◇No.38◇暑い日には皆で頭を冷やしましょう
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季節の変化がめまぐるしい新世界の海は、ポーラータング号を真夏の気候で包んでいました。
冬島を出港してそれほど間を置かずに訪れた猛暑は、ハートの海賊団の船員達の体力をあっという間に奪い去っていきます。
真上に浮かぶ燃え盛るような太陽から、ジリジリと火傷しそうなほどの熱が届き、船員達はほとんど全員が甲板の上に倒れ込み、アイスクリームのように溶けていました。
全身を白いフワフワの毛で覆われたベポにいたっては、仰向けで大の字になったまま、ピクリとも動きません。つぶらな黒い目は、随分と前に死んでいました。
そんな中、なまえだけが、お気に入りのコートを着て、甲板の上をクルクルと回転しながら、まわり続けています。
「なまえ、流石に今日はやめろ…。そのコートを、脱げ…。
見てるだけで、暑い…。」
甲板の上で溶けかけていたイッカクが、なまえに声をかけました。
ですが、クルクルまわるのに忙しい彼女には、消え入りそうなイッカクの声は届きません。
甲板の上に倒れ込む仲間達の身体を器用に飛び越えては、クルクル、クルクル、とまわり続けています。
せめて人間であれば、いつかは目がまわって止まってくれたでしょうが、生憎、ロボットである彼女は、大袈裟でもなんでもなく100年間、休むことなくまわり続けることだって出来てしまうのです。
「やめろ…、やめてくれ…、やめろって言ってんだろおが!!!」
暑さでイライラしていたイッカクが、腹から声を上げて怒鳴りつけました。
最後の力を振り絞ったのです。
ですが、無駄でした。
なまえは、足元で倒れ込むイッカクにチラリと視線を向けたのみで、相変わらず、クルクル、クルクルとまわり続けます。
そこへちょうどやって来たローは、甲板に続く扉を開けた途端に飛び込んできたイッカックの怒鳴り声に、思わず足を止めました。
そして、甲板の上で倒れ込んでいる船員達と、お気に入りのコートを羽織ってクルクルとまわり続けているなまえを見て、状況をすぐに察しました。
大きくため息を吐いて、ローはなまえに声をかけます。
「なまえ、こっちに来い。」
ローが呼ぶと、なまえの動きがピタリ、と止まりました。
自分が最後の力を振り絞って張り上げた怒鳴り声には、ほんの少しの反応しか見せなかったくせに——。
文句を言う元気もありませんから、イッカクはなまえを恨めし気に睨み上げます。
ですが、もちろん、なまえはそんな視線に気づくわけもなく、手招きをするローの元へと素直に駆け寄りました。
「はい、ロー。どうしましたか。」
「そのコートを脱げ。」
「どうしてですか。このコートはローから貰った大切なコートです。
脱ぎません。」
なまえが反論します。
ローの指示ならば、どんな状況だろうが何だって従うなまえですが、コートのこととなると、話が変わります。
きっと、なまえにとって、コートを脱げという命令よりも、自分が壊れてしまうと分かっている海に飛び込めという命令のどちらかを選べと言われたら、迷うことなく後者を選択するのでしょう。
「染みが出来てる。」
ローは、コートの胸元の部分を指さしました。
なまえが視線をおろし、さされた指の先を追いかけます。
そこには、確かに橙色の染みが出来ていました。
1時間ほど前、船員達が食堂で昼食のナポリタンを食べているとき、騒いでいたシャチが誤ってつけたものです。
「脱げ。俺がランドリーに持って行ってやる。
その間、お前はそこで溶けてる奴らを叩き起こして、水風呂にでも投げ込んどけ。」
「はい、分かりました。」
策士のローによって、見てるだけで暑くてたまらなかった毛皮のコートをなまえに脱がせることに成功しました。
なまえからコートを受け取ったローは、甲板で溶けている船員達に、やってやったぞ、とばかりの視線を向け、ニッと片方の口の端を上げて見せました。
(さすが…!俺達のキャプテン…!!!)
約束通り、毛皮のコートをランドリーに持って行くために船内に戻って行くローの背中を見送る船員達の目は、尊敬と感謝で溢れていました。
だって、なまえからコートを脱がせてくれただけではなく、水風呂というプレゼントまで用意してくれたのです。
元気があれば、船員達は、飛び跳ねて喜びを表現した上で、大好きなキャプテンにキスのお返しを贈りたいくらいでした。
ですが——。
「やめ…!やめろ…!!やめろぉぉぉぉぉおおッ!!」
数分後、ポーラータング号が誇る、プールのように広い大浴場に船員達の悲鳴のような叫び声が上がりました。
服を着たままの仲間を両手で抱えたなまえは、大好きなローから受けた命令を遂行するべく、思いっきり、投げ込んだのです。
バッシャーーンッ!
