上陸3日目にして、ハートの海賊団は漸く島の中心街に足を踏み入れることが出来ました。
巨大な山の頂上にある広大な敷地のすべてが、街になっていて、あっちを見ても、こっちを見ても、煌びやかな建物や着飾った人達で溢れています。
期待以上のセレブの街です。

「わぁ・・・・！！」

目をキラキラに輝かせる船員達から、感嘆の声が上がりました。

「まさに、天と地の差だな。」

ボソリ、と呟いたのはペンギンでした。
それは、このセレブ街と山のふもとにあった廃れた町のことを意味していました。
昨日、その廃れた町は、今度こそ本当に燃え尽きて消失してしましました。
きっと、昨晩は、暖房器具の整っていない空き家で寒さに震えて過ごしたのでしょう。
でも、このセレブ街の住人は、そんなこと知りもしないで、暖かい部屋で豪勢な食事に舌鼓を打っていたに違いありません。
楽しみにしていたセレブ街なのに、エレン達の生活を知ってしまったせいで、なんだかやるせない気持ちになってしまいます。

「お願いだ…！！せめて町の瓦礫が撤去されるまででいいんだ！！
　怪我人や、女、子供だけでも、この街に置いててくれよ！！」

不意に、騒がしい声が聞こえてきました。
聞き覚えのある声に思わず反応して、ロー達は騒ぎの方へ視線を向けます。
軍服の男に必死に頭を下げているのは、昨日、エレンを助けてくれと何度も懇願していたあの町の男でした。
確か、名前は、ハンネスと言ったはずです。
ハンネスが頭を下げている相手は、このセレブ街の治安を守っている役人のようでした。
同じような軍服を着ている男達が、セレブ街の至るところにいて、犯罪行為に睨みを利かせています。
海軍とはまた違う、このセレブ街の独自の役人を配置することで、大金が動き、海賊も遊びに来るこの街の平和を守っているということなのでしょう。
そんな役人とハンネスがなぜ言い争っているのか——。
それは、彼らの騒がしい声を聞いていれば、すぐに分かりました。

「ダメだ。こっちにも余った部屋なんかない。」
「せめて、怪我人だけでもいい…！！病院で診ててくれることくらい出来るだろう！？」
「ダメだと言ってるだろ。アイツラは今、病院側が退院の手続きをしている。」
「そんな…！！」

ハンネスがショックで、目を見開きました。
ですが、軍服の役人は、悲痛なその姿に全く心を痛めないようで、むしろ冷たく、蔑むように彼を見下ろすと、そのまま立ち去ってしまいました。
役人の背中を追いかける力もないのか、ハンネスは地面に膝をつき頭を抱えました。
そのすぐそばを、綺麗に着飾った貴婦人や金の腕時計を自慢気に見せびらかす紳士が、ご機嫌に歩き去っていきます。
まるで、彼らの視界には、ハンネスという男が存在していないようでした。

「おい。」

ローが声をかけたのは、ハートの海賊団の偵察班リーダーでした。
ハンネスの方を向いていた彼が、ローに視線を向けます。

「—————。」

ローは、コートのポケットからメモのようなものを取り出すと、それを彼に渡しながら耳元で何かを指示しました。
メモを受け取り、黙って指示を聞いていた彼は、立ち去っていった軍服の男を横目でチラリと見てから、静かに頷きました。