◇No.4◇ハートがありません
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通称”本の虫”島を慌ただしく出向したポーラータング号は、海底をそれなりのスピードを保ったまま進み続けていました。
すぐに追いかけて来たCP0との交戦は避けられなかったものの、潜水艦であるポーラータング号が海に潜れたおかげで、なんとか難を逃れることが出来ました。
ここまで来れば、流石にもう大丈夫でしょう。
船のスピードを落として、2時の方向へ進むようにと船員に指示を出したベポは、手術室へと急ぎます。
ベポが助けた彼女は、ポーラータング号に乗ってすぐに手術室へ運ばれました。
今、船長で船医でもあるローが執刀して、手術が行われています。
助手のペンギンも高い技術力を持っていますし、助手の助手のシャチもいないよりはマシくらいには使えます。
きっと大丈夫ー。
必死に、必死にそう信じて、手術室へ走る途中、ベポは、いきなり廊下の角を走って曲がって来た船員と正面衝突してしまいました。
「痛…っ!気をつけてよ!!」
「悪い、ベポ!!ちょっと急いでんだ!!」
早口で謝ったのは、手術着姿のペンギンでした。
そして、そのまま慌ただしく走り去っていきます。
ローと一緒に彼女の手術をしているはずの彼がなぜ、船内を焦った様子で走っているのでしょう。
不安が増したベポは、手術室へとさらに急ぎます。
すぐに見えて来た手術室の扉の前に、手術着のままのシャチがいました。
いつも明るい彼ですが、今はなぜか顔色を真っ青にして呆然と立ち尽くしているようでした。
いえ、なぜか、なんて本当はベポも思いません。
手術室で何があったのか、すぐに見当がつきます。
だから、ベポの真っ白の顔もー。
白い毛並みのままですが、サッと血の気が引いたようでした。
きっと彼女は生きている。死んでなんかいないー!
それでも、ベポはそう信じました。
ローは天才外科医で、救えない命などないのだと、知っていたからです。
「キャプテン!!あの娘は助かったんでしょう!?」
扉を両手で勢いよく開き、ベポは叫ぶように訊ねました。
手術室の中には、まだローが残っていました。
中央の手術台の上に裸で寝かされている彼女をただじっと見下ろしています。
手術着のままではありましたが、メスも持っていないし、床に一滴の血も落ちていません。
そこには、手術を行った形跡すらありませんでした。
そして、ベポの視界に入った彼女からは、生気も感じません。
「キャプテン…、彼女の心臓は…、また動き出したよね…?」
不安そうに、ベポはローに訊ねます。
答えはもう分かっていたのだと思います。
でも、彼女が生きていることも、自分の尊敬する船長はどんな命も救えるのだということも、信じ続けたかったのです。
ですが、現実はそう甘くありませんでした。
ローが、ベポの方を向きました。
ゴクリ、唾を飲み込んで、ベポは答えを待ちます。
「それの心臓は動いてねぇ。」
「…!」
呆気なく現実を突きつけられ、ベポは目を見開きます。
嫌だー。
ベポは、どうしても信じたくありません。
だから、ローの手術着の胸の辺りをポコポコと叩きながら、本当は生きているんだろうと訴えました。
それでも、ローは、ほんの少しの表情を変えることもなく、心臓は動いていないと繰り返します。
「ねぇ、キャプテン!その娘の心臓、動かしてよ!!
可哀想だよ…っ。ひとりぼっちで、びしょ濡れで、恋の本をひたすら読んで、
海兵に追いかけられて、倒れて死んじゃうなんて、そんなの…っ、あんまりだよ…!」
「可哀想かどうかは知らねぇが、ソイツの心臓は永久に動かねぇ。」
「…!鬼!!悪魔!!キャプテンがそんな薄情な人間だったなんて…っ!