投げ込まれた船員が水風呂に落ちて、大きな水飛沫を上がります。
浅い底に勢いよく腰をぶつけた船員は、氷のように冷たい水に溺れながら、痛みで声にならない声を上げました。
それを見た他の船員達は、恐怖に戦き、残った力を振り絞って散り散りに逃げて行きます。
ですが、ローの命令は絶対であるなまえは、彼らを容易く捕まえ、さっきの彼と同様に、水風呂に文字通り投げ込み続けます。
これは、なまえを責めるべきなのか——。
いいえ、投げ込んどけ、と言ってしまったローのミスです。
ですがそれを、船員達が指摘することが出来るわけもなく、その日の午後を少し過ぎた時間帯、ポーラータング号の大浴場では、船員達の悲鳴が響き続けていました。
冬島を出港してそれほど間を置かずに訪れた猛暑は、ハートの海賊団の船員達の体力をあっという間に奪い去っていきます。
真上に浮かぶ燃え盛るような太陽から、ジリジリと火傷しそうなほどの熱が届き、船員達はほとんど全員が甲板の上に倒れ込み、アイスクリームのように溶けていました。
全身を白いフワフワの毛で覆われたベポにいたっては、仰向けで大の字になったまま、ピクリとも動きません。つぶらな黒い目は、随分と前に死んでいました。
そんな中、なまえだけが、お気に入りのコートを着て、甲板の上をクルクルと回転しながら、まわり続けています。
「なまえ、流石に今日はやめろ…。そのコートを、脱げ…。
見てるだけで、暑い…。」
甲板の上で溶けかけていたイッカクが、なまえに声をかけました。
ですが、クルクルまわるのに忙しい彼女には、消え入りそうなイッカクの声は届きません。
甲板の上に倒れ込む仲間達の身体を器用に飛び越えては、クルクル、クルクル、とまわり続けています。
せめて人間であれば、いつかは目がまわって止まってくれたでしょうが、生憎、ロボットである彼女は、大袈裟でもなんでもなく100年間、休むことなくまわり続けることだって出来てしまうのです。
「やめろ…、やめてくれ…、やめろって言ってんだろおが!!!」
暑さでイライラしていたイッカクが、腹から声を上げて怒鳴りつけました。
最後の力を振り絞ったのです。
ですが、無駄でした。
なまえは、足元で倒れ込むイッカクにチラリと視線を向けたのみで、相変わらず、クルクル、クルクルとまわり続けます。
そこへちょうどやって来たローは、甲板に続く扉を開けた途端に飛び込んできたイッカックの怒鳴り声に、思わず足を止めました。
そして、甲板の上で倒れ込んでいる船員達と、お気に入りのコートを羽織ってクルクルとまわり続けているなまえを見て、状況をすぐに察しました。
大きくため息を吐いて、ローはなまえに声をかけます。
「なまえ、こっちに来い。」
ローが呼ぶと、なまえの動きがピタリ、と止まりました。
自分が最後の力を振り絞って張り上げた怒鳴り声には、ほんの少しの反応しか見せなかったくせに——。
文句を言う元気もありませんから、イッカクはなまえを恨めし気に睨み上げます。
ですが、もちろん、なまえはそんな視線に気づくわけもなく、手招きをするローの元へと素直に駆け寄りました。
「はい、ロー。どうしましたか。」
「そのコートを脱げ。」
「どうしてですか。このコートはローから貰った大切なコートです。
脱ぎません。」
なまえが反論します。
ローの指示ならば、どんな状況だろうが何だって従うなまえですが、コートのこととなると、話が変わります。
きっと、なまえにとって、コートを脱げという命令よりも、自分が壊れてしまうと分かっている海に飛び込めという命令のどちらかを選べと言われたら、迷うことなく後者を選択するのでしょう。
「染みが出来てる。」
ローは、コートの胸元の部分を指さしました。
なまえが視線をおろし、さされた指の先を追いかけます。
そこには、確かに橙色の染みが出来ていました。
1時間ほど前、船員達が食堂で昼食のナポリタンを食べているとき、騒いでいたシャチが誤ってつけたものです。
「脱げ。俺がランドリーに持って行ってやる。
その間、お前はそこで溶けてる奴らを叩き起こして、水風呂にでも投げ込んどけ。」
「はい、分かりました。」
策士のローによって、見てるだけで暑くてたまらなかった毛皮のコートをなまえに脱がせることに成功しました。
なまえからコートを受け取ったローは、甲板で溶けている船員達に、やってやったぞ、とばかりの視線を向け、ニッと片方の口の端を上げて見せました。
(さすが…!俺達のキャプテン…!!!)
約束通り、毛皮のコートをランドリーに持って行くために船内に戻って行くローの背中を見送る船員達の目は、尊敬と感謝で溢れていました。
だって、なまえからコートを脱がせてくれただけではなく、水風呂というプレゼントまで用意してくれたのです。
元気があれば、船員達は、飛び跳ねて喜びを表現した上で、大好きなキャプテンにキスのお返しを贈りたいくらいでした。
ですが——。
「やめ…!やめろ…!!やめろぉぉぉぉぉおおッ!!」
数分後、ポーラータング号が誇る、プールのように広い大浴場に船員達の悲鳴のような叫び声が上がりました。
服を着たままの仲間を両手で抱えたなまえは、大好きなローから受けた命令を遂行するべく、思いっきり、投げ込んだのです。
バッシャーーンッ!
投げ込まれた船員が水風呂に落ちて、大きな水飛沫を上がります。
浅い底に勢いよく腰をぶつけた船員は、氷のように冷たい水に溺れながら、痛みで声にならない声を上げました。
それを見た他の船員達は、恐怖に戦き、残った力を振り絞って散り散りに逃げて行きます。
ですが、ローの命令は絶対であるなまえは、彼らを容易く捕まえ、さっきの彼と同様に、水風呂に文字通り投げ込み続けます。
これは、なまえを責めるべきなのか——。
いいえ、投げ込んどけ、と言ってしまったローのミスです。
ですがそれを、船員達が指摘することが出来るわけもなく、その日の午後を少し過ぎた時間帯、ポーラータング号の大浴場では、船員達の悲鳴が響き続けていました。