10. ライバル
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「あのときのクソガキが、お前の助手になったんだってな。」
キッチンに立っていた私の背中にイゾウの声が届いた途端、手が止まった。
フライパンの上で、冷蔵庫の中から適当に取り出した野菜とお肉が、中途半端に生焼けのまま、IHの熱で温まっていく。
気兼ねなく寝坊をした休日の午後、ひとりでのんびりと過ごそうと、私がゴロゴロとしていたソファの上には今、王様のように威張り腐った顔で、イゾウが寝転がっている。
昨日もバーで仕事だったイゾウは、いつまでも返してくれない合鍵を使って、まるで我が家のように帰ってきたのだ。
目的は、命令ひとつで出てくる食事と寝床だ。しかも、そのすべてが無料で提供される、奴隷付きの最高のホテルだと勘違いしている節がある。
「え~?あのクソガキって~?」
すぐに気を取り直した私は、下手くそに誤魔化す。
どうせ、すぐにバレることは分かっている。
イゾウに知られたくなかったわけではなくて、ただ、そのことを考えて、口にしてしまえば、私は余計な気持ちまで零してしまいそうで怖かっただけなのだ。
でも、そんなことは何の意味もないただの悪足掻きだということも、怖いくらいに、分かっている。
軽く塩コショウをして炒め終わると、あらかじめご飯を盛っておいた丼の上に、流しかけるように、野菜と肉を適当に散らす。
最後に大根おろしを乗せ、ポン酢をまわしかける。
出来上がったのは、料理名もない冷蔵庫のあまりもの丼だ。
パプリカが残っていたおかげで、いくらかは彩りの良いものが出来た気がする。
「はい、どうぞ。食べたら帰ってよね。」
リビングへ行き、テーブルの上に2人分の丼を置くと、のっそりとイゾウが起き上がる。
「気が向いたらな。
———美味そうじゃねぇか。見た目は。」
イゾウは、その気もなさそうに言いながら、箸を手に取り、丼の器を持ち上げた。
ソファの上に胡坐をかいて座り、王様のような態度で適当に口にかき込んでいるのに、箸を扱う所作や薄い唇が開く色っぽさが、彼を下品には見せない。
むしろ、見惚れてしまいそうになるくらいに美しい。
彼は、昔からだ。
だから、隣にいると、こんなにカッコいい人が私の恋人なのだと心が舞い上がるのと同時に、自分に自信がなくなっていた。
初めての恋人だったイゾウが教えてくれた〝恋〟はいつも、不安がつきものだった———。
「一言多いっ。文句があるなら食べるな。」
自分の丼と箸を手に取った私は、ソファを独り占めして座っているイゾウの肩を乱暴に押して、空いたスペースに腰を降ろした。
隣で、イゾウが、馬鹿にしたようにカラカラと笑う。
見た目は良くても、中身はドSの俺様。自分勝手で我儘で、思い通りにならないとすぐに不機嫌になる。
(私の作ったあまりもの丼より、イゾウの方が見た目ばっかり良くて、中身は最悪だよ。)
言いたい文句は心の中に留めて、パプリカとお肉の乗ったご飯を口の中に放り込む。
———辛い。
塩コショウをし過ぎたらしい。大根おろしとポン酢がなんとか誤魔化そうとしてくれているが、それでもやっぱり、辛い。
見た目は美味しいのに、中身は辛口。
本当に、イゾウそっくりだった丼を見下ろして、私は親の仇のように睨みつける。
「ご馳走様でした。」
さっき食べ始めたばかりのはずなのに、イゾウはもう、綺麗に両手を合わせていた。
テーブルに置かれた丼を見ると、本当にすべて食べ終わっている。
塩コショウの辛すぎる丼を、よく全部一気に食べられたものだと感心する。
相当お腹が空いていたのだろうか。
視線を感じたのか、イゾウは私の方を見ると、意地悪く口の端を上げた。
「まぁまぁ、だな。」
失礼だけれど、間違ってはいないことを言ったイゾウの向こうに、飲み干されたグラスを見つける。
「お世辞くらい言え。」
「あぁ、ムリ。俺の長所は〝正直〟だから。」
「自分で言うな。」
