◇No.2◇愛を知りたい女です
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海王類に襲われたときに船底に傷が入った船は、沈没する前に浅瀬に乗り上げて止まりました。
船べりの上に乗って漂着してしまった島を眺める彼女を、太陽の光がキラリキラリと照らします。
美しい造形とは何かと問われれば、彼女のことを例に出すと良いでしょう。
美しい輪郭の中には、黒目がちの大きな瞳と長い睫毛、筋の通った小さな鼻、柔らかそうな唇が、とても丁寧に並べられています。
ふっくらと膨らんだ胸と細い腰、スラリと伸びた両手足で背筋を伸ばし立つその姿は、まるで超有名彫刻家が自信を持って世に出した作品のようです。
島に降りることを決めた彼女が船べりから飛び降りると、身体は胸上のあたりまで海水に浸かってしまいました。
ですが、彼女がそれを気にするような様子はありません。
海水をかき分けるように前へ進み、漸く地上に辿り着いた頃には、踝まである白のロングワンピースは、海水を吸い込んでかなり重たくなった状態で、華奢な身体に張り付いていました。
下着を全く身につけていないボディラインが露になり、彼女の生まれたままの姿をそのまま晒しています。
砂浜の上で一度立ち止まった彼女は、自らの身体を見下ろしました。
ですが、特に気にするような素振りもなく、びしょ濡れのまま迷うこくなく、真っすぐに歩き出します。
そこには、迷いや戸惑いの欠片もありません。
砂浜を越えた先の狭い路地を抜けると、賑やかな街に出ました。
びしょ濡れのワンピース姿で、ほとんど裸を晒したまま歩いている彼女の姿は、島の住人達の訝し気な視線を集めていました。
ヒソヒソと囁くような声もあちこちから聞こえ出しましたが、それでもやはり、彼女は気にするような様子はありません。
目的地があるのか、はたまた何も考えていないだけなのか、彼女はただただ真っすぐに前へ前へと歩みを進めるばかりです。
街の中央までやってきた頃、若い2人組の男が嫌な笑い声を上げながら近づいてきました。
「ねぇ、お姉さん。海で泳いできたの?」
「いくらここが夏島でもさすがに寒いっしょ。俺達が温めてあげようか?」
彼女の左右を挟むように立った男達が、ゲラゲラと笑いました。
下品な下心をそのまま表したような表情が見えなくとも、男達が彼女に声をかけた理由なら、誰にでも容易に想像がつきます。
ですが、気づいているのかいないのか、無理やり立ち止まらせられた彼女の表情はチラリとも変わりません。
「寒くはありません。」
「なら、暑かったから、泳いできたの?
俺達も一緒に海で泳がせてよ!」
「暑くもありません。」
「まぁ、いいからさ!俺達と一緒に楽しいことしようぜ!」
「楽しいこととは何ですか?」
「そりゃ、まぁ~…、愛し合っちゃうとか?」
「あなた達は、愛を知っているのですか?」
「知ってる、知ってる!すっげぇ気持ちいいから、一緒にしようぜ!」
1人が下品な笑みを浮かべたままで肩を組めば、もう1人が彼女の細い手首を掴んで引っ張ります。
その一部始終を見ていた島の住人達は、彼らが彼女をどこへ連れ去ろうとしているのか、見当がついていました。
その勘が外れないことも知っているのです。
でも、誰も彼女を助けようとしないどころか、さっきまでジロジロと見ていた島の住人達の視線は、まるで逃げるように明後日の方へ向いています。
そこに通りがかったのが、緑髪の極悪面の男でした。
左眼に縦一文字の傷を負っており、どう見ても堅気の人間ではありませんでしたが、髪色と同じ色をした着物風のロングコートを着た彼の足元には、大きな水色の帽子をかぶったタヌキのような可愛らしいペットがいて、とてもアンバランスでした。
「悪ぃが、お前ら。仲間が道に迷ったみてぇで、姿が見えねぇ。
仕方ねぇから、先に宿屋に戻りてぇんだが、どこにあるか知らねぇか?」
緑髪の男が声をかけると、若い男達は顔色を真っ青にして男の名前を叫んで逃げて行ってしまいました。
道を訊ねただけの緑髪の男は、面倒くさそうに舌打ちを漏らして逃げて行く背中を睨みつけていましたが、ペットのタヌキはホッとしたように胸に手を当てて息を吐きました。
「お前、大丈夫だったか?」
ペットのタヌキが、彼女を見上げて訊ねます。
そこで漸く、タヌキの存在に気づいたらしい彼女が、声の主を探すために下を向きました。
「はい、私は大丈夫です。少し、身体が軋みますが問題ありません。」
