◇No.69◇一番の悲劇は、それを知ってしまうときです
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何がどうなっている。どこで間違った————。
見慣れた研究施設の廊下を走りながら、リヴァイは、必死に頭を整理しようとしていました。
でも、幾ら試してみても、仲間が無残に死んでいった理由を、納得することなどできません。
それが、世界政府が極秘に行っていた人体実験の失敗作の捨て駒にされていたとなれば、尚更です。
(とにかく、アイツに伝えねぇと…!)
リヴァイは、研究施設の最上階にあるドクターの研究室を目指して、全速力で走ります。
そこにいるのは、彼のパートナーであり、世界で最も信頼している男です。
きっと、リヴァイが聞いてしまった最低で最悪で、あまりにも残酷な事実を知ったら、彼も黙ってはいないでしょう。
彼がどんな決断を下すかは、分かりません。
でも、リヴァイには、彼と共に、世界政府と戦う覚悟は既に出来ていました。
彼らがこの研究施設で働くようになったのは、高度で天才的な技術を世界の為に役立てたい、という熱意が海軍の上層部に届いたからでした。
海軍の上層部は、彼らの高い技術を未来の世界に役立たせることが出来ると考え、世界政府まで巻き込んで、名前もない無人島の敷地全てを使って、巨大な研究施設を作りました。
でも、それは、彼らにとっては、ただの〝表向き〟の理由に過ぎません。
自分達の身分を隠し、海軍や世界政府に近づいたのは、あの悲劇の裏に隠されていた事実を突き止める為だったのです。
ありとあらゆる残酷な事実を想定してきましたが、現実はもっと残酷で、お粗末なものでした。
こんなことなら、知らない方が良かった———心から、後悔してしまうほどに。
(そんなものの為に、アイツらは死んだのか…っ。なまえは…っ。)
唇を噛み、リヴァイは必死に走りました。
そして、漸く辿り着いた最上階で、奥にある研究室の部屋の扉を蹴り破るように、勢いよく開きます。
ちょうど、この研究施設の研究所長であるエルヴィンは、自らが生んだアンドロイドのメンテナンスを行っているところでした。
驚いたように振り返ったエルヴィンでしたが、彼の隣で両腕を横に真っ直ぐに伸ばして立つ白いワンピース姿のアンドロイドは、表情一つ変えません。
アレは、なまえそっくりに作られた精巧なアンドロイドです。
機械の為、体温は高いものの、触れたときの柔らかさや声は、生前のなまえそのものでした。
でも、彼女と呼ぶことも躊躇わされるその機械が、微笑むことはありません。泣くこともしません。怒り、笑うこともしないのです。
ただ、そこに存在し、人間の指示をただ忠実にこなしてくれる、素晴らしい〝機械〟なのです。
「エルヴィン、大変なことになった。
いや、100年以上前から、クソみてぇな事態だったんだ。
俺達はずっと———。」
「世界政府に騙されていた。」
リヴァイの言葉を遮るように、続きを話したのは、エルヴィンでした。
まさか、自分が彼に教えるはずだったそれを、先に言われるとは誰も思いもしないでしょう。
リヴァイも、驚いたように目を見開きました。
ですが、エルヴィンは、飄々とした様子で、メンテナンスに使っていた工具を近くの棚に片付けていきます。
「あの島に巨人が現れたのは、謎でもなんでもなかった。
ただ、運が悪かっただけに過ぎない。私達は、偶々、選ばれてしまっただけだ。」
エルヴィンが話したのは、つい先刻、リヴァイが立ち聞きしてしまった残酷な現実そのものでした。
いえ、それ以上の情報をエルヴィンは知っていたのです。
100年前、世界政府は、ある実験を始めました。
それは、人間の巨人化です。そんなことが出来れば、強大な武器よりも役立つ戦闘力を得られると考えたのでしょう。
ですが、そんな夢のような実験が初めからうまくいくわけがありません。
何度も失敗を繰り返した結果、世界政府が用意した研究施設に溢れたのは、巨人になりそこなった大きな人間でした。
それは、知性もなく、ただただ人を喰らうことしか出来ません。
失敗作の巨人の処分に困った世界政府は、それを捨てるのと同時に、新たな実験が出来ないか、と考えました。
それが、適当な島を選び、そこに失敗作の巨人を放ち、彼らの戦闘力を調査するというものです。
