◇No.45◇痛みに悶える夜が始まりました
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呆気なく扉が閉まりました。
ローにとっては〝いつも〟とは違っていても、なまえにとっては人間の数が増えただけに過ぎず、プログラムされた〝いつも〟を変えるようなことではなかったということなのだろう———。
想定内のことだったはずなのに、ローは、自身が裏切られたような気持ちになっていることが、許せませんでした。
期待なんて、していないはずでした。
少なくとも、本人はそのつもりだったのです。
「来い。」
シェリーの細い手首を掴んだローは、そのまま強引に引っ張り、ベッドに背中から投げ落としました。
乱暴な扱いにも、シェリーは、嫌な顔をひとつもしません。
さすが——、というべきなのでしょうか。
シェリーは、この島で出逢ったばかりの女性です。
声を掛けて来たのは、彼女の方でした。
普段は、自身が経営するスナックでママをしていますが、時々、こうして海賊を相手にしているのだそうです。
わざわざ海賊なんてガラの悪い男の相手をしなくても、彼女ほど美しく気立ての良い女なら、喉から手が出るほどに欲しいという男も大勢いるでしょう。
実際、彼女には、縁談の話が、あちこちから届いているようでした。
それでも、そのすべてを断って、わざわざ海賊を相手にするなんて、何か相当な理由があるか、相当な変わり者かのどちらかです。
ポーラータング号まで連れてくる途中に、適当な話題としてローが訊ねたとき、シェリーの雰囲気が一瞬だけ変わりました。
『変わり者なのよ。』
そう言って、眉尻を下げて微笑んだシェリーは、打ち寄せる小さな波にすら攫われて消えて行きそうなくらいに儚く見えたのです。
きっと、美しい彼女が、海賊を相手にしなければならなくなった、何か理由があるのでしょう。
ですが、それが何だとしても、ローには関係ありませんし、興味もありません。
今夜、ただ、誰もが羨むくらいのとびきり良い女をポーラータング号に連れ込む———。
それが、ローの目的でしたし、それ以上も以下も必要はなかったのです。
ワインレッド色のサテンドレスの肩紐に手をかけ、早速、コトに及ぼうとしたローでしたが、それをシェリーが阻みました。
シェリーの長く綺麗な手が、ローの眉間にそっと触れます。
さらに濃くなったローの眉間の皴に、シェリーは、困ったように眉尻を下げました。
「あの娘、私にヤキモチを妬いたみたいだったわ。」
シェリーの言葉に、ローは驚きも、怒りも、しませんでした。
何の感情も沸かなかったのです。
ただ、心がスーッと冷めていくような感覚が走ったのと同時に、ローの目もスーッと細くなり氷のように冷たくなりました。
「適当なこと言うな。アイツにそんな感情はねぇ。」
「あなたをバーに誘ってるときだって、あの娘は私を絶対に見なかったのよ。
まるで存在を消そうとしてるみたいだったわ。」
「そういうやつなだけだ、特に意味はねぇ。」
「そうかしら?だって、私があなたにわざと触れたとき、」
シェリーがそう言いながら、ローの胸元にそっと手を触れました。
ローは、自分の胸元に触れたシェリーの手を見下ろします。
「あの娘、明らかに私に敵意を向けたのよ。」
ローが、片眉を上げます。
心当たりがあった、というわけではありません。
だって———。
「仲間じゃねぇ女が船長に気安く触るから、
敵だと勘違いしただけだ。アイツは——、こういうことを分かってねぇから。」
ローは言いながら、お預けになっていたドレスの肩紐をおろしました。
首筋に噛みつけば、シェリーが甘い吐息を漏らしました。
それでもまだ、彼女は言いたいことがあるようでした。
ドレスと下着をおろされ、ローに首筋や胸に舌を這わされながらも、彼女は喋り続けます。
「あなたが…っ、教えて、あげたら、いいんじゃ…っ、ん、ない?
