◇80ページ◇走る背中の向こうにいる人達
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結婚式は、結婚披露宴パーティーを行った高級ホテルの最上階を貸し切って行われる予定だった。
開場まで30分を切り、招待客は続々と集まって来ている。
だから、控室からいきなり飛び出して来た花嫁に、廊下で話をしていた招待客や仕事中のウェイター達はとても驚いていた。
誰かが「花嫁を捕まえろ!」と叫んでいる声が聞こえてきて、思わず後ろを振り返った。
白鹿家と西門家の黒服が怖い顔をして追いかけてきているのが見えた。
彼らは超一流のSPだ。きっとすぐに追いつかれるー。
「俺がアイツらを蹴散らしー。」
「私が食い止める。エレン達は、名前を連れて逃げて。」
「そうしよう!エレン!」
「…わかったよ。」
エレンは不服そうに口を尖らせたけれど、納得はしたようだった。
一瞬の判断で役割が決まって、ミカサは私達の後ろにまわると、そこまで迫っているSPと対峙するように仁王立ちになった。
「ミカサを1人にしちゃ、危ないよ!」
「いいから走れ!!後ろを向くな!」
「でも…っ!」
エレンに手を引っ張られて走りながら、私は何度も後ろを振り返って声を上げた。
だって、超一流のSPを線の細いミカサが1人でどうすることが出来るというのだろう。
下手をしたら怪我をしてしまうー。
でも、心配は杞憂だったことをすぐに知った。
屈強なSP達が、ミカサに触れた瞬間に、あっという間に地面に伏せた。
「ミカサなら大丈夫だ。
巨人が現れたって勝っちまうくらい強ぇから。」
さっきまで不服そうにしていたエレンが、まるで自分のことみたいに自慢気に口の端を上げた。
カジュアルな格好の若い男に手を引かれて走るウェディングドレス姿の花嫁は、ホテルでとても目立っていた。
きっと、結婚式から男に攫われて逃亡している花嫁に見えているのだろう。
少し違うけど、あながち間違ってもいない。
後ろからは、ホテルマン達が「その花嫁を捕まえてくれ!」と叫ぶ声が聞こえていた。
その声に反応して、気づていなかった人達まで私達を見て指をさす。
スマホで写真を撮ろうとしている人の姿も視線の端に見えた。
その向こうからアニとベルトルトが走って来た。
なぜかさらにその向こうには、地面に突っ伏しているホテルマンの姿も見えた。
「こっちはあらかた片付いたよ。」
「あっちにエレベーターがある。そこが一番の近道だ。」
「よし、作戦通りだな!」
エレンがニシシッと笑った。
「アニ!ベルトルト!
2人も魔法使いに馭者に変身させられた元ネズミなの?」
一緒に走り出したアニとベルトルトに訊ねてみた。
「いや、私達は…、名前もない役だね。駒じゃない?」
「君の魔法使いはとっても人使いが荒いから。」
ベルトルトが、苦笑しながら頬を掻いた。
そういえば、アルミンも似たようなことを言っていた。
「でも、来てくれたんだね。ありがとう。」
私は少しだけ顔を伏せて、緩む頬を隠しながら礼を言った。
悪いことをしている自覚ならあった。
今だって罪悪感は消えない。
でも、それでも、リヴァイさんに会いたかった。
全てを捨ててもいいから、永遠に解けない魔法の世界で、リヴァイさんと生きたいと思った。
そんな自分勝手な私の願いを叶えるために、友人達が走ってくれてることは、素直に嬉しかった。
走りながら、チラリ、と私を見た後、アニはまた前を向いた。
「アンタの魔法使いは正直、昔から好きじゃないし、気に入らない。」
「そっか。」
「でも、あの男と一緒にいるときのアンタは、割と好きだった。」
「え?」
「それだけ。」
アニは前を向いて走り続ける。
頬が少しだけ染まっているから、私も嬉しくて笑顔を隠し切れない。
「そっか。」
ふふ、と笑っていると、笑ってる場合じゃないとアニに叱られた。
確かにそうだ。
向こうから、怖い顔をしてライナーが走って来ているのが見えていた。
そして、私達を見つけると大声で叫んだ。
「エレン!マズい、エレベーターは全部の階でホテルマンが待機しちまってる!
俺達が来る前から準備してたらしくて、さすがに全員は蹴散らせなかった。
こっちの動きを読んでたらしい。」
「マジかよ…っ。」
「あっちにエスカレーターがあったはずだ!