でも実際は、なんだかんだと理由をつけましたが、ただ、失敗作を捨てる場所が欲しかった———それだけだったのでしょう。
そうして、選ばれたのが、リヴァイ達の暮らす島です。
質素な島でしたし、文明も発展していなかったので、隠密に消し去るのは簡単だと考えられたのが、選ばれてしまった原因だと思われます。
どんなに待っても、助けを求めても、海軍がやってきてくれるわけがなかったのです。
だって、あの恐ろしい巨人を、島に運んできた犯人こそが、海軍の軍艦だったのですから———。
「どうしてそれを…。
いや、違ぇ。いつから、知っていた。」
「なぁ、リヴァイ。どうして私は、彼らに生を与えなかったと思う?」
リヴァイの質問に、質問で返したエルヴィンは、研究室奥に身体を向けました。
背を向けた格好になったエルヴィンの向こうには、数えきれないほどのアンドロイドがズラリと並んでいます。
ちょうどメンテナンス時間だった為、スリープモードになっているアンドロイドは、ピクリとも動きません。
人間そのものにしか見えないソレは、どれも同じ顔はしていないし、背格好もそれぞれ違いましたが、そのすべてに、リヴァイは見覚えがありました。
なまえと同じです。彼らは、遠い昔、リヴァイとエルヴィンが失ってしまった仲間達だったのです。でも、リヴァイの知っている仲間とは違います。
だって、彼らはもうこの世には存在しません。アレは、死んだ彼らのDNA情報を利用して、エルヴィンが作り出した精巧なクローンアンドロイドなのです。
「騙された自分達が悪いのか。力のなかった自分達が悪いのか。
私はずっと考え続けていた。そうして、私はついに、答えを見つけた…。
生があるから、死がある。生きていることが、間違いだったんだ…!」
エルヴィンは、両手を広げるようにして、声を上げました。
熱のこもったそれは、まるで、自分の言葉に酔っているかのような口ぶりです。
「…何を、言ってやがる?」
「生と死なんて曖昧なものだ。それなのに、心なんてものがあるから、苦しみ、絶望する羽目になる。
心なんてもののせいで、私達は愛を覚えてしまう。
その結果、どうなった?なぁ、リヴァイ、お前は、どれほどの悲劇を見た。」
エルヴィンが振り返ります。
恍惚の表情でも浮かべていれば、リヴァイは、最低な事実を知っていて今までずっと黙っていた彼を怒鳴り、殴りつけることが出来たかもしれません。
でも、エルヴィンは、泣いていたのです。
ひどく悲しそうに、涙をただひたすらに、流していたのです。
残酷すぎる現実に傷ついていたのは、エルヴィンも同じでした。むしろ、今日の日まで、その事実をひとりで抱えていた彼の苦しみは、耐え難いものだったでしょう。
「仲間が無残に死にゆく様に心は悲鳴を上げ、愛する人を失えば、心は粉々に砕けた。
それでも、強くいようとした結果が、この残酷な現実だ。
心なんてものは、ない方がいい。生きている限り、心が生まれるのなら、生すらも必要ない。」
エルヴィンは、そこまで言うと、ゆっくりと振り返り、もう一度、昔の仲間に瓜二つのアンドロイド達と向き合いました。
そして、数秒の間をあけ、エルヴィンが続けます。
「見てみろ、リヴァイ。私達が蘇らせた仲間達は、もう二度と死んだりはしない。」
「生きてもいねぇ。それは、ただの——」
「だが、ここに存在している!!私達と共にある!!
彼らに、海賊を抹殺させるだと?ふざけるな、そんなことの為に彼らが生きるはずだった未来を奪わせはしない!!
そんなことの為に、私は彼らを呼び戻したんじゃない!!彼らはこれから、奪われた未来を取り戻すんだ!!」
さっきまで泣いていたエルヴィンが、今度は激高し始めました。
いつも穏やかで、冷静沈着な男のはずでした。そんな彼の変貌ぶりに、リヴァイは圧倒されました。
それでも、何かよからぬことが起ころうとしていることは、感じ取ってしまったのです。
「…お前、何を考えてる。」
「彼らのプログラムには、初めから海賊を抹殺する指示なんて入れてはいない。
私の号令の後、彼らが抹殺しに走るのは、海軍と世界政府だ。」
「な、に…?」
「もうすぐ、準備が整う。そろそろリヴァイにも計画を話すつもりだったから、ちょうどよかった。」
「お前、何を言ってる。
ソレに、俺達の代わりに復讐をさせるっていうのか!?
