◇No.25◇海賊は悪者ですか
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リビングは、美味しそうな匂いに包まれていました。
テーブルには、おさまりきらないほどの料理が並びます。
ですが、カルラとなまえが休みなく料理を運んでも、決して上品とは言えない食事マナーの海賊達が、あっという間に平らげてしまいます。
窓の外はもう真っ暗になっていましたが、エレンは帰ってきていません。
今日は、ミカサと一緒にアルミンの家に泊るのだそうです。
『海賊と一緒に飯なんか食えるかよ!!』
少し前にかかって来た電伝虫で、アルミンの家に泊ると話すミカサの向こうで、エレンが怒鳴っている声が聞こえました。
エレンにとって、大切な友人の仇は、アッカーマン夫妻を殺した海賊なのではなくて、海賊の存在そのものなのでしょう。
カルラは、ロー達に失礼なことをしてしまったとしきりに謝っていましたが、元々海賊とは嫌われものです。
アッカーマン夫妻を殺した海賊と同類だと思われるのは、ロー達もいい気分ではありませんが、だからと言って、自分達のことを聖人君主だとも思っていません。
石を投げられるような態度は、慣れています。
そして、その相手が子供なら尚更です。
エレンのことは、周りを飛び回る蚊の方が煩わしいと感じるくらいに、気にもしていませんでした。
「まだ夕方なのに、もう外が真っ暗じゃねぇーか。
せっかく、セレブの島のカジノで豪遊しようと思ってたのに
凍死しそうなくらい寒いしよ~。」
シャチが、窓の外を見て文句を言いながら、肉を頬張ります。
それに、他の船員達も同意でした。
夕飯を食べてからカジノや娼館に遊びに行こうとしている船員達でしたが、外に出るのが怖いと大袈裟に肩を震わせて騒ぎます。
「今日は、数十年に一度の大寒波だったんですよ。」
唐揚げがたっぷり持ってあるお皿をテーブルに起きながら、カルラが言いました。
「そうなのか?!」
「えぇ。明日はもう少し暖かくなるはずですから
遊びに行くのは、明日以降がいいですよ。」
早速、唐揚げを持った皿に伸びてきた大量の手をクスリと笑いながら、カルラが言いました。
それなら、今日は一旦、ポーラータング号に戻って、明日の朝から遊ぼうと、ハートの海賊団の船員達は、楽しそうに計画を立て始めます。
美味しい料理をすべて平らげ、船員達の腹もいっぱいになった頃、キッチンで忙しくしていたなまえが漸くリビングに戻ってきました。
そして、またベポに誘われて、ソファに腰を降ろします。
当然のように、ローが少し横にずれて、自分とベポの間に、なまえが入れる隙間を開けたのを見たシャチが、小さくプッと吹き出しました。
お腹がいっぱいのローが気づかなかったのは、彼にとって幸運でした。
笑われたと知ったら、この数十年に一度らしい大寒波の中、裸で外に放り出されていたかもしれません。
食後の紅茶を配ったカルラが、自分の分のティーカップを持って、あいているソファに座りました。
「エレン達は幼馴染なのか?」
ふわふわのカーペットの上でゴロゴロしていたシャチが、ひょいっと上半身を起こして、カルラに訊ねました。
「えぇ、そうなんですよ。
生まれた年も同じで、赤ん坊の頃から家族ぐるみで仲良くしていたので、
幼馴染というよりも、兄弟のような感覚かな。」
「へぇ~、俺とペンギンみたいな感じだな。」
シャチが紅茶を飲みながら、小さく頷きました。
「シャチさんとペンギンさんも幼馴染なんですね。」
「ガキの頃から一緒につるんで悪さばっかしてたっ。」
シャチがケラケラと笑いました。
「それなら、本当にエレン達と同じですね。
あの子達もいつも一緒で、本当に仲が良くて、悪さばかりしては、町の人達に叱られてばかりでした。
みんな、あの子達を本当の我が子のように可愛がってくれていたんです。」
「今は違ぇみたいな言い方だな。」
ローが、カルラに視線を這わせます。
気づかれたくない言葉尻だったのか、カルラの表情が少しだけ雲りました。
彼女は、目線を下げて、両手で包むように持っているティーカップを見ながら、ゆっくりと言葉を選ぶように話しだしました。
「皆さんも見たでしょう。商店はほとんどがシャッターが閉まって営業もしていません。
この町にはもう、ほとんど人が住んでいないんです。」
「やっぱり!だよな!!廃村かと思ったもん、おれ!
