◇No.34◇森の中の探しものは難しいです
Name change
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
続々と森の中にハートの海賊団の船員達が集まる中、一番最初に森に辿り着いていたのは、高級マンションを飛び出したローでした。
こんなに全速力で走ったのは久しぶりで、流石に息が切れていましたが、それでも必死に目を凝らしてなまえの姿を探し、森を彷徨っていました。
木々が生い茂る森の中から探しものを見つけ出すのは、とても難しいことです。
それが、動き回る探しものなら尚更でしょう。
でも、だからといって、諦めてもいいものではありません。
だって、ローやペンギン達が血眼になっているのは、機械ではなく大切な仲間なのです。
それに、少し前から小雨が降り始めていました。
これが土砂降りになってしまうのも、恐らく時間の問題でしょう。
多少の雨に降られるくらいなら問題ないでしょうが、ずぶ濡れになってしまったら、彼女はもう二度と動けなくなるかもしれません。
事態は一刻を争うということです。
ローが、森の奥を彷徨っているときでした。10数メートル先に人影を見つけました。
一瞬、なまえかと思ったローでしたが、すぐに違うことに気がつきました。
生い茂る木や草に隠れてハッキリは見えませんが、軍服のようなものを着ています。
横顔がなんとなく見える程度でしたが、どうやら、男のようでした。
男は崖のすぐそばに立っていて、崖下を見下ろしています。
「おい!」
ローは少し大きめの声で呼びかけました。
すると、崖下に降りようとしていたその男が、ローの方を向きました。
一瞬だけ、驚いたように目を見開いた男と目が合った気がしましたが、すぐにローに背を向け、森の奥へと走り出しました。
彼が誰なのかは分かりませんが、怪しいのは確実です。
「待て!!」
ローは、男を追いかけました。
ですが、雨でぬかるんだ土や、数分前までの全速力疾走での疲れが重なり、思うように足が動かないローとは対照的に、まるでアスファルトの上を走るように全速力で駆ける男の足は速く、追いつけそうにありません。
結局、あっという間に男の背中は森の奥へと消えてしまいました。
「チッ。」
舌打ちをしたローは、男が崖下を覗いていたことを思い出しました。
何かを知っているかもしれない男を見失った今、確かめることが出来るのは、その崖下くらいしかありませんでした。
走った獣道を数メートル戻ったローは、さっき、男が立っていた場所にやってきました。
そして、崖下を覗きました。
10メートル程の急な崖でした。
そのさらに下には、茶色く濁った湖のようなものがあります。
そこに、湖の縁から少し離れたところで脚を前に伸ばして座る華奢な背中を見つけました。
その背中はなまえのものに違いありませんでしたが、なぜか、カルラからもらった白いセーターも柘榴色のロングスカートも身につけておらず、下着姿です。
さっきの男が、どうして崖を降りようとしたのか——。
理由が分かった気がして、怒りが湧いてきました。
「なまえ!!」
ローは名前を叫びました。
すぐになまえが気づいて後ろを振り向きます。
遠くてよく分からないはずなのに、ローには、彼女が凄く安心したような顔をしたように見えました。
いいえ、もしかしたら、なまえを見つけることが出来てホッとしたのはローの方だったかもしれません。
ローは、急な崖をほとんどノンストップで駆け下りました。
「ロー、ごめんなさい。まだベポは見つかってません。」
駆け寄るローに、なまえは座ったままで後ろを向いて謝りました。
下着からのぞく胸元に落ちた雨粒が、歪なハートのタトゥーを濡らしていました。
「それはあの女の嘘だ。」
「嘘ですか?」
「ベポは森には来てねぇし、迷子にもなってねぇ。
ちゃんと船に戻って来てる。」
すぐ横に立って漸く、下着姿のなまえの白い肌がハッキリと見えました。
どこにも怪我をしている様子はありません。
もしかすると、怪我のようなものはしたのかもしれませんが、今のところは自らの治癒力で治すことが出来ているようです。
「そうですか。ベポが無事ならよかったです。」
なまえが言いました。
嘘を吐かれたことに対して、怒りや悲しみが湧かないところは、彼女が優しい人間なわけではなく、ロボットだからだという証拠なのでしょう。
それでも、ベポが無事でよかった、という言葉が自然と出てくるところは、彼女が持つ優しさのような気がするのです。
決して、機械でプログラムされたものなのではなく——。
「それで、お前はどうして裸になってんだ。
——誰かに何かされたのか?」
ローの声は、無意識に低くなっていました。
「はい。」
「あ!?誰にやられた!?」
ローは、地面に膝をつくと、なまえの両肩を掴んで声を荒げました。
さっきの軍服のような格好をしていた男の姿が蘇ります。