よく考えろ、俺達の仲間を殺した世界政府も海軍ももう死んでる、この世にいない!!」
リヴァイは、必死に説得しようとしました。
確かに、世界政府や海軍への憎しみは、あります。
でも、ここで、それを解消するために復讐をしたところで、生まれるのは悲劇だけなのです。
それを、死ねない身体で生きてきたリヴァイ達は、嫌というほどに見てきました。
なぜなら、人間はいつも、悲劇を繰り返す悲しい生き物だったからです。
自分達は違う———それだけが、リヴァイの心の拠り所でした。
だから、どうしても、エルヴィンに、そこまで落ちて欲しくなかったのです。
ですが———。
「だから?」
エルヴィンが冷たく言います。
その瞳には、もう、生気がありませんでした。
いえ、初めから、エルヴィンに、命はありませんでした。
巨人に襲われ、生死を境を彷徨った時、どうしても彼を生かしたかった部下の兵士が、近くにあった不思議な実を水分代わりに食べさせたのがきっかけでした。
大きな壁の中に隔離されたリヴァイ達は知りませんでしたが、今覚えば、アレは、悪魔の実だったのでしょう。
それがきっかけで、機械を生み出す力を得たエルヴィンは、まず、自分の身体を機械にしました。
死なない身体にすることで、仲間を守ろうとしたのです。
そして、人類最強の兵士と称されたリヴァイの身体もまた、本人の許可を得て、機械にしました。
その結果、彼らが得たのは、死なない身体と、愛する人たちが死にゆく姿をただ見ていくばかりの人生だったのです。
(あぁ…、)
長い時間をかけて、死んでいく人間と腐った現実を見つめ続けてきたエルヴィンの心は、とうとう壊れてしまったのです。
心なんてない方がいい———そう訴える張本人のエルヴィンは、その心を消すことは出来なかったのです。
だから、壊れてしまった。
なんて、残酷なことでしょうか。
そんな彼を、誰が責められるでしょう。
少なくとも、リヴァイには、それは出来ませんでした。
「機械は素晴らしい。私達を裏切ることがないどころか、死んでしまうこともない。
私達は、永遠にそばにいられる。」
嬉しそうに微笑むエルヴィンの瞳には、今もまだ、涙の粒が光っていました。
見慣れた研究施設の廊下を走りながら、リヴァイは、必死に頭を整理しようとしていました。
でも、幾ら試してみても、仲間が無残に死んでいった理由を、納得することなどできません。
それが、世界政府が極秘に行っていた人体実験の失敗作の捨て駒にされていたとなれば、尚更です。
(とにかく、アイツに伝えねぇと…!)
リヴァイは、研究施設の最上階にあるドクターの研究室を目指して、全速力で走ります。
そこにいるのは、彼のパートナーであり、世界で最も信頼している男です。
きっと、リヴァイが聞いてしまった最低で最悪で、あまりにも残酷な事実を知ったら、彼も黙ってはいないでしょう。
彼がどんな決断を下すかは、分かりません。
でも、リヴァイには、彼と共に、世界政府と戦う覚悟は既に出来ていました。
彼らがこの研究施設で働くようになったのは、高度で天才的な技術を世界の為に役立てたい、という熱意が海軍の上層部に届いたからでした。
海軍の上層部は、彼らの高い技術を未来の世界に役立たせることが出来ると考え、世界政府まで巻き込んで、名前もない無人島の敷地全てを使って、巨大な研究施設を作りました。
でも、それは、彼らにとっては、ただの〝表向き〟の理由に過ぎません。
自分達の身分を隠し、海軍や世界政府に近づいたのは、あの悲劇の裏に隠されていた事実を突き止める為だったのです。
ありとあらゆる残酷な事実を想定してきましたが、現実はもっと残酷で、お粗末なものでした。
こんなことなら、知らない方が良かった———心から、後悔してしまうほどに。
(そんなものの為に、アイツらは死んだのか…っ。なまえは…っ。)
唇を噛み、リヴァイは必死に走りました。
そして、漸く辿り着いた最上階で、奥にある研究室の部屋の扉を蹴り破るように、勢いよく開きます。
ちょうど、この研究施設の研究所長であるエルヴィンは、自らが生んだアンドロイドのメンテナンスを行っているところでした。
驚いたように振り返ったエルヴィンでしたが、彼の隣で両腕を横に真っ直ぐに伸ばして立つ白いワンピース姿のアンドロイドは、表情一つ変えません。
アレは、なまえそっくりに作られた精巧なアンドロイドです。
機械の為、体温は高いものの、触れたときの柔らかさや声は、生前のなまえそのものでした。
でも、彼女と呼ぶことも躊躇わされるその機械が、微笑むことはありません。泣くこともしません。怒り、笑うこともしないのです。
ただ、そこに存在し、人間の指示をただ忠実にこなしてくれる、素晴らしい〝機械〟なのです。
「エルヴィン、大変なことになった。
いや、100年以上前から、クソみてぇな事態だったんだ。
