◇No.74◇天井の海は離れた愛を繋ぎます
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建付けの悪い窓が、夜風に煽られてカタカタと音を立てていました。
目を覚ましたリヴァイは、ソファからゆっくりと身体を起こすと、見慣れた部屋を見渡します。
家具やランプ、毛布。調度品の全てが、アンティーク雑貨から購入してきたかのように古いものばかりです。それは、小さなこの家にも言えました。
年季の入った小さなこの家は、リヴァイが、愛する女性との未来を夢見て建てた頃は、確かに、新築の香りがしていたのです。
でも、それももう、遠い昔のことになりました。
彼女はもうこの世から去っていて、家は古び、調度品も何度も壊れ、街並みは変わり、人も変わり続けたというのに、リヴァイだけが、あの頃のまま、取り残されています。
どうせ、自分以外の全てが古びて、最終的には消えていくというのならば、愛もまたそれらと同じ運命を辿れば良いのに、いつまでも鮮やかに胸に刻まれたままなのです。
リヴァイは、いつまでも古くならない自分の両手のひらを見下ろすと、小さく息を吐きました。
なぜ、人間は、不老不死に憧れるのでしょう。
自分だけが永らえたとしても、そこにあるのは、愛する人に触れる度に失うばかりの虚しい未来だけだというのに———。
(あ…。)
リヴァイは、今夜からは独りではないことを思い出しました。
なまえと共にハートの海賊団の船を降りたのは、今朝のことです。
途中で見つけた馬車に乗り、昼過ぎにはこの家に到着し、夕方になる前に、なまえは眠ってしまいました。
ですが、今、ベッドで眠っていたなまえの姿が見当たりません。
勝手にこの家から離れるな、と指示は出してあります。
リヴァイの指示から逆らうことは出来ないようにプログラムはしてありますから、なまえがどこかへ逃げたということは考えられません。
それならば、どこへ行ってしまったのでしょうか。
リヴァイは、ソファから立ち上がると、ブランケットを丁寧に畳んで、チェストの上に片付けました。
それから、寝室を出て、リビングへと向かいます。
階段に足が踏み込む度に、静かな家に、軋む音がやけに大きく響いて聞こえました。
(チッ、どこに行きやがった。)
リビングも、見慣れた寂しい部屋のままでした。
なまえの姿はどこにもありません。
勝手に家の中を歩き回られて困ることもありませんが、あまり気持ちの良いものでもありません。
今度からは、目を覚ましてもベッドの上にいるように、ともっと詳細に指示を出した方が良いかもしれません。
一通り、家の中を探し回ったリヴァイでしたが、何処にもなまえはいませんでした。
(まさか…。)
リヴァイの胸の中に、嫌な予感がじわじわと広がっていきます。
まさか、プログラムにセットされていた指示を無視して逃げたのでしょうか。
ありえないと思いながら、玄関を出たリヴァイは、気が抜ける程に呆気なくなまえを見つけました。
なまえは、玄関外にあるベンチに座っていました。
見ていて痛くなるほどに首を直角に曲げて、夜空を見上げています。
遠い昔、リヴァイの愛した〝なまえ〟も、よく夜空を見上げていました。
なまえは、星が大好きでした。
亡くなった人は星になる、という逸話を信じていたのです。
いえ、そうだと思い込んでいたのかもしれません。
そうやって、もう二度と会えない仲間達と会話を交わしていたのです。
あの頃は、そんななまえをいじらしく想い、彼女の為に、星空が美しく見える場所によく連れて行ってあげていたものです。
ですが今、リヴァイは、夜空の星が大嫌いです。
彼らは、誰にも見せたくない弱った気持ちを一方的に吸い取るように聞くばかりで、彼らの気持ちを話してはくれません。
今、何を想っていて、何に悲しんで、何に喜んでいるのか、リヴァイには分からないのです。
お喋りが大好きだったなまえが、聞き役に徹するなんて、どう考えたってありえないのに———そうして、リヴァイは、なまえがもうこの世から去ってしまったことを思い知らされるのです。
だから、なまえに会わせてはくれない星なんて、大嫌いです———。
「おい、何してんだ。」
リヴァイが声をかけると、なまえの肩がビクリと上下に跳ねました。
どうやら、驚いたようです。
なまえは、緊張した様子で、ゆっくりと振り返りました。
リヴァイを見つけると、どこか寂しそうに僅かに睫毛を下げます。
そして、もう一度、夜空を見上げます。
「天井の海を見ていました。」
なまえは、夜空を見上げながら答えます。
「天井の海?」
リヴァイは訝し気に首を傾げます。
夜空の星、と言うのならば納得出来ました。
頭上にあるのは、天井でもなければ、海ですらありません。
でも、なまえは、頷くのです。
「はい。私とローを繋いでくれる、天井の海です。」
寂しそうな横顔は、愛する人を求めるように、華奢で細い腕を、ゆっくりと夜空へと伸ばします。
思わず、なまえの視線を追いかけたリヴァイは、数十年ぶりに夜空を見上げました。