あの男は崖上からなまえを見つけたようでしたから、その前に他の男に——。
そう思うと、腸が煮えくり返りそうでした。
「熊です。」
「…は?」
「ベポの行方を知っているかと思って話しかけたのですが、言葉が通じず、
彼が私の腕や脚を噛んだ時に、服の繊維が引っかかってしまったので、
おとなしくしてほしいとお願いしたのですが、暴れるばかりだったので、服を破って脱ぎました。」
「あぁ…、それで…。
熊と言葉が通じるわけがねぇだろ。」
「私は熊同盟なのにですか?」
あぁ、それで熊と喋れると思ったのか——。
いろいろとツッコみどころはあったローでしたが、とりあえず、下着姿になってしまっている理由が、男に乱暴をされたわけではないと分かって、安心しました。
「同盟を組もうが、動物とは言葉は通じねぇ。」
「そうみたいです。」
「はぁ…、まったく、心配かけさせやがって。」
「安心してください。ローからもらったコートは、森で汚れてしまわないように、
ローの深いお友達が預かってくれました。無事です。」
なまえが言いました。
その表情はいつもの無表情でした。
ベポが迷子だというのはガリーナの嘘だと聞いたはずなのに、それが、ガリーナを疑うということには繋がらなかったようです。
きっと、天才博士というのは、なまえの思考を司る電子回路を作るときに、人を疑うということをプログラムしなかったのでしょう。
それは、自分に都合のいいように支配できるように、という意思が働いたのかもしれません。
きっと、そうなんだろう、とローは思っていました。
それでも、ガリーナのことを純粋にコートを預かってくれただけだと信じている彼女が、ローにはとても健気に見えたのです。
騙されていることにすら気づけない彼女が可哀想で、悲しくて、でも、愛おしくて——。
ローの心は、身体よりも先に動きました。
そして、気づいたら、なまえを抱きしめていました。
腕の中にすっぽりとおさまる華奢ななまえの身体は、白い肌を冬島の凍えるような冷気に晒されていたはずなのにとても温かくて、なぜかローを酷く悔しくさせます。
だって、ガリーナはなまえをこんな目に合わせたのに、まるでそのすべてがなかったことにされてしまったようで——。
「ロー?どうしましたか?」
「呆れてる。」
「そうですか、すみませんでした。」
「お前にじゃねぇ。」
「私じゃありませんか?誰にですか?」
「俺に。」
ローの腕の中で、なまえが首を傾げました。
どういう意味かと訊ねる彼女に、ローは初めて答えを教えてやることはしませんでした。
仕方がありません。
ロー本人も、今はまだ、ただ漠然と、気持ちの変化に気づき始めたばかりでしたから——。
こんなに全速力で走ったのは久しぶりで、流石に息が切れていましたが、それでも必死に目を凝らしてなまえの姿を探し、森を彷徨っていました。
木々が生い茂る森の中から探しものを見つけ出すのは、とても難しいことです。
それが、動き回る探しものなら尚更でしょう。
でも、だからといって、諦めてもいいものではありません。
だって、ローやペンギン達が血眼になっているのは、機械ではなく大切な仲間なのです。
それに、少し前から小雨が降り始めていました。
これが土砂降りになってしまうのも、恐らく時間の問題でしょう。
多少の雨に降られるくらいなら問題ないでしょうが、ずぶ濡れになってしまったら、彼女はもう二度と動けなくなるかもしれません。
事態は一刻を争うということです。
ローが、森の奥を彷徨っているときでした。10数メートル先に人影を見つけました。
一瞬、なまえかと思ったローでしたが、すぐに違うことに気がつきました。
生い茂る木や草に隠れてハッキリは見えませんが、軍服のようなものを着ています。
横顔がなんとなく見える程度でしたが、どうやら、男のようでした。
男は崖のすぐそばに立っていて、崖下を見下ろしています。
「おい!」
ローは少し大きめの声で呼びかけました。
すると、崖下に降りようとしていたその男が、ローの方を向きました。
一瞬だけ、驚いたように目を見開いた男と目が合った気がしましたが、すぐにローに背を向け、森の奥へと走り出しました。
彼が誰なのかは分かりませんが、怪しいのは確実です。
「待て!!」
ローは、男を追いかけました。
ですが、雨でぬかるんだ土や、数分前までの全速力疾走での疲れが重なり、思うように足が動かないローとは対照的に、まるでアスファルトの上を走るように全速力で駆ける男の足は速く、追いつけそうにありません。
結局、あっという間に男の背中は森の奥へと消えてしまいました。
「チッ。」
舌打ちをしたローは、男が崖下を覗いていたことを思い出しました。
何かを知っているかもしれない男を見失った今、確かめることが出来るのは、その崖下くらいしかありませんでした。
走った獣道を数メートル戻ったローは、さっき、男が立っていた場所にやってきました。
そして、崖下を覗きました。
10メートル程の急な崖でした。