想定よりもだいぶ低い身長に合わせるため、彼女は膝を折り曲げてしゃがんでから、答えました。
彼女の返事を聞いて、ペットのタヌキが可愛らしい笑みをお返しします。
「なら、よかった!お前、嫌な時は嫌だって言わないとダメだぞ!」
「私は嫌だとはー。」
「おい、お前、宿屋の場所は知ってるか。」
緑髪の男が彼女に訊ねました。
どうやら、この緑髪の男は恐ろしいほどのマイペースに加え、空気を読むということが下手くそなようです。
しゃがんでいた身体を起こし、立ち上がった彼女ですが、もちろん、さっきこの島に漂着してしまっただけなので、宿屋の場所を知るはずもありません。
知らないと答えれば、緑髪の男は面倒くさそうに頭を掻きました。
「お前はどこに行こうとしてたんだ?」
可愛いタヌキが彼女に訊ねました。
彼女は少しだけ考えてから、答えます。
「愛を、探しに来ました。」
「愛?」
「はい。」
「愛が欲しいのか?」
「いいえ。愛を持ってはいけないと忠告を受けたのですが、
そもそも愛というものが何か分からなければ、持たないということも出来ないので、
愛を知らなければならないんです。」
「んー…、愛を持っちゃいけないってのはよく分かんねぇけど、
調べ物がしたいなら、本屋に行ったらいいんじゃないか?
この島は世界中の本が集まってるから、お前の知りたい愛の本もあるかもしれないぞ。」
可愛いタヌキからアドバイスを貰った彼女は、本屋で愛について調べてみることに決めました。
運よく、この道を真っすぐに進めば、アミューズメントパークさながらの世界で一番大きな本屋があると知り、早速、緑髪の男と可愛いタヌキに礼を言って、本屋へ向かいます。
「あ、そういえば、新しい服買った方がいいって言うの忘れてた。
あれじゃ風邪引いちまうよ。」
「風邪っつうかよ、アイツ、頭おかしいんじゃねぇのか?」
相変わらず、島の住人達の視線を集めるびしょ濡れの後ろ姿を見送りながら、可愛いタヌキと緑髪の男が声を漏らします。
この後、彼らが夕方まで迷子になった挙句、オレンジ色の髪の美女にこっぴどく叱られるのは、また別のお話です。
船べりの上に乗って漂着してしまった島を眺める彼女を、太陽の光がキラリキラリと照らします。
美しい造形とは何かと問われれば、彼女のことを例に出すと良いでしょう。
美しい輪郭の中には、黒目がちの大きな瞳と長い睫毛、筋の通った小さな鼻、柔らかそうな唇が、とても丁寧に並べられています。
ふっくらと膨らんだ胸と細い腰、スラリと伸びた両手足で背筋を伸ばし立つその姿は、まるで超有名彫刻家が自信を持って世に出した作品のようです。
島に降りることを決めた彼女が船べりから飛び降りると、身体は胸上のあたりまで海水に浸かってしまいました。
ですが、彼女がそれを気にするような様子はありません。
海水をかき分けるように前へ進み、漸く地上に辿り着いた頃には、踝まである白のロングワンピースは、海水を吸い込んでかなり重たくなった状態で、華奢な身体に張り付いていました。
下着を全く身につけていないボディラインが露になり、彼女の生まれたままの姿をそのまま晒しています。
砂浜の上で一度立ち止まった彼女は、自らの身体を見下ろしました。
ですが、特に気にするような素振りもなく、びしょ濡れのまま迷うこくなく、真っすぐに歩き出します。
そこには、迷いや戸惑いの欠片もありません。
砂浜を越えた先の狭い路地を抜けると、賑やかな街に出ました。
びしょ濡れのワンピース姿で、ほとんど裸を晒したまま歩いている彼女の姿は、島の住人達の訝し気な視線を集めていました。
ヒソヒソと囁くような声もあちこちから聞こえ出しましたが、それでもやはり、彼女は気にするような様子はありません。
目的地があるのか、はたまた何も考えていないだけなのか、彼女はただただ真っすぐに前へ前へと歩みを進めるばかりです。
街の中央までやってきた頃、若い2人組の男が嫌な笑い声を上げながら近づいてきました。
「ねぇ、お姉さん。海で泳いできたの?」
「いくらここが夏島でもさすがに寒いっしょ。俺達が温めてあげようか?」
彼女の左右を挟むように立った男達が、ゲラゲラと笑いました。
下品な下心をそのまま表したような表情が見えなくとも、男達が彼女に声をかけた理由なら、誰にでも容易に想像がつきます。
ですが、気づいているのかいないのか、無理やり立ち止まらせられた彼女の表情はチラリとも変わりません。
「寒くはありません。」
「なら、暑かったから、泳いできたの?
