◇No.35◇たぶん、愛です
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立ち上がったローは、コートのポケットから子電伝虫を取り出しました。
ポーラータング号で待機を命じられた船員以外は、シャチからの情報を受けた後、全員が森の中に捜索に入っていました。
彼らにも、なまえが見つかったということを報告しなければなりません。
相変わらず、なまえは湖のそばに座り込んでいるままですが、怪我もなさそうなので、それも伝えてやれば彼らも安心するでしょう。
呼び出してすぐに、ペンギンが応答しました。
ローが、なまえが見つかったことを伝えると、子電伝虫の向こうで、ホッと息を吐いたペンギンの声が返ってきました。
「お前から全員に、撤退して船に戻るように指示を出しておけ。」
≪分かりました。キャプテンもなまえを連れて帰ってくるんすよね?≫
「いや、近くに小屋があったから、今夜はそこで雨を凌ぐ。」
ローはそう言いながら、空を見上げました。
雨雲は切れることなく視界のすべてを覆い尽くし、空をどんよりとさせていました。
今は小雨程度ですが、すぐにでも土砂降りになってもおかしくはなさそうです。
崖を降りる少し前に、小屋も見つけていたので、そこでなら雨風を凌ぐことくらいは出来ます。
ですから、ローは、今から港へ向かって土砂降りに降られるよりは、小屋で雨が弱まるのを待つ方が賢明だと判断したのです。
≪幾ら小屋があったからって、森の夜は冷えますよ。
俺達が、雨具持って行くんで、場所を教えてくださいよ。≫
「必要ねぇ。とにかく、俺となまえは、明日、雨が止んでから帰る。」
≪それは危険じゃ——。≫
「他の奴らにもそう言っとけ。」
≪待ってくださ——。≫
ペンギンはまだ何か言っていましたが、ローは強引に子電伝虫を切りました。
子電伝虫をコートのポケットに入れようとして、自分の方を見上げているなまえと視線が絡みました。
「私とローは、船に帰らないですか?」
「もうすぐ雨になる。近くの小屋で雨宿りだ。」
ローは、空を指さして教えてやりました。
なまえの視線が、ローを通り越してもっと上に向かいます。
そして、どんよりとした黒い空を見つけて納得したようでした。
「ほら、立て。この崖の上に小屋がある。」
ローがなまえに手を差し伸べました。
ですが、いつもならその手を掴んでくれるなまえが首を横に振りました。
訝し気に眉を顰めたローに、なまえが言います。
「熊に服を渡したときに、その崖から落ちてしまいました——。」
なまえは、熊と格闘したときの詳細を説明し始めます。
それによると、手や足を噛んで放さない熊から逃れるために服を脱いだ後、服を持って逃げようとした熊に突き落とさられるかたちで崖から転がり落ちてしまったそうです。
そのとき、頭を打ったなまえはしばらくの間、意識をなくしていたらしく、目が覚めた時には湖の中に入っていた両足が動かなくなっていたということでした。
「——なので、私は立てません。ここから動けません。」
「それで、ずっと座ってたのか。」
なまえなら下着姿になっても平気で森の中を歩き回っていそうなのに、湖のそばで隠れるように座り込んでいたから、ローも不思議には思っていたのです。
漸く、その理由に納得しました。
「ほら、俺が運んでやるから。手を掴め。」
ローは、もう一度、なまえに手を差し伸べました。
立ち上がれないなまえは、不思議そうに首を傾げながらもローの手を握ります。
なまえが自分の手を握ると、ローはその手をひっぱり上げました。
そして、軽々と浮いた華奢な身体を横向きにして抱き上げます。
所謂、〝お姫様抱っこ〟でした。
下着姿で男にお姫様抱っこをされるなんて、女の子達が頬を染めそうなシチュエーションでも、なまえは無表情でした。
ですが——。
「すごいです。これなら歩けます。」
「歩くのは俺だろーが。」
呆れた様にローが言えば、なまえから「はい、そうでした。」ととぼけた答えた返ってくるから、思わず苦笑が漏れます。
ですが、これがなまえらしくていいのだと、そう思う程度には、彼女のことを理解しているつもりでもいました。
「ロー、見つけてくれて、ありがとうございました。」
なまえが、ローの方を向いて言いました。
横抱きになっている彼女が顔を向けると、唇が触れ合いそうなほどに近くなりました。
それでも、なまえの表情は変わらないままです。
きっと、何とも思っていないのでしょう。
仕方がありません。
本人も言っていた通り、ロボットに心という臓器はないのです。
「どういたしまして。」
言葉とは裏腹に、ローはなまえに軽く頭突きをしました。
コン、と小さな音が鳴って、なまえが不思議そうに視線だけを上に向けます。
きっと、どうして頭突きをされたのかを考えているのでしょう。
頭突きというもの自体も知らないのかもしれません。
ほら、やっぱり——。
「どうして頭をゴンとしましたか?」
答えが見つからなかったらしく、なまえがローに訊ねました。
「イラッとした。」
「また自分にですか?」
「いや。今度こそお前に。」
「そうですか。それは、すみませんでした。」
なまえが無表情で謝りました。