だから、ガキが出てきてビックリし——。」
「失礼なこと言ってんじゃねぇよ。」
「い…ッ!?」
思わず興奮したシャチの頭をペンギンが叩きました。
「すみません、コイツ、空気読めなくて。
——ほら、お前も謝れ!」
ペンギンは、無理やり、シャチの後頭部を押して頭を下げさせます。
空気が読めないと言われたシャチも、不満気ではありましたが、一応という感じで「すんません。」と頭を下げました。
「気にしないでください。本当のことですから。」
カルラは苦笑を返し、また続けます。
「少し前までは、この田舎の町も活気の溢れた賑やかなところだったんですよ。」
「それがどうして、廃村みた…、えーっと、淋しい感じになっちまったんだ?」
「カジノ拡大をするからって、オーナーさんがこのあたり一帯を買い占めていってるんです。
私達も立ち退きを命じられていて…、最初は住み慣れたこの町を出て行きたくないと
たくさんの住人が、カジノ拡大に反対していたんですけど…。」
「けど?」
「嫌がらせを、されるようになったんです。その嫌がらせに堪えきれず出て行った住人もいます。
でも、一気に住人が減った一番の原因は、
アッカーマンさん達が亡くなったことが大きかったと思います。」
カルラはそこまで一気に言うと、大きく息を吐き出しました。
「アッカーマン夫妻が海賊に殺されたことと、
この町から住人が出て行ったことが、どうして関係あるんだ?」
ペンギンが訊ねました。
「カジノ拡大計画に反対して、この町の復興支援を率いていたのが、
アッカーマン夫妻だったんです。彼らは、とても正義感のある強い方達でしたから。」
「あぁ…、そうなのか…。」
「彼らが亡くなってからも、どうにかカジノ拡大計画の反対を続けようとはしたんですけど、
誰も彼らみたいなリーダーにはなれなくて…。
結局、たくさんの住人が流れるように出て行ってしまったんです。」
カルラは目を伏せて寂しそうに言いました。
住み慣れた故郷が廃村のようになった寂しさもあるのだろうが、それよりも、友人夫婦の死が、彼女の心に寂しさの風を吹かせているように見えました。
カジノ拡大計画の反対派のリーダーだったからではなく、ただの友人として、いつまでもそばにいて欲しかったのでしょう。
その友人達の命が海賊の身勝手な理由で奪われ、彼らが守ろうとしたこの故郷さえも、廃村と化してしまった。
彼女に残ったのは、少しの住人と廃村のようになってしまった故郷、それから最愛の旦那と息子、可愛い子供達だけなのです。
可愛い一人娘を抱きしめることすら出来なくなったアッカーマン夫妻と比べれば、充分幸せなのかもしれません。
でも、だからといって、今の寂しさが消えるわけではありませんし、幸せだと胸を張る強さは、彼女にも、僅かに残った田舎町の住人にもありませんでした。
「おかわり、持ってきますね。」
ソファから立ち上がったカルラが、微笑みました。
三か月以上前に、この島にハートの海賊団が来ていたら、カルラはどんな風に笑っていたのでしょうか。
きっと、今よりももっと、幸せそうに、楽しそうに、笑っていたはずです。
彼女の笑顔を奪ったのは、やっぱり、海賊だったのかもしれません。
エレンが、この世から海賊を駆逐すると息巻くのは、きっと、当然の気持ちの流れなのです。
だって、海賊が、大切な人の命を、両親を、帰る場所を、笑顔を、奪ったのですから。
テーブルには、おさまりきらないほどの料理が並びます。
ですが、カルラとなまえが休みなく料理を運んでも、決して上品とは言えない食事マナーの海賊達が、あっという間に平らげてしまいます。
窓の外はもう真っ暗になっていましたが、エレンは帰ってきていません。
今日は、ミカサと一緒にアルミンの家に泊るのだそうです。
『海賊と一緒に飯なんか食えるかよ!!』
