◇No.26◇海賊達は火の海を泳ぎます
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翌日の島の天気は、カルラの言っていた通り、だいぶ暖かくなり、お遊び日和でした。
それでも、冬島は冬島です。
コートを着込んだハートの海賊団の船員達が、寒い寒いと身体を擦りながらポーラータング号から降りてきました。
昨日よりは過ごしやすくなった気温のおかげもあってか、彼らの声も明るく、飛び跳ねているようです。
カジノでの必勝計画も立てましたし、後は散財するだけです。
なまえと一緒にポーラータング号から降りながら、ベポが訊ねました。
「ねぇ、なまえ。なまえはカジノ必勝の道具とか身体に仕込んでないの?」
「イカサマはいけません。」
なまえがピシャリと答えます。
それでも、諦めきれないベポとシャチが、何かないのかと喚いていると、ローがなまえの首根っこを掴みました。
「お前はカジノじゃねぇ。俺と買い物だ。」
ローに後ろに引っ張られて、なまえはローの胸元に頭をぶつけました。
首を曲げて上を向いて、なまえは自分を見下ろすローに訊ねました。
「ローは私と買い物に行きますか?本屋ですか?」
「新しい服を買ってやる約束だっただろ。」
「そうでした。」
なまえが納得して頷きました。
そして、ベポにカジノには行けなくなったと断ろうとしたときでした。
見覚えのある子供が、港にやって来ました。
息を切らして走って来た金髪の少年は、アルミンでした。
「助けて…!!」
ローというよりも、なまえの目の前に走り込んできて、アルミンが、叫びました。
「助けてって、急になんだよ。」
シャチが面倒くさそうに眉を顰めました。
他の船員達も、今からカジノで楽しむつもりだったのに、と出鼻をくじかれて不満そうに顔を歪めました。
ですが、昨日はあれほど、彼らに怯えていたアルミンが、必死に訴え続けます。
「僕の…っ、僕達の町を…っ、助けて…っ!!」
アルミンが悲痛な表情で叫びました。
異常な事態が起きたことは、彼の表情を見れば明らかでした。
「何かあったのか?」
ベポが首を傾げました。
とりあえず、話を聞いてくれる——。
そう判断したアルミンは、一気にまくしたてるように話し始めました。
「ミカサの親を殺した海賊団が来たんだ…!それで、エレンが怒って捕まえようとしたら…っ。
アイツ等、ガソリンを持ってて…っ、町中にばら撒いて…っ、火をつけて…っ。
まだ家に残ってて逃げられない人もいるんだ…っ。」
アルミンが息継ぎもしないで捲し立てた異常事態は、想像以上に悲惨なものでした。
カジノに心を踊らせていた海賊達も、さすがに眉を顰めました。
ですが——。
「で?どうして俺達が、お前達の村を助けねぇといけないんだ?」
ペンギンが訊ねました。
とても冷たい言い方ですが、これが、正直な海賊達の気持ちです。
どうしたのだろうか、と心配しないわけではないのですが、それよりも、カジノへの好奇心が勝ってしまうのが正直なところです。
それに、自由をこよなく愛し、自分達の娯楽を何よりも大切にする海賊達には、彼や彼の故郷を助けてやる義理はありません。
「それは…っ。だって、皆さん、昨日、カルラさんと仲良くしてたし…っ。」
「へぇ、昨日、カルラに飯食わせてもらったから、
俺達、命懸けて炎の中に飛び込んで、他人を助けなきゃいけねぇんだ?」
シャチが腕を組み、アルミンを見下ろします。
「それは…、」
アルミンの声が小さくなりました。
命を懸ける理由は、人それぞれでしょう。
でも、アルミンでも、海賊であるロー達が、命を懸けて自分の故郷を助ける理由がないことくらい分かります。
それでも、最後の望みをかけて、港まで走ったのです。
もしかしたら、幾多の死線を越えて来たであろう彼らなら、今にも死にいこうとしている町の人達を助けられるんじゃないか、と——。
無駄足になる可能性が高いことくらい、分かっていました。
でも、ほんの僅かな望みに、賭けたのです。
アルミンは、グッと拳を握り、ロー達を見上げます。
彼はまだ、諦めていませんでした。
ローが、アルミンを見下ろし、ギロリと睨みつけます。
アルミンは自分の身体が震えているのか、地面が揺れているのか分からないほどに、ガタガタと震えていました。
両脚はもう、立っているのもやっとです。
アルミンを襲っているのは、凶悪な海賊に殺気立った目で睨まれている恐怖だけではありません。
大切な故郷を、町の人達を、失ってしまうかもしれないという恐怖が、アルミンを震え上がらせ、そして、海賊の前に走ってくる勇気と強さを持たせたのです。
だから、どんなに身体が震えようが、脚が震えて立っているのもやっとだろうが、諦めるわけにはいかないのです。
「お願いです…!僕達の、大切な町なんだ…!