そのさらに下には、茶色く濁った湖のようなものがあります。
そこに、湖の縁から少し離れたところで脚を前に伸ばして座る華奢な背中を見つけました。
その背中はなまえのものに違いありませんでしたが、なぜか、カルラからもらった白いセーターも柘榴色のロングスカートも身につけておらず、下着姿です。
さっきの男が、どうして崖を降りようとしたのか——。
理由が分かった気がして、怒りが湧いてきました。
「なまえ!!」
ローは名前を叫びました。
すぐになまえが気づいて後ろを振り向きます。
遠くてよく分からないはずなのに、ローには、彼女が凄く安心したような顔をしたように見えました。
いいえ、もしかしたら、なまえを見つけることが出来てホッとしたのはローの方だったかもしれません。
ローは、急な崖をほとんどノンストップで駆け下りました。
「ロー、ごめんなさい。まだベポは見つかってません。」
駆け寄るローに、なまえは座ったままで後ろを向いて謝りました。
下着からのぞく胸元に落ちた雨粒が、歪なハートのタトゥーを濡らしていました。
「それはあの女の嘘だ。」
「嘘ですか?」
「ベポは森には来てねぇし、迷子にもなってねぇ。
ちゃんと船に戻って来てる。」
すぐ横に立って漸く、下着姿のなまえの白い肌がハッキリと見えました。
どこにも怪我をしている様子はありません。
もしかすると、怪我のようなものはしたのかもしれませんが、今のところは自らの治癒力で治すことが出来ているようです。
「そうですか。ベポが無事ならよかったです。」
なまえが言いました。
嘘を吐かれたことに対して、怒りや悲しみが湧かないところは、彼女が優しい人間なわけではなく、ロボットだからだという証拠なのでしょう。
それでも、ベポが無事でよかった、という言葉が自然と出てくるところは、彼女が持つ優しさのような気がするのです。
決して、機械でプログラムされたものなのではなく——。
「それで、お前はどうして裸になってんだ。
——誰かに何かされたのか?」
ローの声は、無意識に低くなっていました。
「はい。」
「あ!?誰にやられた!?」
ローは、地面に膝をつくと、なまえの両肩を掴んで声を荒げました。
さっきの軍服のような格好をしていた男の姿が蘇ります。
あの男は崖上からなまえを見つけたようでしたから、その前に他の男に——。
そう思うと、腸が煮えくり返りそうでした。
「熊です。」
「…は?」
「ベポの行方を知っているかと思って話しかけたのですが、言葉が通じず、
彼が私の腕や脚を噛んだ時に、服の繊維が引っかかってしまったので、
おとなしくしてほしいとお願いしたのですが、暴れるばかりだったので、服を破って脱ぎました。」
「あぁ…、それで…。
熊と言葉が通じるわけがねぇだろ。」
「私は熊同盟なのにですか?」
あぁ、それで熊と喋れると思ったのか——。
いろいろとツッコみどころはあったローでしたが、とりあえず、下着姿になってしまっている理由が、男に乱暴をされたわけではないと分かって、安心しました。
「同盟を組もうが、動物とは言葉は通じねぇ。」
「そうみたいです。」
「はぁ…、まったく、心配かけさせやがって。」
「安心してください。ローからもらったコートは、森で汚れてしまわないように、
ローの深いお友達が預かってくれました。無事です。」
なまえが言いました。
その表情はいつもの無表情でした。
ベポが迷子だというのはガリーナの嘘だと聞いたはずなのに、それが、ガリーナを疑うということには繋がらなかったようです。
きっと、天才博士というのは、なまえの思考を司る電子回路を作るときに、人を疑うということをプログラムしなかったのでしょう。
それは、自分に都合のいいように支配できるように、という意思が働いたのかもしれません。
きっと、そうなんだろう、とローは思っていました。
それでも、ガリーナのことを純粋にコートを預かってくれただけだと信じている彼女が、ローにはとても健気に見えたのです。
騙されていることにすら気づけない彼女が可哀想で、悲しくて、でも、愛おしくて——。
ローの心は、身体よりも先に動きました。
そして、気づいたら、なまえを抱きしめていました。
腕の中にすっぽりとおさまる華奢ななまえの身体は、白い肌を冬島の凍えるような冷気に晒されていたはずなのにとても温かくて、なぜかローを酷く悔しくさせます。
だって、ガリーナはなまえをこんな目に合わせたのに、まるでそのすべてがなかったことにされてしまったようで——。
「ロー?どうしましたか?」
「呆れてる。」
「そうですか、すみませんでした。」
「お前にじゃねぇ。」
「私じゃありませんか?誰にですか?」
「俺に。」
ローの腕の中で、なまえが首を傾げました。
どういう意味かと訊ねる彼女に、ローは初めて答えを教えてやることはしませんでした。
仕方がありません。
ロー本人も、今はまだ、ただ漠然と、気持ちの変化に気づき始めたばかりでしたから——。