知ってたけど…!でも、大好きだけど!!ひどいよ!!」
「そもそも心臓がねぇのに、動かすことは出来ねぇ。
あと、俺も大好きだ。」
大好きなローから思いがけず貰えた嬉しい言葉に感激したベポは、思わず聞き逃すところでした。
今、大好きなローは、何と言ったでしょうか。
「・・・?」
ベポは、首を傾げながら、つい今しがたローが言った言葉を頭の中で復唱しました。
確か、ローはこう言ったはずです。
「心臓が、ない?」
「あぁ、心臓がねぇ。だから、そもそも心臓の音も聞こえるはずがねぇ。」
「・・・・キャプテンが取っちゃったってこと?」
言っている意味が上手く理解出来ないベポですが、必死に頭を捻りながらローに訊ねます。
オペオペの実の能力者であるローは、その能力を使って、生き物から心臓を取り出すことが可能です。
心臓がない人間と聞いたら、ベポには、ローから心臓を奪われた人間しか浮かびませんでした。
ですが、ローはそうではないと首を振ります。
「どういうこと?」
「ソレは、人間じゃねぇ。」
「・・・・・・・ん?白熊ってこと?」
「モフモフしてねぇからそれも違ェ。」
人間と白熊の違いをモフモフしているかしていないかでローが判断しているとは、知りませんでした。
ですが、人間でも白熊でもないというのなら、彼女は何だと言うのでしょう。
どう見たって、彼女は人間です。
手術台の上で、心臓の音を止めてしまった人間の女なのです。
そこへ、勢いよく手術室の扉が開き、ペンギンが飛び込んできました。
「キャプテン!!2人を連れて来ました!!」
大声で叫んだペンギンの後ろから、見覚えのある船員が2人がゾロゾロと現れました。
船大工のダイと機械が得意なカイです。
2人とも若いですが、ハートの海賊団ではそれなりに古株の頼れる船員です。
ですが、彼らが手術室に入るところを見たのは、少なくともベポは初めてでした。
「壊れた機械とはどれですか?」
真面目一辺倒のダイが、眼鏡の縁をクイッと持ち上げて手術室を見渡します。
手術室の中央で、裸で眠っている女の身体も視界に入ったはずですが、彼からはそれに関しての発言がないどころか、なんとも思ってもいないようです。
「超最新型の精巧な機械って聞いて、ウズウズしてんだけど…!
って、女!?しかもなんで裸!?うわッ!めっちゃ可愛い!!
キャプテン、どうしたんすか、この娘!?」
お調子者のカイは、裸の女の姿を見つけて目を丸くしました。
そして、早速鼻の下を伸ばしています。
そんなカイの反応に対して、ダイは抱いた嫌悪感を隠すこともせずに、蔑むような視線を向けました。
「それが、お前らに直してもらいてェ機械だ。」
そう言って、ローが指さしたのは、手術台の上で裸で寝かされている女でした。
数歩前に出たダイが、手術台の上で裸で寝かされている女を見下ろします。
「…キャプテン、俺は壊れた機械を直して欲しいと
ペンギンに言われてきたはずなのですが。」
「あぁ、言いてェことは分かる。だが、これは俺には治せねぇ。
お前らが直せ。じゃないと、ベポが泣く。」
「それは勝手に泣かせておけばいい、というのは置いておいて
これをどう直せばいいんですか。」
ダイが呆れたように言います。
手術台の上に寝かされている女は、ダイの目にも生気がないように見えました。
生きていないのだということは、明らかだったのです。
船大工としての実力には自信のあるダイですが、ローも諦めてしまった命を直して、生き返らせることなんて出来ません。
「いやいや、キャプテン、冗談が過ぎますって!