たったひとつしかない、故郷なんだ…!帰る、場所なんだ…!!」
アルミンが叫びました。
必死に訴えました。
それでも、海賊達は冷たい目で彼を見下ろすだけです。
「お願い…します…。」
アルミンの声は、徐々に弱々しくなっていきました。
「助けて…。帰る場所が…、なくなっちゃう…。」
アルミンが目を伏せると、ポタポタと涙が落ちて、アスファルトに黒い跡をを幾つもつけていきます。
「泣かないでください。」
なまえが、身体を屈めてアルミンに視線を合わせると、震える小さな両手を、白く綺麗な手で力強く包み込みました。
驚いたアルミンが顔を上げると、なまえの真っすぐな瞳と視線が絡みました。
「帰る場所は、とても大切です。なくなってはいけません。
すぐに守りに行きましょう。」
なまえが言いました。
アルミンは、自分が何と答えたのかを覚えていません。
ただ、まだ町が助かると決まったわけではないのに、真っすぐに自分を見つめるなまえの瞳に、ひどく安心して力が抜けました。
ハートの海賊団の船員達から上がった大ブーイングも聞こえないくらいに、なぜか、確信したのです。
これで、自分の村は助かる——と。
それでも、冬島は冬島です。
コートを着込んだハートの海賊団の船員達が、寒い寒いと身体を擦りながらポーラータング号から降りてきました。
昨日よりは過ごしやすくなった気温のおかげもあってか、彼らの声も明るく、飛び跳ねているようです。
カジノでの必勝計画も立てましたし、後は散財するだけです。
なまえと一緒にポーラータング号から降りながら、ベポが訊ねました。
「ねぇ、なまえ。なまえはカジノ必勝の道具とか身体に仕込んでないの?」
「イカサマはいけません。」
なまえがピシャリと答えます。
それでも、諦めきれないベポとシャチが、何かないのかと喚いていると、ローがなまえの首根っこを掴みました。
「お前はカジノじゃねぇ。俺と買い物だ。」
ローに後ろに引っ張られて、なまえはローの胸元に頭をぶつけました。
首を曲げて上を向いて、なまえは自分を見下ろすローに訊ねました。
「ローは私と買い物に行きますか?本屋ですか?」
「新しい服を買ってやる約束だっただろ。」
「そうでした。」
なまえが納得して頷きました。
そして、ベポにカジノには行けなくなったと断ろうとしたときでした。
見覚えのある子供が、港にやって来ました。
息を切らして走って来た金髪の少年は、アルミンでした。
「助けて…!!」
ローというよりも、なまえの目の前に走り込んできて、アルミンが、叫びました。
「助けてって、急になんだよ。」
シャチが面倒くさそうに眉を顰めました。
他の船員達も、今からカジノで楽しむつもりだったのに、と出鼻をくじかれて不満そうに顔を歪めました。
ですが、昨日はあれほど、彼らに怯えていたアルミンが、必死に訴え続けます。
「僕の…っ、僕達の町を…っ、助けて…っ!!」
アルミンが悲痛な表情で叫びました。
異常な事態が起きたことは、彼の表情を見れば明らかでした。
「何かあったのか?」
ベポが首を傾げました。
とりあえず、話を聞いてくれる——。
そう判断したアルミンは、一気にまくしたてるように話し始めました。
「ミカサの親を殺した海賊団が来たんだ…!それで、エレンが怒って捕まえようとしたら…っ。
アイツ等、ガソリンを持ってて…っ、町中にばら撒いて…っ、火をつけて…っ。
まだ家に残ってて逃げられない人もいるんだ…っ。」