誘われ、れば、断らないと、思うわ。」
「だろうな。」
「なら…っ、ん…っ。」
「アイツは、知らなくていい。」
「どう、して…んっ?」
胸元に這わせていたローの舌の動きが、ピタリと止まりました。
「———また、プレゼントになるだけだろ。」
低い声で、ボソリ、と呟かれたそれは、シェリーには聞き取れませんでした。
だから、もう一度、何と言ったのかを聞いたのですが、ローは、包装紙を雑に剥がすように、シェリーの服を脱がすことに集中してしまって、答えてはくれませんでした。
それから、ローはもう喋ることをやめました。
どれも同じに見える女の身体を今夜は誰よりも悦ばせなければならないのだと、強迫観念のようなものに襲われているような気分でした。
ですが、それは、ローの勘違いです。
実際に彼を襲っていたのは、忘れたい記憶でした。
それは、なまえと交わしたキスなのか、それとも、なまえが船員達に贈ったキスなのか。
それが、本人にも分からず、勘違いをしてしまっているのです。
ローも、シェリーも、身体を繋げる前に、もう息も絶え絶えでした。
でも、最後に、シェリーは、もう一度、確認しました。
自分との行為が、ローを傷つけるのなら、必要ないと思っていたのです。
「ねぇ、本当にいいの?」
「あ?」
「あの娘、あなたのことが好きなんじゃないの?
それに、あなたもあの娘のこと———。」
「アイツは俺を、命令に従うべき人間だとしか思ってねぇ。
————他の奴らと、同じだ。」
ローは、シェリーを抱くことを選びました。
そして、それ以上、彼女は何も言いませんでした。
だって、ローは、敢えて、自分が傷つくことを選んだのですから。
その夜、気が狂うほどに、激しく、激しく抱き尽くしました。
自分でつけた傷さえも忘れて分からなくなってしまうことを願うみたいに、必死に、ただ激しく——。
あぁ、でも、どれだけ激しく抱いても、またさらに激しくなっていったのは、その傷の痛みがどうしても消えてはくれなかったということだったのでしょう。
ローにとっては〝いつも〟とは違っていても、なまえにとっては人間の数が増えただけに過ぎず、プログラムされた〝いつも〟を変えるようなことではなかったということなのだろう———。
想定内のことだったはずなのに、ローは、自身が裏切られたような気持ちになっていることが、許せませんでした。
期待なんて、していないはずでした。
少なくとも、本人はそのつもりだったのです。
「来い。」
シェリーの細い手首を掴んだローは、そのまま強引に引っ張り、ベッドに背中から投げ落としました。
乱暴な扱いにも、シェリーは、嫌な顔をひとつもしません。
さすが——、というべきなのでしょうか。
シェリーは、この島で出逢ったばかりの女性です。
声を掛けて来たのは、彼女の方でした。
普段は、自身が経営するスナックでママをしていますが、時々、こうして海賊を相手にしているのだそうです。
わざわざ海賊なんてガラの悪い男の相手をしなくても、彼女ほど美しく気立ての良い女なら、喉から手が出るほどに欲しいという男も大勢いるでしょう。
実際、彼女には、縁談の話が、あちこちから届いているようでした。
それでも、そのすべてを断って、わざわざ海賊を相手にするなんて、何か相当な理由があるか、相当な変わり者かのどちらかです。
ポーラータング号まで連れてくる途中に、適当な話題としてローが訊ねたとき、シェリーの雰囲気が一瞬だけ変わりました。
『変わり者なのよ。』
そう言って、眉尻を下げて微笑んだシェリーは、打ち寄せる小さな波にすら攫われて消えて行きそうなくらいに儚く見えたのです。
きっと、美しい彼女が、海賊を相手にしなければならなくなった、何か理由があるのでしょう。
ですが、それが何だとしても、ローには関係ありませんし、興味もありません。
今夜、ただ、誰もが羨むくらいのとびきり良い女をポーラータング号に連れ込む———。