大好きなベポを泣かせたくねぇのは分かりますけど、
さすがに死んだ人間は生き返らせられませんよ!!」
お調子者のカイが、堪らず笑い出した。
ですが、ローはいたって真面目に答えます。
「それは、ロボットだ。」
だから、医者の俺には治せないー。
そうローが続ければ、笑い声がピタリと止んだ静かな手術室で、ポカンとしたダイとカイの視線が、手術台の上に寝かされた女に向けられました。
確かに、死んだ人間はもう二度と生き返らせられません。
ですが、壊れた機械ならば、道具と新しい部品さえあれば、どうにかなるかもしれません。
彼女が本当に、壊れた機械ならば、諦めるのはまだ早いのです。
さて、彼女は人間なのでしょうか。
それとも、ローの言う通り、ロボットなのでしょうか。
彼女の命が助かるかどうかは、彼女が機械なのか、人間なのかに賭けられることになりました。
機械でありますようにー。
彼女を助けるためには、ベポはそう願えばよかったのでしょうか。
でも、状況を把握しきれていないベポは、ただ呆然と、眠る彼女を見下ろすことしか出来ませんでした。
すぐに追いかけて来たCP0との交戦は避けられなかったものの、潜水艦であるポーラータング号が海に潜れたおかげで、なんとか難を逃れることが出来ました。
ここまで来れば、流石にもう大丈夫でしょう。
船のスピードを落として、2時の方向へ進むようにと船員に指示を出したベポは、手術室へと急ぎます。
ベポが助けた彼女は、ポーラータング号に乗ってすぐに手術室へ運ばれました。
今、船長で船医でもあるローが執刀して、手術が行われています。
助手のペンギンも高い技術力を持っていますし、助手の助手のシャチもいないよりはマシくらいには使えます。
きっと大丈夫ー。
必死に、必死にそう信じて、手術室へ走る途中、ベポは、いきなり廊下の角を走って曲がって来た船員と正面衝突してしまいました。
「痛…っ!気をつけてよ!!」
「悪い、ベポ!!ちょっと急いでんだ!!」
早口で謝ったのは、手術着姿のペンギンでした。
そして、そのまま慌ただしく走り去っていきます。
ローと一緒に彼女の手術をしているはずの彼がなぜ、船内を焦った様子で走っているのでしょう。
不安が増したベポは、手術室へとさらに急ぎます。
すぐに見えて来た手術室の扉の前に、手術着のままのシャチがいました。
いつも明るい彼ですが、今はなぜか顔色を真っ青にして呆然と立ち尽くしているようでした。
いえ、なぜか、なんて本当はベポも思いません。
手術室で何があったのか、すぐに見当がつきます。
だから、ベポの真っ白の顔もー。
白い毛並みのままですが、サッと血の気が引いたようでした。
きっと彼女は生きている。死んでなんかいないー!
それでも、ベポはそう信じました。
ローは天才外科医で、救えない命などないのだと、知っていたからです。
「キャプテン!!あの娘は助かったんでしょう!?」
扉を両手で勢いよく開き、ベポは叫ぶように訊ねました。
手術室の中には、まだローが残っていました。
中央の手術台の上に裸で寝かされている彼女をただじっと見下ろしています。
手術着のままではありましたが、メスも持っていないし、床に一滴の血も落ちていません。
そこには、手術を行った形跡すらありませんでした。
そして、ベポの視界に入った彼女からは、生気も感じません。
「キャプテン…、彼女の心臓は…、また動き出したよね…?」
不安そうに、ベポはローに訊ねます。
答えはもう分かっていたのだと思います。
でも、彼女が生きていることも、自分の尊敬する船長はどんな命も救えるのだということも、信じ続けたかったのです。
ですが、現実はそう甘くありませんでした。
ローが、ベポの方を向きました。
ゴクリ、唾を飲み込んで、ベポは答えを待ちます。
「それの心臓は動いてねぇ。」
「…!」
呆気なく現実を突きつけられ、ベポは目を見開きます。
嫌だー。
ベポは、どうしても信じたくありません。
だから、ローの手術着の胸の辺りをポコポコと叩きながら、本当は生きているんだろうと訴えました。
それでも、ローは、ほんの少しの表情を変えることもなく、心臓は動いていないと繰り返します。
「ねぇ、キャプテン!その娘の心臓、動かしてよ!!
可哀想だよ…っ。ひとりぼっちで、びしょ濡れで、恋の本をひたすら読んで、
海兵に追いかけられて、倒れて死んじゃうなんて、そんなの…っ、あんまりだよ…!」
「可哀想かどうかは知らねぇが、ソイツの心臓は永久に動かねぇ。」
「…!鬼!!悪魔!!キャプテンがそんな薄情な人間だったなんて…っ!
