世界中のありとあらゆる知識を持っているなまえは、ハートの海賊団にとって、歩く図書館のような存在になっていました。
特に、本を読むことが好きではない海賊達は、気になることがあればなまえに訊ねれば、大抵の答えがすぐに返ってくるので、とても助かっていました。
さらにそれを文書にすることも出来ることは、船長のローや航海士のベポの仕事をかなり楽にしました。
最近のなまえは、昼間はベポの補佐を行い、夕飯が終わった頃からは船長室に籠り、ローからの質問に答えたり、ポーネグリフの情報や海軍の機密情報の書き出しを行ったりしていました。
そのため、船長室には、数日前からなまえ専用のデスクが置かれました。
これで、ローのデスクをなまえに占領されることはなくなりました。
今夜も、仕事中のローのデスクの上には、航海日誌と読みかけの医学本、それから、少し前から好物に新しく加えられたなまえの作るおにぎりが並んでいます。

「今日はここまでにするか。」

壁掛けの時計を見ると、時間は10時を過ぎていました。
ひとつなぎの大秘宝(ワンピース)を手に入れる気ではあるローですが、急ぐ必要もありません。
だって、まだ誰もそれがある場所の答えは見つけていないでしょうし、海軍の極秘情報を持つなまえを仲間に迎え入れることが出来たハートの海賊団は、答えに最も近い場所にいる海賊団のうちのひとつだと分かっていたからです。
なにより、世間に知られていないポーネグリフの場所までなまえが知っているのは、とても役に立ちました。
まだすべてを書き出し終わってはいませんが、なまえが仲間だというだけでハートの海賊団は、かなり有利というわけです。

「はい、分かりました。」

なまえはペンを走らせていた手を止め、ノートを閉じました。

「今日もバーに行くのか？」
「はい、今夜は本を読む予定です。」

なまえが、デスクの上に置いていた本を手に取ってローに見せました。
本というか、週刊誌のようです。
表紙を飾っているのは、いかにも女性が好きそうな爽やかな若い男です。
裸の上半身を惜しみなく見せつけ、白い歯を輝かせて笑っています。

【海軍少将〇〇と海賊△△、禁断の恋！！真夜中の逢瀬！】
【堅物で有名の海軍中将××が不倫に走った驚愕の理由とは！？】
【今人気のアーティスト、□□の好きな女性の好みを大公開！！】

爽やかな笑顔の表紙には、スキャンダラスな見出しがいくつも書かれていました。

「・・・・そんなもん、どこで手に入れて来た。」
「愛について知りたいと話したら、イッカクが貸してくれました。
　ここには、本当の愛の姿が載っているそうです。
　小説や物語に描かれている愛は、ただの幻想で、まやかしだと言っていました。」

アイツなら言いそうだ——。
なまえが、似合わない週刊誌を持っていた理由に納得したローは、それ以上、何も言いませんでした。
イッカクの言う通りだとは思いませんが、違うとも言い切れないというのがローの正直な『愛』についての感想です。
だって、愛はまやかしなのかもしれませんし、小説に描かれているように人生を豊かにするものなのかもしれません。
簡単に言えば、愛は何なのかと問われても、幼い頃から荒れた生活をしていたローもまた、語ってやれるほどの経験がないのです。
残念ながら——。
正確に言えば、仲間に恵まれたことに満足している本人は残念だとは欠片も思ってはいませんが、残念ながら、ローは、身を焦がすような『本物の愛』というものに触れたことがありませんでした。