それが、ローの目的でしたし、それ以上も以下も必要はなかったのです。
ワインレッド色のサテンドレスの肩紐に手をかけ、早速、コトに及ぼうとしたローでしたが、それをシェリーが阻みました。
シェリーの長く綺麗な手が、ローの眉間にそっと触れます。
さらに濃くなったローの眉間の皴に、シェリーは、困ったように眉尻を下げました。
「あの娘、私にヤキモチを妬いたみたいだったわ。」
シェリーの言葉に、ローは驚きも、怒りも、しませんでした。
何の感情も沸かなかったのです。
ただ、心がスーッと冷めていくような感覚が走ったのと同時に、ローの目もスーッと細くなり氷のように冷たくなりました。
「適当なこと言うな。アイツにそんな感情はねぇ。」
「あなたをバーに誘ってるときだって、あの娘は私を絶対に見なかったのよ。
まるで存在を消そうとしてるみたいだったわ。」
「そういうやつなだけだ、特に意味はねぇ。」
「そうかしら?だって、私があなたにわざと触れたとき、」
シェリーがそう言いながら、ローの胸元にそっと手を触れました。
ローは、自分の胸元に触れたシェリーの手を見下ろします。
「あの娘、明らかに私に敵意を向けたのよ。」
ローが、片眉を上げます。
心当たりがあった、というわけではありません。
だって———。
「仲間じゃねぇ女が船長に気安く触るから、
敵だと勘違いしただけだ。アイツは——、こういうことを分かってねぇから。」
ローは言いながら、お預けになっていたドレスの肩紐をおろしました。
首筋に噛みつけば、シェリーが甘い吐息を漏らしました。
それでもまだ、彼女は言いたいことがあるようでした。
ドレスと下着をおろされ、ローに首筋や胸に舌を這わされながらも、彼女は喋り続けます。
「あなたが…っ、教えて、あげたら、いいんじゃ…っ、ん、ない?
誘われ、れば、断らないと、思うわ。」
「だろうな。」
「なら…っ、ん…っ。」
「アイツは、知らなくていい。」
「どう、して…んっ?」
胸元に這わせていたローの舌の動きが、ピタリと止まりました。
「———また、プレゼントになるだけだろ。」
低い声で、ボソリ、と呟かれたそれは、シェリーには聞き取れませんでした。
だから、もう一度、何と言ったのかを聞いたのですが、ローは、包装紙を雑に剥がすように、シェリーの服を脱がすことに集中してしまって、答えてはくれませんでした。
それから、ローはもう喋ることをやめました。
どれも同じに見える女の身体を今夜は誰よりも悦ばせなければならないのだと、強迫観念のようなものに襲われているような気分でした。
ですが、それは、ローの勘違いです。
実際に彼を襲っていたのは、忘れたい記憶でした。
それは、なまえと交わしたキスなのか、それとも、なまえが船員達に贈ったキスなのか。
それが、本人にも分からず、勘違いをしてしまっているのです。
ローも、シェリーも、身体を繋げる前に、もう息も絶え絶えでした。
でも、最後に、シェリーは、もう一度、確認しました。
自分との行為が、ローを傷つけるのなら、必要ないと思っていたのです。
「ねぇ、本当にいいの?」
「あ?」
「あの娘、あなたのことが好きなんじゃないの?
それに、あなたもあの娘のこと———。」
「アイツは俺を、命令に従うべき人間だとしか思ってねぇ。
————他の奴らと、同じだ。」
ローは、シェリーを抱くことを選びました。
そして、それ以上、彼女は何も言いませんでした。
だって、ローは、敢えて、自分が傷つくことを選んだのですから。
その夜、気が狂うほどに、激しく、激しく抱き尽くしました。
自分でつけた傷さえも忘れて分からなくなってしまうことを願うみたいに、必死に、ただ激しく——。
あぁ、でも、どれだけ激しく抱いても、またさらに激しくなっていったのは、その傷の痛みがどうしても消えてはくれなかったということだったのでしょう。