俺達はずっと———。」
「世界政府に騙されていた。」
リヴァイの言葉を遮るように、続きを話したのは、エルヴィンでした。
まさか、自分が彼に教えるはずだったそれを、先に言われるとは誰も思いもしないでしょう。
リヴァイも、驚いたように目を見開きました。
ですが、エルヴィンは、飄々とした様子で、メンテナンスに使っていた工具を近くの棚に片付けていきます。
「あの島に巨人が現れたのは、謎でもなんでもなかった。
ただ、運が悪かっただけに過ぎない。私達は、偶々、選ばれてしまっただけだ。」
エルヴィンが話したのは、つい先刻、リヴァイが立ち聞きしてしまった残酷な現実そのものでした。
いえ、それ以上の情報をエルヴィンは知っていたのです。
100年前、世界政府は、ある実験を始めました。
それは、人間の巨人化です。そんなことが出来れば、強大な武器よりも役立つ戦闘力を得られると考えたのでしょう。
ですが、そんな夢のような実験が初めからうまくいくわけがありません。
何度も失敗を繰り返した結果、世界政府が用意した研究施設に溢れたのは、巨人になりそこなった大きな人間でした。
それは、知性もなく、ただただ人を喰らうことしか出来ません。
失敗作の巨人の処分に困った世界政府は、それを捨てるのと同時に、新たな実験が出来ないか、と考えました。
それが、適当な島を選び、そこに失敗作の巨人を放ち、彼らの戦闘力を調査するというものです。
でも実際は、なんだかんだと理由をつけましたが、ただ、失敗作を捨てる場所が欲しかった———それだけだったのでしょう。
そうして、選ばれたのが、リヴァイ達の暮らす島です。
質素な島でしたし、文明も発展していなかったので、隠密に消し去るのは簡単だと考えられたのが、選ばれてしまった原因だと思われます。
どんなに待っても、助けを求めても、海軍がやってきてくれるわけがなかったのです。
だって、あの恐ろしい巨人を、島に運んできた犯人こそが、海軍の軍艦だったのですから———。
「どうしてそれを…。
いや、違ぇ。いつから、知っていた。」
「なぁ、リヴァイ。どうして私は、彼らに生を与えなかったと思う?」
リヴァイの質問に、質問で返したエルヴィンは、研究室奥に身体を向けました。
背を向けた格好になったエルヴィンの向こうには、数えきれないほどのアンドロイドがズラリと並んでいます。
ちょうどメンテナンス時間だった為、スリープモードになっているアンドロイドは、ピクリとも動きません。
人間そのものにしか見えないソレは、どれも同じ顔はしていないし、背格好もそれぞれ違いましたが、そのすべてに、リヴァイは見覚えがありました。
なまえと同じです。彼らは、遠い昔、リヴァイとエルヴィンが失ってしまった仲間達だったのです。でも、リヴァイの知っている仲間とは違います。
だって、彼らはもうこの世には存在しません。アレは、死んだ彼らのDNA情報を利用して、エルヴィンが作り出した精巧なクローンアンドロイドなのです。
「騙された自分達が悪いのか。力のなかった自分達が悪いのか。
私はずっと考え続けていた。そうして、私はついに、答えを見つけた…。
生があるから、死がある。生きていることが、間違いだったんだ…!」
エルヴィンは、両手を広げるようにして、声を上げました。
熱のこもったそれは、まるで、自分の言葉に酔っているかのような口ぶりです。
「…何を、言ってやがる?」
「生と死なんて曖昧なものだ。それなのに、心なんてものがあるから、苦しみ、絶望する羽目になる。
心なんてもののせいで、私達は愛を覚えてしまう。
その結果、どうなった?なぁ、リヴァイ、お前は、どれほどの悲劇を見た。」
エルヴィンが振り返ります。
恍惚の表情でも浮かべていれば、リヴァイは、最低な事実を知っていて今までずっと黙っていた彼を怒鳴り、殴りつけることが出来たかもしれません。
でも、エルヴィンは、泣いていたのです。
ひどく悲しそうに、涙をただひたすらに、流していたのです。
残酷すぎる現実に傷ついていたのは、エルヴィンも同じでした。むしろ、今日の日まで、その事実をひとりで抱えていた彼の苦しみは、耐え難いものだったでしょう。
「仲間が無残に死にゆく様に心は悲鳴を上げ、愛する人を失えば、心は粉々に砕けた。
それでも、強くいようとした結果が、この残酷な現実だ。
心なんてものは、ない方がいい。生きている限り、心が生まれるのなら、生すらも必要ない。」
エルヴィンは、そこまで言うと、ゆっくりと振り返り、もう一度、昔の仲間に瓜二つのアンドロイド達と向き合いました。
そして、数秒の間をあけ、エルヴィンが続けます。
「見てみろ、リヴァイ。私達が蘇らせた仲間達は、もう二度と死んだりはしない。」
「生きてもいねぇ。それは、ただの——」
「だが、ここに存在している!!私達と共にある!!