だから、ローはまた、軽く頭突きしました。
不思議そうに首を傾げたなまえに、ローはクスリと笑いました。
ポーラータング号で待機を命じられた船員以外は、シャチからの情報を受けた後、全員が森の中に捜索に入っていました。
彼らにも、なまえが見つかったということを報告しなければなりません。
相変わらず、なまえは湖のそばに座り込んでいるままですが、怪我もなさそうなので、それも伝えてやれば彼らも安心するでしょう。
呼び出してすぐに、ペンギンが応答しました。
ローが、なまえが見つかったことを伝えると、子電伝虫の向こうで、ホッと息を吐いたペンギンの声が返ってきました。
「お前から全員に、撤退して船に戻るように指示を出しておけ。」
≪分かりました。キャプテンもなまえを連れて帰ってくるんすよね?≫
「いや、近くに小屋があったから、今夜はそこで雨を凌ぐ。」
ローはそう言いながら、空を見上げました。
雨雲は切れることなく視界のすべてを覆い尽くし、空をどんよりとさせていました。
今は小雨程度ですが、すぐにでも土砂降りになってもおかしくはなさそうです。
崖を降りる少し前に、小屋も見つけていたので、そこでなら雨風を凌ぐことくらいは出来ます。
ですから、ローは、今から港へ向かって土砂降りに降られるよりは、小屋で雨が弱まるのを待つ方が賢明だと判断したのです。
≪幾ら小屋があったからって、森の夜は冷えますよ。
俺達が、雨具持って行くんで、場所を教えてくださいよ。≫
「必要ねぇ。とにかく、俺となまえは、明日、雨が止んでから帰る。」
≪それは危険じゃ——。≫
「他の奴らにもそう言っとけ。」
≪待ってくださ——。≫
ペンギンはまだ何か言っていましたが、ローは強引に子電伝虫を切りました。
子電伝虫をコートのポケットに入れようとして、自分の方を見上げているなまえと視線が絡みました。
「私とローは、船に帰らないですか?」
「もうすぐ雨になる。近くの小屋で雨宿りだ。」
ローは、空を指さして教えてやりました。
なまえの視線が、ローを通り越してもっと上に向かいます。
そして、どんよりとした黒い空を見つけて納得したようでした。
「ほら、立て。この崖の上に小屋がある。」
ローがなまえに手を差し伸べました。
ですが、いつもならその手を掴んでくれるなまえが首を横に振りました。
訝し気に眉を顰めたローに、なまえが言います。
「熊に服を渡したときに、その崖から落ちてしまいました——。」
なまえは、熊と格闘したときの詳細を説明し始めます。
それによると、手や足を噛んで放さない熊から逃れるために服を脱いだ後、服を持って逃げようとした熊に突き落とさられるかたちで崖から転がり落ちてしまったそうです。
そのとき、頭を打ったなまえはしばらくの間、意識をなくしていたらしく、目が覚めた時には湖の中に入っていた両足が動かなくなっていたということでした。
「——なので、私は立てません。ここから動けません。」
「それで、ずっと座ってたのか。」
なまえなら下着姿になっても平気で森の中を歩き回っていそうなのに、湖のそばで隠れるように座り込んでいたから、ローも不思議には思っていたのです。
漸く、その理由に納得しました。
「ほら、俺が運んでやるから。手を掴め。」
ローは、もう一度、なまえに手を差し伸べました。
立ち上がれないなまえは、不思議そうに首を傾げながらもローの手を握ります。
なまえが自分の手を握ると、ローはその手をひっぱり上げました。
そして、軽々と浮いた華奢な身体を横向きにして抱き上げます。
所謂、〝お姫様抱っこ〟でした。
下着姿で男にお姫様抱っこをされるなんて、女の子達が頬を染めそうなシチュエーションでも、なまえは無表情でした。
ですが——。
「すごいです。これなら歩けます。」
「歩くのは俺だろーが。」
呆れた様にローが言えば、なまえから「はい、そうでした。」ととぼけた答えた返ってくるから、思わず苦笑が漏れます。
ですが、これがなまえらしくていいのだと、そう思う程度には、彼女のことを理解しているつもりでもいました。
「ロー、見つけてくれて、ありがとうございました。」
なまえが、ローの方を向いて言いました。
横抱きになっている彼女が顔を向けると、唇が触れ合いそうなほどに近くなりました。
それでも、なまえの表情は変わらないままです。
きっと、何とも思っていないのでしょう。
仕方がありません。
本人も言っていた通り、ロボットに心という臓器はないのです。
「どういたしまして。」
言葉とは裏腹に、ローはなまえに軽く頭突きをしました。
コン、と小さな音が鳴って、なまえが不思議そうに視線だけを上に向けます。
きっと、どうして頭突きをされたのかを考えているのでしょう。
頭突きというもの自体も知らないのかもしれません。
ほら、やっぱり——。
「どうして頭をゴンとしましたか?」
答えが見つからなかったらしく、なまえがローに訊ねました。
「イラッとした。」
「また自分にですか?」
「いや。今度こそお前に。」
「そうですか。それは、すみませんでした。」
なまえが無表情で謝りました。
だから、ローはまた、軽く頭突きしました。
不思議そうに首を傾げたなまえに、ローはクスリと笑いました。