階段よりはマシだ、そっちから行こう!」
アルミンに先導されて、私達はエスカレーターを目指して走った。
でも、エレベーターがダメならそっちに来ることは誰にだって想像するのは容易い。
エスカレーターが遠くに見えてくるのと同時に、待ち構えていたホテルマンやSP達が、花嫁を奪い返せと襲い掛かって来た。
それを、ライナーとベルトルト、アニがあっという間に倒していく。
記憶がないせいなのだろうか。
とても強い彼らに驚いているのは、私だけだった。
「みんな、こっち!!」
エスカレーターの前で手招きをしているのは、マルコだった。
驚いた。彼までいるなんてー。
ここに、ヒストリアとユミル、ジャンまでいたら、私の友人達が勢ぞろいしてしまいそうだ。
もしかしてみんな、リヴァイさんと知り合いなのだろうか。
「階段よりはエスカレーターの方がマシだと思ったんだけど…、
ここを駆け下りるのは、名前はドレスだし、危ないね…。」
エスカレーターの前まで来て、アルミンが難しい表情になって眉間に皴を寄せた。
確かにー、とエレン達もウェディングドレスとエスカレーターを交互に見て動きが止まる。
その間に、地面に突っ伏していたホテルマン達がヨロヨロと立ち上がりだした。
「何?困ってんの?」
「あぁ、ここをウェディングドレスの名前が駆け下りて
怪我させちまったら、リヴァイさんに俺達がぶっ殺されかねないし。」
エレンが難しそうに眉を顰めて、頭を雑に掻いた。
私は顔色を青くしたし、アルミン達は口を大きく開けて呆然としている。
気づいていなのは、エレンだけだ。
「あ~、そうだろうな~。あの男、チビのくせに力強ぇし、
殺気もハンパないし。」
「そうなんだよ。やべぇんだよ。あの人。
マジで、なんで名前もあんな人に惚れちまったんだろうな。」
「俺も本当にそう思うよ。あと少しで俺のもんだったのに、
ギリギリで掻っ攫うってさ、あんまりだと思うわけ。」
「…!?」
エレンがやっと気が付いた。
ほとんど同じ目線同士の長身のエレンと目が合うと、総ちゃんはニコリと微笑んだ。
そこで漸く、エレンから血の気が引いた。
すごく遅いと思う。
「ラスボスが途中で登場したって感じかな。」
ベルトルトが呑気にそんなことを言っているのが聞こえたけど、誰も反応しなかった。
みんな聞こえなかったフリをしたんだと思う。
「コイツをやっつければいいんだよね。」
「待って、私がやる。」
アニとミカサが、戦う姿勢になった。
どうやら、そこそこしっかりした身体をした若い男達もいる友人達の中で、戦う担当なのはアニとミカサのようだ。
「ラスボスは俺じゃねぇよ。もっとおっかねぇのが残ってるから。
そこまで俺が連れてってやるよ。名前、こっち。」
総ちゃんが、私に手を伸ばした。
繋ぎ慣れた総ちゃんの手が触れそうになって、思わず、私は手を引っ込めてしまった。
一瞬、総ちゃんの目が悲しそうに揺れて、ズキンと胸が痛んだ。
でも、すぐに総ちゃんは、よく見せてくれる優しい笑みを浮かべた。
「俺がいたらエレベーターからでも下に行けるから。
大丈夫だって。ここまで必死に逃げられちまったら、
もう今さら名前と無理やり結婚しようとはしないし。」
「そんなこと分からねぇだろ。お前は、名前に記憶がねぇのをいいことに
嘘ついて恋人のフリをしたんだぞ。俺達は、お前のことを信用してねぇ。」
エレンがギロリと総ちゃんを睨みつけた。
数秒の睨み合いの後、総ちゃんが私の方を向いた。
「名前は?俺のこと、もう信用しない?」
「私は…、」
私はすぐに答えられなかった。
正直、信用できるか分からない。
だって、今こうしてエレン達が必死になってくれているということは、あの日記帳に書かれていたのは本当に私の記憶だったという証拠だと思うのだ。
ということは、総ちゃん達は、私に嘘の記憶を言って騙していた。
それは何のためー。
白鹿家と西門家の縁談を結んで、自分達の都合のいい茶道界を作るためだってそう思ってしまった。
でもー。
「総ちゃんは嘘を吐いたりしないよ。大丈夫。エレベーターから行く。」
「ありがとな。」
総ちゃんはそう言って微笑んだけど、嬉しそうだとは思わなかった。
とても寂しそうだったから、胸はズキズキと痛んだ。