そこでは、愛する彼女が愛した幾千の星が、100年の時を経て尚、あの頃と変わらずに燦然と輝いていました。
目を覚ましたリヴァイは、ソファからゆっくりと身体を起こすと、見慣れた部屋を見渡します。
家具やランプ、毛布。調度品の全てが、アンティーク雑貨から購入してきたかのように古いものばかりです。それは、小さなこの家にも言えました。
年季の入った小さなこの家は、リヴァイが、愛する女性との未来を夢見て建てた頃は、確かに、新築の香りがしていたのです。
でも、それももう、遠い昔のことになりました。
彼女はもうこの世から去っていて、家は古び、調度品も何度も壊れ、街並みは変わり、人も変わり続けたというのに、リヴァイだけが、あの頃のまま、取り残されています。
どうせ、自分以外の全てが古びて、最終的には消えていくというのならば、愛もまたそれらと同じ運命を辿れば良いのに、いつまでも鮮やかに胸に刻まれたままなのです。
リヴァイは、いつまでも古くならない自分の両手のひらを見下ろすと、小さく息を吐きました。
なぜ、人間は、不老不死に憧れるのでしょう。
自分だけが永らえたとしても、そこにあるのは、愛する人に触れる度に失うばかりの虚しい未来だけだというのに———。
(あ…。)
リヴァイは、今夜からは独りではないことを思い出しました。
なまえと共にハートの海賊団の船を降りたのは、今朝のことです。
途中で見つけた馬車に乗り、昼過ぎにはこの家に到着し、夕方になる前に、なまえは眠ってしまいました。
ですが、今、ベッドで眠っていたなまえの姿が見当たりません。
勝手にこの家から離れるな、と指示は出してあります。
リヴァイの指示から逆らうことは出来ないようにプログラムはしてありますから、なまえがどこかへ逃げたということは考えられません。
それならば、どこへ行ってしまったのでしょうか。
リヴァイは、ソファから立ち上がると、ブランケットを丁寧に畳んで、チェストの上に片付けました。
それから、寝室を出て、リビングへと向かいます。
階段に足が踏み込む度に、静かな家に、軋む音がやけに大きく響いて聞こえました。
(チッ、どこに行きやがった。)
リビングも、見慣れた寂しい部屋のままでした。
なまえの姿はどこにもありません。
勝手に家の中を歩き回られて困ることもありませんが、あまり気持ちの良いものでもありません。
今度からは、目を覚ましてもベッドの上にいるように、ともっと詳細に指示を出した方が良いかもしれません。
一通り、家の中を探し回ったリヴァイでしたが、何処にもなまえはいませんでした。
(まさか…。)
リヴァイの胸の中に、嫌な予感がじわじわと広がっていきます。
まさか、プログラムにセットされていた指示を無視して逃げたのでしょうか。
ありえないと思いながら、玄関を出たリヴァイは、気が抜ける程に呆気なくなまえを見つけました。
なまえは、玄関外にあるベンチに座っていました。
見ていて痛くなるほどに首を直角に曲げて、夜空を見上げています。
遠い昔、リヴァイの愛した〝なまえ〟も、よく夜空を見上げていました。
なまえは、星が大好きでした。
亡くなった人は星になる、という逸話を信じていたのです。
いえ、そうだと思い込んでいたのかもしれません。
そうやって、もう二度と会えない仲間達と会話を交わしていたのです。
あの頃は、そんななまえをいじらしく想い、彼女の為に、星空が美しく見える場所によく連れて行ってあげていたものです。
ですが今、リヴァイは、夜空の星が大嫌いです。
彼らは、誰にも見せたくない弱った気持ちを一方的に吸い取るように聞くばかりで、彼らの気持ちを話してはくれません。
今、何を想っていて、何に悲しんで、何に喜んでいるのか、リヴァイには分からないのです。
お喋りが大好きだったなまえが、聞き役に徹するなんて、どう考えたってありえないのに———そうして、リヴァイは、なまえがもうこの世から去ってしまったことを思い知らされるのです。
だから、なまえに会わせてはくれない星なんて、大嫌いです———。
「おい、何してんだ。」
リヴァイが声をかけると、なまえの肩がビクリと上下に跳ねました。
どうやら、驚いたようです。
なまえは、緊張した様子で、ゆっくりと振り返りました。
リヴァイを見つけると、どこか寂しそうに僅かに睫毛を下げます。
そして、もう一度、夜空を見上げます。
「天井の海を見ていました。」
なまえは、夜空を見上げながら答えます。
「天井の海?」
リヴァイは訝し気に首を傾げます。
夜空の星、と言うのならば納得出来ました。
頭上にあるのは、天井でもなければ、海ですらありません。
でも、なまえは、頷くのです。
「はい。私とローを繋いでくれる、天井の海です。」
寂しそうな横顔は、愛する人を求めるように、華奢で細い腕を、ゆっくりと夜空へと伸ばします。
思わず、なまえの視線を追いかけたリヴァイは、数十年ぶりに夜空を見上げました。
そこでは、愛する彼女が愛した幾千の星が、100年の時を経て尚、あの頃と変わらずに燦然と輝いていました。