アルミンが息継ぎもしないで捲し立てた異常事態は、想像以上に悲惨なものでした。
カジノに心を踊らせていた海賊達も、さすがに眉を顰めました。
ですが——。
「で?どうして俺達が、お前達の村を助けねぇといけないんだ?」
ペンギンが訊ねました。
とても冷たい言い方ですが、これが、正直な海賊達の気持ちです。
どうしたのだろうか、と心配しないわけではないのですが、それよりも、カジノへの好奇心が勝ってしまうのが正直なところです。
それに、自由をこよなく愛し、自分達の娯楽を何よりも大切にする海賊達には、彼や彼の故郷を助けてやる義理はありません。
「それは…っ。だって、皆さん、昨日、カルラさんと仲良くしてたし…っ。」
「へぇ、昨日、カルラに飯食わせてもらったから、
俺達、命懸けて炎の中に飛び込んで、他人を助けなきゃいけねぇんだ?」
シャチが腕を組み、アルミンを見下ろします。
「それは…、」
アルミンの声が小さくなりました。
命を懸ける理由は、人それぞれでしょう。
でも、アルミンでも、海賊であるロー達が、命を懸けて自分の故郷を助ける理由がないことくらい分かります。
それでも、最後の望みをかけて、港まで走ったのです。
もしかしたら、幾多の死線を越えて来たであろう彼らなら、今にも死にいこうとしている町の人達を助けられるんじゃないか、と——。
無駄足になる可能性が高いことくらい、分かっていました。
でも、ほんの僅かな望みに、賭けたのです。
アルミンは、グッと拳を握り、ロー達を見上げます。
彼はまだ、諦めていませんでした。
ローが、アルミンを見下ろし、ギロリと睨みつけます。
アルミンは自分の身体が震えているのか、地面が揺れているのか分からないほどに、ガタガタと震えていました。
両脚はもう、立っているのもやっとです。
アルミンを襲っているのは、凶悪な海賊に殺気立った目で睨まれている恐怖だけではありません。
大切な故郷を、町の人達を、失ってしまうかもしれないという恐怖が、アルミンを震え上がらせ、そして、海賊の前に走ってくる勇気と強さを持たせたのです。
だから、どんなに身体が震えようが、脚が震えて立っているのもやっとだろうが、諦めるわけにはいかないのです。
「お願いです…!僕達の、大切な町なんだ…!
たったひとつしかない、故郷なんだ…!帰る、場所なんだ…!!」
アルミンが叫びました。
必死に訴えました。
それでも、海賊達は冷たい目で彼を見下ろすだけです。
「お願い…します…。」
アルミンの声は、徐々に弱々しくなっていきました。
「助けて…。帰る場所が…、なくなっちゃう…。」
アルミンが目を伏せると、ポタポタと涙が落ちて、アスファルトに黒い跡をを幾つもつけていきます。
「泣かないでください。」
なまえが、身体を屈めてアルミンに視線を合わせると、震える小さな両手を、白く綺麗な手で力強く包み込みました。
驚いたアルミンが顔を上げると、なまえの真っすぐな瞳と視線が絡みました。
「帰る場所は、とても大切です。なくなってはいけません。
すぐに守りに行きましょう。」
なまえが言いました。
アルミンは、自分が何と答えたのかを覚えていません。
ただ、まだ町が助かると決まったわけではないのに、真っすぐに自分を見つめるなまえの瞳に、ひどく安心して力が抜けました。
ハートの海賊団の船員達から上がった大ブーイングも聞こえないくらいに、なぜか、確信したのです。
これで、自分の村は助かる——と。