「よし、そうと決まれば急ごう。うちの天パのバカがそろそろ騒ぎ出す頃だからさ。」
今度こそ、総ちゃんが私の手を握った。
「待って、私達も一緒に行く。」
私の手を引っ張る総ちゃんを、ミカサが引き留めた。
開場まで30分を切り、招待客は続々と集まって来ている。
だから、控室からいきなり飛び出して来た花嫁に、廊下で話をしていた招待客や仕事中のウェイター達はとても驚いていた。
誰かが「花嫁を捕まえろ!」と叫んでいる声が聞こえてきて、思わず後ろを振り返った。
白鹿家と西門家の黒服が怖い顔をして追いかけてきているのが見えた。
彼らは超一流のSPだ。きっとすぐに追いつかれるー。
「俺がアイツらを蹴散らしー。」
「私が食い止める。エレン達は、名前を連れて逃げて。」
「そうしよう!エレン!」
「…わかったよ。」
エレンは不服そうに口を尖らせたけれど、納得はしたようだった。
一瞬の判断で役割が決まって、ミカサは私達の後ろにまわると、そこまで迫っているSPと対峙するように仁王立ちになった。
「ミカサを1人にしちゃ、危ないよ!」
「いいから走れ!!後ろを向くな!」
「でも…っ!」
エレンに手を引っ張られて走りながら、私は何度も後ろを振り返って声を上げた。
だって、超一流のSPを線の細いミカサが1人でどうすることが出来るというのだろう。
下手をしたら怪我をしてしまうー。
でも、心配は杞憂だったことをすぐに知った。
屈強なSP達が、ミカサに触れた瞬間に、あっという間に地面に伏せた。
「ミカサなら大丈夫だ。
巨人が現れたって勝っちまうくらい強ぇから。」
さっきまで不服そうにしていたエレンが、まるで自分のことみたいに自慢気に口の端を上げた。
カジュアルな格好の若い男に手を引かれて走るウェディングドレス姿の花嫁は、ホテルでとても目立っていた。
きっと、結婚式から男に攫われて逃亡している花嫁に見えているのだろう。
少し違うけど、あながち間違ってもいない。
後ろからは、ホテルマン達が「その花嫁を捕まえてくれ!」と叫ぶ声が聞こえていた。
その声に反応して、気づていなかった人達まで私達を見て指をさす。
スマホで写真を撮ろうとしている人の姿も視線の端に見えた。
その向こうからアニとベルトルトが走って来た。
なぜかさらにその向こうには、地面に突っ伏しているホテルマンの姿も見えた。
「こっちはあらかた片付いたよ。」
「あっちにエレベーターがある。そこが一番の近道だ。」
「よし、作戦通りだな!」
エレンがニシシッと笑った。
「アニ!ベルトルト!
2人も魔法使いに馭者に変身させられた元ネズミなの?」
一緒に走り出したアニとベルトルトに訊ねてみた。
「いや、私達は…、名前もない役だね。駒じゃない?」
「君の魔法使いはとっても人使いが荒いから。」
ベルトルトが、苦笑しながら頬を掻いた。
そういえば、アルミンも似たようなことを言っていた。
「でも、来てくれたんだね。ありがとう。」
私は少しだけ顔を伏せて、緩む頬を隠しながら礼を言った。
悪いことをしている自覚ならあった。
今だって罪悪感は消えない。
でも、それでも、リヴァイさんに会いたかった。
全てを捨ててもいいから、永遠に解けない魔法の世界で、リヴァイさんと生きたいと思った。
そんな自分勝手な私の願いを叶えるために、友人達が走ってくれてることは、素直に嬉しかった。
走りながら、チラリ、と私を見た後、アニはまた前を向いた。
「アンタの魔法使いは正直、昔から好きじゃないし、気に入らない。」
「そっか。」
「でも、あの男と一緒にいるときのアンタは、割と好きだった。」
「え?」
「それだけ。」
アニは前を向いて走り続ける。
頬が少しだけ染まっているから、私も嬉しくて笑顔を隠し切れない。
「そっか。」
ふふ、と笑っていると、笑ってる場合じゃないとアニに叱られた。
確かにそうだ。
向こうから、怖い顔をしてライナーが走って来ているのが見えていた。
そして、私達を見つけると大声で叫んだ。
「エレン!マズい、エレベーターは全部の階でホテルマンが待機しちまってる!
俺達が来る前から準備してたらしくて、さすがに全員は蹴散らせなかった。
こっちの動きを読んでたらしい。」
「マジかよ…っ。」
「あっちにエスカレーターがあったはずだ!