知ってたけど…!でも、大好きだけど!!ひどいよ!!」
「そもそも心臓がねぇのに、動かすことは出来ねぇ。
あと、俺も大好きだ。」
大好きなローから思いがけず貰えた嬉しい言葉に感激したベポは、思わず聞き逃すところでした。
今、大好きなローは、何と言ったでしょうか。
「・・・?」
ベポは、首を傾げながら、つい今しがたローが言った言葉を頭の中で復唱しました。
確か、ローはこう言ったはずです。
「心臓が、ない?」
「あぁ、心臓がねぇ。だから、そもそも心臓の音も聞こえるはずがねぇ。」
「・・・・キャプテンが取っちゃったってこと?」
言っている意味が上手く理解出来ないベポですが、必死に頭を捻りながらローに訊ねます。
オペオペの実の能力者であるローは、その能力を使って、生き物から心臓を取り出すことが可能です。
心臓がない人間と聞いたら、ベポには、ローから心臓を奪われた人間しか浮かびませんでした。
ですが、ローはそうではないと首を振ります。
「どういうこと?」
「ソレは、人間じゃねぇ。」
「・・・・・・・ん?白熊ってこと?」
「モフモフしてねぇからそれも違ェ。」
人間と白熊の違いをモフモフしているかしていないかでローが判断しているとは、知りませんでした。
ですが、人間でも白熊でもないというのなら、彼女は何だと言うのでしょう。
どう見たって、彼女は人間です。
手術台の上で、心臓の音を止めてしまった人間の女なのです。
そこへ、勢いよく手術室の扉が開き、ペンギンが飛び込んできました。
「キャプテン!!2人を連れて来ました!!」
大声で叫んだペンギンの後ろから、見覚えのある船員が2人がゾロゾロと現れました。
船大工のダイと機械が得意なカイです。
2人とも若いですが、ハートの海賊団ではそれなりに古株の頼れる船員です。
ですが、彼らが手術室に入るところを見たのは、少なくともベポは初めてでした。
「壊れた機械とはどれですか?」
真面目一辺倒のダイが、眼鏡の縁をクイッと持ち上げて手術室を見渡します。
手術室の中央で、裸で眠っている女の身体も視界に入ったはずですが、彼からはそれに関しての発言がないどころか、なんとも思ってもいないようです。
「超最新型の精巧な機械って聞いて、ウズウズしてんだけど…!
って、女!?しかもなんで裸!?うわッ!めっちゃ可愛い!!
キャプテン、どうしたんすか、この娘!?」
お調子者のカイは、裸の女の姿を見つけて目を丸くしました。
そして、早速鼻の下を伸ばしています。
そんなカイの反応に対して、ダイは抱いた嫌悪感を隠すこともせずに、蔑むような視線を向けました。
「それが、お前らに直してもらいてェ機械だ。」
そう言って、ローが指さしたのは、手術台の上で裸で寝かされている女でした。
数歩前に出たダイが、手術台の上で裸で寝かされている女を見下ろします。
「…キャプテン、俺は壊れた機械を直して欲しいと
ペンギンに言われてきたはずなのですが。」
「あぁ、言いてェことは分かる。だが、これは俺には治せねぇ。
お前らが直せ。じゃないと、ベポが泣く。」
「それは勝手に泣かせておけばいい、というのは置いておいて
これをどう直せばいいんですか。」
ダイが呆れたように言います。
手術台の上に寝かされている女は、ダイの目にも生気がないように見えました。
生きていないのだということは、明らかだったのです。
船大工としての実力には自信のあるダイですが、ローも諦めてしまった命を直して、生き返らせることなんて出来ません。
「いやいや、キャプテン、冗談が過ぎますって!
大好きなベポを泣かせたくねぇのは分かりますけど、
さすがに死んだ人間は生き返らせられませんよ!!」
お調子者のカイが、堪らず笑い出した。
ですが、ローはいたって真面目に答えます。
「それは、ロボットだ。」
だから、医者の俺には治せないー。
そうローが続ければ、笑い声がピタリと止んだ静かな手術室で、ポカンとしたダイとカイの視線が、手術台の上に寝かされた女に向けられました。
確かに、死んだ人間はもう二度と生き返らせられません。
ですが、壊れた機械ならば、道具と新しい部品さえあれば、どうにかなるかもしれません。
彼女が本当に、壊れた機械ならば、諦めるのはまだ早いのです。
さて、彼女は人間なのでしょうか。
それとも、ローの言う通り、ロボットなのでしょうか。
彼女の命が助かるかどうかは、彼女が機械なのか、人間なのかに賭けられることになりました。
機械でありますようにー。
彼女を助けるためには、ベポはそう願えばよかったのでしょうか。
でも、状況を把握しきれていないベポは、ただ呆然と、眠る彼女を見下ろすことしか出来ませんでした。