私がムッと頬を膨らませれば、イゾウがまた楽しそうにカラカラと笑う。
だから、私も吹き出して笑った。
キッチンに立っていた私の背中にイゾウの声が届いた途端、手が止まった。
フライパンの上で、冷蔵庫の中から適当に取り出した野菜とお肉が、中途半端に生焼けのまま、IHの熱で温まっていく。
気兼ねなく寝坊をした休日の午後、ひとりでのんびりと過ごそうと、私がゴロゴロとしていたソファの上には今、王様のように威張り腐った顔で、イゾウが寝転がっている。
昨日もバーで仕事だったイゾウは、いつまでも返してくれない合鍵を使って、まるで我が家のように帰ってきたのだ。
目的は、命令ひとつで出てくる食事と寝床だ。しかも、そのすべてが無料で提供される、奴隷付きの最高のホテルだと勘違いしている節がある。
「え~?あのクソガキって~?」
すぐに気を取り直した私は、下手くそに誤魔化す。
どうせ、すぐにバレることは分かっている。
イゾウに知られたくなかったわけではなくて、ただ、そのことを考えて、口にしてしまえば、私は余計な気持ちまで零してしまいそうで怖かっただけなのだ。
でも、そんなことは何の意味もないただの悪足掻きだということも、怖いくらいに、分かっている。
軽く塩コショウをして炒め終わると、あらかじめご飯を盛っておいた丼の上に、流しかけるように、野菜と肉を適当に散らす。
最後に大根おろしを乗せ、ポン酢をまわしかける。
出来上がったのは、料理名もない冷蔵庫のあまりもの丼だ。
パプリカが残っていたおかげで、いくらかは彩りの良いものが出来た気がする。
「はい、どうぞ。食べたら帰ってよね。」
リビングへ行き、テーブルの上に2人分の丼を置くと、のっそりとイゾウが起き上がる。
「気が向いたらな。
———美味そうじゃねぇか。見た目は。」
イゾウは、その気もなさそうに言いながら、箸を手に取り、丼の器を持ち上げた。
ソファの上に胡坐をかいて座り、王様のような態度で適当に口にかき込んでいるのに、箸を扱う所作や薄い唇が開く色っぽさが、彼を下品には見せない。
むしろ、見惚れてしまいそうになるくらいに美しい。
彼は、昔からだ。
だから、隣にいると、こんなにカッコいい人が私の恋人なのだと心が舞い上がるのと同時に、自分に自信がなくなっていた。
初めての恋人だったイゾウが教えてくれた〝恋〟はいつも、不安がつきものだった———。
「一言多いっ。文句があるなら食べるな。」
自分の丼と箸を手に取った私は、ソファを独り占めして座っているイゾウの肩を乱暴に押して、空いたスペースに腰を降ろした。
隣で、イゾウが、馬鹿にしたようにカラカラと笑う。
見た目は良くても、中身はドSの俺様。自分勝手で我儘で、思い通りにならないとすぐに不機嫌になる。
(私の作ったあまりもの丼より、イゾウの方が見た目ばっかり良くて、中身は最悪だよ。)
言いたい文句は心の中に留めて、パプリカとお肉の乗ったご飯を口の中に放り込む。
———辛い。
塩コショウをし過ぎたらしい。大根おろしとポン酢がなんとか誤魔化そうとしてくれているが、それでもやっぱり、辛い。
見た目は美味しいのに、中身は辛口。
本当に、イゾウそっくりだった丼を見下ろして、私は親の仇のように睨みつける。
「ご馳走様でした。」
さっき食べ始めたばかりのはずなのに、イゾウはもう、綺麗に両手を合わせていた。
テーブルに置かれた丼を見ると、本当にすべて食べ終わっている。
塩コショウの辛すぎる丼を、よく全部一気に食べられたものだと感心する。
相当お腹が空いていたのだろうか。
視線を感じたのか、イゾウは私の方を見ると、意地悪く口の端を上げた。
「まぁまぁ、だな。」
失礼だけれど、間違ってはいないことを言ったイゾウの向こうに、飲み干されたグラスを見つける。
「お世辞くらい言え。」
「あぁ、ムリ。俺の長所は〝正直〟だから。」
「自分で言うな。」
私がムッと頬を膨らませれば、イゾウがまた楽しそうにカラカラと笑う。
だから、私も吹き出して笑った。