◇No.15◇手を掴んで「ありがとう」です。
Name change
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
船長室のソファで、ローが、なまえが書き出したばかりの医学関連の書籍を読み始めて、かれこれもう数時間が経過していました。
あと少しということだったので、医学関連の書籍の書き出しがすべて終わるまで待っているつもりだったのですが、ずっと同じ姿勢でいたせいで、気づけば、身体がガチガチです。
疲れで痛くなってきた首の後ろを擦りながら、本に落としていた視線を上げたローは、壁掛けの時計を確認しました。
時間は深夜の2時です。
もうそろそろ寝ようかと、首を回してデスクの方を見ると、せっせと羽ペンを動かすなまえの背中がありました。
「あとどれくらいかかりそうだ?」
読んでいた書籍をローテーブルの上に置いたローは、立ち上がりながらなまえに訊ねました。
「あと少しです。」
振り向きもしないでなまえが答えます。
数時間前に聞いたのと同じ回答です。
自分で確かめるのが早いと考えたローは、なまえの方へ向かい、デスクに軽く腰掛けました。
デスクに積みあがっている紙は、ベポの腹くらいの分厚さくらいあります。
新しく手に入った医学関連の書籍に夢中になっている間に、なまえはかなり羽ペンを進めていたようです。
「あと何冊分くらい残ってる?」
なまえの考える『あと少し』と自分のソレとは違いがあることを知ったローは、質問の仕方を変えました。
「今書きだしているのが最後の1冊です。あと30ページほどで終わります。」
忙しなく羽ペンを走らせるなまえは、書き出している紙を真剣に見ながら答えます。
思ったよりも、本当に『あと少し』だったようです。
「その30ページ終わらせるのに何分かかる?」
「1時間です。」
1ページを2分程度で終わらせる計算のようです。
あと1時間くらいなら起きて待っていてもいいか——。
そう考えたローは、コーヒーを作ることにしました。
船長室には、他の船室とは違い簡易的なキッチンを完備してあります。
ローがキッチンを使って料理をすることは、ほとんどありませんが、1人でゆっくり本を読みたいときなんかに、ヤカンでお湯を沸かして、コーヒーやお茶を作ることはよくしていました。
「コーヒーを作るが、お前も飲むか?」
ヤカンに火をかけながら、ローがなまえに訊ねました。
「私は飲食は出来ません。」
「へぇ。一応、覚えとく。」
「はい、宜しくお願いします。」
食事というのは、人間がエネルギーを蓄えるためにする行為です。
そう考えれば、機械であるなまえが食事をとらないのはとても自然なことでした。
ですが、そう考えると、ふと、疑問がひとつ湧いてきます。
「お前のエネルギーはどこで取るんだ?」
ヤカンのお湯が沸くのを待ちながら、ローはなまえに訊ねます。
船員となったなまえの命を預かる船長として、それはローが知っておかなければならないことでした。
「必要ありません。
24時間フル稼働で半永久的に使用できるようになっています。」
なまえは、まるで他人事のように答えました。
それはイコール、海軍や世界政府が彼女を休む暇もなく、24時間フル稼働の海賊専用殺人兵器として働かせようとしていたことです。
コーヒーが出来上がったローは、いつもベポが使っているパイプ椅子をデスクに持って行きました。
そして、なまえの隣に座って、コーヒーを飲みながら、書き出されたばかりの医学関連の書籍を1枚手に取ります。
右上がりのクセがありますが、読みやすいとても綺麗な字です。
この文字も、たくさんの本を読み、AIによって覚えたのだとなまえからローも聞いていました。
なんとなくなまえを見れば、相変わらず、とても真剣に羽ペンを動かしていました。
『どこにいても、みんな、見ているだけでした。
ローだけが、コートをかけてくれました。
だから私は、ローの優しさに相応のお返しをしなければなりません。』
昼間、海兵の大群の前で、なまえはそう言って、自らの自由と命を犠牲にしようとしました。