少し前にかかって来た電伝虫で、アルミンの家に泊ると話すミカサの向こうで、エレンが怒鳴っている声が聞こえました。
エレンにとって、大切な友人の仇は、アッカーマン夫妻を殺した海賊なのではなくて、海賊の存在そのものなのでしょう。
カルラは、ロー達に失礼なことをしてしまったとしきりに謝っていましたが、元々海賊とは嫌われものです。
アッカーマン夫妻を殺した海賊と同類だと思われるのは、ロー達もいい気分ではありませんが、だからと言って、自分達のことを聖人君主だとも思っていません。
石を投げられるような態度は、慣れています。
そして、その相手が子供なら尚更です。
エレンのことは、周りを飛び回る蚊の方が煩わしいと感じるくらいに、気にもしていませんでした。
「まだ夕方なのに、もう外が真っ暗じゃねぇーか。
せっかく、セレブの島のカジノで豪遊しようと思ってたのに
凍死しそうなくらい寒いしよ~。」
シャチが、窓の外を見て文句を言いながら、肉を頬張ります。
それに、他の船員達も同意でした。
夕飯を食べてからカジノや娼館に遊びに行こうとしている船員達でしたが、外に出るのが怖いと大袈裟に肩を震わせて騒ぎます。
「今日は、数十年に一度の大寒波だったんですよ。」
唐揚げがたっぷり持ってあるお皿をテーブルに起きながら、カルラが言いました。
「そうなのか?!」
「えぇ。明日はもう少し暖かくなるはずですから
遊びに行くのは、明日以降がいいですよ。」
早速、唐揚げを持った皿に伸びてきた大量の手をクスリと笑いながら、カルラが言いました。
それなら、今日は一旦、ポーラータング号に戻って、明日の朝から遊ぼうと、ハートの海賊団の船員達は、楽しそうに計画を立て始めます。
美味しい料理をすべて平らげ、船員達の腹もいっぱいになった頃、キッチンで忙しくしていたなまえが漸くリビングに戻ってきました。
そして、またベポに誘われて、ソファに腰を降ろします。
当然のように、ローが少し横にずれて、自分とベポの間に、なまえが入れる隙間を開けたのを見たシャチが、小さくプッと吹き出しました。
お腹がいっぱいのローが気づかなかったのは、彼にとって幸運でした。
笑われたと知ったら、この数十年に一度らしい大寒波の中、裸で外に放り出されていたかもしれません。
食後の紅茶を配ったカルラが、自分の分のティーカップを持って、あいているソファに座りました。
「エレン達は幼馴染なのか?」
ふわふわのカーペットの上でゴロゴロしていたシャチが、ひょいっと上半身を起こして、カルラに訊ねました。
「えぇ、そうなんですよ。
生まれた年も同じで、赤ん坊の頃から家族ぐるみで仲良くしていたので、
幼馴染というよりも、兄弟のような感覚かな。」
「へぇ~、俺とペンギンみたいな感じだな。」
シャチが紅茶を飲みながら、小さく頷きました。
「シャチさんとペンギンさんも幼馴染なんですね。」
「ガキの頃から一緒につるんで悪さばっかしてたっ。」
シャチがケラケラと笑いました。
「それなら、本当にエレン達と同じですね。
あの子達もいつも一緒で、本当に仲が良くて、悪さばかりしては、町の人達に叱られてばかりでした。
みんな、あの子達を本当の我が子のように可愛がってくれていたんです。」
「今は違ぇみたいな言い方だな。」
ローが、カルラに視線を這わせます。
気づかれたくない言葉尻だったのか、カルラの表情が少しだけ雲りました。
彼女は、目線を下げて、両手で包むように持っているティーカップを見ながら、ゆっくりと言葉を選ぶように話しだしました。
「皆さんも見たでしょう。商店はほとんどがシャッターが閉まって営業もしていません。
この町にはもう、ほとんど人が住んでいないんです。」
「やっぱり!だよな!!廃村かと思ったもん、おれ!
