「なぁ、最近さ…。なまえの様子がおかしくないか？」

お昼時、腹を空かせた海賊たちで賑わう食堂で、そう言いだしたのはシャチでした。
普段、他人のことをあまり見ていない彼が、誰かの様子の変化を指摘するなんて、よほどのことです。
ですから、彼のその一言が始まりになり、周りにいた仲間達が「だよな」「俺もそう思ってた。」と同意の声を幾つも上げました。
彼らが、なまえの様子がおかしいと思った理由は、それぞれありました。
たとえば、釣りをしていて針が指に刺さってしまった時、甲板で芋を焼こうとして焚火をしてちょっとした火事騒ぎが起きた時、敵船に乗り込んでの戦闘でナイフで手の甲を切られた時、その他にもいろんなハプニングがありました。その度に、なまえは、驚いたように目を見開いて、自分の手を守ったのです。
まるで、痛みから逃げるように———。

「様子がおかしいっていうかさ、」
「やっぱ…あれだよな？」
「あぁ、だよな。」
「そう思う。」

彼らは揃って、とても嬉しそうな顔をしています。
皆、思っていることは同じだったようです。
互いの目を合わせて、同じ気持ちであることを確かめ合った彼らは、綻ぶ頬のままで一斉に口を開きました。

「なまえが、人間になってきてる！！」

彼らの声は、完全に重なりました。
そう、確かに、今のなまえの様子は、以前とは違います。
彼女はどんなことがあっても、自分は機械だから痛覚はない、と平然としていました。
けれど、今の彼女は、まるで〝痛み〟を知っているかのような反応をするのです。
だからと言って、彼女が人間になってきている、なんてあまりにも乱暴な考えで、夢ばかりを追いかける海賊らしい解釈です。
まさか、なぜ、どうすれば、機械が人間になるのでしょうか。
愛や友情が彼女を人間にしたと言うのなら、それはあまりにも陳腐なファンタジー映画のようです。魔法ではないのですから、そんなことがあるわけがありません。
でも、彼女の変化が、彼女が確実に人間に近づいている、ということに他ならないのではないか———仲間である彼らが、そういう考えに至っても当然のことなのかもしれません。

「そういえば、なまえはどこに行ったんだ？」
「いつもなら腹が減ったって一番最初に食堂に来てるベポもいねぇな。」

シャチが首を傾げると、ペンギンも訝し気に食堂を見渡しました。
機械なので食事が不要ななまえですが、いつもなら、ベポと一緒に食堂にやってきて、仲間達をただじっと観察したり、会話を楽しんだりしているはずです。
ですが、今は、ベポも食堂にはいないようでした。
その頃、ベポがいる甲板はとても大きな騒ぎになっていたのです。