階段よりはマシだ、そっちから行こう!」
アルミンに先導されて、私達はエスカレーターを目指して走った。
でも、エレベーターがダメならそっちに来ることは誰にだって想像するのは容易い。
エスカレーターが遠くに見えてくるのと同時に、待ち構えていたホテルマンやSP達が、花嫁を奪い返せと襲い掛かって来た。
それを、ライナーとベルトルト、アニがあっという間に倒していく。
記憶がないせいなのだろうか。
とても強い彼らに驚いているのは、私だけだった。
「みんな、こっち!!」
エスカレーターの前で手招きをしているのは、マルコだった。
驚いた。彼までいるなんてー。
ここに、ヒストリアとユミル、ジャンまでいたら、私の友人達が勢ぞろいしてしまいそうだ。
もしかしてみんな、リヴァイさんと知り合いなのだろうか。
「階段よりはエスカレーターの方がマシだと思ったんだけど…、
ここを駆け下りるのは、名前はドレスだし、危ないね…。」
エスカレーターの前まで来て、アルミンが難しい表情になって眉間に皴を寄せた。
確かにー、とエレン達もウェディングドレスとエスカレーターを交互に見て動きが止まる。
その間に、地面に突っ伏していたホテルマン達がヨロヨロと立ち上がりだした。
「何?困ってんの?」
「あぁ、ここをウェディングドレスの名前が駆け下りて
怪我させちまったら、リヴァイさんに俺達がぶっ殺されかねないし。」
エレンが難しそうに眉を顰めて、頭を雑に掻いた。
私は顔色を青くしたし、アルミン達は口を大きく開けて呆然としている。
気づいていなのは、エレンだけだ。
「あ~、そうだろうな~。あの男、チビのくせに力強ぇし、
殺気もハンパないし。」
「そうなんだよ。やべぇんだよ。あの人。
マジで、なんで名前もあんな人に惚れちまったんだろうな。」
「俺も本当にそう思うよ。あと少しで俺のもんだったのに、
ギリギリで掻っ攫うってさ、あんまりだと思うわけ。」
「…!?」
エレンがやっと気が付いた。
ほとんど同じ目線同士の長身のエレンと目が合うと、総ちゃんはニコリと微笑んだ。
そこで漸く、エレンから血の気が引いた。
すごく遅いと思う。
「ラスボスが途中で登場したって感じかな。」
ベルトルトが呑気にそんなことを言っているのが聞こえたけど、誰も反応しなかった。
みんな聞こえなかったフリをしたんだと思う。
「コイツをやっつければいいんだよね。」
「待って、私がやる。」
アニとミカサが、戦う姿勢になった。
どうやら、そこそこしっかりした身体をした若い男達もいる友人達の中で、戦う担当なのはアニとミカサのようだ。
「ラスボスは俺じゃねぇよ。もっとおっかねぇのが残ってるから。
そこまで俺が連れてってやるよ。名前、こっち。」
総ちゃんが、私に手を伸ばした。
繋ぎ慣れた総ちゃんの手が触れそうになって、思わず、私は手を引っ込めてしまった。
一瞬、総ちゃんの目が悲しそうに揺れて、ズキンと胸が痛んだ。
でも、すぐに総ちゃんは、よく見せてくれる優しい笑みを浮かべた。
「俺がいたらエレベーターからでも下に行けるから。
大丈夫だって。ここまで必死に逃げられちまったら、
もう今さら名前と無理やり結婚しようとはしないし。」
「そんなこと分からねぇだろ。お前は、名前に記憶がねぇのをいいことに
嘘ついて恋人のフリをしたんだぞ。俺達は、お前のことを信用してねぇ。」
エレンがギロリと総ちゃんを睨みつけた。
数秒の睨み合いの後、総ちゃんが私の方を向いた。
「名前は?俺のこと、もう信用しない?」
「私は…、」
私はすぐに答えられなかった。
正直、信用できるか分からない。
だって、今こうしてエレン達が必死になってくれているということは、あの日記帳に書かれていたのは本当に私の記憶だったという証拠だと思うのだ。
ということは、総ちゃん達は、私に嘘の記憶を言って騙していた。
それは何のためー。
白鹿家と西門家の縁談を結んで、自分達の都合のいい茶道界を作るためだってそう思ってしまった。
でもー。
「総ちゃんは嘘を吐いたりしないよ。大丈夫。エレベーターから行く。」
「ありがとな。」
総ちゃんはそう言って微笑んだけど、嬉しそうだとは思わなかった。
とても寂しそうだったから、胸はズキズキと痛んだ。
「よし、そうと決まれば急ごう。うちの天パのバカがそろそろ騒ぎ出す頃だからさ。」
今度こそ、総ちゃんが私の手を握った。
「待って、私達も一緒に行く。」
私の手を引っ張る総ちゃんを、ミカサが引き留めた。