医学関連の書籍を書きだすことも、お返しのひとつで、それでは全く足りないとも言っていました。
たかだか、コートをかけてやったくらいで——。
真剣に羽ペンを動かすなまえの横顔は、とても綺麗でした。
スッと通った鼻筋に、柔らかそうな唇、長い睫毛と綺麗な瞳。もしも、彼女が本物の人間だったのなら、それくらいの優しさいくらでももらえていたのでしょう。
男達が放っておかなかったはずです。
でも、ロボットの彼女は、研究所では殺人兵器として扱われ、自由を手に入れて飛び込んだ人間の世界では、常識を知らないせいで、周りから奇異の目で見られることになってしまいました。
初めて会った島で、なまえは周りの目など気にしていないような顔をしていましたが、本当は寂しかったのでしょうか。
心なんて、彼女にはないはずなのに——。
「終わりました。」
羽ペンの動きがピタリと止まり、ずっと下げていたなまえの視線が上がりました。
時計を確認すると、本当にちょうど1時間です。
そういうところを見ると、やはり彼女は機械なのだと実感します。
書き出した書籍をまとめ、片付けも終わらせた後、ローはなまえに次の命令を出しました。
それは、とても大切な命令です。
「恩返しはもうこれで終わりだ。
もう二度と、恩返しのために自分を犠牲にするな。」
「それはダメです。
ローからもらった優しさのお返しは、これでは足りません。」
初めて、なまえがローに逆らいました。
少し驚きましたが、あのときのなまえの固い決意も見ているので、想定の範囲内でもあります。
「恩を返される側がそれでいいって言ってるのに、
それ以上押しつけるのは、むしろ迷惑だ。」
「迷惑ですか?」
「あぁ。」
「分かりました。では、恩返しはこれで終わりにします。」
素直ななまえはそれで納得したようでした。
こういうところを、扱いやすい、と何度でもローに思わせます。
「それから、24時間フル稼働が出来るのだとしてもちゃんと寝ろ。」
「私は睡眠は出来ません。」
「それでも、ベッドに入って、身体を休ませろ。
俺達と一緒に生活をするなら、俺達の生活に合わせるべきだ。」
「分かりました。努力します。」
なまえはまた素直に命令を受け入れてから、部屋を出て行きました。
あと少しということだったので、医学関連の書籍の書き出しがすべて終わるまで待っているつもりだったのですが、ずっと同じ姿勢でいたせいで、気づけば、身体がガチガチです。
疲れで痛くなってきた首の後ろを擦りながら、本に落としていた視線を上げたローは、壁掛けの時計を確認しました。
時間は深夜の2時です。
もうそろそろ寝ようかと、首を回してデスクの方を見ると、せっせと羽ペンを動かすなまえの背中がありました。
「あとどれくらいかかりそうだ?」
読んでいた書籍をローテーブルの上に置いたローは、立ち上がりながらなまえに訊ねました。
「あと少しです。」
振り向きもしないでなまえが答えます。
数時間前に聞いたのと同じ回答です。
自分で確かめるのが早いと考えたローは、なまえの方へ向かい、デスクに軽く腰掛けました。
デスクに積みあがっている紙は、ベポの腹くらいの分厚さくらいあります。
新しく手に入った医学関連の書籍に夢中になっている間に、なまえはかなり羽ペンを進めていたようです。
「あと何冊分くらい残ってる?」
なまえの考える『あと少し』と自分のソレとは違いがあることを知ったローは、質問の仕方を変えました。
「今書きだしているのが最後の1冊です。あと30ページほどで終わります。」
忙しなく羽ペンを走らせるなまえは、書き出している紙を真剣に見ながら答えます。
思ったよりも、本当に『あと少し』だったようです。
「その30ページ終わらせるのに何分かかる?」
「1時間です。」
1ページを2分程度で終わらせる計算のようです。
あと1時間くらいなら起きて待っていてもいいか——。
そう考えたローは、コーヒーを作ることにしました。
船長室には、他の船室とは違い簡易的なキッチンを完備してあります。
ローがキッチンを使って料理をすることは、ほとんどありませんが、1人でゆっくり本を読みたいときなんかに、ヤカンでお湯を沸かして、コーヒーやお茶を作ることはよくしていました。