俺達も一緒に海で泳がせてよ!」
「暑くもありません。」
「まぁ、いいからさ!俺達と一緒に楽しいことしようぜ!」
「楽しいこととは何ですか?」
「そりゃ、まぁ~…、愛し合っちゃうとか?」
「あなた達は、愛を知っているのですか?」
「知ってる、知ってる!すっげぇ気持ちいいから、一緒にしようぜ!」
1人が下品な笑みを浮かべたままで肩を組めば、もう1人が彼女の細い手首を掴んで引っ張ります。
その一部始終を見ていた島の住人達は、彼らが彼女をどこへ連れ去ろうとしているのか、見当がついていました。
その勘が外れないことも知っているのです。
でも、誰も彼女を助けようとしないどころか、さっきまでジロジロと見ていた島の住人達の視線は、まるで逃げるように明後日の方へ向いています。
そこに通りがかったのが、緑髪の極悪面の男でした。
左眼に縦一文字の傷を負っており、どう見ても堅気の人間ではありませんでしたが、髪色と同じ色をした着物風のロングコートを着た彼の足元には、大きな水色の帽子をかぶったタヌキのような可愛らしいペットがいて、とてもアンバランスでした。
「悪ぃが、お前ら。仲間が道に迷ったみてぇで、姿が見えねぇ。
仕方ねぇから、先に宿屋に戻りてぇんだが、どこにあるか知らねぇか?」
緑髪の男が声をかけると、若い男達は顔色を真っ青にして男の名前を叫んで逃げて行ってしまいました。
道を訊ねただけの緑髪の男は、面倒くさそうに舌打ちを漏らして逃げて行く背中を睨みつけていましたが、ペットのタヌキはホッとしたように胸に手を当てて息を吐きました。
「お前、大丈夫だったか?」
ペットのタヌキが、彼女を見上げて訊ねます。
そこで漸く、タヌキの存在に気づいたらしい彼女が、声の主を探すために下を向きました。
「はい、私は大丈夫です。少し、身体が軋みますが問題ありません。」
想定よりもだいぶ低い身長に合わせるため、彼女は膝を折り曲げてしゃがんでから、答えました。
彼女の返事を聞いて、ペットのタヌキが可愛らしい笑みをお返しします。
「なら、よかった!お前、嫌な時は嫌だって言わないとダメだぞ!」
「私は嫌だとはー。」
「おい、お前、宿屋の場所は知ってるか。」
緑髪の男が彼女に訊ねました。
どうやら、この緑髪の男は恐ろしいほどのマイペースに加え、空気を読むということが下手くそなようです。
しゃがんでいた身体を起こし、立ち上がった彼女ですが、もちろん、さっきこの島に漂着してしまっただけなので、宿屋の場所を知るはずもありません。
知らないと答えれば、緑髪の男は面倒くさそうに頭を掻きました。
「お前はどこに行こうとしてたんだ?」
可愛いタヌキが彼女に訊ねました。
彼女は少しだけ考えてから、答えます。
「愛を、探しに来ました。」
「愛?」
「はい。」
「愛が欲しいのか?」
「いいえ。愛を持ってはいけないと忠告を受けたのですが、
そもそも愛というものが何か分からなければ、持たないということも出来ないので、
愛を知らなければならないんです。」
「んー…、愛を持っちゃいけないってのはよく分かんねぇけど、
調べ物がしたいなら、本屋に行ったらいいんじゃないか?
この島は世界中の本が集まってるから、お前の知りたい愛の本もあるかもしれないぞ。」
可愛いタヌキからアドバイスを貰った彼女は、本屋で愛について調べてみることに決めました。
運よく、この道を真っすぐに進めば、アミューズメントパークさながらの世界で一番大きな本屋があると知り、早速、緑髪の男と可愛いタヌキに礼を言って、本屋へ向かいます。
「あ、そういえば、新しい服買った方がいいって言うの忘れてた。
あれじゃ風邪引いちまうよ。」
「風邪っつうかよ、アイツ、頭おかしいんじゃねぇのか?」
相変わらず、島の住人達の視線を集めるびしょ濡れの後ろ姿を見送りながら、可愛いタヌキと緑髪の男が声を漏らします。
この後、彼らが夕方まで迷子になった挙句、オレンジ色の髪の美女にこっぴどく叱られるのは、また別のお話です。