーブルに置いたエースが訊ねる。
まだ不機嫌な雰囲気は残っているものの、水分補給で落ち着いたのか、少しだけ優しい口調になった気がした。
「あ…、えっと…、夜の仕事だから、家に誰もいなくって。」
旦那と聞いて、一瞬、誰のことだろうと思ってしまった後、すぐにイゾウのことだと思いだした。
咄嗟に出てきた言い訳の割には、あまり慌てずに言えたのは、事実も混ざっていたからだろう。
仕事中に抜け出して、私を迎えに来てくれたイゾウは、そのままバーに戻った。
今頃、私が鍵を失くすという情けないミスを犯して、エースと一緒にいるなんて知らずに、忙しく働いているのだろう。
絶対に、言わない方がいい。蔑むような目を向けられた後、罵倒されるに決まっている。
「———腹減った。」
「そうだよね、もうこんな時間だし。
お金、多めに置いておくから、好きなだけ食べてね。」
「は?俺に、ファミレスで、ひとりで飯食うダセェ奴になれって言ってんの?」
バッグの中から財布を取り出そうとしていた私は、エースの非難めいた声を聞いて、顔を上げた。
さっきは、少し優しい雰囲気が混ざった気がしたエースの表情は、また怖いくらいの怒りを滲ませていた。
(…ダサイ、の?)
エースを待っている間、1人で平気でカフェラテを飲んでいた私には、分からない感覚だった。
あのまま、1人で食事をすることだって平気で出来た。
確かに、昼間のファミレスなら、家族連れや学生のグループが多いし、1人だと目立つかもしれない。
でも、今、夕飯の時を過ぎたこの時間は、ファミレスにいるのは、仕事帰りのサマリーマンか、若いカップルくらいだったから、1人だとダサいという感覚は全くなかった。
「そ…、それなら、私も一緒に食べてもいい…?」
「好きにすれば。」
「ありがとう。」
スッと目を逸らされたけれど、本当は有難かった。
疲れた身体を引きずって家に帰ってから食事の準備をするのは面倒だったのだ。
外食をするならファミレスが楽だし安い。