「コーヒーを作るが、お前も飲むか?」
ヤカンに火をかけながら、ローがなまえに訊ねました。
「私は飲食は出来ません。」
「へぇ。一応、覚えとく。」
「はい、宜しくお願いします。」
食事というのは、人間がエネルギーを蓄えるためにする行為です。
そう考えれば、機械であるなまえが食事をとらないのはとても自然なことでした。
ですが、そう考えると、ふと、疑問がひとつ湧いてきます。
「お前のエネルギーはどこで取るんだ?」
ヤカンのお湯が沸くのを待ちながら、ローはなまえに訊ねます。
船員となったなまえの命を預かる船長として、それはローが知っておかなければならないことでした。
「必要ありません。
24時間フル稼働で半永久的に使用できるようになっています。」
なまえは、まるで他人事のように答えました。
それはイコール、海軍や世界政府が彼女を休む暇もなく、24時間フル稼働の海賊専用殺人兵器として働かせようとしていたことです。
コーヒーが出来上がったローは、いつもベポが使っているパイプ椅子をデスクに持って行きました。
そして、なまえの隣に座って、コーヒーを飲みながら、書き出されたばかりの医学関連の書籍を1枚手に取ります。
右上がりのクセがありますが、読みやすいとても綺麗な字です。
この文字も、たくさんの本を読み、AIによって覚えたのだとなまえからローも聞いていました。
なんとなくなまえを見れば、相変わらず、とても真剣に羽ペンを動かしていました。
『どこにいても、みんな、見ているだけでした。
ローだけが、コートをかけてくれました。
だから私は、ローの優しさに相応のお返しをしなければなりません。』
昼間、海兵の大群の前で、なまえはそう言って、自らの自由と命を犠牲にしようとしました。
医学関連の書籍を書きだすことも、お返しのひとつで、それでは全く足りないとも言っていました。
たかだか、コートをかけてやったくらいで——。
真剣に羽ペンを動かすなまえの横顔は、とても綺麗でした。
スッと通った鼻筋に、柔らかそうな唇、長い睫毛と綺麗な瞳。もしも、彼女が本物の人間だったのなら、それくらいの優しさいくらでももらえていたのでしょう。
男達が放っておかなかったはずです。
でも、ロボットの彼女は、研究所では殺人兵器として扱われ、自由を手に入れて飛び込んだ人間の世界では、常識を知らないせいで、周りから奇異の目で見られることになってしまいました。
初めて会った島で、なまえは周りの目など気にしていないような顔をしていましたが、本当は寂しかったのでしょうか。
心なんて、彼女にはないはずなのに——。
「終わりました。」
羽ペンの動きがピタリと止まり、ずっと下げていたなまえの視線が上がりました。
時計を確認すると、本当にちょうど1時間です。
そういうところを見ると、やはり彼女は機械なのだと実感します。
書き出した書籍をまとめ、片付けも終わらせた後、ローはなまえに次の命令を出しました。
それは、とても大切な命令です。
「恩返しはもうこれで終わりだ。
もう二度と、恩返しのために自分を犠牲にするな。」
「それはダメです。
ローからもらった優しさのお返しは、これでは足りません。」
初めて、なまえがローに逆らいました。
少し驚きましたが、あのときのなまえの固い決意も見ているので、想定の範囲内でもあります。
「恩を返される側がそれでいいって言ってるのに、
それ以上押しつけるのは、むしろ迷惑だ。」
「迷惑ですか?」
「あぁ。」
「分かりました。では、恩返しはこれで終わりにします。」
素直ななまえはそれで納得したようでした。
こういうところを、扱いやすい、と何度でもローに思わせます。
「それから、24時間フル稼働が出来るのだとしてもちゃんと寝ろ。」
「私は睡眠は出来ません。」
「それでも、ベッドに入って、身体を休ませろ。
俺達と一緒に生活をするなら、俺達の生活に合わせるべきだ。」
「分かりました。努力します。」
なまえはまた素直に命令を受け入れてから、部屋を出て行きました。