彼らに、海賊を抹殺させるだと?ふざけるな、そんなことの為に彼らが生きるはずだった未来を奪わせはしない!!
そんなことの為に、私は彼らを呼び戻したんじゃない!!彼らはこれから、奪われた未来を取り戻すんだ!!」
さっきまで泣いていたエルヴィンが、今度は激高し始めました。
いつも穏やかで、冷静沈着な男のはずでした。そんな彼の変貌ぶりに、リヴァイは圧倒されました。
それでも、何かよからぬことが起ころうとしていることは、感じ取ってしまったのです。
「…お前、何を考えてる。」
「彼らのプログラムには、初めから海賊を抹殺する指示なんて入れてはいない。
私の号令の後、彼らが抹殺しに走るのは、海軍と世界政府だ。」
「な、に…?」
「もうすぐ、準備が整う。そろそろリヴァイにも計画を話すつもりだったから、ちょうどよかった。」
「お前、何を言ってる。
ソレに、俺達の代わりに復讐をさせるっていうのか!?
よく考えろ、俺達の仲間を殺した世界政府も海軍ももう死んでる、この世にいない!!」
リヴァイは、必死に説得しようとしました。
確かに、世界政府や海軍への憎しみは、あります。
でも、ここで、それを解消するために復讐をしたところで、生まれるのは悲劇だけなのです。
それを、死ねない身体で生きてきたリヴァイ達は、嫌というほどに見てきました。
なぜなら、人間はいつも、悲劇を繰り返す悲しい生き物だったからです。
自分達は違う———それだけが、リヴァイの心の拠り所でした。
だから、どうしても、エルヴィンに、そこまで落ちて欲しくなかったのです。
ですが———。
「だから?」
エルヴィンが冷たく言います。
その瞳には、もう、生気がありませんでした。
いえ、初めから、エルヴィンに、命はありませんでした。
巨人に襲われ、生死を境を彷徨った時、どうしても彼を生かしたかった部下の兵士が、近くにあった不思議な実を水分代わりに食べさせたのがきっかけでした。
大きな壁の中に隔離されたリヴァイ達は知りませんでしたが、今覚えば、アレは、悪魔の実だったのでしょう。
それがきっかけで、機械を生み出す力を得たエルヴィンは、まず、自分の身体を機械にしました。
死なない身体にすることで、仲間を守ろうとしたのです。
そして、人類最強の兵士と称されたリヴァイの身体もまた、本人の許可を得て、機械にしました。
その結果、彼らが得たのは、死なない身体と、愛する人たちが死にゆく姿をただ見ていくばかりの人生だったのです。
(あぁ…、)
長い時間をかけて、死んでいく人間と腐った現実を見つめ続けてきたエルヴィンの心は、とうとう壊れてしまったのです。
心なんてない方がいい———そう訴える張本人のエルヴィンは、その心を消すことは出来なかったのです。
だから、壊れてしまった。
なんて、残酷なことでしょうか。
そんな彼を、誰が責められるでしょう。
少なくとも、リヴァイには、それは出来ませんでした。
「機械は素晴らしい。私達を裏切ることがないどころか、死んでしまうこともない。
私達は、永遠にそばにいられる。」
嬉しそうに微笑むエルヴィンの瞳には、今もまだ、涙の粒が光っていました。