だから、ガキが出てきてビックリし——。」
「失礼なこと言ってんじゃねぇよ。」
「い…ッ!?」
思わず興奮したシャチの頭をペンギンが叩きました。
「すみません、コイツ、空気読めなくて。
——ほら、お前も謝れ!」
ペンギンは、無理やり、シャチの後頭部を押して頭を下げさせます。
空気が読めないと言われたシャチも、不満気ではありましたが、一応という感じで「すんません。」と頭を下げました。
「気にしないでください。本当のことですから。」
カルラは苦笑を返し、また続けます。
「少し前までは、この田舎の町も活気の溢れた賑やかなところだったんですよ。」
「それがどうして、廃村みた…、えーっと、淋しい感じになっちまったんだ?」
「カジノ拡大をするからって、オーナーさんがこのあたり一帯を買い占めていってるんです。
私達も立ち退きを命じられていて…、最初は住み慣れたこの町を出て行きたくないと
たくさんの住人が、カジノ拡大に反対していたんですけど…。」
「けど?」
「嫌がらせを、されるようになったんです。その嫌がらせに堪えきれず出て行った住人もいます。
でも、一気に住人が減った一番の原因は、
アッカーマンさん達が亡くなったことが大きかったと思います。」
カルラはそこまで一気に言うと、大きく息を吐き出しました。
「アッカーマン夫妻が海賊に殺されたことと、
この町から住人が出て行ったことが、どうして関係あるんだ?」
ペンギンが訊ねました。
「カジノ拡大計画に反対して、この町の復興支援を率いていたのが、
アッカーマン夫妻だったんです。彼らは、とても正義感のある強い方達でしたから。」
「あぁ…、そうなのか…。」
「彼らが亡くなってからも、どうにかカジノ拡大計画の反対を続けようとはしたんですけど、
誰も彼らみたいなリーダーにはなれなくて…。
結局、たくさんの住人が流れるように出て行ってしまったんです。」
カルラは目を伏せて寂しそうに言いました。
住み慣れた故郷が廃村のようになった寂しさもあるのだろうが、それよりも、友人夫婦の死が、彼女の心に寂しさの風を吹かせているように見えました。
カジノ拡大計画の反対派のリーダーだったからではなく、ただの友人として、いつまでもそばにいて欲しかったのでしょう。
その友人達の命が海賊の身勝手な理由で奪われ、彼らが守ろうとしたこの故郷さえも、廃村と化してしまった。
彼女に残ったのは、少しの住人と廃村のようになってしまった故郷、それから最愛の旦那と息子、可愛い子供達だけなのです。
可愛い一人娘を抱きしめることすら出来なくなったアッカーマン夫妻と比べれば、充分幸せなのかもしれません。
でも、だからといって、今の寂しさが消えるわけではありませんし、幸せだと胸を張る強さは、彼女にも、僅かに残った田舎町の住人にもありませんでした。
「おかわり、持ってきますね。」
ソファから立ち上がったカルラが、微笑みました。
三か月以上前に、この島にハートの海賊団が来ていたら、カルラはどんな風に笑っていたのでしょうか。
きっと、今よりももっと、幸せそうに、楽しそうに、笑っていたはずです。
彼女の笑顔を奪ったのは、やっぱり、海賊だったのかもしれません。
エレンが、この世から海賊を駆逐すると息巻くのは、きっと、当然の気持ちの流れなのです。
だって、海賊が、大切な人の命を、両親を、帰る場所を、笑顔を、奪ったのですから。